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浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ⑪

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 藤沢の表情が、さっきミマと出会った時の、尊さが垣間見えるような複雑な表情にまた変わった。
 ハーブティーの味の感想を聞いた後、藤沢はすぐに向かいの椅子に座り、次の話題に切り替える。
 話したくないけど、話さなければならない……藤沢は顔を引き攣らせながら、苦しそうに恐々と話し出した。

「ミマ……君は、自分の身に何が起きたか、覚えてる?」

「私に? 椋野とデートをしている途中で、はぐれてしまって……それ以降は全く覚えてないけど」

「……そうか。じゃあ、あの晩以降の記憶は、なくなっているのか」

「あの晩? どういうこと?」

 ここに行き着いた浮遊霊は、この山小屋を訪れた時、決まって記憶をなくしている。ミマも例外ではなかった。
 浮遊霊はハーブティーを飲みながら藤沢と会話していく中で、自分の身に何が起きたかを思い出し、受け入れて成仏するのだ。
 つまり、これから行われるやり取りは、成仏させるための会話になるだろう。
 恵那はすぐにそこまで考えつくことができ、同時に藤沢を心配に思った。
 大切な婚約者をこの世から消してしまうなんて、考えただけでも辛いことなのに。
 己と闘うように葛藤している藤沢は、引き攣った表情を崩すことなく、ミマの身に起きた事情を説明していく。

「今から五年前、俺とミマは最後のデートをした。その時も、その真っ赤なドレスを着ていたな」

「五年前? ちょっと待って、何の話をしているの?」

「そのデートを最後に、俺たちは別れなければいけなかったんだ。理由は、ミマのお父様にある」

「私の……パパが?」

「ああ。覚えてないかもしれないけど、ミマは大企業の娘だ。当時の俺は、しがないカフェの店長で、当然のように結婚はさせてもらえなかった」

「……椋野、待って。何か、胸が痛くなってきた」

 胸の辺りを手で擦るミマを案じて、藤沢は話すのを一旦やめた。
 ハーブティーをまた一口飲んで、気持ちを整えるミマ。恵那はその間に、ある話を思い出していた。
 それは……一ノ瀬山の神隠しの話だ。
 街一番の美人と噂されていた社長令嬢が、突然行方不明になったという事件。その社長令嬢が一ノ瀬山から帰ってこなくなったために、街の行方不明者はみんな一ノ瀬山の神隠しにあったと言われていた。
 でも実際は、行方不明になった人は闇サイトにしか記されていない、一ノ瀬山の自殺スポットを目指していただけだったけど。
 その都市伝説の発端である社長令嬢が、藤沢の婚約者であるミマだったみたいだ。
 点と点が線になって、恵那は一人で感動に近いものを覚えていた。
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