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三日目

悲しき浮遊霊⑥

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「リュウ、巴先輩の話、ちゃんと聞いてみよう。その後に、アロマの匂いを嗅いでもらおうよ」

「恵那……」

「私も信じたくないけど……今はしょうがない。とにかく、巴先輩の言葉を聞いてみたい。だから藤沢さん、お願いします」

 当事者の巴先輩を置いてけぼりにして、藤沢にこの会話の主導権を握ってもらうようにお願いする恵那。
 それに応えるように、藤沢は首を縦に振った。
 魂が抜き取られているのではないかと思ってしまうほど、巴先輩は話を聞いていないようだった。
 きちんと焦点を合わせてもらうように、藤沢が巴先輩の名前をハッキリと呼ぶ。

「巴様、大丈夫ですか?」

「え? あ、すいません……放心状態でした」

「まあ、無理もありません。受け入れ難い現実だと思いますからね」

「店長さん、教えてください。僕の身に、何が起きたんですか?」

「……おそらく巴様は自殺をしたのでしょう。一年前に」

 自殺というワードが耳に入った瞬間、巴先輩は目線が安定しなくなった。
 まさか自分がと言わんばかりに、驚いているみたいだ。
 恵那とリュウはテーブルを囲みながら、藤沢の言葉をずっと聞いている。話に参加するわけでもなく、巴先輩の表情を見ながら、藤沢の言葉に集中していた。

「店長さん、ではこの一年間、私はどこで何をしてたのでしょうか」

「浮遊霊となって、意識のないままこの世界を彷徨っていたのだと思われます。この山カフェに訪れる浮遊霊は皆、光に導かれてここに来たと言っていますが」

「そうですね。僕も光に導かれてここに来ました。でも、全く記憶にないんです。ここに来るまでの記憶が」

「浮遊霊になってすぐに、ここに辿り着く人もいれば、巴様のように一年近く彷徨って、ようやく辿り着く人もいます。未だに辿り着いてない浮遊霊だっているんです。その間の記憶がないのは、当たり前なんですよ」

「そんな仕組みなんですね……でも、どうして僕は自殺なんかしたんだろう」

「巴様……家族のことを思い出してください」

 藤沢が恵那の方を一瞥してから、巴先輩の心に潜む闇に迫っていった。
 恵那から巴先輩のことを聞かされていた分、話の切り口は想定できているのだろう。
 巴先輩は、恵那と同様に家族の中で居場所を見出せなかったから、神経をすり減らしていった。
 その点について触れていきたいはずだけど、この場にはリュウがいる。
 藤沢が恵那の方を一瞬だけ見たのは、この場で話していい内容なのか、確認したかったからかもしれない。
 それを悟った恵那は、藤沢の方を向いて『お願いします』という風な、軽い会釈をした。
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