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ロミオの純情
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「ありがとうございました」
部活の終わりに、袴姿のコウが他の部員と共に畳に手をついて、部長である鷹司の方を向いてお辞儀をする。
菖蒲のようなコウの姿勢の美しさに、鷹司は思わず笑みを浮かべそうになりながらも、真面目な顔を作り、鷹司も部員たちに向かって、「ありがとうございました」と頭を下げる。
キリッとした顔を上げたコウに、
「コウ、今日は残らなくていいぞ」
と、鷹司がそう言うと、コウは少し残念そうな顔を見せた。
いつまでも個別の特訓でコウを贔屓にする訳にはいかない。
辛い決断だったが、仕方がなかった。
常に部員に対して公平公正でなければいけないと、
部長である鷹司はそう心がけていたからだ。
「おつかれさまでした!」
道場の隣の更衣室で着替えていた部員達が一人、また一人と帰っていき、結局、最後にコウと鷹司が残った。
「俺、今日は鍵当番なんで、最後に帰ります」
コウにそう言われた鷹司は
「じゃあ、俺も残って鍵締めを手伝ってやるよ。二人でやれば早い」
と、返事をすると、コウは嬉しそうな笑顔を見せる。
まるで向日葵のようにまぶしく輝いたコウの顔が、鷹司の心を明るくさせた。
着替え終わった二人は、道場の窓の鍵を全てチェックして、最後にドアの鍵をかける。
すっかり日も落ちた学院の薄暗い中庭を歩く帰り道、二人並んで歩く速度は、なんとなくいつもよりもゆっくりで、口数も少ない。
コウは今、どんな表情をしているのだろうか?
鷹司は、凛と背筋を伸ばして隣を歩く、美しい後輩の横顔を、チラリと盗み見する。
コウは何か考え事をしているかのようで、どこか上の空のように思えた。
「コウ、お前のルームメイトってどんな奴なんだ?」
鷹司が話しかけると、考え事をしていた風なコウはハッとしたように、意識をこちらに向ける。
「真面目でいい奴ですよ。ノーベル化学賞を受賞した美濃博士の孫で、彼も秀才です。俺も時々勉強を教えてもらっています」
「そうか」
鷹司の中で、眼鏡をかけた青白いヒョロヒョロとしたイメージの生徒が思い浮かび、なぜか、ほっと安堵する。
「ちょっと座ろうか」
鷹司がベンチを指差すと、コウは小さく頷く。
二人並んで座ると、鷹司はガサゴソと、いつものように、鞄から菓子箱を1つ取り出し、袋をあけて、中から一口サイズのパイのようなお菓子を1つ、摘まみ上げる。
「コウ」
呼び掛けて、こちらに振り向いたコウの形のよい唇に、鷹司はその菓子をもってゆく。
「?」
一瞬、不思議そうな顔をしたコウは、鷹司の意図を察すると、少しだけ顔を赤らめて、口を開き、雛鳥が餌を待つかのように、鷹司の指先から菓子が運ばれて来るのを待った。
やがて、コウの口の中に甘くて香ばしい菓子が鷹司の長い指によってポンと押し込まれ、コウは唇を閉じる。
コウの舌がチロリと鷹司の指先に当たり、鷹司の下腹部がズクリと疼いたが、鷹司は平静を装って
「味はどうか?」
とコウに尋ねた。
モグモグ…… と口を動かしていたコウは、驚いたように、目を丸くする。
「先輩、これ本当に美味いです!」
「だろう?」
鷹司はニコニコと満面の笑みを浮かべる。
「これ、まだ試作品なんだけど、米粉を使って、特殊な製法でミルフィーユみたいに何層にも焼き上げて、上からチョコをかけてある。米粉だからヘルシーで重くなくてサクッとした食感が出せるんだ」
少し得意げな鷹司の説明に、コウは
「さすが、リンベルですね」
と感嘆の声を上げる。
部活の終わりに、袴姿のコウが他の部員と共に畳に手をついて、部長である鷹司の方を向いてお辞儀をする。
菖蒲のようなコウの姿勢の美しさに、鷹司は思わず笑みを浮かべそうになりながらも、真面目な顔を作り、鷹司も部員たちに向かって、「ありがとうございました」と頭を下げる。
キリッとした顔を上げたコウに、
「コウ、今日は残らなくていいぞ」
と、鷹司がそう言うと、コウは少し残念そうな顔を見せた。
いつまでも個別の特訓でコウを贔屓にする訳にはいかない。
辛い決断だったが、仕方がなかった。
常に部員に対して公平公正でなければいけないと、
部長である鷹司はそう心がけていたからだ。
「おつかれさまでした!」
道場の隣の更衣室で着替えていた部員達が一人、また一人と帰っていき、結局、最後にコウと鷹司が残った。
「俺、今日は鍵当番なんで、最後に帰ります」
コウにそう言われた鷹司は
「じゃあ、俺も残って鍵締めを手伝ってやるよ。二人でやれば早い」
と、返事をすると、コウは嬉しそうな笑顔を見せる。
まるで向日葵のようにまぶしく輝いたコウの顔が、鷹司の心を明るくさせた。
着替え終わった二人は、道場の窓の鍵を全てチェックして、最後にドアの鍵をかける。
すっかり日も落ちた学院の薄暗い中庭を歩く帰り道、二人並んで歩く速度は、なんとなくいつもよりもゆっくりで、口数も少ない。
コウは今、どんな表情をしているのだろうか?
鷹司は、凛と背筋を伸ばして隣を歩く、美しい後輩の横顔を、チラリと盗み見する。
コウは何か考え事をしているかのようで、どこか上の空のように思えた。
「コウ、お前のルームメイトってどんな奴なんだ?」
鷹司が話しかけると、考え事をしていた風なコウはハッとしたように、意識をこちらに向ける。
「真面目でいい奴ですよ。ノーベル化学賞を受賞した美濃博士の孫で、彼も秀才です。俺も時々勉強を教えてもらっています」
「そうか」
鷹司の中で、眼鏡をかけた青白いヒョロヒョロとしたイメージの生徒が思い浮かび、なぜか、ほっと安堵する。
「ちょっと座ろうか」
鷹司がベンチを指差すと、コウは小さく頷く。
二人並んで座ると、鷹司はガサゴソと、いつものように、鞄から菓子箱を1つ取り出し、袋をあけて、中から一口サイズのパイのようなお菓子を1つ、摘まみ上げる。
「コウ」
呼び掛けて、こちらに振り向いたコウの形のよい唇に、鷹司はその菓子をもってゆく。
「?」
一瞬、不思議そうな顔をしたコウは、鷹司の意図を察すると、少しだけ顔を赤らめて、口を開き、雛鳥が餌を待つかのように、鷹司の指先から菓子が運ばれて来るのを待った。
やがて、コウの口の中に甘くて香ばしい菓子が鷹司の長い指によってポンと押し込まれ、コウは唇を閉じる。
コウの舌がチロリと鷹司の指先に当たり、鷹司の下腹部がズクリと疼いたが、鷹司は平静を装って
「味はどうか?」
とコウに尋ねた。
モグモグ…… と口を動かしていたコウは、驚いたように、目を丸くする。
「先輩、これ本当に美味いです!」
「だろう?」
鷹司はニコニコと満面の笑みを浮かべる。
「これ、まだ試作品なんだけど、米粉を使って、特殊な製法でミルフィーユみたいに何層にも焼き上げて、上からチョコをかけてある。米粉だからヘルシーで重くなくてサクッとした食感が出せるんだ」
少し得意げな鷹司の説明に、コウは
「さすが、リンベルですね」
と感嘆の声を上げる。
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