上 下
21 / 50
第1章

第5話(4)成り行きでの共闘

しおりを挟む
「と、とにかく、少し落ち着いて話し合おう……」

「その手には乗りません!」



 女ゴブリンが俺に視線を戻すと、俺との距離をあっという間に詰めてくる。俺が驚く。



「くっ!」

「遅いですよ!」

「むうっ!」

「!」



 女ゴブリンが拳を振るって俺に打撃を食らわせたが、反対に攻撃を食らってしまう。女ゴブリンは何が起こったのか理解出来ずに、自らの体を抑えてその場にしゃがみ込む。



「【特殊スキル:倍返しカウンターを発動しました】」



「まあ、とりあえず少し落ち着け……」

「くうっ!」

「おっと!」

「‼」



 手を差し伸べようと屈んだ俺に対し、女ゴブリンは体勢を立て直して、回し蹴りを食らわせようとする。鋭い蹴りだったか、俺はそれを弾いてみせる。女ゴブリンはよろめく。



「【特殊スキル:バリアを発動しました】」



「だからちょっと冷静になれ……」

「くっ……だったら、これならば!」

「うおっとっと!」

「⁉」



 女ゴブリンはなおも俺の伸ばした腕をガシッと掴んで、投げ飛ばそうと試みたが、俺の異常なほど柔らかくなった体に戸惑う。逆に俺が女ゴブリンの首を絞める。



「【特殊スキル:軟体化を発動しました】」



「このまま絞め落とすぞ……無駄な抵抗はやめておけ……」

「ぐうっ……」



 俺の脅しにも屈さず、女ゴブリンは大きい体をジタバタとさせる。俺は戸惑う。



「ご、強情だな……ん?」

「ど、どうやら形勢不利だ! ズ、ズラかるぞ……!」



 ゴブリンに扮した男が仲間を起こし、その場から離れようとする。



「しまった! 逃げられる! あっ!」

「ふ、ふん!」

「ちっ、絞めを緩めてしまった!」

「あっ……眼鏡が……!」



 俺から離れようとした際、女ゴブリンが眼鏡を落とす。男たちが逃げの体勢に入る。



「い、今のうちに……」

「うん……? ゴ、ゴブリンじゃない! ゴブリンの振りをした人間!」

「ええっ⁉」



 女ゴブリンが逃げようとする男たちを見つめて、ゴブリンのなりすましだと看破する。いや、眼鏡をかけていた意味よ……。



「そ、そうか、ゴブリンの振りをして、この辺で悪さを働いていたんですね!」

「理解が恐ろしく速いな!」



 俺はまたもや驚く。男たちが慌てて逃げる。



「に、逃げるぞ!」

「くっ! ま、待ちなさい!」

「待つやつはいねえよ!」

「ああっ!」

「ふん!」

「ぎゃああ⁉」



 男たちの悲鳴を上げて倒れ込む。甲冑を着た男たちがそれを一瞥して呟く。



「ふん、所詮はこの程度か……我々、『ゴブリンキラーズ』の敵ではないな……」

「ゴ、ゴブリンキラーズ⁉」

「む……まだ一匹残っているな……さっさと始末するか……」



 銀色の甲冑を着た男たちが、見るからに重々しい甲冑をカチカチと鳴らしながら、こちらに近づいてくる。この国の文化圏のそれとは異なる甲冑だ。よそからやってきた傭兵のようなものであろうか。女ゴブリンが慌てて声を上げる。



「ま、待ってください! わたしたち、この地域のゴブリンは争いを好みません!」

「黙れ! 遠く西方にあった我々の故郷は貴様らゴブリンの襲撃によって滅ぼされた……あの時誓ったのだ、貴様らゴブリンは全て駆逐すると! やや大型だな……包囲しろ!」



 甲冑を着た男が敵意をこれでもかとむき出しにしてくる。女ゴブリンもそれを肌で感じ取って困惑する。五人の男たちが統率のよく取れた動きで女ゴブリンを素早く包囲する。



「おい、とにかく眼鏡をかけろ」



 俺は眼鏡を拾って、女ゴブリンに渡す。女ゴブリンは戸惑い気味にそれを受け取る。



「あ、ありがとうございます……」

「連中、重そうな甲冑を着ても素早い動きだ……これはなかなかの手練れだぞ」

「そ、それはなんとなくですが、分かります……」

「成り行きだが……手助けさせてもらう。君が悪いゴブリンではないというのは戦ってみて分かった……俺はキョウ、君は?」

「ヴァ、ヴァネッサです……」

「そうか、ヴァネッサ……ちょっと待っていろ……」



「【特殊スキル:癒しの手かざしを発動しました】」



 俺がアヤカ、エリー、オリビアを回復させる。三人はゆっくりと立ち上がる。



「詳しい説明は後だ。俺たちはあの女ゴブリン……ヴァネッサと協力し、あの甲冑を着た男たち、『ゴブリンキラーズ』とやらを退けるぞ」

「……」



 三人は黙って頷き、甲冑を着た男たちに向き直る。男が苛立ちながら叫ぶ。



「……なんだかよく分からんが、貴様らも邪魔をするというのなら、容赦はせんぞ!」

「……両端から攻めてきます!」

「はあっ!」

「えいっ!」



 ヴァネッサの指示で、アヤカとエリーが甲冑を着た男たちを素早く打倒する。



「中央の男性の隣の男性、甲冑がきつそうです! はみ出たお肉を狙って!」

「了解!」



 またもヴァネッサの指示で、オリビアが甲冑を着た男の脇腹を撃つ。男はうずくまる。



「崩れたところを一気呵成に叩きます!」

「おおっ!」



 俺とヴァネッサが残りの甲冑を着た男たちを豪快に殴り倒す。



「がはあっ⁉」

「的確な指示だったぞ、ヴァネッサ……」



 その後、アヤカの報告と口利きもあり、この地域のゴブリンに危険性はないと判断。ゴブリンの集落と街の間で話し合いがもたれ、めでたく平穏が保たれることとなった。俺たちは集落に招かれ、酒宴に参加する。俺はゴブリンたちの勧める酒に酔ってしまった。



「ああ、大変です……隣で少し休みましょう」

「す、すまない、ヴァネッサ……? な、なんだか無性に眠くなってきた……はっ!」



 翌朝、俺はベッドの上で目が覚める。それを確認したヴァネッサが俺に告げる。



「なかなかいい勉強をさせていただきました……」



 ヴァネッサが俺の股間を見て、顔を赤らめながら呟く。またまたまたナニかあったんだろうか。なんで毎度毎度眠っているときに……相変わらず損した気分だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出て行けと言われたけど『もう遅い』はしたくない

詩森さよ(さよ吉)
ファンタジー
俺、ライル。14歳の冒険者で異世界転生者だ。 尊敬するテリーさんと一緒のパーティーで上手くやってきたと思うのに、突然出て行けって言われたんだ。 どうしてなんだ? 小説家になろう、カクヨム(敬称略)にも掲載。 筆者は体調不良のため、コメントなどを受けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

没落貴族に転生した俺、外れ職【吟遊詩人】が規格外のジョブだったので無双しながら領地開拓を目指す

名無し
ファンタジー
 現実世界で事故死したはずの主人公だったが、気付いたときには異世界の貴族として転生していた。  貴族の名はシオン=ギルバートといって、気弱で怠惰な少年で知られており、不良たちに遊ぶ金を渡すために父親の形見を売り払う有様だった。  そんな没落寸前のシオンがある日、酒に酔って転倒し、頭を打って気絶してしまう。  そこに警備員として働いていた主人公の魂が入り込む形になり、【吟遊詩人】というジョブを授かることに。  外れだと思われていたが実は至高のジョブで、さらに主人公は剣道の達人であったため、それまで彼をバカにしていた周囲の人間を見返しつつ、剣と音の力で領地開拓を目指す第二の人生が幕を開けるのであった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...