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ロミオの純情

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「美雨、用事ってなんだよ?」

 美雨に手を引っ張られるようにして歩かされているコウは、不機嫌そうな顔を隠さずに美雨に問いかける。

「コウが休んでいる時に、僕とコウは校内美化委員に任命されたんだよ。だから、今日は中庭のチェックからするよ」

「ちぇっ。なんでそんな面倒な仕事まわされてんだよ。俺、何にも聞いてないぞ」

「僕だってこんな事やりたくないけど、決まっちゃったものはしょうがないよ。早くやって終わらせよ」

 美雨は内心ヒヤヒヤしながら、コウを中庭に連れ出す。

 これは、全て先輩に頼まれた事だった。


「それで美雨、お願いの事なんだけど」

 空き教室で美雨を抱いた後、先輩は美雨を抱きしめながら、美雨の瞳を覗き込む。

「どんなお願い?」

「一年生の白鳥航くんを呼び出して欲しいんだ」

 先輩の頼みごとであれば、美雨は断れなかった。

「でも、僕に出来るかな……」
 美雨は自信が無さそうに下を向く。

 コウはとても勘が鋭いタイプだ。下手な嘘なんかついたら、すぐに見破られてしまう……

「ねぇ、美雨。このミッションが上手くいったら、春休みに美雨を、蔵王にある『キツネ王国』に連れて行ってあげる」

 先輩は美雨のふっくらと柔らかな頬を優しく撫でる。

「え?!キツネ王国って、もふもふのキツネさん達と沢山触れ合える、あのキツネ王国?!」

 美雨の瞳がキラリと輝く。

「そう。美雨、ずっと行きたいって言ってたでしょ」
「うん!」

 美雨は興奮気味に、コクコクと頷く。

 夢にまで見た、キツネ王国に先輩と一緒に行けるなんて! 

 俄然、やる気が美雨に湧き上がる。

「先輩、僕がんばってこの計画を成功させる!」

 拳をギュッと握りしめて力強く宣言した美雨を見つめて、先輩は嬉しそうに微笑んだ。 


 そんな訳で、不審そうな顔をしているコウを、美雨はなんとか中庭の入り口まで連れてくる。

「で、俺たち何するわけ?」

「ゴミとかが落ちていないか、チェックするだけだよ」

「めんどくせぇな。じゃあ、さっさと終わらせようぜ」

 コウは大股でズンズンと中庭を歩き進む。
 その時、ベンチに見覚えのある人影を見つけて、ハッとする。

「コウ」
 鷹司はコウの姿を見つけると、ベンチから立ち上がる。

「鷹司先輩……」

 今、顔を合わせたくない人物が目の前にいる……
 コウは慌てて踵を返すと、中庭を離れようとするが、その腕をガシッと美雨に掴まれる。

「待って!コウ!」

「離せっ、美雨!」

 コウに言われても、美雨は手に力を込めて離さない。

 夢のもふもふキツネ王国への旅がかかってるんだ!

 コウに振り解かれそうになっても、美雨は必死でコウの腕にしがみつく。

 もふもふキツネ王国効果は抜群だった。いつもの非力な美雨とは思えないほど、体に力がみなぎり、全身でコウを制止し続ける。

「おい美雨!離せって!」

「いやだ!キツネさんに僕は会うんだ!」

「キツネって何の事だよっ!」

 そうこう揉み合っているうちに、コウは鷹司に追いつかれてしまった。

「コウ、話を聞いてくれ」

 鷹司はコウの肩を掴む。

「美雨ちゃん、ありがとう」

 鷹司に言われて、ようやく美雨はコウの腕を離す。

「じゃ、じゃあ、僕はこれで……!」

 そう言って美雨は駆け出し、二人を置いて、そこから逃げるようにして立ち去った。

「おい!美雨!」

 コウも慌てて美雨の後を追おうとするが、体を鷹司に抱き込まれる。

「っ?!」

「コウ、お前に言わないといけない事があるんだ」

「鷹司先輩……」

 コウは逃げ出す事を諦めると、鷹司の腕の中で、やっと大人しくなる。

「コウ、この間はすまなかった……」

「……」

「あの後、社内調査で、うちの社員が小遣い欲しさに、リンベルの新商品や開発品の情報をあちこちに売り渡してた事が分かったんだ」

「じゃあ、俺の疑いは晴れたんですか?」
 コウは戸惑いながらも、ほっと安堵する。

「ああ。確証も無いのに、コウ、お前を疑って本当に申し訳ない。許して欲しい」

 鷹司はそう言うと、一度、コウを腕の中から離し、コウに向かって深々と頭を下げる。

「……。 話は分かりました。鷹司先輩、もう顔を上げて下さい」

 コウの言葉に、鷹司は少し感動する。あんな風に酷くコウを傷つけたのに、俺の事を、こうも簡単に許そうとしてくれるなんて、コウはなんと心が広い男なのだろうか。

「コウ……、本当にすまなか…」

 再び謝りながら、鷹司が顔を上げようとした瞬間、いきなり、コウに胸元を掴まれ、ズダン!とその体をコウに投げ飛ばされる。

「っ…?!」

 不意打ちを喰らった鷹司は、不様に中庭の小道に叩きつけられた。

「っコウ!」

 なんとか受け身を取りながらも、転ぶように倒れた鷹司がコウを見上げると、コウは、鷹司の目の前に跪く。

「鷹司先輩、これでおあいこです」

 そう言って、コウは右手を鷹司に差し出す。

「あぁ…」

 鷹司は差し出されたコウの手を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。

「ったく、お前は本当に気が強いな」

 ポンポンと、服についた土埃を払いながら、鷹司はため息をつく。

「やられたらやり返す、が俺のモットーですから」

 コウはやっと、機嫌が良さそうな笑顔を見せた。

 久しぶりのコウの笑顔を見て、鷹司は何も言えなくなる。

 まぁ、全ての原因は俺にあるしな。

 服についた土を全て払い落とすと、鷹司はコウに
「じゃあ、これから道場に行くぞ」
 と告げる。

「道場?これから?」

「おまえ、ずっと部活を休んでいただろう。遅れを取り戻す為にも、これから稽古をつけてやる」

「でも、俺、退部届を出しました」

「あれは俺が捨てた。今頃、焼却炉の中で燃えてる」

「捨てたって……」

 勝手に退部届を破棄された事に、コウは困惑する。

「ほら、コウ!行くぞ!」

 鷹司はコウの手を取ると、納得がいかないといった顔をしているコウの事などお構いなしに、さっさと歩き出した。




「……っはあ… はあ…… 」

 神聖な道場に艶めかしい息づかいが響く。

 さっきから、畳の上で袴姿の鷹司とコウは、くんずほぐれつと、互いの四肢を絡ませ、体をこすりあわせていた。

 一体、どうしてこんな事になってしまったんだ……?

 鷹司は汗ばむコウの体を押さえつけながらも、自問自答する。

 コウをここに誘ったのも、別に下心があったからでは無く、和解の後に、互いにスポーツで汗を流せば、より親交が深まる。そう考えたからだった。

 なのに、気がつけば、畳の上にコウを押し倒し、倒れたコウの上にのし掛かっていた。

 コウの方も負けずに、すぐに態勢を変えると、今度は鷹司の上になり、鷹司の体を抑え込もうと、体を密着させる。

 その時、鷹司の体に硬いものが当たった。

「おい、コウ。なんでお前の勃ってるんだ」

「別に」

 コウは恥ずかしさを誤魔化すように、少しふてくされた声を出す。

 コウの力が一瞬緩んだ隙に、鷹司はコウの腕を掴むと、体を回転させて、再び、コウの上になる。

 コウの手首をガシッと掴むと、畳に縫い付けるようにして、コウの体をしっかりと押さえ込み、上からコウを見下ろす。

 コウは自分の袴でなく、部室に備え付けの予備の袴を着ていたせいで、その小柄な体型にサイズが合わず、ぶかぶかに開いた胸元から、すずらんのような、甘いコウの香りが漂っていた。


「コウ、これからは、ずっと俺の側にいろ。嫌なら俺から逃げろ」

 鷹司がコウを見つめながらそう言うと、コウはふてくされたような顔をしたまま、鷹司の視線から逃れるように、フイと顔を横に背ける。しかし、体はじっと動かないままだった。

 コウが逃げ出さない事を了承の合図と受け取った鷹司は、コウの薄い唇に自分の唇をそっと重ねる。

「……コウ」

 コウの綺麗に並んだ歯列の隙間から、自分の舌を差し込むと、待ち構えていたかのように、コウの舌が鷹司の舌を撫でる。

「っんん……」

 強く弱くと、コウの舌を吸ってやると、コウの体はビクンと跳ねる。
 鷹司の手はそのまま、下へ下へと降りてゆき、袴の隙間に、スッと手を差し込む。

 探るようにして、蠢いていた鷹司の手が、コウの硬くなった芯を見つけると、ギュッと握りしめた。

「っああっ……!」

 コウの体が仰け反り、鷹司はコウの筒を扱きながら、再びコウの唇にキスを落とす。

「っんん!ああっ」

 快感でコウが身を捩る度に、ぶかぶかの袴の上衣はだんだとはだけて、ピンク色のエロティックな乳首が、こちらを誘うように顔を出す。

 鷹司は思わず美味しそうなコウの小さく尖った赤い先端をパクリと口に含むと、コウの口から啜り泣くような喘ぎ声が漏れた。

「コウ!」

 堪えきれなくなった鷹司は、思わず、コウが身につけている袴を全て剥ぎ取ろと手をかけたところで、外でガヤガヤと人の話し声が響いた。

「あ!」

 鷹司とコウは、ハッとしたように飛び起きると、慌てて自分たちの身なりを整える。

 やがて、外の足音は去って行き、二人は安心したように、ほっとため息を漏らす。
 しかし、ここはいつまた人が来るか分からなかった。

「コウ、週末に俺の部屋に来い。勉強を教えてやる」

 まぁ、勉強以外の事もするんだけど。

 鷹司は下心を隠してコウを誘う。

「勉強ならルームメイトに教えてもらうから大丈夫です」

 鷹司のそんな下心に気がつかないコウは、襟元を直しながらそう答えると、グイッと鷹司に腕をつかまれて、その広い胸の中に再び抱き込まれる。

「これからは、お前の勉強も俺が見てやる。ルームメイトにもそう伝えろ」
「鷹司先輩……」

 鷹司に力強く言われて、コウは、鷹司が自分のルームメイトにライバル心を持っているのだと、やっと気がついた。

 やれやれ。まったく、俺と祐司はそんなんじゃないのに。

 コウがそう呟くと、今度は鷹司がため息をつく。

(恋愛に鈍感なのも、ある意味、罪だよな)

 片思いの相手とルームメイトとして同じ部屋で過ごすのは辛いものがあるだろうと、鷹司はライバルの祐司に、ほんの少しだけ同情を寄せた。
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