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第二章 いざ江の島へ

将軍散歩

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「はい! というわけでね、今回鎌倉にね、無事潜入成功したわけなんですけども~」

「私、鎌倉潜り込むの初めてなんですよ~」

「そうなんだ~?」

「そうなんですよ~!」

「いや、謎のテンション!」

 唐突に掛け合いを始めた紅と葵に猛時が思わずツッコミを入れる。

「ちょっと猛時~」

「ちょっと男子~みたいなイントネーション!」

「せっかく潜入出来たんだからさ、もうちょっと私たちみたいに自然体で振舞ってくれないと目立っちゃうから……」

「思いっ切り不自然な会話だったぞ⁉」

「でも、葵っちの提案には驚かされたよ」

 猛時を無視して、紅は葵に話しかける。

「そ、そうかな?」

「そうだよ~まさか電車でくれば良いじゃんってね~」

 紅は鎌倉駅を仰ぎ見る。猛時が感心したように呟く。

「確かにスムーズに中心地まで来られたな、正直その発想は無かった……」

「それでこの後はどうするんだっけ?」

「現在サワっちを始め、将愉会の皆がそれぞれ動いてくれているよ。私たちはこの大勢の観光客の方々に紛れて御所にそれとなくさりげなく近づき、様子を窺う……」

「つまり何も考えず観光を楽しめってことだね?」

「端的に言えばね」

「いや、何も考えないのは不味いだろう……」

「まあまあ、頭の片隅には入れておくよ」

「中心に据えてくれ、頼むから……」

 猛時がため息を突いて、軽くうなだれる。葵が端末を片手に尋ねる。

「御所は若宮大路(わかみやおおじ)沿いにあるってことだけど……?」

「うん、そうだね。ただ、若宮大路をそのまま進むのもあれだから……折角だしその脇の小町通りから行こうか」

「その辺りはクレちゃんにお任せするよ」

「よし任された! それじゃあ行こうか!」

 紅が右手を突き上げて先頭を進む。

「申し訳程度の変装をしているとはいえ……こんな緊張感の欠片もない潜入で果たして良いのだろうか?」

「言い出しておいてなんですけど……前代未聞の呑気さですよね」

「しっかりとご自覚があるのではないですか……」

「大丈夫、なんとかなりますよ!」

「なって貰わないと困ります……」

 葵は不安を拭いきれない猛時に声を掛けつつ、紅の後に続く。

「この小町通りは古い民家をリノベーションした風情のあるお店やカフェ、ショップやお土産屋さんなとが多く立ち並んでいるの。テイクアウトができるおいしいお店もたくさんあって、鎌倉で一番の賑わいを見せているエリアで、食べ歩きの定番コースね」

「本当に雰囲気良さげなお店が一杯あるね」

「でしょ~?」

 葵の言葉に紅が満足そうに頷く。

「じゃあ、何か食べようか?」

「おススメは?」

「う~ん、そうだな~」

 葵の問いに紅が顎に手を当てて、少し考え込んでから、ポンと手を打つ。

「やっぱりお団子かな!」

 紅の案内で三人は和菓子屋の長い行列に並ぶ。

「ここはお団子の種類が豊富なの。みたらし団子やよもぎ餡団子、季節限定メニューなんかも良いんだけど、イチ押しは醤油団子かな!」

「ふ~ん、それを頂こうかな」

 行列はあっという間に進み、葵たちは注文した品を受け取り、近くの椅子に腰かけて、食し始める。葵は驚く。

「! 美味しい! モチモチとしたお団子に醤油の風味がピッタリとマッチしている!」

「そうでしょ、そうでしょ~」

 葵の率直な感想に紅が自慢気に頷く。

「これなら何本でもいけそう!」

「ふふっ、それはまた次の機会に。じゃあ、次に行こうか!」

「次……?」

 再び歩き出した紅の言葉に猛時が怪訝な顔になる。

「お次はこちら!」

「ここは……?」

「ふふ~ん、ここはタコ焼き屋さんです!」

「ええっ⁉ 鎌倉でタコ焼き⁉」

「驚くのも無理はないよね~。まあ、騙されたと思って食べてご覧なさいな」

 やや戸惑いながら、葵はタコ焼きを口に運ぶ。

「! こ、これは……しらす⁉」

「そう! 鎌倉名物しらすが入っているの!」

「タコ焼きのふわっとした食感の中に、しらすが文字通りいい味を出している! こんなの初めてだよ!」

「そうでしょ、そうでしょ~」

 葵の素直な言葉に紅が得意気に頷く。

「じゃあ、次に行こうか!」

「まだ行くのか⁉」

 紅の言葉に猛時が戸惑う。

「えっと、ここは……?」

「ここのオススメはかじきの串焼き! ささっ、どうぞどうぞ」

「かじき……いただきます。! なんてジューシーな! 食べ応えも抜群!」

「そうでしょ、そうでしょ~」

 葵の直球な台詞に紅が満足気に頷く。

「じゃあ、続いては……」

「ちょっと待て!」

 猛時が堪らず声を上げる。紅が不満気に唇を尖らせる。

「なによ~」

「なによじゃない! 目的を忘れているだろう⁉」

「めあてのことでしょ?」

「目的の語意を聞いているんじゃない!」

「少し落ち着きなさいよ……」

「これでどうやって落ち着けと言……⁉」

 紅が人差し指を猛時の唇に当てて、静かに語る。

「あれを見なさい……」

「も、もしかしてあれが御所?」

 葵の問いに紅が不敵な笑みを浮かべる。

「そうよ、ここは若宮大路……そして通りを挟んで見えるは御所。実にそれとなく、さり気なく、近づくことが出来たわね……」

「ただの偶然にしか思えんが……」

 猛時が小声で呟く。
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