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 私に心を許せる友などほとんど居ない。そんなものを作る悠長な時間は与えて貰えなかったし、結婚してからは殆ど連絡も取っていなかった。
 そんな私にとって唯一の味方であるのは従兄のアレクだけだ。その昔、叔父様に勘当されるよりも前に家を捨て、己の人生を己で決めた人。
 昔から私を何だかんだ甘やかしてくれる兄のような存在で、離縁届を用意してくれたのも、離縁後のしばらくの面倒を見てくれる予定だったのも全てアレクである。

「ぎゃははははは!!!」
 とても伯爵子息だったとは思えないほど腹を抱えて大笑いした彼に私は飲んでいたティーカップをわざと音を立てて置く。
「笑う要素があったかしら」
「いやぁ、お前の旦那すげぇな!そんな臭いセリフ、あぁでもあんなイケメンなら似合うか!」
 しばらく旅に出るかもしれない、一緒に来るかという内容の手紙を受け取ったので会いに来たのに、近況を話した途端に笑い転げ回ってしまった彼に顔が引き攣る。
「笑い話じゃないわよ、本当に」
「いいんじゃねぇの、愛されてるなら」
「良くないわよ!」
 カレンからすれば都合の良すぎる話だ。今どれほど良い夫に見えたところで、私には私から見た今までの生活がある。
 何を言っても無視され、話し相手もろくに居ぬまま一日中時間を潰す理由だけを考えていた。
 すぐそばに自由奔放に生きるアレクがいたのも、自分の生活をただ無駄なものに思えてしまう一因だったのかもしれないが。
「それよりお前、いいのかよ。息子置いてこんな時間に来て」
「…だって、とても可愛いとは思えないんだもの」
「おいおい」
 呆れたような眼差しに、自分が冷たいことは分かっている。それでもやはり、私が離縁を言い出せない──夫が変わってしまった理由を、あの子のせいだと思ってしまう。
 さっさと生まれてきてくれたら良かったのに私を一時は死の淵まで追いやった、髪も瞳も旦那様譲りの息子。
「私だってこんな自分が嫌よ、でも仕方ないじゃない」
 どういう心境の変化かは知らないが何の説明もないまま愛しているだなんて言われて、私を馬鹿にしているとしか思えないのだ。
 大きく溜息を吐いたアレクが空になった私のティーカップに茶を注いでくれる。
「お前は優しいからな。溜め込みすぎだ」
「…息子の面倒もまともに見ない私が優しいわけないじゃない」
「優しいから、今の空気が壊せなくて旦那に切り出せないんだろ。優しいからそうやって子供のことも真剣に悩んでるんだ。…大丈夫、俺はお前の味方だ」
 昔よりも随分と大きくなった手で、昔と同じように私の頭を撫でてくる。家を出る前にせっかく整えた髪もぐしゃぐしゃになってしまったけれど、気にならなかった。
 アレクは私を否定する言葉は決して言わない。だから居心地が良くて、離れられなくなる。
 少し埃っぽいソファーに横たわるように上半身を落とせば「寝るのか」と尋ねられた。
 ここ最近、夜は全く眠れない。散々抱かれてという理由もあるが、夫の眠るその顔を見て、どうしようもないほどに虚しくなる。とても心地よく眠れるような気持ちでは無くなる。
「…少しだけ」
「しばらくしたら起こす」
「ありがとう…」
 アレクの部屋は心地いい。優しくて、落ち着く場所。私を傷付け害するものなど何もないと分かる場所。
 ずっとここにいられたらいいのに、なんて。そんな理想がいつ叶うのか、分からないけれど。
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