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最終章 おふくろの味 ~北海道味噌の石狩風みそ汁~
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「このタイミングでですか? もちろん食べますけど」
鮭や大根、まだ温かさが残る石狩風のみそ汁を、もう一度食べる。
すると、一口食べた時とはまったく違う味がした。
春風の脳内に、人間だった日のことが鮮明に浮かび上がる。
「これは……母が作ってくれた味……」
サリは「そう」と瞬きして答えた。
春風は急に静かになって、目の前にあるみそ汁を懐かしそうな表情をして見つめる。
サリは春風の背景を全て察知したのか、春風の心の隙間を埋めるように言葉を伝えた。
「あなたのお母様が関わってこの店に来た方は、みんなあなたのお母様のみそ汁の味に、深い思い出があったわ」
「……本当ですか?」
「ええ。倉持さん、ミサさん、そしてあなた……みんなの記憶には、お母様が作ったみそ汁があった」
アキも思い返していた。
サリとネトが作ったみそ汁は、全てみんなの記憶にあったみそ汁だった。
それを現実に作って、みんなは斎藤カオルのことを思い出し、涙しながら成仏や死を選んだりした。
斎藤カオルが、みんなの中心に存在していたのだ。
「このみそ汁は……俺が高校生の時に作ってくれたものです。母方の祖母が北海道に住んでいて、送られてきた北海道味噌を使って、このみそ汁を作りました」
「北海道だから、石狩風のみそ汁にしたのね。食材とマッチして、美味しいものね」
「はい。母はとにかく料理が上手でした。母の豚汁なんか、世界で一番美味しいと思っていたし、ミサにもよく振舞っていたんです」
亡き母を思い出し、春風は今にも泣きそうになっていた。
みそ汁の中の食材を全て平らげると、あとは汁だけが残った。
天井を見つめて「ありがとう」とこぼす。それはきっと、春風の母である斎藤カオルと、大切な人だったミサに向けて発した言葉だろう。
曇っていた顔は、その感謝を口にした後に晴れた。
「人間だった時の記憶を取り戻した神は、成仏するんでしたっけ……?」
春風はサリに、明るい声色で聞いた。
サリは「そうね」と辛らつな顔をして返す。春風は「そっか……」と俯いた後に、アキの方を見て一つ言った。
「胡桃、お前に一つだけ言っておかなきゃいけないことがある」
鮭や大根、まだ温かさが残る石狩風のみそ汁を、もう一度食べる。
すると、一口食べた時とはまったく違う味がした。
春風の脳内に、人間だった日のことが鮮明に浮かび上がる。
「これは……母が作ってくれた味……」
サリは「そう」と瞬きして答えた。
春風は急に静かになって、目の前にあるみそ汁を懐かしそうな表情をして見つめる。
サリは春風の背景を全て察知したのか、春風の心の隙間を埋めるように言葉を伝えた。
「あなたのお母様が関わってこの店に来た方は、みんなあなたのお母様のみそ汁の味に、深い思い出があったわ」
「……本当ですか?」
「ええ。倉持さん、ミサさん、そしてあなた……みんなの記憶には、お母様が作ったみそ汁があった」
アキも思い返していた。
サリとネトが作ったみそ汁は、全てみんなの記憶にあったみそ汁だった。
それを現実に作って、みんなは斎藤カオルのことを思い出し、涙しながら成仏や死を選んだりした。
斎藤カオルが、みんなの中心に存在していたのだ。
「このみそ汁は……俺が高校生の時に作ってくれたものです。母方の祖母が北海道に住んでいて、送られてきた北海道味噌を使って、このみそ汁を作りました」
「北海道だから、石狩風のみそ汁にしたのね。食材とマッチして、美味しいものね」
「はい。母はとにかく料理が上手でした。母の豚汁なんか、世界で一番美味しいと思っていたし、ミサにもよく振舞っていたんです」
亡き母を思い出し、春風は今にも泣きそうになっていた。
みそ汁の中の食材を全て平らげると、あとは汁だけが残った。
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サリは「そうね」と辛らつな顔をして返す。春風は「そっか……」と俯いた後に、アキの方を見て一つ言った。
「胡桃、お前に一つだけ言っておかなきゃいけないことがある」
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