紅月夜話ー妖女と呼ばれ許婚に棄てられた令嬢がいまさら皇太孫殿下に愛される理由は何ですか?ー

「どうしてわたしなんかを――……?」
問いかけると、年下のはずの彼は、すこしだけ大人びた微笑を見せた。
「ひみつだよ。――だって、そうしたらあなた、もっと僕のことを考えてくれるでしょう?」

宵国は、月仙女・姮娥娘々(こうがニャンニャン)の加護を受けて栄える国だ。
蘇紅月(そ・こうげつ)は、算術好きの変わり者。そのせいもあって、かつて婚約者に棄てられ、二十五歳になる今も独身のまま、自室で算盤と算木とに向き合うことだけに楽しみを見出す日々を送っていた。

そんな紅月のもとに、ある日、突如として、皇太孫(皇太子の嫡男)との縁談ばなしが舞い込んでくる。

皇太孫・李朗輝(り・ろうき)は、成人したばかりの十六歳。
自分などがそんな彼のお妃候補になどなるはずもない。もしかしたら何かの陰謀なのではないか。
そんなふうに疑いつつも、お見合いに出掛けた紅月を迎えたのは、涼やかな美貌を誇り、明るく溌溂とした少年だった。
隠そうとしても隠しきれない算術好きのために、奇異な行動、奇異な発言をしがちな紅月を、けれども朗輝は、ちっとも気にしたふうがない。
それどころか、紅月に対して甘い言葉を囁き、ぐいぐいと迫ってくる。

戸惑いながらも、どきどきしてしまう紅月だったが、その後、朗輝とともに出掛けた港で、紅月の元許婚とふいに再会したところから、事態は租税の不正案件という、思わぬ方向へと転がり始め――……。

算術マニアでちょっぴり引きこもり気味の行き遅れ令嬢、お見合いをきっかけに、年下皇太孫殿下から、謎の溺愛モードに突入……??
果たして、朗輝が紅月に求婚した理由とは――……?
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