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最終日

浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ①

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 巴先輩が成仏した次の日、とりあえずこの山小屋に泊らせてもらうことになったリュウは、茶の間の隅の方に寝かせてもらっていた。
 朝日が昇って、時間がだいぶ経過した朝に、恵那が二階から降りてくる。
 一階では、隅で寝ているリュウを気にしないように、藤沢が朝食を作っていた。

「あれ、マルナ。今日はやけに早いんだな」

「藤沢さん、おはようございます」

「あーあ、目が腫れちゃって。昨日あれだけ泣いたら、当然か」

「巴先輩とお別れをしたんですからね。こうなって当然です」

「ま、そうだよな」

 連日作ってもらっている朝食は、恵那の毎日の楽しみになっていた。
 キッチンの中に入って、今日のメニューは何か確認する。
 鍋の中には、きのこづくしの味噌汁が作られており、あとは鮭とウインナーが焼かれている。
 まるでビジネスホテルの朝食みたいで、一瞬にして恵那の食欲が駆り立てられた。

「うわぁ、美味しそう!」

「バカ、大きい声出すなよ。リュウ君が起きちゃうだろ」

「え、すいません。藤沢さん、優しいんですね」

「当たり前だろ? 大事なお兄さんが、消えちまったんだからな。十分に寝かせてあげたいんだ」

「……確かに」

 藤沢が巴先輩の名前を出したために、恵那は昨日の光景がフラッシュバックされた。
 好きだった人が浮遊霊になって、悲しみと共に成仏していったあの光景は、二度と忘れることがないだろう。
 思い出したことによって元気がなくなった恵那に気づいたのか、藤沢は寄り添うような優しい声色に変えた。

「マルナにも、将来有望な妹がいるんだろ?」

「え? まあ、はい」

「昨日の別れを見ても、まだ比較してしまう自分がいるのか?」

「……巴先輩は私と同じ境遇です。全く同じ理由で、この世に絶望しています。だけど、妹を悲しませることになるなら、死んではいけない気がしてきました」

「じゃあ、比較することはもう止めると?」

「そうですね。リュウを見ていたら、そう思えるようになりました」

「良かった。巴様に教えられたんだな」

 「……はい。あと藤沢さんにも、教えられました」

 感謝の気持ちをそのまま伝えるように満面の笑みで応えると、藤沢は恵那の額を人差し指でツンと小突きながら、ニヤッと一度だけ笑った。
 恵那の心にあった闇が、いつの間にか薄れていって、今は藤沢のことが深く知りたいと思えている。
 生きる希望はきっと何でも良くて、好奇心が働くことによって、大きな答えが見つかるものだと思うようになった。
 今恵那が知りたいのは、藤沢の謎について。
 昨日の夜に、真っ暗な外でリュウと話したように、藤沢には絶対に裏がある。
 昨晩バックヤードで『ミマ』という女性の名前を口にしながら、人知れずに涙していたことが主な手掛かりだけど、直接的にその話は触れられない。
 朝食を食べる準備をしながら、そのことばかりが頭に浮かぶようになっていた。
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