上 下
13 / 50
第一章

第3話(4)鬼蜘蛛のパイスー

しおりを挟む
「な、何を笑っているの⁉」

「足も糸で縛ったのは良い判断だった……だが、問題は足の裏だぜ!」

「はあっ⁉」

「おおおっ! エンジン全開!」

「なっ⁉」

 パイスーが己の目を疑った。タイヘイが足裏からもの凄い勢いの火が噴き出したかと思うと、空に浮かび上がったからである。

「糸が切れん……木が重いが、問題はねえ!」

「くっ⁉」

 タイヘイがグングンと上昇する。

「声が聞こえる! 方向もこちらで間違いねえな!」

「な、なんなのよ、アンタ! 石頭と斬撃だけだと思ったら、怪力に空飛ぶ力……何者よ⁉」

「俺は……人と獣のハーフと妖と機のハーフの間に生まれた……!」

「ええっ⁉」

「なんて言えばいいのか……機、ロケットブースターのクオーターとでも言うのかね」

「そ、そんな存在が……」

「ここにいる!」

「ちっ!」

 パイスーが両手を掲げ、自らの前に大きな蜘蛛の巣を張る。

「む!」

 タイヘイが蜘蛛の巣に引っかかる。パイスーが笑う。

「ふん、ワタシの蜘蛛の巣は簡単には破れないわよ!」

「むう……」

「このまま、全身を蜘蛛の糸で覆ってやるわ!」

「そうは……させねえ!」

「え⁉」

 蜘蛛の巣に引っかかったまま、タイヘイがさらに加速する。

「破れないならそのまま突き進むまで!」

「そ、そんな⁉」

「うおおっ!」

「がはっ!」

 スピードに乗ったタイヘイの頭突きがパイスーの額にぶつかる。

「手ごたえ、いや、頭ごたえあり!」

 タイヘイが叫ぶ。

「……ん」

「あ、あねご!」

「姉御、目が覚めたんですね……」

「アネゴ、良かった……」

 小鬼と中鬼と大鬼のそれぞれの代表者が目覚めたパイスーを見てホッと胸をなでおろす。

「ア、アンタたち……ワタシは確か」

「タイヘイ殿の頭突きを思いっきり喰らったのよ」

 モリコがパイスーに告げる。パイスーが目を丸くする。

「アンタ、蜘蛛の巣から抜けたの?」

「タイヘイ殿がロケットブースターの火を使って焼き切ってくれたわ」

「焼き切る……そんなことが……」

「俺はなんとか無理やりほどいたぜ。時間がかかったけどな……」

 タイヘイが後頭部をかく。

「ロケットブースター……無理やり……ははっ、なんでもありね……」

 パイスーが苦笑を浮かべる。モリコが深々と頷く。

「それについては同意だわ」

「ん……」

 パイスーが半身を起こす。

「あねご、無理しないで!」

「平気よ」

 パイスーが小鬼に応える。

「姉御、頭を打ったのですからもう少し安静に……」

「そんなにヤワじゃないわ」

 中鬼の言葉にパイスーは笑みを浮かべる。

「アネゴ……地面への落下はこいつが寸前で拾ってくれた……」

 大鬼がタイヘイを指差す。

「そうなの?」

「ああ、視界が覆われていたからほとんど野性的な勘で動いたけどな。なんとかギリギリで地面に叩きつけられるのは避けられた」

 タイヘイが説明する。

「ありがとう……と言うべきかしらね?」

「よせよ……」

 タイヘイが首をすくめる。

「散々打ちのめされて、大怪我するところまで助けられたとは……ワタシらの完敗ね」

 パイスーが苦笑を浮かべながら呟く。

「うん、まあまあ手ごわかったぜ」

 タイヘイが腕を組んで頷く。

「ちょ、調子に乗るな!」

「そ、そうだ、まだこれからだ!」

「我々はしつこいぞ!」

「……やめな」

「‼」

 パイスーが低い声色で呟くと、小鬼たちは気を付けの姿勢になる。

「繰り返しになるけど、ワタシら『オニグモ団』の完全なる負けだ……なにか欲しいものはある? これまでそれなりのお宝を集めてきたけどね」

「集めてきたって……盗んだんでしょう?」

「この辺一帯で勝手に争うだけでなく、無駄に荒らしまわってやがった四国の軍の連中から掠め取っただけさ……悪党から盗んで何が悪いのよ?」

 モリコの言葉にパイスーが反論する。

「……盗んだは言い過ぎたわ。単なる落ち武者狩りね」

「ああん?」

「なによ、事実を言ったまででしょう?」

「このコウモリ女……」

 パイスーとモリコが睨み合う。

「おいやめろ……それよりもパイスー」

「な、なによ……」

「俺の仲間になれ」

「仲間?」

「ああ、ボスのパイスーが仲間になってくれれば、オニグモ団が皆、俺に協力してくれるようになるだろう?」

「傘下に入れってこと?」

「泥棒からは足を洗え。俺は盗賊団を結成するつもりはさらさらねえ」

「な、何をするつもりなの……?」

「俺はこの四国という島に、もう一つ国を造る。はみだし者たちの国をな」

「⁉」

「どうだ?」

「負けた上に命も救われ、さらにそういう提案をされた日には……物盗りでもなく、国盗りでもなく、国造り……? 面白そうじゃないの」

「姉御、何をぶつぶつ言っているんです?」

「……この『鬼蜘蛛のパイスー』、タイヘイ兄さんに喜んで協力させて頂きます」

「あ、あねご⁉」

 パイスーが三つ指をついてタイヘイに頭を下げる。小鬼たちが驚く。

「決まりだな」

 タイヘイが笑みを浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【第1章完】ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 『戦隊ヒーロー飽和時代』、滋賀県生まれの天津凛は京都への短大進学をきっかけに、高校時代出来なかった挑戦を始めようと考えていた。  しかし、その挑戦はいきなり出鼻をくじかれ……そんな中、彼女は新たな道を見つける。  その道はライバルは多く、抜きんでるのは簡単なことではない。それでも彼女は仲間たちとともに、メジャーデビューを目指す、『戦隊ヒーロー』として!

【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 超のつくお嬢様、厳島甘美は表向きはキャンパスライフを謳歌する陽気な女子大生。  陰なる雰囲気を漂わせている巫女、隠岐島現とともに行動している。  そんな甘美と現には、誰にも知られていない裏の世界での顔があった……!  広島や中国地方で繰り広げられる、不思議なツアーをご覧あれ!

胡蝶の夢に生け

乃南羽緒
キャラ文芸
『栄枯盛衰の常の世に、不滅の名作と謳われる──』 それは、小倉百人一首。 現代の高校生や大学生の男女、ときどき大人が織りなす恋物語。 千年むかしも人は人──想うことはみな同じ。 情に寄りくる『言霊』をあつめるために今宵また、彼は夢路にやってくる。

式鬼のはくは格下を蹴散らす

森羅秋
キャラ文芸
時は現代日本。生活の中に妖怪やあやかしや妖魔が蔓延り人々を影から脅かしていた。 陰陽師の末裔『鷹尾』は、鬼の末裔『魄』を従え、妖魔を倒す生業をしている。 とある日、鷹尾は分家であり従妹の雪絵から決闘を申し込まれた。 勝者が本家となり式鬼を得るための決闘、すなわち下剋上である。 この度は陰陽師ではなく式鬼の決闘にしようと提案され、鷹尾は承諾した。 分家の下剋上を阻止するため、魄は決闘に挑むことになる。

あやかし屋敷の離れでスムージー屋さん始めました~生きていくにはビタミンが必要です~

橘 ゆず
キャラ文芸
 石段をあがった丘の上にある古びた屋敷──通称「青柳御殿」  専門学校を卒業し、カフェで働いていた水瀬雫は、ある日突然、音信普通になっていた父方の祖父がのこしたというその屋敷を受け継ぐことになる。  ところがそこは、あやかしたちの住む幽世へと繋がる不思議な場所だった。  そこで待っていたのは雫を「許嫁」と呼ぶ仙狐の青年、柊をはじめとする個性ゆたかなあやかしたち。 「いまどき祖父の決めた許嫁だとかありえないから! しかもリアルで狐に嫁入りとか絶対無理!」  断固拒否しようとした雫だが、帰る場所も他になく、新しく部屋を借りる元手もない。  仕方なく同居を承諾した雫は、愛が重ための柊の束縛に悩まされながら屋敷の離れで「ビタミンCafe」を開業することにする。  現代を舞台にした、ちょっと不思議な和風ファンタジーです。  

フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました

あーもんど
キャラ文芸
腕はいいが、万年金欠の祓い屋────小鳥遊 壱成。 明るくていいやつだが、時折極道の片鱗を見せる若頭────氷室 悟史。 明らかにミスマッチな二人が、ひょんなことから師弟関係に発展!? 悪霊、神様、妖など様々な者達が織り成す怪奇現象を見事解決していく! *ゆるゆる設定です。温かい目で見守っていただけると、助かります*

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...