43 / 50
第一章
第11話(2)おじさんって
しおりを挟む
「甘いですね……」
「?」
「僕が眩しさにたじろいだ瞬間、その薙刀で突けば良かったのに!」
「!」
「呑気に呼びかけるから反撃の隙を与える!」
「ぐっ!」
ムツキが両手を前に出す。カンナが壁に吹っ飛ばされる。
「このまま……圧し潰してしまっても……」
「そ、そうはさせない!」
「むっ⁉」
カンナが壁際から転がるように離れる。ムツキが感心する。
「単純に力を込めるだけで圧力から逃れましたか……大したものですね」
「……なさい」
「え?」
「投降なさい!」
体勢を立て直したカンナが薙刀を構えて声を上げる。ムツキがため息をつく。
「はあ……だから、それが甘いのですよ……」
「ではどうすれば良いのですか⁉」
「そんなことまで教えなければならないのですか?」
「……」
「今、貴女に出来ることは僕を倒すか、もしくは倒されるか、です……」
ムツキは自身の首筋をとんとんと叩いてみせる。
「そ、そんなことが出来るわけがないでしょう!」
「何故?」
「な、何故って……」
「今、貴女の目の前に立っているのはクーデターを起こした首謀者ですよ?」
「たとえそうであっても! それ以前に!」
「それ以前に?」
「幼いころから貴方のことを知っていました! 慕っていました!」
「ふむ……」
「まるで近所のおじさんのようだと思っていたのに!」
「き、近所のおじさん⁉」
ムツキがカンナの言葉に面喰らう。
「ええ!」
「そ、そこはお兄さんとかじゃないのですか⁉」
「いいえ、おじさんです!」
カンナはぶんぶんと首を振る。ムツキが戸惑う。
「そ、そこまで互いの年齢は離れていないと思うのですが……」
「はっ!」
カンナが薙刀を地面にこすらせ、火を巻き起こす。ムツキはなんとかそれをかわす。
「むう!」
「逃がしません!」
カンナがムツキのかわす方向を先読みし、その辺りをどんどんと燃やしていく。
「くっ……」
ムツキがあっという間に火に囲まれる。
「逃げ場はありませんよ!」
「あまり舐めないで頂きたい!」
「むっ⁉」
ムツキが右手を水平に振ると、強風が吹き、火が消える。ムツキがその方向に走り、火の包囲から抜け出す。
「これくらいの包囲ならば、いくらでも突破出来ますよ!」
「その神力……やはり厄介ですね……」
「それはなんといっても神の力ですからね」
ムツキはわざとらしく胸を張る。
「ならば!」
「うおおっ⁉」
カンナが薙刀をかざすと、ムツキの周囲でいくつかの破裂音がする。ムツキがたまらず自らの両腕を抑える。それを見てカンナが淡々と分析する。
「体ごと吹き飛ばすほどの威力を発したつもりでしたが、それも神力でしょうか、何らかの障壁を展開して、ダメージを最小限に抑えた……?」
「ぐ、ぐう……」
「しかし、両の腕は使い物にならないはず。貴方の神力は防ぎました」
「しょ、勝利を確信したつもりですか? それはいささか気が早いのでは?」
ムツキが苦しげに笑みを浮かべる。カンナが頷く。
「それもそうですね、ダメ押しと参りましょう……」
「む……?」
「それっ!」
カンナが薙刀を上下に振るう。雷が発せられ、ムツキの体を貫く。
「ぐはっ……!」
ムツキが仰向けに倒れる。ムツキが呟く。
「障壁を展開していても、なかなか防げるものではありません……」
「ぐっ……」
「……終わりですね」
カンナがゆっくりとムツキに近づく。
「……はっ! はーはっはっは!」
「……なんですか?」
いきなり笑い出したムツキをカンナは怪訝そうに見つめる。
「ははは……」
「気でも変になりましたか?」
「いやあ、おかしくてね」
「おかしい?」
「ええ、この状況がです」
「貴方が無様に倒れ込んでいる状況がですか?」
「それもあります」
「それも? それ以外になにが?」
カンナがわずかに首を傾げる。
「僕がただ笑ったとお思いですか?」
「なんですって?」
「確認をしたのですよ」
「確認?」
「そうです……」
「おっしゃる意味が分かりません……」
「……!」
「⁉」
ムツキがなにやらぶつぶつと呟いた次の瞬間、カンナの体が激しく横殴りされたようになり、カンナは膝をつく。ムツキはゆっくりと半身を起こす。
「ふふっ……」
「……文章を読んだ?」
「ご明察、言霊の力ですよ」
「そ、そんなことが……」
「口を塞がなかったのは迂闊でしたね。神官や僧侶は口が主な武器のようなものです」
ムツキが笑みを浮かべながら立ち上がる。
「むう……」
「……はっ!」
「なにっ⁉」
ムツキが両手を振り下ろす。カンナがうつ伏せに地面に押し付けられる。
「わずかではありますが、両腕も回復させました。形勢逆転ですね」
ムツキがカンナを見下ろしながら呟く。
「?」
「僕が眩しさにたじろいだ瞬間、その薙刀で突けば良かったのに!」
「!」
「呑気に呼びかけるから反撃の隙を与える!」
「ぐっ!」
ムツキが両手を前に出す。カンナが壁に吹っ飛ばされる。
「このまま……圧し潰してしまっても……」
「そ、そうはさせない!」
「むっ⁉」
カンナが壁際から転がるように離れる。ムツキが感心する。
「単純に力を込めるだけで圧力から逃れましたか……大したものですね」
「……なさい」
「え?」
「投降なさい!」
体勢を立て直したカンナが薙刀を構えて声を上げる。ムツキがため息をつく。
「はあ……だから、それが甘いのですよ……」
「ではどうすれば良いのですか⁉」
「そんなことまで教えなければならないのですか?」
「……」
「今、貴女に出来ることは僕を倒すか、もしくは倒されるか、です……」
ムツキは自身の首筋をとんとんと叩いてみせる。
「そ、そんなことが出来るわけがないでしょう!」
「何故?」
「な、何故って……」
「今、貴女の目の前に立っているのはクーデターを起こした首謀者ですよ?」
「たとえそうであっても! それ以前に!」
「それ以前に?」
「幼いころから貴方のことを知っていました! 慕っていました!」
「ふむ……」
「まるで近所のおじさんのようだと思っていたのに!」
「き、近所のおじさん⁉」
ムツキがカンナの言葉に面喰らう。
「ええ!」
「そ、そこはお兄さんとかじゃないのですか⁉」
「いいえ、おじさんです!」
カンナはぶんぶんと首を振る。ムツキが戸惑う。
「そ、そこまで互いの年齢は離れていないと思うのですが……」
「はっ!」
カンナが薙刀を地面にこすらせ、火を巻き起こす。ムツキはなんとかそれをかわす。
「むう!」
「逃がしません!」
カンナがムツキのかわす方向を先読みし、その辺りをどんどんと燃やしていく。
「くっ……」
ムツキがあっという間に火に囲まれる。
「逃げ場はありませんよ!」
「あまり舐めないで頂きたい!」
「むっ⁉」
ムツキが右手を水平に振ると、強風が吹き、火が消える。ムツキがその方向に走り、火の包囲から抜け出す。
「これくらいの包囲ならば、いくらでも突破出来ますよ!」
「その神力……やはり厄介ですね……」
「それはなんといっても神の力ですからね」
ムツキはわざとらしく胸を張る。
「ならば!」
「うおおっ⁉」
カンナが薙刀をかざすと、ムツキの周囲でいくつかの破裂音がする。ムツキがたまらず自らの両腕を抑える。それを見てカンナが淡々と分析する。
「体ごと吹き飛ばすほどの威力を発したつもりでしたが、それも神力でしょうか、何らかの障壁を展開して、ダメージを最小限に抑えた……?」
「ぐ、ぐう……」
「しかし、両の腕は使い物にならないはず。貴方の神力は防ぎました」
「しょ、勝利を確信したつもりですか? それはいささか気が早いのでは?」
ムツキが苦しげに笑みを浮かべる。カンナが頷く。
「それもそうですね、ダメ押しと参りましょう……」
「む……?」
「それっ!」
カンナが薙刀を上下に振るう。雷が発せられ、ムツキの体を貫く。
「ぐはっ……!」
ムツキが仰向けに倒れる。ムツキが呟く。
「障壁を展開していても、なかなか防げるものではありません……」
「ぐっ……」
「……終わりですね」
カンナがゆっくりとムツキに近づく。
「……はっ! はーはっはっは!」
「……なんですか?」
いきなり笑い出したムツキをカンナは怪訝そうに見つめる。
「ははは……」
「気でも変になりましたか?」
「いやあ、おかしくてね」
「おかしい?」
「ええ、この状況がです」
「貴方が無様に倒れ込んでいる状況がですか?」
「それもあります」
「それも? それ以外になにが?」
カンナがわずかに首を傾げる。
「僕がただ笑ったとお思いですか?」
「なんですって?」
「確認をしたのですよ」
「確認?」
「そうです……」
「おっしゃる意味が分かりません……」
「……!」
「⁉」
ムツキがなにやらぶつぶつと呟いた次の瞬間、カンナの体が激しく横殴りされたようになり、カンナは膝をつく。ムツキはゆっくりと半身を起こす。
「ふふっ……」
「……文章を読んだ?」
「ご明察、言霊の力ですよ」
「そ、そんなことが……」
「口を塞がなかったのは迂闊でしたね。神官や僧侶は口が主な武器のようなものです」
ムツキが笑みを浮かべながら立ち上がる。
「むう……」
「……はっ!」
「なにっ⁉」
ムツキが両手を振り下ろす。カンナがうつ伏せに地面に押し付けられる。
「わずかではありますが、両腕も回復させました。形勢逆転ですね」
ムツキがカンナを見下ろしながら呟く。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
合魂‼
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
静岡県生まれのごく普通の少年、優月超慈は猛勉強の末、難関と言われる愛知県の『愛京大付属愛京高校』に合格する。
彼を突き動かす理由……それは『彼女をつくること』であった。そしてこの愛京高校にはなんと『合コン部』なるものがあることを聞きつけた彼は、見事に入学試験を突破した。 喜び勇んで学校の門をくぐった超慈を待ち構えていたものは……?
大規模な学園都市を舞台に繰り広げられるドキドキワクワク、常識外れの青春ハイスクールライフ、ここにスタート!
2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~
阿弥陀乃トンマージ
ライト文芸
栃木県のとある学園に仁子日光と名乗る一人の少年が転校してきた。高二にしてはあまりにも痛々し過ぎるその言動に2年B組のクラス長、東照美は眉をひそめる。しかし自身の立場上、関わり合いを持たざるを得なくなる……。
一人の転校生が微妙な能力、『微能力』で能力至上主義の学園に旋風を巻き起こしていく、スクールコメディー、ここに開幕!
【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
超のつくお嬢様、厳島甘美は表向きはキャンパスライフを謳歌する陽気な女子大生。
陰なる雰囲気を漂わせている巫女、隠岐島現とともに行動している。
そんな甘美と現には、誰にも知られていない裏の世界での顔があった……!
広島や中国地方で繰り広げられる、不思議なツアーをご覧あれ!
胡蝶の夢に生け
乃南羽緒
キャラ文芸
『栄枯盛衰の常の世に、不滅の名作と謳われる──』
それは、小倉百人一首。
現代の高校生や大学生の男女、ときどき大人が織りなす恋物語。
千年むかしも人は人──想うことはみな同じ。
情に寄りくる『言霊』をあつめるために今宵また、彼は夢路にやってくる。
あやかし屋敷の離れでスムージー屋さん始めました~生きていくにはビタミンが必要です~
橘 ゆず
キャラ文芸
石段をあがった丘の上にある古びた屋敷──通称「青柳御殿」
専門学校を卒業し、カフェで働いていた水瀬雫は、ある日突然、音信普通になっていた父方の祖父がのこしたというその屋敷を受け継ぐことになる。
ところがそこは、あやかしたちの住む幽世へと繋がる不思議な場所だった。
そこで待っていたのは雫を「許嫁」と呼ぶ仙狐の青年、柊をはじめとする個性ゆたかなあやかしたち。
「いまどき祖父の決めた許嫁だとかありえないから! しかもリアルで狐に嫁入りとか絶対無理!」
断固拒否しようとした雫だが、帰る場所も他になく、新しく部屋を借りる元手もない。
仕方なく同居を承諾した雫は、愛が重ための柊の束縛に悩まされながら屋敷の離れで「ビタミンCafe」を開業することにする。
現代を舞台にした、ちょっと不思議な和風ファンタジーです。
フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました
あーもんど
キャラ文芸
腕はいいが、万年金欠の祓い屋────小鳥遊 壱成。
明るくていいやつだが、時折極道の片鱗を見せる若頭────氷室 悟史。
明らかにミスマッチな二人が、ひょんなことから師弟関係に発展!?
悪霊、神様、妖など様々な者達が織り成す怪奇現象を見事解決していく!
*ゆるゆる設定です。温かい目で見守っていただけると、助かります*
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる