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序章
第9話(2)香の道を抑える
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「まさか水戸まで来ることになるとはな……」
新緑が呟く。
「あーしについてくるって言ったでしょ?」
前を歩くラウラが振り返る。
「それは言ったが……いや、言ったか?」
新緑が腕を組んで首を傾げる。ラウラが頷く。
「言ったよ」
「言うことを聞くとは言ったが……」
「ホントに言ったって」
「大体だな……」
「ん?」
「お前の目的は何だ?」
「え?」
「そういえば聞いていないと思ってな」
「いや、それも話したっしょ、あの時」
「あの時?」
「ギョーザを食べた時だよ」
「ああ、そうだったか?」
「そうだよ」
「う~ん……」
「まさか……覚えてないの?」
「いや、酒も入っていたからな……」
「ビールちょっと飲んだだけじゃん」
「いや、酒は弱くてな……」
「なんで飲むのよ」
「好きではあるからな」
「厄介だね……」
ラウラは苦笑する。
「うむ、自分でもそう思う……」
新緑が頭をポリポリとかく。
「……じゃあさ」
「うん?」
「あの後のことも覚えてないの?」
「あの後?」
新緑が再び首を傾げる。
「ヒドイ!」
「は?」
「あの夜のことを忘れてしまったのね!」
「あ、あの夜って……」
「ヒドイ、ヒドイわ! あーん!」
ラウラが顔を覆う。
「い、いや、周りが見てるからやめろ……」
新緑が困惑する。
「ちょっと……」
「む?」
新緑が顔を向けると、紫色の着物に身を包んだ黒髪ロングの美人が立っていた。
「街の治安を乱すのは辞めて下さる?」
「ち、治安を乱すなんて、そんなことをした覚えはないぞ!」
「あられもない格好の女を泣かせる柔道着姿の男……これが乱れてなくて、一体何が乱れているというのかしら?」
着物の女は首を傾げる。新緑は慌てる。
「こ、こいつのあられもない格好は元からだ!」
「いつの時代も痴漢は女の敵です……」
「は、話を聞け!」
「少し懲らしめて差し上げます……」
「ま、待て!」
「ど、泥棒だ!」
「「!」」
女と新緑が同時に目を向けると、目出し帽を被った比較的大柄な男たちが近くの店から数人飛び出してきて、こちらに向かってくるのが見えた。
「……こちらの方が先ですわね」
女がゆっくりとした足取りで泥棒の集団に向かって歩いていく。
「な、なんだ、女! そこをどけ!」
「いいえ、どきません」
「ふざけんな! ぶっ飛ばすぞ!」
「マ、マズい! 自分が!」
「ちょい待ち、大地」
飛び出そうとした新緑の肩をラウラがガシッと掴む。
「な、なんだ⁉」
「ちょっと様子を見てみよう」
「そ、そんなことを言っている場合か! ……えっ⁉」
新緑は驚いた。泥棒たちが女とすれ違いざまに崩れ落ちるように倒れ込んだからである。
「……」
女は振り向いて着物を払う。新緑が首を捻る。
「な、なんだ? 何をしたんだ、あの女……」
「何もしてないっていう方が正しいかな?」
「ど、どういうことだ?」
「水戸に着いてすぐ会えるとはラッキーだね……ねえ、キモノガールさん!」
ラウラは新緑の疑問には答えず、女に声をかける。女はラウラに目をやる。
「……噓泣きはもうよろしいんですの?」
「あらら、気づいていたの?」
「見え見えです。俳優になるのは止めておいた方がよろしいですよ」
「それはご忠告どうも……アンタ、鈴紫美華(すずむらさきみか)さんでしょ?」
「……そういう貴女は?」
「井川ラウラ、よろしく」
「ラウラさん、何か御用でしょうか?」
鈴紫と呼ばれた女が、ラウラに向き直って尋ねる。
「あーしと勝負しようよ、負けた方が勝った方の言うことを聞くの」
「……街中で騒ぐだけには飽き足らず、ケンカを吹っ掛けるとは……」
「どうすんの?」
「……万が一、貴女が勝った場合は?」
「あーしと一緒に来てくれる?」
「……いいでしょう。柔道着男の前に貴女を懲らしめて差し上げます……」
「そうこなくっちゃね♪」
「……貴女はわたくしに近づけもせずに終わりますよ……なっ⁉」
鈴紫が驚く。自分がラウラに尻餅をつかされていたからである。新緑も驚いて呟く。
「な、なんという高速の足払い……打撃だけじゃなく、投げ技もいけるのか」
「美華、香道を極めたアンタの技術、気に入ったよ」
「! き、気付いていたのですか⁉」
「ああ。様々な匂いを駆使して、ほぼ戦わずして相手を無力化させる……なかなか良いねえ」
「し、調べはついていたとはいえ、一体どうやって?」
「別に。ちょっと呼吸を止めていただけだよ」
「! むう……わたくしの負けです。しかし、なんという勝負勘……」
「当然だ。なんたって、そいつは群馬の生まれだからな」
「ぐ、群馬の⁉ なるほど、合点がいきました……ラウラさん、貴女についていきましょう」
「いや、アンタら群馬にどういうイメージ持ってんのさ……」
ラウラが複雑な表情を浮かべる。
新緑が呟く。
「あーしについてくるって言ったでしょ?」
前を歩くラウラが振り返る。
「それは言ったが……いや、言ったか?」
新緑が腕を組んで首を傾げる。ラウラが頷く。
「言ったよ」
「言うことを聞くとは言ったが……」
「ホントに言ったって」
「大体だな……」
「ん?」
「お前の目的は何だ?」
「え?」
「そういえば聞いていないと思ってな」
「いや、それも話したっしょ、あの時」
「あの時?」
「ギョーザを食べた時だよ」
「ああ、そうだったか?」
「そうだよ」
「う~ん……」
「まさか……覚えてないの?」
「いや、酒も入っていたからな……」
「ビールちょっと飲んだだけじゃん」
「いや、酒は弱くてな……」
「なんで飲むのよ」
「好きではあるからな」
「厄介だね……」
ラウラは苦笑する。
「うむ、自分でもそう思う……」
新緑が頭をポリポリとかく。
「……じゃあさ」
「うん?」
「あの後のことも覚えてないの?」
「あの後?」
新緑が再び首を傾げる。
「ヒドイ!」
「は?」
「あの夜のことを忘れてしまったのね!」
「あ、あの夜って……」
「ヒドイ、ヒドイわ! あーん!」
ラウラが顔を覆う。
「い、いや、周りが見てるからやめろ……」
新緑が困惑する。
「ちょっと……」
「む?」
新緑が顔を向けると、紫色の着物に身を包んだ黒髪ロングの美人が立っていた。
「街の治安を乱すのは辞めて下さる?」
「ち、治安を乱すなんて、そんなことをした覚えはないぞ!」
「あられもない格好の女を泣かせる柔道着姿の男……これが乱れてなくて、一体何が乱れているというのかしら?」
着物の女は首を傾げる。新緑は慌てる。
「こ、こいつのあられもない格好は元からだ!」
「いつの時代も痴漢は女の敵です……」
「は、話を聞け!」
「少し懲らしめて差し上げます……」
「ま、待て!」
「ど、泥棒だ!」
「「!」」
女と新緑が同時に目を向けると、目出し帽を被った比較的大柄な男たちが近くの店から数人飛び出してきて、こちらに向かってくるのが見えた。
「……こちらの方が先ですわね」
女がゆっくりとした足取りで泥棒の集団に向かって歩いていく。
「な、なんだ、女! そこをどけ!」
「いいえ、どきません」
「ふざけんな! ぶっ飛ばすぞ!」
「マ、マズい! 自分が!」
「ちょい待ち、大地」
飛び出そうとした新緑の肩をラウラがガシッと掴む。
「な、なんだ⁉」
「ちょっと様子を見てみよう」
「そ、そんなことを言っている場合か! ……えっ⁉」
新緑は驚いた。泥棒たちが女とすれ違いざまに崩れ落ちるように倒れ込んだからである。
「……」
女は振り向いて着物を払う。新緑が首を捻る。
「な、なんだ? 何をしたんだ、あの女……」
「何もしてないっていう方が正しいかな?」
「ど、どういうことだ?」
「水戸に着いてすぐ会えるとはラッキーだね……ねえ、キモノガールさん!」
ラウラは新緑の疑問には答えず、女に声をかける。女はラウラに目をやる。
「……噓泣きはもうよろしいんですの?」
「あらら、気づいていたの?」
「見え見えです。俳優になるのは止めておいた方がよろしいですよ」
「それはご忠告どうも……アンタ、鈴紫美華(すずむらさきみか)さんでしょ?」
「……そういう貴女は?」
「井川ラウラ、よろしく」
「ラウラさん、何か御用でしょうか?」
鈴紫と呼ばれた女が、ラウラに向き直って尋ねる。
「あーしと勝負しようよ、負けた方が勝った方の言うことを聞くの」
「……街中で騒ぐだけには飽き足らず、ケンカを吹っ掛けるとは……」
「どうすんの?」
「……万が一、貴女が勝った場合は?」
「あーしと一緒に来てくれる?」
「……いいでしょう。柔道着男の前に貴女を懲らしめて差し上げます……」
「そうこなくっちゃね♪」
「……貴女はわたくしに近づけもせずに終わりますよ……なっ⁉」
鈴紫が驚く。自分がラウラに尻餅をつかされていたからである。新緑も驚いて呟く。
「な、なんという高速の足払い……打撃だけじゃなく、投げ技もいけるのか」
「美華、香道を極めたアンタの技術、気に入ったよ」
「! き、気付いていたのですか⁉」
「ああ。様々な匂いを駆使して、ほぼ戦わずして相手を無力化させる……なかなか良いねえ」
「し、調べはついていたとはいえ、一体どうやって?」
「別に。ちょっと呼吸を止めていただけだよ」
「! むう……わたくしの負けです。しかし、なんという勝負勘……」
「当然だ。なんたって、そいつは群馬の生まれだからな」
「ぐ、群馬の⁉ なるほど、合点がいきました……ラウラさん、貴女についていきましょう」
「いや、アンタら群馬にどういうイメージ持ってんのさ……」
ラウラが複雑な表情を浮かべる。
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