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第二章 いざ江の島へ

およそ1分半の出来事

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「ボデイガードを雇っただと?」

「はい」

 絹代の報告に光ノ丸が怪訝そうな顔を浮かべる。

「誰だ?」

「西東イザベラさんという方だそうです」

「何者だ?」

「詳細は不明ですが、万城目会長ルート絡みの模様です」

「ふん、それは厄介かもしれんな……」

「始末しますか?」

 絹代の問いに光ノ丸が思わず苦笑する。

「物騒な物言いだな」

「言葉のあやです」

「まあ、大したものではないと示しておく必要はあるか……」

 光ノ丸はやや間を置いてから指示を出す。

「SとKの二人を呼べ」

「介次郎(すけじろう)さんと覚之丞(かくのじょう)さんですね」

「相変わらず伏字にした意味がまるで無いが、まあいい……」



 廊下を歩く葵が煩わしそうに振り返り尋ねる。

「なんでついてくるの? ボディーガードは夏合宿中のはずでしょ?」

「護衛というのは素人が考えている程簡単な任務ではなイ……護衛対象の行動傾向というものを早めに掴んでおく必要があル」

 イザベラが淡々と答える。

「まさかお手洗いまでついてくる気?」

「……トイレ内は既に調査済みダ。安全は保障すル。廊下で待とウ」

「待っているんだ……はあ、まあいいや」

 葵がため息をつきながらトイレに入っていく。

「ごきげんよう、西東さん」

 絹代が廊下の向こう側からイザベラに声を掛ける。背後に介次郎と覚之丞が立つ。

「……本命はこっちだろウ―――」

「!」

 イザベラが右手をスッと上げて拳銃を発射する。向かい側の校舎の屋上に立っていた光ノ丸が崩れ落ちる。絹代が愕然とする。

「なっ……麻酔銃の弾を銃弾で撃ち返した⁉」

「ぐはっ!」

「どわっ!」

 絹代が視線を戻すと、介次郎と覚之丞が倒れ込んでいる。イザベラが絹代に飛びかかる。

「⁉」

「悪くはないが、まだ遅いナ……」

 絹代のこめかみに銃口を突き付けてイザベラが静かに呟く。

「うっ……」

「実弾ではないが、この至近距離で喰らえば怪我するゾ……二人を連れてさっさと消えロ」

「くっ……」

 絹代たちが姿を消すと、イザベラは壁にもたれかかる。

「西東イザベラ!」

 イザベラが面倒そうに視線を向けると、四人の男女がそこには立っている。

「……なんダ?」

「二年は組の“四神”だ! 相当腕が立つようだな! 腕試しさせてもらおう!」

 飛虎が叫ぶと、龍臣とおさげ髪の女性、中目雀鈴(なかめじゃくりん)と髷を結っている巨漢の都築玄道(つづきくろうど)が一斉にイザベラに襲いかかる。

「ふん!」

「相撲部の都築玄道……巨体に似合わずなかなかのスピードだが、動きが直線的だナ」

「うおっ……!」

「アチョー!」

「少林寺拳法部の中目雀鈴……筋は悪くなイ」

「ヌ、ヌンチャクの鎖部分のみを撃ち砕いた……⁉」

「シュッ!」

「ボクシング部の神谷龍臣……拳速は流石だナ」

「ば、馬鹿な……こうも見事なカウンターを決められるとは……」

「おらあ!」

「空手部の日比野飛虎……良い連撃ではあるガ……」

「そ、そんな、俺の必勝のコンビネーションが……」

 イザベラの目にも留まらぬ反撃を受けて、飛虎が膝を突き、他の三人は成す術なくその場に崩れ落ちる。飛虎は信じられないと言った表情でイザベラを見つめる。

「ま、まさか……」

「四人ともそれなりの実力者だということはよく分かっタ。ただ、修羅場の経験が圧倒的に不足していル……! 出直してくるんだナ」

「ク、クソ―――!」

 飛虎たちがその場を去ると、イザベラは再び壁にもたれかかり、呟く。

「気配を消しても無駄ダ……用があるならば出てこイ……」

「……」

 イザベラの言葉を受けて、憂が姿を現す。

「有備憂か……まだ将軍の座を諦めていないのカ? 天守で将軍に負けただろウ?」

「⁉ な、何故そこまで知っているの?」

「情報が命の稼業ダ……それくらいは耳に入れていル……」

 イザベラが淡々と告げる。

「やっぱり貴女は危険な存在だわ!」

「……」

「! 手裏剣五枚を撃ち落とした⁉ なんて早業……」

「この国にしばらくいるとニンジャと戦うのもそう珍しいことではなイ……しかし、貴様の忍術の流派は確カ……?」

「無駄口を叩いている暇があるの⁉」

「……!」

「ぐっ……」

 イザベラは苦無で斬りかかった憂の腕を取り抑え、自由を奪う。

「ほウ……カウンター一発で終わらせるつもりだったガ……思っていたよりはやるようダ……多少はナ」

「ちっ……」

「いたずらに騒ぎを起こすつもりは無イ……彼我の実力差は理解しただろウ? ここは大人しく退くことダ」

「ふん……」

 憂は力を抜き、継戦の意志が無いことを示す。イザベラは憂を掴んでいた手を離す。

「聞き分けが良くて助かル……」

「覚えてなさい……!」

 憂はイザベラをキッと睨み付けると、その場から消える。

「このミッション、案外退屈しないで済みそうだナ……」

 イザベラが三度壁にもたれかかろうとすると、葵がトイレから廊下に出てくる。

「お待たせ、っていうのも変だけど……何かあった?」

「いいや、何も無かっタ」

 葵の問いにイザベラは微笑をたたえつつ答える。
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