26 / 97
一日目
アロマの香りで成仏を⑦
しおりを挟む
「じゃあ、その先輩もマルナと同じような境遇にいて、耐えきれなくなって自殺したってことか」
「はい……私と同じで、巴先輩も闇を持った人だったので」
「闇……か」
キッチンから出てきた藤沢は、お盆の上にティーカップを乗せてきた。
透明のティーカップの中には、見覚えのある色をしたハーブティーが湯気を立てている。
ほんのりと紫色を覗かせているあのハーブティーは、紛れもなく最初に恵那が飲んだものと同じだった。
恵那の前に、またしてもラベンダーのハーブティーが置かれた。
「ちょっと熱いから、まだ飲まない方がいいぞ」
「あ、ありがとうございます」
「んで、その大好きな先輩が死んで、生きる希望がなくなったって言いたいのね」
「そんな言い方しなくても」
「そうなんだろ?」
「そ、そうですけど」
素直に認める恵那に、藤沢は茶化すようなニヤケ面を見してくる。
笑いを堪えるように、ニヤついた口元を両手で覆っていた。
何だかおちょくられている気分になった恵那は、「言わなきゃよかった」という、不貞腐れたような声を出した。
少しだけ傷つけたことを察した藤沢は、真面目な顔つきに戻して「わりぃってば」とソフトに謝る。
許すように首を縦に振った恵那は、そのやり取りがバカらしく思えてきたのか、フフッと小さく笑った。
空気が柔らかくなったのを、二人共が実感した瞬間だ。
「……ま、でもさ、その先輩が死んだなんて、まだわからないだろ?」
「え? まあ、確証はないですけど」
「だろ? もしかしたら、今頃違う国で、のほほんと暮らしてるかもしれないぜ」
「そんなことあるんですかね……だって、この街で行方不明になった者は、一ノ瀬山の断崖絶壁から飛び降りた人が多いって、闇サイトにも書いてたし」
「そんなの信用してんのか? まあ、ここが自殺スポットなのは間違ってないけど。でも、俺も長いことここに住んでるけど、そんな若いやつは来たことないと思うんだけどな」
「……藤沢さんがそう言うなら、実はまだ生きているのかもしれないですね」
微かな希望が恵那の中に生まれると、不思議と穏やかな気持ちになれた。
さっきまでは死にたいという欲が、恵那の脳内を占領していたのに、藤沢の言葉でそれが薄れていった。
真実を知る前から、勝手に命を落としていいのだろうか……。
巴先輩がまだあの世に渡っていると確定したわけではないのに、自分だけ死んだとしたら、それは大損だ。
恵那が混乱するかのように呻き声を上げていると、見かねた藤沢が新たな提案をしてくれた。
「しょうがねぇな。じゃあ、しばらくこの小屋に住むか?」
「はい……私と同じで、巴先輩も闇を持った人だったので」
「闇……か」
キッチンから出てきた藤沢は、お盆の上にティーカップを乗せてきた。
透明のティーカップの中には、見覚えのある色をしたハーブティーが湯気を立てている。
ほんのりと紫色を覗かせているあのハーブティーは、紛れもなく最初に恵那が飲んだものと同じだった。
恵那の前に、またしてもラベンダーのハーブティーが置かれた。
「ちょっと熱いから、まだ飲まない方がいいぞ」
「あ、ありがとうございます」
「んで、その大好きな先輩が死んで、生きる希望がなくなったって言いたいのね」
「そんな言い方しなくても」
「そうなんだろ?」
「そ、そうですけど」
素直に認める恵那に、藤沢は茶化すようなニヤケ面を見してくる。
笑いを堪えるように、ニヤついた口元を両手で覆っていた。
何だかおちょくられている気分になった恵那は、「言わなきゃよかった」という、不貞腐れたような声を出した。
少しだけ傷つけたことを察した藤沢は、真面目な顔つきに戻して「わりぃってば」とソフトに謝る。
許すように首を縦に振った恵那は、そのやり取りがバカらしく思えてきたのか、フフッと小さく笑った。
空気が柔らかくなったのを、二人共が実感した瞬間だ。
「……ま、でもさ、その先輩が死んだなんて、まだわからないだろ?」
「え? まあ、確証はないですけど」
「だろ? もしかしたら、今頃違う国で、のほほんと暮らしてるかもしれないぜ」
「そんなことあるんですかね……だって、この街で行方不明になった者は、一ノ瀬山の断崖絶壁から飛び降りた人が多いって、闇サイトにも書いてたし」
「そんなの信用してんのか? まあ、ここが自殺スポットなのは間違ってないけど。でも、俺も長いことここに住んでるけど、そんな若いやつは来たことないと思うんだけどな」
「……藤沢さんがそう言うなら、実はまだ生きているのかもしれないですね」
微かな希望が恵那の中に生まれると、不思議と穏やかな気持ちになれた。
さっきまでは死にたいという欲が、恵那の脳内を占領していたのに、藤沢の言葉でそれが薄れていった。
真実を知る前から、勝手に命を落としていいのだろうか……。
巴先輩がまだあの世に渡っていると確定したわけではないのに、自分だけ死んだとしたら、それは大損だ。
恵那が混乱するかのように呻き声を上げていると、見かねた藤沢が新たな提案をしてくれた。
「しょうがねぇな。じゃあ、しばらくこの小屋に住むか?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる