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一日目

アロマの香りで成仏を⑦

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「じゃあ、その先輩もマルナと同じような境遇にいて、耐えきれなくなって自殺したってことか」

「はい……私と同じで、巴先輩も闇を持った人だったので」

「闇……か」

 キッチンから出てきた藤沢は、お盆の上にティーカップを乗せてきた。
 透明のティーカップの中には、見覚えのある色をしたハーブティーが湯気を立てている。
 ほんのりと紫色を覗かせているあのハーブティーは、紛れもなく最初に恵那が飲んだものと同じだった。
 恵那の前に、またしてもラベンダーのハーブティーが置かれた。

「ちょっと熱いから、まだ飲まない方がいいぞ」

「あ、ありがとうございます」

「んで、その大好きな先輩が死んで、生きる希望がなくなったって言いたいのね」

「そんな言い方しなくても」

「そうなんだろ?」

「そ、そうですけど」

 素直に認める恵那に、藤沢は茶化すようなニヤケ面を見してくる。
 笑いを堪えるように、ニヤついた口元を両手で覆っていた。
 何だかおちょくられている気分になった恵那は、「言わなきゃよかった」という、不貞腐れたような声を出した。
 少しだけ傷つけたことを察した藤沢は、真面目な顔つきに戻して「わりぃってば」とソフトに謝る。
 許すように首を縦に振った恵那は、そのやり取りがバカらしく思えてきたのか、フフッと小さく笑った。
 空気が柔らかくなったのを、二人共が実感した瞬間だ。

「……ま、でもさ、その先輩が死んだなんて、まだわからないだろ?」

「え? まあ、確証はないですけど」

「だろ? もしかしたら、今頃違う国で、のほほんと暮らしてるかもしれないぜ」

「そんなことあるんですかね……だって、この街で行方不明になった者は、一ノ瀬山の断崖絶壁から飛び降りた人が多いって、闇サイトにも書いてたし」

「そんなの信用してんのか? まあ、ここが自殺スポットなのは間違ってないけど。でも、俺も長いことここに住んでるけど、そんな若いやつは来たことないと思うんだけどな」

「……藤沢さんがそう言うなら、実はまだ生きているのかもしれないですね」

 微かな希望が恵那の中に生まれると、不思議と穏やかな気持ちになれた。
 さっきまでは死にたいという欲が、恵那の脳内を占領していたのに、藤沢の言葉でそれが薄れていった。
 真実を知る前から、勝手に命を落としていいのだろうか……。
 巴先輩がまだあの世に渡っていると確定したわけではないのに、自分だけ死んだとしたら、それは大損だ。
 恵那が混乱するかのように呻き声を上げていると、見かねた藤沢が新たな提案をしてくれた。

「しょうがねぇな。じゃあ、しばらくこの小屋に住むか?」
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