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第一章 JK将軍誕生

魂の三本勝負~心技体の巻~

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「あ、葵様は無理をなさらず!」

「いやいや、そういう訳にもいかないでしょ」

 葵は練習用の薙刀を二、三度振って感触を確かめる。

「うん、久々だけど良い感じ!」

「止めても無駄ということですね……」

 爽が溜息をつく。葵は笑顔で頷いた。

「そういうこと!」

「ではあの怪物相手にどう戦うかということですが……」

「確認だけど、皆は何が出来る?」

 葵が三人に尋ねる。

「合気道を嗜んでおります」

「にん、……柔術的なものを少々」

「素手喧嘩!」

「うん、大体分かった!」

「どうされるおつもりですか?」

「各自思い思いに突っ込もう!」

「おう、分かったぜ!」

 進之助は威勢の良い返事をしたが、他の二人は戸惑った。

「う、上様⁉」

「さ、流石にそういう訳には……」

「冗談、冗談。ちょっと耳貸して」

 葵は三人に耳打ちする。

「よっしゃ! それで行こうか!」

「ぎ、御意」

「……やるしかありませんね」

「じゃあ、皆、行くよ!」

 四人は構えを取る。立ち止まって待っていた大和が尋ねる。

「打ち合わせはお済ですか⁉」

「お待たせしました! いつでもどうぞ!」

「ならば、参る!」

 大和が葵たちに向かって走り出した。

「それ!」

「!」

「おおっと、黒駆選手、青臨選手の進行方向に何かを投げ付けた⁉」

「まきびしだな、距離を詰めようとした出鼻を挫かれた」

 雪鷹が冷静に呟く。

「小癪! だが忍びの戦い方らしいと言える!」

 そう叫びながら、大和は上方を含めて周囲を素早く見渡した。

「注意を足元に向けて他方向からの攻撃を警戒している……」

 舞台外で見つめていたクロエが大和の行動を分析する。

「うおおおっ!」

「何⁉」

「ああっと、赤宿選手、なんと正面から突っ込んだ⁉」

「地面のまきびしを上手く避けている! あの速さで⁉」

 進之助の行動に雪鷹も流石に驚いた。

「喰らえ!」

「ちっ!」

「⁉」

 進之助が殴りかかるよりわずかに前に、大和が突きを繰り出した。竹刀が進之助の腹に突き刺さったようなかたちになる。

「流石に猪突が過ぎるぞ! 赤髪く、んおうっ⁉」

「こ、これは⁉ 赤宿選手の右ストレートが青臨選手の左頬にクリーンヒット!」

「あれが噂の喧嘩三昧の赤毛か……場慣れはしているようだ」

「へへっ、どうだいオイラの拳は? ……くっそ」

 進之助が脇腹を抑えてしゃがみ込む。

「ぐっ……」

 一方、痛烈な一撃を喰らった大和も足元がふらついた状態になった。

「会長‼」

「!」

 クロエの呼びかけにより気が付いた大和はすぐさま周りを確認する。すると、自身の後方に気配を感じ取った。

「後ろか!」

 大和は後方を勢い良く薙ぎ払ったが、その竹刀は空を切った。

「居ない⁉」

「引っかかったな!」

 後ろを向いた体勢になった大和の体を秀吾郎がガッチリと羽交い絞めにする。

「しまっ……」

「とうっ!」

「黒駆選手、青臨選手を抱えたまま宙を舞ったぞ⁉」

 秀吾郎は大和を抑え込んだまま、空中で逆さまの体勢になる。

「忍法、いずな落とし!」

 秀吾郎はきりもみ回転しながら、地面に向かって急降下する。

「終わりだ!」

「おのれ!」

「何⁉」

 秀吾郎に抑え込まれながらも、何とか両手を少し伸ばした大和はその手に掴んだ竹刀をぐるんと円状に振るった。

「青臨流受身の型……大嵐!」

「こ、これは一体どうしたことか⁉ 地面に真っ逆さまに落ちていたはずの二人の体が再び浮きあがったぞ⁉」

実況が横の雪鷹を見る。雪鷹は感心して答える。

「地面に嵐を発生させて、急降下に反発させた……咄嗟の判断だろうが、見事だ」

「くっ⁉」

「隙有り!」

「うおっ⁉」

 舞い上がった秀吾郎は大和の体を手放してしまった。そこに空中ながら器用に体勢をととのえた大和が強烈な一撃を秀吾郎の腹部へと打ち込んだ。秀吾郎は凄まじい勢いで、地面に叩きつけられた。

「これは決まった! 侍と忍の対決は侍に軍配が上がった!」

 興奮気味の実況の声を聞きながら、大和は地面に着地した。

「⁉」

 大和は驚いた。近くに倒れているはずの秀吾郎の姿が無かったからである。

「侍が魂を取られてしまっては不味いだろ……」

 大和と距離を取った秀吾郎が苦しそうに呻きながら竹刀を片手に呟く。

「‼」

 大和は竹刀を奪われたことに初めて気が付いた。

「太刀取りか! いつの間に!」

「後は任せましたよ……」

 そう言って、秀吾郎は腹を抑えて倒れ込んだ。

「!」

 間髪入れず、爽が大和に当て身を入れる。

「武器が無ければ、こちらにも勝機が!」

「無手の稽古も怠ってはいない!」

 一度は爽の攻撃を喰らった大和だったが、すぐさま反撃を繰り出した。

「舐めないでもらおう!」

「それはこちらの台詞です!」

「むっ!」

 大和の体が半回転して、地面に叩き付けられた。

「やった! ……⁉」

 爽が膝を突く。大和がすぐさま立ち上がり、首筋に手刀を叩き込んだのである。

「合気道か! 受身を取らなければ危なかった!」

「ぐっ……」

「なかなか良い攻撃だったが惜しかった!」

 大和の言葉に爽はニヤリと笑いながら倒れ込む。

「いえ、狙い通りですよ……」

「何⁉」

「お覚悟!」

 大和が視線を上げると、薙刀を構えた葵の姿があった。

「残るは上様ですか! 受けてたちましょう!」

 そう言って大和が身構える。わずかに間があいて、葵が打ち込む。

「面!」

 葵の面打ちに対して、大和は即座に反応し、両手を頭にかざす。またも真剣白刃取りの要領で薙刀を奪い、葵を無力化しようとしたのだ。

「ん、脛ぇ!」

「⁉」

 葵は瞬時に打ち込む場所を面から脛に変えた。大和はこれには反応が遅れた。剣道に脛を狙う攻撃は無いためである。

「ぐおっ……」

 どんな達人でも鍛えることは難しい、所謂、弁慶の泣き所に直撃を喰らい、大和は苦悶の表情を浮かべた。力なくよろめく大和を見て、葵は体ごと思い切りぶつかっていった。

「ええいっ‼」

「‼」

 葵のタックルのような攻撃によって、大和はたまらず場外へと倒れ込んだ。

「せ、青臨選手、じょ、場外負け! よってこの勝負、将愉会チームの勝ち!」

「や、やったー‼」

 葵は無邪気に喜んだ。
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