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 うっかりさんの神様のせいで安物乙女ゲームの世界に生まれ変わった私は念のためシナリオを壊せないか試してはみました。お母様は私が5歳の時に原因不明の病で亡くなる予定でしたので、私は運動嫌いの彼女にエクササイズや健康食をお勧めし、毒を盛られないように食器も全て銀に変えさせました。ところが、結局はたちの悪いインフルエンザでイチコロでした。さすがの現代知識チートでも5歳児がワクチンを開発するのは無理だったのです。

 しかたないので再婚を阻止するためにお父様を殺してみました。多少心が痛みましたが、生かしておくとこれからひと月足らずで義母の言いなりになって義妹を甘やかし、私の心を壊す片棒をかつぐことになりますから、始末するならまだ私の事を溺愛している今のうちです。私は紅茶に強いお酒を入れてお勧めし、気持ちよく居眠りを始められたところをぐさっと刺した後、お父様が自殺したと騒ぎ立てました。ところが、なぜか葬式に義母が現れ、お祖父様が彼女を養女にしてしまったのです。もちろん連れ子のヒュンフェは私の義妹となりました。恐るべき強制力です。

 私はもうひとあがきだけしました。シナリオによると、私と王太子様の6歳の誕生日に婚約が結ばれます。顔合わせの日、私はわざと手を滑らせて熱々の紅茶をアイン様の顔にぶっかけてみました。子供の過失ゆえ、死罪にはならなくとも貴族籍剥奪の上、追放になるくらいの覚悟はしていました。それならさすがにシナリオは壊れるでしょう。ところが自宅謹慎の他におとがめは無く、ふた月後に婚約が結ばれてしまいました。ヤケドのせいでふた目と見られないお顔になったアイン様を他の令嬢が嫌がったからだと後で聞きました。

 シナリオでは義母による巧妙ないじめと父のヒュンフェへのえこひいき、それに体罰を伴う厳しい淑女教育によって私は精神不安定なわがまま娘になってしまいます。ところが、私がアイン様に紅茶をぶっかけた数週間後、義母と義妹は原因不明の熱を出して失明してしまったのです。面食いの彼女らがアイン様のお顔のヤケドを見てしまわないように強制力が働いたのでしょう。目が見えないと嫌がらせもやりにくいでしょうから、私は義母のスパイである私の侍女に、私が最も恐れているのは田舎の領地に送られてむくつけき男どもに世話を焼かれる事だと言いました。義母はこれ幸いとお祖父様に進言して、私を5人の護衛と共に王国の最北端の辺境にあるお祖父様の領地に送る事に決めました。

 5人の護衛達は宰相の息子ツヴァイのルートでは私をもてあそんで娼館に送った宰相家の私兵を演じ、大神官の息子ドレイのルートでは私を拷問した聖騎士役をやっていました。ずいぶんいい加減なキャラクターの使い回しですね。でも、彼らは王太子ルートでは出番が無かったので強制力にしばられずに、私の良い味方となってくれるでしょう。さすがに乙女ゲームキャラだけあって皆さん野性的なイケメンです。名前はウノ、ドス、トレス、クワトロ、スインコです。
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