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第二章 いざ江の島へ

シャッフルゴミ拾い

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「む……」

「何か問題でも?」

「いえ、別に……」

「金銀お嬢様! 氷戸様の口車に乗っては危険です……!」

「分かっています」

 将司が金銀に耳打ちする。金銀としてもそれについてはよく理解している。そこに光ノ丸が畳みかけてくる。

「まさか、稀代の勝負師が挑まれた勝負から逃げるわけではあるまいな?」

「! ……良いでしょう、氷戸様もご参加下さい」

「金銀お嬢様! それでは当初の予定が……!」

「落ち着きなさい、想定内です」

「そ、想定内って……」

「では、三組の男女で一番多くゴミを集められた組が勝ちということだな?」

 光ノ丸の問いに、金銀が首を振る。

「それでは面白くありません」

「なに?」

「男女の組み合わせを変えましょう」

「なんだと?」

「ほう……」

 光ノ丸が驚き、光太は顎に手をやって呟く。

「組み合わせは……そうですね、あみだくじで決めましょうか」

 金銀がその辺から拾った枝を用いて、砂浜にあみだくじを書く。爽が結果を見て呟く。

「……結果はこのような組み合わせですね」

「余と尾成殿か……絹代は?」

「私は新緑先生とです」

「私は山王さんとか……よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします。ちょ、ちょっとすみません! 金銀お嬢様⁉ 本当にこれでよろしいのですか⁉」

 将司は再度金銀に耳打ちする。

「問題ありません。狙い通りです」

「ね、狙い通りって……」

「いいですか、将司? 私のこの夏合宿での目標は“将愉会の切り崩し”です」

「切り崩し……」

「そうです。単なる怪しげな集まりかと思っていた将愉会、蓋を開けてみれば、なかなか興味深い面子が揃っています。若くして著名な文化人三人に、町奉行二人、体育会会長、そして、勘定奉行兼教師! 人数こそ多くはありませんが、その影響力はけして馬鹿に出来たものではありません」

「言われてみれば確かに……」

「そういうことです」

「い、いや、しかしですね! 切り崩しと言ってもどうすれば良いのですか⁉」

「この場合は上様と貴方の組が一番いい結果を出せば良いのです。新緑先生と風見さんの組に大差をつければ、上様の新緑先生への信頼は揺らぐことでしょう」

「な、なるほど……ん? 金銀お嬢様はどうされるのですか?」

「私はまあ……適当にこなします。とにかく将司、貴方の活躍にかかっていますから」

「そ、そんな⁉」

「……ひそひそ話は終わったか?」

 光ノ丸が声をかける。金銀はコホンと咳払いを一つして、口を開く。

「失礼致しました……それでは開始と行きましょうか!」

 金銀が懐から取り出した扇子をバっと広げる。ゴミ拾い勝負が始まった。

                  ♦

「ふむ……とにかく手当たり次第に拾っていくか」

「甘いですね、氷戸様」

「なんだと?」

 光ノ丸が険しい視線をペア相手の金銀に向ける。

「ゴミ拾いも将棋も一緒……二手三手先を読む必要があるのです」

「何を言っているのかさっぱり分からんぞ」

「小さいゴミを拾い集めていたら、いざ大きいゴミを拾おうとした際、ゴミ袋がパンパン……ゴミ袋の交換をしている間に、その狙っていた大きなゴミを他の誰かに拾われてしまう……そうなってしまっては目も当てられません」

「た、確かに、言われてみれば……」

「まずは大物から狙っていきましょう」

「分かった」

 金銀と光ノ丸はゴミ探しを始める。

                  ♦

「さて……如何しますか、先生?」

 絹代が光太に問う。

「まずはゴミ袋を複数枚用意しましょう」

「複数枚ですか?」

「ええ、そしてゴミを一か所に集め、それから一気に回収します」

「なるほど……効率的ですね。流石は勘定奉行様です」

「奉行云々はあまり関係無いと思いますが……早速取り掛かりましょう」

                  ♦

「う、上様、如何いたしましょうか?」

「? とにかく片っ端から拾いましょうよ」

「は、はあ……」

「というか、それしかなくないですか?」

「お、おっしゃる通りです」

「じゃあ、ドンドン行きましょう!」

「は、はい!」

                  ♦

「それでは結果を発表します……優勝は葵様と山王さんのペアです」

「やったぁ! やりましたね、山王さん!」

「え、ええ……」

「第二位は新緑先生と風見さんペアです」

「僅差で及ばずですか、申し訳ありません……」

「いえ、私は大変感銘を受けました……いつもアホの相手しかしていなかったので……」

「そ、そうですか……」

 絹代の熱い視線から光太は思わず目を逸らす。

「第三位は氷戸様と尾成様ペアです」

「負けましたね!」

「大差で負けてしまったではないか! 何が二手三手先を読むだ!」

「考え過ぎも良くないということですね~」

「くっ! これではただ単に屈辱を味わっただけではないか! 絹代、行くぞ!」

「……はい」

 光ノ丸と絹代はその場から去っていく。

「なかなか良い勝負でした。ですが、次は後れを取りませんよ」

「は、はあ……え、次?」

「それではご機嫌よう!」

「し、失礼します……」

 金銀と将司も去っていく。

「ひょ、ひょっとして、合宿中、ずっとこの調子……?」

 葵は天を仰いだ。
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