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 王立学園の本校に送った侍女スパイによりますと、王太子のアイン様は義妹のヒュンフェと順調に交流を深めているようです。ツヴァイとドレイはアイン様の側近で、それぞれの婚約者とうまくやっているそうですから、やはり王太子ルートで間違いありません。私の『悪行』はアンヌ嬢のおかげで達成されましたので、3年後の断罪の準備は万端です。私は満足して学園を卒業し、断罪後の根回しを始めることにしました。

 ゲームでは悪役令嬢フィーアが極北修道院に追放になったところで前半の恋愛パートが終わり、フィーアの運命に関しては『悪女フィーアはその後30歳を前に病死した』というおざなりな説明があるだけです。でもノルテ国のクイーンたる私は愛する家族と国民のために強く優しい国を作らねばいけませんから、必要とあらばゲーム後半の冒険パートにも介入しようと思っております。

 さて、後半のストーリーはアイン様とヒュンフェの婚約式で始まりますが、セレモニーの最中に、北の山地で古代竜が復活したというニュースが入って来るのです。討伐の旅の過程で彼らはクエストをこなしてレベル上げをします。聖女ヒュンフェ、勇者アイン、賢者ツヴァイ、神官ドレイという称号を得た彼らはついに古代竜を倒し、ラストシーンはアインとヒュンフェの結婚式です。
 
 ゲームのエンディングはこの冒険パートで誰が死ぬかによって変わります。ヒュンフェだけが生き残ればバッドエンド(この場合ラストシーンはヒュンフェの大聖女就任式です)、アインが生き残ってツヴァイとドレイが死ぬのがノーマルエンド、全員帰還するのがパーフェクトエンドです。ちなみにアインが死んでツヴァイかドレイが生き残るとかいうパターンはありません。予算の関係でエンディングの種類を増やしたくなかったのでしょう。

「王国とは平和的に共存するべきだが、もう少し力を削いでおきたいところだなあ。」

 ウノお兄様と私はサカサマタタビ酒を飲みながら星空の下でノルテ国の将来について話し合います。

「冒険の途中でアイン様を暗殺したら強制力でツヴァイとドレイも死にますわよね。未来の国王、宰相、大神官候補がいなくなったらずいぶん弱体化するのでは?」

「しかし、そうなると神殿が大聖女となったヒュンフェ嬢を取り込むだろうな。大神官にはドレイの下にも息子がいたはずだし、神殿に余計な力を与えると王家よりかえって厄介だ。」

 大神官の息子ドレイのルートではフィーアは魔女として火炙りになります。アイン様による修道院への幽閉に比べるとはるかに理不尽かつ横暴です。ツヴァイルートでの娼館送りもなかなかひどいですが、変態の客に殺されたのは偶然であってツヴァイの陰謀ではありませんでした。

「しかも目の見えないヒュンフェ嬢を冒険旅行に送って事故で死なれたら大変だ。ゲームだとヒロインのヒュンフェが死ねばゲームオーバーだろう?もしかしてそれはこの世界の滅亡を意味するんじゃないか?」

 そう、そのことを神様におたずねしなかったのは大失敗でした。何しろあの時はゲーム前半の断罪劇と自分の死の運命で頭がいっぱいでゲーム後半について考える余裕などなかったのです。
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