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Doilea capitol:Kanagawa
豊岡町
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夏の日差しが眩しいこの日。
グロリア、ヘレナ、パトリックの三人は京浜東北線の鶴見駅の西口駅前に佇んでいた。
どう見ても日本人ではない(グロリアに至っては人間ですらない)三名がただただ何をするでもなく、何を話すでもなく立っているのを、駅の利用者がちらちらと視線を向けては駅の中に入っていき、また駅の外へと出ていく。
何のことはない、三人は現在人待ち中である。
『パトリック、待ち合わせの場所は本当にここでよかったのよね?』
『確かにここでございます、奥様。JR京浜東北線、鶴見駅西口、ニューデイズ前。日時に誤りもございません』
『暑いです、奥様……待ちくたびれました』
鶴見駅の西口、高架の下で日陰になっているとはいえ、今は真夏。暑いものは暑い。
待たされている三人がほんの少しイライラし始めたところで、こちらに小走りで駆けてくる男性の姿が見えてきた。
「やー、すみません皆さん、お待たせしました。アータートンさんのご一行ですよね?」
「そうヨ。貴方がモトキサンから話に聞いていた『リュウスケサン』でいいのヨネ?」
「はいそうです、初めまして。神奈川県警自動車警ら隊所属、澤 竜介です」
そう自己紹介して、半袖の開襟シャツとジーンズに身を包んだ筋肉質の青年は、人のいい笑顔を見せながら小さく頭を下げた。
竜介の自己紹介を受けて、パトリックが小さくグロリアに耳打ちをする。
『奥様、澤サンというお名前から察するに、もしかして……』
『そうそう、彼女に聞いたの。従兄なんだそうよ』
既知の間柄である女性の姿を思い浮かべながら、グロリアがにこりと笑う。話題に上っている当人をすぐに思い出せないヘレナだけがきょとんとしていた。
そしてその反応は竜介の側としても予想外だったようで、目を数度瞬かせている。
が、すぐに気を取り直してさっと手を伸ばした。
「さぁ、暑い中で立ち話もなんですし、お店に行きましょう。具合のいいところを確保してありますから」
「前情報なしデお店に行くノ、久しぶりだワー。楽しみネ」
「あんまり飲み過ぎテ、澤サンを面食らわせてはダメですヨ、奥様」
「奥様、酔っぱらうト見境なくなりますモンネ……」
「大丈夫ヨー、ちゃんとセーブするカラ」
うきうきとした様子で竜介の後についていくグロリアと、そのグロリアの後をついていくパトリックとヘレナ。パトリックとヘレナによる忠言にも、グロリアはどこ吹く風だ。
先を歩く竜介が二人の言葉を聞いて、小さく目を見開きつつ冷や汗を垂らしていたことを、三人は知る由もない。
竜介の案内でお店に入り、四人掛けのテーブル席に座った一行は、手早く飲み物を注文してそれがすぐさまに運ばれてくると。
「ありがとうございますー、さあどうぞ皆さん。アータートンさんとガスコインさんが生で、ウィドーソンさんはハイボール、でしたね」
率先して竜介が三人に、それぞれが注文した飲み物のジョッキを回した。自分から手を伸ばそうとしたグロリアよりも素早く。
一瞬だけ面食らった表情をしたグロリアだったが、目の前に差し出されたジョッキをそのまま受け取る。そうして全員がジョッキを受け取ったことを確認すると、竜介は眩しい笑顔を顔いっぱいに満たして生ビールの入ったジョッキを掲げた。
「それじゃー、私達の新たな出逢いに、乾杯!」
「「「カンパーイ」」」
掲げられて、ぶつかり合うガラスのジョッキ。三人の乾杯の声が若干棒読みだったが、普段はしない日本語での乾杯だ、無理もない。
ジョッキを傾け、一息でぐいぐいと中のビールを飲み込んでいくグロリアの姿を見て、竜介は再び目を大きく見開いた。テーブルにジョッキを戻したグロリアの手の中で、なみなみ注がれていたビールは既に半分を切っている。
「いやぁ、聞きしに勝る酒豪ぶりですね、アータートンさん。羽田さんから話には聞いていましたが、これはすごい」
「それはドウモ。でも美味しいわネー、ここのビール。飲みごたえがあって」
「電車で数駅行ったところにビール工場があるんですよ、キリンの。なのでこの辺はキリンビールを入れているお店が多いですね」
ジョッキに描かれたロゴマークを指さしながら、竜介が説明する。あまりお店で見ることの無いキリンビールのロゴマークに、パトリックは興味津々だ。
「このグッとくる刺激感ト、コクのある味わいハ、なかなか経験のない感覚ですネ。
工場が傍にあるト、やはり鮮度の違いが出てくるものでしょうカ」
「ですねー、輸送時間が長いと、その分だけガスも抜けちゃいますし、振動も出ちゃいますから。こういう輸送の問題は、いくら物流が発達している日本でもなかなか、クリアできない部分ですね」
そう話す竜介が再びジョッキに口をつけてビールを喉に送る。ゴクゴクと喉を鳴らして飲むごとに、大きく嵩を減らしていくビール。彼も彼で、結構な酒飲みなのは明らかだ。
そうしてさっさとジョッキを殆ど空にしてしまった竜介が、メニューのページをめくって一品料理の掲載された部分を指し示す。
「さて、料理どうしましょうか。ここは大体何頼んでも美味しいですけれど、アータートンさん苦手な食材とかあります?」
「ンー、大丈夫ヨ、私は食べ物の好き嫌いをしないカラ」
「ア、すみません、私ハ海藻類やエビが、チョット……」
おずおずと声を上げたのはヘレナだ。少し頬を赤らめながら、恥ずかしそうに申し出る彼女にこくりと頷いて、竜介はメニューに視線を落としていく。
「了解です、それじゃ海藻とイカの入ったやつは外しますね。海外の方で海藻は苦手な方多いですけど、エビが苦手ってのはなかなか珍しいですね?」
「海のない国の出身ですからネ、私達三人トモ。地球ほど物流が発達していないですカラ、国内に海のものハなかなか入ってきまセン」
パトリックの言葉に大きく頷いた竜介が、いくつかの料理を三人に大丈夫かと確認しながら選んでいく。OKが出たことを確認すると、近くを通りがかった店員へと竜介が手を挙げた。
「すみませーん、大根サラダと枝豆、よだれ鶏とだし巻きをお願いします。あと生ビールを!」
「ア、私にも生ビール一ツ」
注文を告げる竜介のあとを追うように言葉を投げて、グロリアが空になったばかりのジョッキを手に持った。
注文を書き留めて一礼して去っていく店員を見送ると、竜介が不意に表情を引き締めてグロリアとパトリックに視線を向けてきた。
「ところでアータートンさんにガスコインさん、お会いした時に何やら僕のことを話していましたが、僕が何か……」
「アァ、そんな大したことじゃないのヨ。リュウスケサンの名字を聞いて、思い当たるところがあってネ」
「私共は以前、ミノリ様にお会いしたことがありマシテ。澤、という名字を聞いてオヤ、となったのですヨ」
とある偶発的な一件以来、グロリアが個人的に親交のある日本人女性の名前をパトリックが出すと、竜介はぽんと手を打った。しばらく行方の知れなかった千葉県の従妹の存在に、ようやく思考が至ったらしい。
「あー、なるほどなるほど! そういえばこないだ、久しぶりに実里ちゃんに会った時に話を聞きましたねー、アータートンさん達のお国の話を。
いやぁあれが実際の出来事だったとは……羽田さんにアータートンさん達の写真を見せてもらうまで、正直半信半疑でしたよ」
「そうなるわよネー、仕方ないワ。話自体も現実味がないでしょうシ……
私達からしてみたラ、日本は存在は知っている国だシ、行こうと思えば行けることも分かっているケレド」
「こちら側はマー大公国はおろか、ドルテという世界自体未知ですからねー……
あっ、どうもありがとうございますー」
新しく運ばれてきたジョッキを受け取りながら、竜介が得心が行った様子で口を開いた。
グロリアの住むマー大公国側は異世界である日本の存在も、そこと行き来する術があることも知っているが、日本側はそうではない。
昨今、人々の間で話題に上るようになってきて、どうやらそんな世界が実際にあるらしいと実しやかに話されるレベルでしか知られていない。
そんな中でグロリアがこうして堂々と街を歩いては店で飲んだくれるというのもびっくりする話だが、竜介や元樹のように、国家権力の側に協力者がいるのは悪い話ではない。
二杯目のビールのジョッキを手に持ちながら、竜介がからりと笑う。
「何やら各国のお偉いさんたちも気にしているみたいで、そんな世界があるらしい、でも自由には行けないらしい、実際に人が来たらどうしようなんてことをツイートしてるの見ましたよ」
「アラやだ、じゃあ私達もパスポート作っておいた方がいいカシラ」
「今度から日本に来る時の荷物の中ニ入れておきましょうカ……大公国の越境証で代用できますカネ?」
「地球デモ、国と国の境ヲ超える時ニハ、相応の書類ガ要るんデスネ……」
そう口々に話しては何やら心配している三人を前に、竜介は苦笑しながらビールを再び口に含んだ。
実際に人が来たらも何も、今こうして目の前に異世界からグロリアたちが来ているわけで。しかも聞いたところによると十年ほど前からちょくちょく訪れていたとか。
全く異質な世界から異質な人々が訪れることを危惧する気持ちもよく分かる。あちらの世界についても、同じことを心配しているだろう。
そんなことを考えながら、竜介は一瞬目を伏せると、ごくんとビールを飲み込んだ。
「さて、料理も来ましたし食べましょう皆さん。心配事はあとで好きなだけすればいいんです、はい」
「それもそうダワ。ともあれ、これからもよろしくネ、リュウスケサン」
「よろしくオ願イシマス」
「主な連絡の窓口は私が承っておりますノデ、何かございましたらお伝えした番号にご連絡くだサイ」
「了解です、今後とも仲良く行きましょう!」
そうしてグロリアが差し出した手を竜介がぐっと握ると。
四人は一斉に箸を手に取り、テーブルの中心に置かれた大根サラダに手を伸ばしたのだった。
グロリア、ヘレナ、パトリックの三人は京浜東北線の鶴見駅の西口駅前に佇んでいた。
どう見ても日本人ではない(グロリアに至っては人間ですらない)三名がただただ何をするでもなく、何を話すでもなく立っているのを、駅の利用者がちらちらと視線を向けては駅の中に入っていき、また駅の外へと出ていく。
何のことはない、三人は現在人待ち中である。
『パトリック、待ち合わせの場所は本当にここでよかったのよね?』
『確かにここでございます、奥様。JR京浜東北線、鶴見駅西口、ニューデイズ前。日時に誤りもございません』
『暑いです、奥様……待ちくたびれました』
鶴見駅の西口、高架の下で日陰になっているとはいえ、今は真夏。暑いものは暑い。
待たされている三人がほんの少しイライラし始めたところで、こちらに小走りで駆けてくる男性の姿が見えてきた。
「やー、すみません皆さん、お待たせしました。アータートンさんのご一行ですよね?」
「そうヨ。貴方がモトキサンから話に聞いていた『リュウスケサン』でいいのヨネ?」
「はいそうです、初めまして。神奈川県警自動車警ら隊所属、澤 竜介です」
そう自己紹介して、半袖の開襟シャツとジーンズに身を包んだ筋肉質の青年は、人のいい笑顔を見せながら小さく頭を下げた。
竜介の自己紹介を受けて、パトリックが小さくグロリアに耳打ちをする。
『奥様、澤サンというお名前から察するに、もしかして……』
『そうそう、彼女に聞いたの。従兄なんだそうよ』
既知の間柄である女性の姿を思い浮かべながら、グロリアがにこりと笑う。話題に上っている当人をすぐに思い出せないヘレナだけがきょとんとしていた。
そしてその反応は竜介の側としても予想外だったようで、目を数度瞬かせている。
が、すぐに気を取り直してさっと手を伸ばした。
「さぁ、暑い中で立ち話もなんですし、お店に行きましょう。具合のいいところを確保してありますから」
「前情報なしデお店に行くノ、久しぶりだワー。楽しみネ」
「あんまり飲み過ぎテ、澤サンを面食らわせてはダメですヨ、奥様」
「奥様、酔っぱらうト見境なくなりますモンネ……」
「大丈夫ヨー、ちゃんとセーブするカラ」
うきうきとした様子で竜介の後についていくグロリアと、そのグロリアの後をついていくパトリックとヘレナ。パトリックとヘレナによる忠言にも、グロリアはどこ吹く風だ。
先を歩く竜介が二人の言葉を聞いて、小さく目を見開きつつ冷や汗を垂らしていたことを、三人は知る由もない。
竜介の案内でお店に入り、四人掛けのテーブル席に座った一行は、手早く飲み物を注文してそれがすぐさまに運ばれてくると。
「ありがとうございますー、さあどうぞ皆さん。アータートンさんとガスコインさんが生で、ウィドーソンさんはハイボール、でしたね」
率先して竜介が三人に、それぞれが注文した飲み物のジョッキを回した。自分から手を伸ばそうとしたグロリアよりも素早く。
一瞬だけ面食らった表情をしたグロリアだったが、目の前に差し出されたジョッキをそのまま受け取る。そうして全員がジョッキを受け取ったことを確認すると、竜介は眩しい笑顔を顔いっぱいに満たして生ビールの入ったジョッキを掲げた。
「それじゃー、私達の新たな出逢いに、乾杯!」
「「「カンパーイ」」」
掲げられて、ぶつかり合うガラスのジョッキ。三人の乾杯の声が若干棒読みだったが、普段はしない日本語での乾杯だ、無理もない。
ジョッキを傾け、一息でぐいぐいと中のビールを飲み込んでいくグロリアの姿を見て、竜介は再び目を大きく見開いた。テーブルにジョッキを戻したグロリアの手の中で、なみなみ注がれていたビールは既に半分を切っている。
「いやぁ、聞きしに勝る酒豪ぶりですね、アータートンさん。羽田さんから話には聞いていましたが、これはすごい」
「それはドウモ。でも美味しいわネー、ここのビール。飲みごたえがあって」
「電車で数駅行ったところにビール工場があるんですよ、キリンの。なのでこの辺はキリンビールを入れているお店が多いですね」
ジョッキに描かれたロゴマークを指さしながら、竜介が説明する。あまりお店で見ることの無いキリンビールのロゴマークに、パトリックは興味津々だ。
「このグッとくる刺激感ト、コクのある味わいハ、なかなか経験のない感覚ですネ。
工場が傍にあるト、やはり鮮度の違いが出てくるものでしょうカ」
「ですねー、輸送時間が長いと、その分だけガスも抜けちゃいますし、振動も出ちゃいますから。こういう輸送の問題は、いくら物流が発達している日本でもなかなか、クリアできない部分ですね」
そう話す竜介が再びジョッキに口をつけてビールを喉に送る。ゴクゴクと喉を鳴らして飲むごとに、大きく嵩を減らしていくビール。彼も彼で、結構な酒飲みなのは明らかだ。
そうしてさっさとジョッキを殆ど空にしてしまった竜介が、メニューのページをめくって一品料理の掲載された部分を指し示す。
「さて、料理どうしましょうか。ここは大体何頼んでも美味しいですけれど、アータートンさん苦手な食材とかあります?」
「ンー、大丈夫ヨ、私は食べ物の好き嫌いをしないカラ」
「ア、すみません、私ハ海藻類やエビが、チョット……」
おずおずと声を上げたのはヘレナだ。少し頬を赤らめながら、恥ずかしそうに申し出る彼女にこくりと頷いて、竜介はメニューに視線を落としていく。
「了解です、それじゃ海藻とイカの入ったやつは外しますね。海外の方で海藻は苦手な方多いですけど、エビが苦手ってのはなかなか珍しいですね?」
「海のない国の出身ですからネ、私達三人トモ。地球ほど物流が発達していないですカラ、国内に海のものハなかなか入ってきまセン」
パトリックの言葉に大きく頷いた竜介が、いくつかの料理を三人に大丈夫かと確認しながら選んでいく。OKが出たことを確認すると、近くを通りがかった店員へと竜介が手を挙げた。
「すみませーん、大根サラダと枝豆、よだれ鶏とだし巻きをお願いします。あと生ビールを!」
「ア、私にも生ビール一ツ」
注文を告げる竜介のあとを追うように言葉を投げて、グロリアが空になったばかりのジョッキを手に持った。
注文を書き留めて一礼して去っていく店員を見送ると、竜介が不意に表情を引き締めてグロリアとパトリックに視線を向けてきた。
「ところでアータートンさんにガスコインさん、お会いした時に何やら僕のことを話していましたが、僕が何か……」
「アァ、そんな大したことじゃないのヨ。リュウスケサンの名字を聞いて、思い当たるところがあってネ」
「私共は以前、ミノリ様にお会いしたことがありマシテ。澤、という名字を聞いてオヤ、となったのですヨ」
とある偶発的な一件以来、グロリアが個人的に親交のある日本人女性の名前をパトリックが出すと、竜介はぽんと手を打った。しばらく行方の知れなかった千葉県の従妹の存在に、ようやく思考が至ったらしい。
「あー、なるほどなるほど! そういえばこないだ、久しぶりに実里ちゃんに会った時に話を聞きましたねー、アータートンさん達のお国の話を。
いやぁあれが実際の出来事だったとは……羽田さんにアータートンさん達の写真を見せてもらうまで、正直半信半疑でしたよ」
「そうなるわよネー、仕方ないワ。話自体も現実味がないでしょうシ……
私達からしてみたラ、日本は存在は知っている国だシ、行こうと思えば行けることも分かっているケレド」
「こちら側はマー大公国はおろか、ドルテという世界自体未知ですからねー……
あっ、どうもありがとうございますー」
新しく運ばれてきたジョッキを受け取りながら、竜介が得心が行った様子で口を開いた。
グロリアの住むマー大公国側は異世界である日本の存在も、そこと行き来する術があることも知っているが、日本側はそうではない。
昨今、人々の間で話題に上るようになってきて、どうやらそんな世界が実際にあるらしいと実しやかに話されるレベルでしか知られていない。
そんな中でグロリアがこうして堂々と街を歩いては店で飲んだくれるというのもびっくりする話だが、竜介や元樹のように、国家権力の側に協力者がいるのは悪い話ではない。
二杯目のビールのジョッキを手に持ちながら、竜介がからりと笑う。
「何やら各国のお偉いさんたちも気にしているみたいで、そんな世界があるらしい、でも自由には行けないらしい、実際に人が来たらどうしようなんてことをツイートしてるの見ましたよ」
「アラやだ、じゃあ私達もパスポート作っておいた方がいいカシラ」
「今度から日本に来る時の荷物の中ニ入れておきましょうカ……大公国の越境証で代用できますカネ?」
「地球デモ、国と国の境ヲ超える時ニハ、相応の書類ガ要るんデスネ……」
そう口々に話しては何やら心配している三人を前に、竜介は苦笑しながらビールを再び口に含んだ。
実際に人が来たらも何も、今こうして目の前に異世界からグロリアたちが来ているわけで。しかも聞いたところによると十年ほど前からちょくちょく訪れていたとか。
全く異質な世界から異質な人々が訪れることを危惧する気持ちもよく分かる。あちらの世界についても、同じことを心配しているだろう。
そんなことを考えながら、竜介は一瞬目を伏せると、ごくんとビールを飲み込んだ。
「さて、料理も来ましたし食べましょう皆さん。心配事はあとで好きなだけすればいいんです、はい」
「それもそうダワ。ともあれ、これからもよろしくネ、リュウスケサン」
「よろしくオ願イシマス」
「主な連絡の窓口は私が承っておりますノデ、何かございましたらお伝えした番号にご連絡くだサイ」
「了解です、今後とも仲良く行きましょう!」
そうしてグロリアが差し出した手を竜介がぐっと握ると。
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