上 下
79 / 109
『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第8話(2)準決勝Bブロック先鋒戦

しおりを挟む
「さあ! それでは皆様お待ちかね! 『レボリューション・チャンピオンシップ』準決勝、Bブロック先鋒戦、選手の入場です‼」

「おおおおおっ!」

「まずは北口ゲートから入場は、1回戦Aブロックを二位で通過したチーム『悪役令嬢』、アフダル家のご令息、シルヴァンだ! リポーターのマールさん、お願いします」

「はい、こちらマールです……。シルヴァン選手、意気込みをお願いします……」

「ま、まあ、勝つだけだよ……」

 リポーターさんからの問いかけに、シルヴァンさんは思惑がすっかり外れた心の動揺を隠しながら冷静に答えます。

「今回は大将ではなく先鋒なのですね?」

「ま、まあ、数ある勝利へのプランから最善手を選んだ結果さ」

「そうですか……次、お願いします」

「では、次は東口ゲートから入場の、1回戦Bブロックを、抽選の結果一位で通過したチーム『剛腕』、ラティウスと深いつながりを持つ、フランソワだ! リポーターのシャクさん、お願いします」

「はい! こちらシャクです! フランソワ選手、意気込みの程ををお願いします!」

「ウホ!」

「えっと……」

「余計な言葉は不要! ただただ勝つのみだ! と言っている」

 後方からラティウスさんの声が聞こえてきます。

「ええっ⁉ 発音の短さのわりにセンテンス長くないですか⁉」

「そう言っているのだからしょうがないだろう」

「そ、そうですか……先鋒ということですが!」

「ウホウホウッホ、ウホホ、ウッホッホ……」

「特に意識はない、そうだ」

「こ、今度は短い……そ、そうですか………お、お返しします!」

「続いて、南口ゲートから入場は、1回戦Cブロックを二位で通過したチーム『赤点』、北方からきた巨人フレデリックだ! リポーターのヌーブさん、よろしくお願いします」

「は、はい! こ、こちらヌーブです! フ、フレデリック選手、意気込みを!」

「……1回戦では不甲斐ないところを見せてしまったからな。種族としての誇りもある、汚名返上したいところだな」

 筋骨隆々の肉体を布で包んだ金髪の男性が自信満々の口調でお話しされます。

「せ、先鋒に変わった意味は?」

「さあな……相も変わらず封印されていたからな」

「チ、チームとしてのお考えでしょうか……?」

「アナスタシアは案外頭が回るが、奴の考えではないだろう……アンナの考えだろうな」

「で、では、改めてこの準決勝、いかがでしょうか!」

「もはや油断もない……誰も俺を止められん!」

 フレデリックさんが叫ぶと、周りが振動します。

「は、迫力たっぷりの勇ましいコメントを頂きました! お、お返しします!」

「最後に、西口ゲートから入場は、1回戦Dブロックを一位で通過したチーム『龍と虎と鳳凰』、東方の高名な寺院の修行僧、ゲンシンの登場だ! それではリポーターのフルカさん、お願いします!」

「はい~こちらフルカ~。ゲンシン選手、調子はどう~?」

「悪くはないっスよ!」

「今日は先鋒なんだね~」

「特に意味はないっスけどね! ソウリュウの気分の問題っス!」

「なるほどね~じゃあ、お返ししま~す」

「さあ、四人がリングに上がろうとしています……解説は昨日惜しくも敗退したチーム『天界』のセーヴィさんにお願いしています。セーヴィさん、先鋒戦、どう見ますか?」

「注目はやはりあの巨人、フレデリックですね……」

「マッチョな肉体ですよね~」

「ええ、惚れ惚れとしてしまいます……って、そこではありません!」

 セーヴィさんが慌てて否定します。会場中から困惑の視線が注がれます。

「あ、違うんですか? では注目すべきポイントは?」

「ご、ご本人もおっしゃったように1回戦は本領を発揮出来たとは言い難いです。今回は油断もないとのこと……そうなるとその進撃を止めるのは容易くはないでしょう……」

「なるほど。おっと四人がリングに上がった……審判が今、開始の合図を出しました!」

「さあ! 手加減はしないぜ! 怪我したくないならリングアウトを選びな!」

「フレデリック、吼えた! リングだけでなく、会場が文字通り揺れます!」

「……出来ればそうしたいのだけどね!」

「む!」

「おっと! シルヴァンが果敢に向かっていくぞ! ジャンプした!」

 シルヴァンさんがフレデリックさんに向かって飛びかかります。

「ははっ! その度胸は買うぞ、色男!」

「ついでにこれも貰ってくれよ! 『蔦生える』!」

「ぬおっ⁉」

「おおっと⁉ シルヴァンの両手から生えた無数の木の蔦がフレデリックの巨体のありとあらゆるところに絡みつく⁉」

「植物系統の魔法ですわね……ここまでの練度とは……」

 セーヴィさんが感心したように呟きます。

「ぐおっ⁉ な、なんのこれしき……」

「取ろうとすると、それだけ余計に絡みつくよ!」

「うぐっ!」

「首が締まったな! ……くっ、落ちろ!」

「……!」

「フレデリック、落ちたぞ! リングの外に倒れ込む!」

「これは番狂わせですわね……」

「フレデリック、敗北! 0ポイント!」

「ウホッ!」

「あっと! シルヴァンにフランソワが襲いかかる!」

「連戦はしんどいが……『森盛り』!」

「シルヴァン! リング上に小規模の森を発生させた!」

「抜け出すのはなかなか厄介だよ! って⁉」

「ホッ!」

「このような小細工……森の賢者相手に無駄なことだ! と、言っているぞ!」

 ラティウスさんが叫びます。ホッ!としか言ってないと思うのですが。

「ウホッ!」

「ぐはっ!」

「……シルヴァン、敗北! 1ポイント!」

「シルヴァン、フランソワのパワーに屈した!」

「巨人相手に力を使いすぎましたわね……もっと練度の高い魔法を出せればあるいは……」

 セーヴィさんが冷静に解説します。実況の方が不思議そうに彼女を見つめます。

「……魔法にお詳しいのですか?」

「そりゃあ魔女ですから」

「またまた御冗談を」

「だから冗談じゃありませんわよ! なんで誰も……ん⁉」

「『炎上鼓舞』!」

「ウッホ⁉」

「炎はやっぱり苦手みたいっスね! 隙有りっスよ! 喰らえ、『虎牙炎拳』!」

 フランソワさんの懐に素早く入り込んだゲンシンさんが上下同時に放った鋭い拳がフランソワさんの顎に当たり、フランソワさんは倒れ込みます。審判が宣告します

「フランソワ、敗北! 2ポイント! よって、ゲンシン、勝利! 3ポイント!」

「せ、先鋒戦は電光石火の決着! 勝者はチーム『龍と虎と鳳凰』のゲンシンだ! セ、セーヴィさん、どうでしたでしょうか?」

「炎の虎の力や魔法があるとはいえ、巨人や力が上の種族に臆さずに立ち向かうとは……人間の強さの本質とはその勇敢さにあるのかもしれませんわね……」

 セーヴィさんが感嘆の声を上げます。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

処理中です...