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5章 慣れ親しんだ味 ~家庭で食べるワカメと豆腐のみそ汁~

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「この世界で、腰を据えてやっていこうと思えるなんて、みんなすごいわよ……」

 斎藤は急に遠い目をし出した。急激にテンションが下がったのが丸わかりだ。
 ゆっくりと椅子に座り直す。
 ネトは違和感に気づいて、三杯目のビールをテーブルに置きながら「どうした?」と聞いた。

「いや……私ももう、疲れたなってさ」
「……そうだよな。だから、ここに来たんだもんな」

 本日三杯目のビールを喉に流しながら、哀愁を感じさせて話す。二人共、声量が小さくなって話している。
 神様にしか理解できない過酷さや、精神的な負担が、二人の表情から読み取れる気がする。
 アキはまた、黙って話を聞くモードに変えた。

「当然、今日は決めるんだろ?」
「……そうよ。ここじゃないと、選択できないって聞いたから。必死に探して、ようやく来たの」
「ああ。神様同士にも、密かな人気スポットになっているからな。楽になれる場所ってさ」

 アキは二人の会話を、頭の中で整理していた。
 おそらく斎藤が今日決めるというのは、成仏するか神様の仕事を続けるかということ。
 羽根田みたく、楽になりたいという怨念によって、ここに到達する神様もいるのだろう。
 人間も神様も、みなこの店で今後を選択する……そんな店を作った猫神様は、神様からも一目置かれているみたいだ。

「んじゃ、まあ、聞かないとな」

 ネトが話を区切るように切り替えて、真剣な表情を見せた。
 斎藤もわかっているみたいで、「ええ」と返事する。
 斎藤はまだ、人間だった記憶を取り戻したわけではない。取り戻していたら、とっくに成仏しているから。
 ネトは斎藤に、神様になって経験したことや、思ったこと、それを聞き出そうとしているのだ。
 ここに居候させてもらっているこの期間で、アキはネトの話していることが何となく理解できるようになっていた。

「話を聞く前に、飯の続きだな。まだ腹は減っているか?」
「……そうねぇ。もう少し食べたいかも」
「だよな。軽いものばかりだったし」

 ネトは鍋に水を入れて、火をかけた。
 あの水の量……まさしくみそ汁を作る時の量だ。間違いない。
 アキはいよいよ締めに入るのかと、ゲストは斎藤なのにも関わらず身構えてしまった。
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