竜の花嫁〜最弱回復術師から世界最強の花嫁への道〜

本編

78

カトレアの国の王子視点

我が国には天使が落ちてきた｡

｢天使様｡お加減はいかがです｣

空に帰ることを望む天使｡…帰したいけれどそれを父様や兄様は許さない｡末端の王子である僕にできることは…せめて窓のある部屋に天使様を置くことだけ。

｢…天使様｡食事を…取られないのですか？｣

天使様には食事がいらなかった？そんなこと過去の文献のどこにも…｡

｢…かえりたい｣
｢ごめんなさい…僕には…どうしようもできなくて…｣

逃亡の手助けをしたいけれど天使様は僕より小さいといえどそのお姿｡外へ出ればすぐにバレて戻され､僕は…天使様の世話係から外されるだろう｡そうなるともう逃亡の機会はなくなってしまう｡

｢…お空へ…帰りたいのですよね｡僕達のわがままで地上にしばりつけて…｣

せめて…せめて天使様が飛ぶことが出来れば｡でも…昨日聞いてしまった｡天使様の翼の怪我はあと数日で治る｡治れば飛び立ってしまうかもしれない｡ならば切り落とせと…そう父様が指示を出しているのを｡

天使様が翼を失ってしまう｡それは二度と故郷へ帰れないことを意味する｡

｢…また…お怪我を…｣

毎日窓のガラスに付着する赤黒い液体｡ボロボロの天使様の指先｡…毎日窓を引っ掻いて…外へ出たいと…声に出さずに訴えておられる｡

｢…今…手当てしますね｣

小さなお手に包帯を巻き赤い傷を隠す｡

｢…どうして｣
｢なんでしょうか？｣
｢どうして…僕を…生かす…の？｣

初めて聞いた長いお言葉｡それが…死を望むものだなんて…｡