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星影のセレナーデ

エピローグ

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二人で着替えが終わると、先輩はベッドの下から楽器ケースを取り出し、美雨と手をつないで外へと歩き出す。

 小鳥も眠っている真夜中の庭園の中を、音を立てないように、二人は静かに歩いてゆく。先輩は美雨の手を引いて、さらにずんずんと道を歩きすすむと、やがて小高い丘に出た。


 先輩は、少し開けたところに置かれた石のオブジェに美雨を座らせると、楽器ケースからバイオリンを取り出し、満天の星の下で、美雨の為だけの演奏会を始める。

 その音色は、今まで聞いたどんな楽曲よりも美しくて、先輩が紡ぎ出す優しく華やかなメロディーに、美雨はうっとりと夢見心地になった。

 やがて、演奏が終わると、美雨は夢中で拍手を送る。

「こんな素晴らしい曲、初めて聞きました!何という曲ですか?先輩」

「これは僕の祖父が、恋人だった祖母の為に作曲した曲で、曲名は“星空のセレナーデ”。世間には未発表で、普段は家族の前でしか弾かないんだ」

(家族のための特別な曲を、僕のために弾いてくれたんだ……)
 
 美雨は嬉しくて、涙がこぼれそうになる。

 「この曲、本当はもう少し早く美雨に披露する予定だったんだけどね……」

 先輩は少し恥ずかしそうに、髪をかきあげる。

 「先ず、美雨と友人として親しくなって、少しずつ慎重に親密になっていこうと、綿密に計画してたのに、美雨があまりにも可愛いすぎるから……順番が色々と逆になっちゃって、本当にごめん」

 先輩は、まだうっとりとしている美雨の目の前に立ち、真剣な眼差しと、少し緊張した面持ちで跪き、その手を取る。

「美雨、僕の恋人になってくれますか?」

 驚いた美雨は、ポロポロと大粒の涙を流しながらも、頷いて
「はい」
 と返事をする。

 先輩は、にっこりと微笑むと、美雨のサクランボのような赤い唇に、そっと唇を重ねる。

 星空に祝福されながら、二人はいつまでも抱き合って、甘いキスを交わしつづけていた。

             

 『星影のセレナーデ』/終 


  ※次ページから、『ロミオの純情』です
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