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最終日

最後の成仏①

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 ゆらゆらと上がるアロマディフューザーの蒸気を見つめながら、放心状態になっている藤沢。
 そんな藤沢にかける言葉なんて、恵那とリュウには見つからない。ミマが成仏された直後は、重苦しい空気が流れてしまっていた。
 いち早く、白けた空気にさせてしまっていると気がついた藤沢は、我を取り戻したように声を上げる。
 その声はどこか無理をしているみたいな明るさだったけど、その声を聞いて、恵那は藤沢のことを、強い心の持ち主なのだと改めて
尊敬した。

「ごめん、湿っぽくしちゃった! っていうか、リュウ君がミマに聞いてた話って……どういうこと?」

「え? いや……五年前にも、恵那が自殺しようとしたことがあって。恵那が車から轢かれそうになるところを俺が助けようとして、下手したら二人共轢かれてしまいそうなところを、ミマさんに似た女性に助けられたんです」

「……そういうことか」

 暗い顔がガラッと明るくはならないけど、それでも愛する人が成仏してしまった後の顔つきとは思えないほど、藤沢の顔には精悍さがあった。
 恵那は何も言わずに、その凛とした顔を眺めていると、今度は藤沢から恵那に話が飛んでくる。
 リュウの説明から何かを悟ったのか、重要な答えを導き出したように、ハッとした表情に変わっていた。

「マルナ、わかったぞ。マルナとリュウ君が、浮遊霊にしか見えないはずのこの山カフェに、接触できた理由が」

「わ、わかったんですか? 一体どうして……」

「きっと、その時に二人を救ったのはミマだったんだろう。リュウ君、その時助けてくれた女性は、ドレスを着てた?」

「はい。思い返すと、今日と同じ真っ赤なドレスだったと思います」

「やはりな。五年前は、ちょうどミマが自殺した時期と同じ。思念が強すぎる浮遊霊は、稀に人間と接触できることもあるんだ」

「じゃあ、あの時に私たちを救ってくれた浮遊霊は……」

 恵那が聞くと、藤沢は目を閉じて、ゆっくりと頷いた。
 浮遊霊になったミマは、前に恵那とリュウに接触したことがある。
 だから、二人は浮遊霊を引きつける特殊能力が備わったと、藤沢は言いたいらしい。
 その時のミマが赤いドレスを着ていたということは、もうすでに浮遊霊になっていたという証拠だろう。
 ずっと引っかかっていた謎が解決できた安堵感からか、藤沢はニカッとした笑みを見せながら、一筋だけ涙を流してまた話し続けた。
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