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第1回公演
第9惑星(2)バタバタ握手
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「配信はどうだったのかしら?」
「大変だったよ……収録で本当に良かった……」
ケイの問いに俺は答える。歩いていたケイは立ち止まって、俺の方に向き直る。
「だから私をパーソナリティーにすれば良かったのよ」
「先方のリクエストがコウだったもので……」
「はいはいと頷くだけが貴方の仕事? こちらからの提案もしていかないと、良い成果は上がらないと思うのだけど」
「おっしゃる通りです……」
俺は頭を下げる。ケイがため息をついて、再び前を見て歩き出す。そしてある建物の前で立ち止まる。
「ここかしら?」
「あ、ああ、そうだ」
「今時、ストアイベントだなんて……時代錯誤感も甚だしいんじゃない?」
「いや、それがどうしてなかなか馬鹿に出来たもんじゃないぞ。こういうところでのファンサービスが評判を呼んで、ライブなどの動員や売り上げにつながるんだよ」
「……」
ケイがジト目でこちらを見てくる。
「な、なんだよ……」
「それ全部、アユミの受け売りでしょう」
「バ、バレたか……」
「分かるわよ、それくらい……アユミの方が適任だったんじゃないの?」
ケイが頭を掻く。俺は両手を合わせる。
「まあ、そこをなんとか……な?」
「帰るわ」
「え⁉」
「冗談よ、決まっていることはしっかりやるわ」
「さ、さすが……」
「プロだからね──」
「お、おお……」
「そろそろ時間ね。さあ、入りましょう」
「あ、ああ……」
建物は大きなショッピングセンターで、その中の一角に音楽ディスクなどを扱った店がある。結構な規模の店だ。こういう店でのイベントはまだまだ影響力がある。ファンにとっては数少ないアイドルとの接することが出来る機会だからな。これもアユミの受け売りだ。
「それでは、『ギャラクシーフェアリーズ新譜購入者特典の握手会』、開始で~す」
店のスタッフさんが声を上げる。とはいえ、握手会……アユミの方が良かったか?
「ケイちゃん、応援しています!」
「ありがとう──」
「ケイちゃんのクールな雰囲気が大好きです!」
「どうもありがとう──」
うん、無難にこなしているな。少し淡泊すぎる気もするが……。でも、ファンの方は満足そうだ。変に媚びるより、これがそれぞれの思い描くケイの姿に近いのだろう。
「あ! プレゼントの手渡しは駄目で……」
俺やスタッフさんがちょっと目を離している隙に、あるファンがプレゼントの小箱を渡そうとした。俺たちが止めようとしたが、ケイは受け取ってしまう。
「うん、この重さは爆発物の類ではないわね──」
「え?」
「あ、い、いや、お気持ちどうもありがとう。ただ、手渡しはマナー違反だから、今度からは守って下さいね」
「は、はい……」
「危ない、危ない、素が出るところだったわ……」
ケイが小声で呟く。手触りで爆発物か否かが分かるアイドルなんていないだろう……。
「つ、次の方どうぞ!」
「ケ、ケイちゃん……」
「はい?」
「ケイちゃんはソロで活動するべきだと思う!」
「え?」
「アユミもコウもケイちゃんの足を引っ張っているだけだ! 君にはふさわしくない!」
うわ、こういう感じのファンか。どうしたもんか……。
「ご意見ありがとう。ただ……」
「?」
「アユミちゃん、コウちゃんでしょう? 敬意を持てないならただのアンチよ──」
「⁉」
ケイの鋭い眼光に射抜かれ、厄介ファンはその場にへたり込んでしまう。
「つ、次の方!」
「ケ、ケイちゃん!」
「!」
「うおっ⁉」
思い余って、ケイに抱き着こうとしたファンをケイはあっという間に投げ倒す。
「! あ、あら、嫌だわ、私ったら無我夢中で……。そういう行為はやめましょうね……な、なんとかごまかせたわね……」
さっきの鋭い眼光といい、今の身のこなしといい、ごまかせてないと思う……。
「大変だったよ……収録で本当に良かった……」
ケイの問いに俺は答える。歩いていたケイは立ち止まって、俺の方に向き直る。
「だから私をパーソナリティーにすれば良かったのよ」
「先方のリクエストがコウだったもので……」
「はいはいと頷くだけが貴方の仕事? こちらからの提案もしていかないと、良い成果は上がらないと思うのだけど」
「おっしゃる通りです……」
俺は頭を下げる。ケイがため息をついて、再び前を見て歩き出す。そしてある建物の前で立ち止まる。
「ここかしら?」
「あ、ああ、そうだ」
「今時、ストアイベントだなんて……時代錯誤感も甚だしいんじゃない?」
「いや、それがどうしてなかなか馬鹿に出来たもんじゃないぞ。こういうところでのファンサービスが評判を呼んで、ライブなどの動員や売り上げにつながるんだよ」
「……」
ケイがジト目でこちらを見てくる。
「な、なんだよ……」
「それ全部、アユミの受け売りでしょう」
「バ、バレたか……」
「分かるわよ、それくらい……アユミの方が適任だったんじゃないの?」
ケイが頭を掻く。俺は両手を合わせる。
「まあ、そこをなんとか……な?」
「帰るわ」
「え⁉」
「冗談よ、決まっていることはしっかりやるわ」
「さ、さすが……」
「プロだからね──」
「お、おお……」
「そろそろ時間ね。さあ、入りましょう」
「あ、ああ……」
建物は大きなショッピングセンターで、その中の一角に音楽ディスクなどを扱った店がある。結構な規模の店だ。こういう店でのイベントはまだまだ影響力がある。ファンにとっては数少ないアイドルとの接することが出来る機会だからな。これもアユミの受け売りだ。
「それでは、『ギャラクシーフェアリーズ新譜購入者特典の握手会』、開始で~す」
店のスタッフさんが声を上げる。とはいえ、握手会……アユミの方が良かったか?
「ケイちゃん、応援しています!」
「ありがとう──」
「ケイちゃんのクールな雰囲気が大好きです!」
「どうもありがとう──」
うん、無難にこなしているな。少し淡泊すぎる気もするが……。でも、ファンの方は満足そうだ。変に媚びるより、これがそれぞれの思い描くケイの姿に近いのだろう。
「あ! プレゼントの手渡しは駄目で……」
俺やスタッフさんがちょっと目を離している隙に、あるファンがプレゼントの小箱を渡そうとした。俺たちが止めようとしたが、ケイは受け取ってしまう。
「うん、この重さは爆発物の類ではないわね──」
「え?」
「あ、い、いや、お気持ちどうもありがとう。ただ、手渡しはマナー違反だから、今度からは守って下さいね」
「は、はい……」
「危ない、危ない、素が出るところだったわ……」
ケイが小声で呟く。手触りで爆発物か否かが分かるアイドルなんていないだろう……。
「つ、次の方どうぞ!」
「ケ、ケイちゃん……」
「はい?」
「ケイちゃんはソロで活動するべきだと思う!」
「え?」
「アユミもコウもケイちゃんの足を引っ張っているだけだ! 君にはふさわしくない!」
うわ、こういう感じのファンか。どうしたもんか……。
「ご意見ありがとう。ただ……」
「?」
「アユミちゃん、コウちゃんでしょう? 敬意を持てないならただのアンチよ──」
「⁉」
ケイの鋭い眼光に射抜かれ、厄介ファンはその場にへたり込んでしまう。
「つ、次の方!」
「ケ、ケイちゃん!」
「!」
「うおっ⁉」
思い余って、ケイに抱き着こうとしたファンをケイはあっという間に投げ倒す。
「! あ、あら、嫌だわ、私ったら無我夢中で……。そういう行為はやめましょうね……な、なんとかごまかせたわね……」
さっきの鋭い眼光といい、今の身のこなしといい、ごまかせてないと思う……。
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