73 / 145
第一章 JK将軍誕生
夏に向かって
しおりを挟む
「葵様、こちらにいらっしゃいましたか」
「ああ、お疲れ、サワっち」
教室に入ってきた爽に葵が手を挙げて応える。先の選挙の結果を受け、生徒会が将愉会の為に急遽手配した教室である。
「この教室……少し手狭ではありませんか?」
「まあ住めばなんとやらって感じでね、結構気に入っているよ」
「……有備さんのこと、実質不問に処すというのは寛大な処置ですね」
「なるべく人を罰したくはないんだよね……甘いかな?」
「大甘です! ……と言いたいところですが、葵様らしくて宜しいかと」
そう言って爽が微笑んだ。そこに進之助が飛び込んできた。
「お! こっちにいたのか!」
「どうしたの、進之助? バイトは?」
「有備の嬢ちゃんがよく働いてくれているからよ、ちょっと抜けてきた!」
「そんなに息切らしてどうしたのよ?」
「い、いや、臨海合宿の件なんだけどよ……」
「臨海合宿?」
葵は首を傾げて爽の方を見る。爽が答える。
「……当学園の高等部では毎夏、『夏季休業期間特別臨海合宿』という一週間の合宿を行います。一年生から三年生まで、基本全員参加するものです」
「へえ、それは楽しそうだね。どんなことをするの?」
「例えば……前期成績不振の生徒などは補習を受講します。また、ほぼ全員参加の砂浜でのランニングや、遠泳大会などが行われます」
「け、結構ハードそうだね……」
「合宿ですので。無論大半の時間はレクリエーションに充てられていますが」
「そう! そのレクリなんとかだ!」
「ど、どうしたのよ……?」
「そ、そのよ、お前さんは合宿の予定は決まっているのか?」
「いや、合宿自体初耳だからね、まだ何も……」
「そ、それじゃあよ、オイラと一緒に……」
「生憎、赤宿君は補習メインの合宿ですよ」
「え?」
光太が教室に入ってきた。
「ほ、補習メインってマジかよ……」
「ははっ、抜け駆けしようとした罰だぜ」
「ふふっ、お気の毒に」
光太の後ろから教室に入ってきた弾七と獅源がうなだれる進之助を笑う。
「……そういうお二人も補習が多くなりそうだと聞いていますよ」
「何だと⁉」
「あれま」
「涼紫さんは出席日数不足、橙谷くんは単純に成績不振の為だそうです」
「あ~あ。こりゃあ、二人も早々に脱落決定かな~」
「あ、兄上、あまり煽るような物言いは……」
更に後ろから北斗と南武が教室に入ってきた。
「新緑先生ともども、補習頑張ってくれよ、俺たちが代わりにエンジョイするからさ!」
「だから、そういう言い方は……」
「って、南武もなんだか顔にやけていない?」
「に、にやけていませんよ! そ、そりゃあ楽しみじゃないと言ったら嘘になりますが」
「うむ! “特別指定強化訓練”、実に楽しみだな! 両町奉行殿!」
大和が叫びながら教室に入ってきた。北斗たちが怪訝な表情を浮かべる。
「……今、何て言った?」
「そうだ! 体育の成績が優秀な生徒は更にその能力を伸ばすべく、特別な訓練が課されることになっている! 無論、某もだ! ともに青春の汗を流そうではないか!」
「そ、そんな……文武両道を目指したのが仇になるとは……」
「独り勝ち 早くも我に 夏の風」
いつのまにか教室に入ってきていた一超が呟く。
「ああ、藍袋座殿! “特別指定強化訓練”は其方も入っているぞ!」
「⁉」
大和の言葉に一超が驚きの表情を浮かべる。
「幻聴か それとも単に 間違いか」
「今回から運動が苦手な生徒にも訓練を課すことになったそうだ! 勿論、訓練内容は我々に比べればずっと楽なものだが! その辺りは安心してもらって良い!」
「ありえない あってならない そんなこと」
大和を除いて肩を落とす面々に葵が声をかける。
「ま、まあ、皆何をそんなに落ち込んでいるのか知らないけどさ……レクリエーションの時間が全部失われるってわけじゃないんでしょ? 前向きに捉えようよ」
「ここまでくるとワザと気付かない振りをしているのでは……?」
「え? サワっち、何か言った?」
「いいえ、何も」
爽は首を振った。
「上様、お待たせ致しました」
秀吾郎が教室に現れた。
「ああ、秀吾郎、目安箱はどうだった?」
「こちらでございます」
「わっ! こんなに⁉ 何通あるの?」
「十二通でございます」
「そ、そんなに相談したいことが殺到するなんて……全部解決できるかな?」
「先の選挙結果を踏まえてですね、将愉会に期待を寄せる方が増えてきたのでしょう」
爽は相談内容に目を通しながら呟く。
「そ、そうか、期待には応えないとね! 皆……」
葵は教室に集まった面々を見渡す。
「『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を盛り上げる会』、一生懸命頑張ろう!」
「応よ!」
「任せとけ!」
「御意」
「パパッと片付けちゃうよ~」
「が、頑張ります!」
「善処致します」
「期待に応えるのが千両役者ってね」
「腕が鳴る 難問題も どんと来い」
「学園を脅かすものは容赦なく打倒する!」
葵の言葉に皆が思い思いに応える。葵が満足そうに頷く。
「よし! それじゃあ……」
「葵様、水を差すようで恐縮なのですが」
「な、なによ、サワっち……」
「諸々の相談については、高島津さんと大毛利くんを含めて我々で解決にあたります。本日葵様にやって頂きたいことは他にありまして……」
「他にやること?」
「ええ、今夏の臨海合宿は江の島で行う予定なのですが、あの辺りは鎌倉殿の御領分となります。よって、鎌倉の将軍さまにご挨拶を……」
「ええっ⁉ 私が征夷大将軍に⁉」
第一章~完~
「ああ、お疲れ、サワっち」
教室に入ってきた爽に葵が手を挙げて応える。先の選挙の結果を受け、生徒会が将愉会の為に急遽手配した教室である。
「この教室……少し手狭ではありませんか?」
「まあ住めばなんとやらって感じでね、結構気に入っているよ」
「……有備さんのこと、実質不問に処すというのは寛大な処置ですね」
「なるべく人を罰したくはないんだよね……甘いかな?」
「大甘です! ……と言いたいところですが、葵様らしくて宜しいかと」
そう言って爽が微笑んだ。そこに進之助が飛び込んできた。
「お! こっちにいたのか!」
「どうしたの、進之助? バイトは?」
「有備の嬢ちゃんがよく働いてくれているからよ、ちょっと抜けてきた!」
「そんなに息切らしてどうしたのよ?」
「い、いや、臨海合宿の件なんだけどよ……」
「臨海合宿?」
葵は首を傾げて爽の方を見る。爽が答える。
「……当学園の高等部では毎夏、『夏季休業期間特別臨海合宿』という一週間の合宿を行います。一年生から三年生まで、基本全員参加するものです」
「へえ、それは楽しそうだね。どんなことをするの?」
「例えば……前期成績不振の生徒などは補習を受講します。また、ほぼ全員参加の砂浜でのランニングや、遠泳大会などが行われます」
「け、結構ハードそうだね……」
「合宿ですので。無論大半の時間はレクリエーションに充てられていますが」
「そう! そのレクリなんとかだ!」
「ど、どうしたのよ……?」
「そ、そのよ、お前さんは合宿の予定は決まっているのか?」
「いや、合宿自体初耳だからね、まだ何も……」
「そ、それじゃあよ、オイラと一緒に……」
「生憎、赤宿君は補習メインの合宿ですよ」
「え?」
光太が教室に入ってきた。
「ほ、補習メインってマジかよ……」
「ははっ、抜け駆けしようとした罰だぜ」
「ふふっ、お気の毒に」
光太の後ろから教室に入ってきた弾七と獅源がうなだれる進之助を笑う。
「……そういうお二人も補習が多くなりそうだと聞いていますよ」
「何だと⁉」
「あれま」
「涼紫さんは出席日数不足、橙谷くんは単純に成績不振の為だそうです」
「あ~あ。こりゃあ、二人も早々に脱落決定かな~」
「あ、兄上、あまり煽るような物言いは……」
更に後ろから北斗と南武が教室に入ってきた。
「新緑先生ともども、補習頑張ってくれよ、俺たちが代わりにエンジョイするからさ!」
「だから、そういう言い方は……」
「って、南武もなんだか顔にやけていない?」
「に、にやけていませんよ! そ、そりゃあ楽しみじゃないと言ったら嘘になりますが」
「うむ! “特別指定強化訓練”、実に楽しみだな! 両町奉行殿!」
大和が叫びながら教室に入ってきた。北斗たちが怪訝な表情を浮かべる。
「……今、何て言った?」
「そうだ! 体育の成績が優秀な生徒は更にその能力を伸ばすべく、特別な訓練が課されることになっている! 無論、某もだ! ともに青春の汗を流そうではないか!」
「そ、そんな……文武両道を目指したのが仇になるとは……」
「独り勝ち 早くも我に 夏の風」
いつのまにか教室に入ってきていた一超が呟く。
「ああ、藍袋座殿! “特別指定強化訓練”は其方も入っているぞ!」
「⁉」
大和の言葉に一超が驚きの表情を浮かべる。
「幻聴か それとも単に 間違いか」
「今回から運動が苦手な生徒にも訓練を課すことになったそうだ! 勿論、訓練内容は我々に比べればずっと楽なものだが! その辺りは安心してもらって良い!」
「ありえない あってならない そんなこと」
大和を除いて肩を落とす面々に葵が声をかける。
「ま、まあ、皆何をそんなに落ち込んでいるのか知らないけどさ……レクリエーションの時間が全部失われるってわけじゃないんでしょ? 前向きに捉えようよ」
「ここまでくるとワザと気付かない振りをしているのでは……?」
「え? サワっち、何か言った?」
「いいえ、何も」
爽は首を振った。
「上様、お待たせ致しました」
秀吾郎が教室に現れた。
「ああ、秀吾郎、目安箱はどうだった?」
「こちらでございます」
「わっ! こんなに⁉ 何通あるの?」
「十二通でございます」
「そ、そんなに相談したいことが殺到するなんて……全部解決できるかな?」
「先の選挙結果を踏まえてですね、将愉会に期待を寄せる方が増えてきたのでしょう」
爽は相談内容に目を通しながら呟く。
「そ、そうか、期待には応えないとね! 皆……」
葵は教室に集まった面々を見渡す。
「『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を盛り上げる会』、一生懸命頑張ろう!」
「応よ!」
「任せとけ!」
「御意」
「パパッと片付けちゃうよ~」
「が、頑張ります!」
「善処致します」
「期待に応えるのが千両役者ってね」
「腕が鳴る 難問題も どんと来い」
「学園を脅かすものは容赦なく打倒する!」
葵の言葉に皆が思い思いに応える。葵が満足そうに頷く。
「よし! それじゃあ……」
「葵様、水を差すようで恐縮なのですが」
「な、なによ、サワっち……」
「諸々の相談については、高島津さんと大毛利くんを含めて我々で解決にあたります。本日葵様にやって頂きたいことは他にありまして……」
「他にやること?」
「ええ、今夏の臨海合宿は江の島で行う予定なのですが、あの辺りは鎌倉殿の御領分となります。よって、鎌倉の将軍さまにご挨拶を……」
「ええっ⁉ 私が征夷大将軍に⁉」
第一章~完~
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる