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2章 出汁なしみそ汁 ~新ジャガと黒コショウソーセージ

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 倉持はネトの言葉を引き金に、過去を思い出してみることにした。
 モヤモヤを紐解くように、自分と向き合ってみる。
 倉持は目を閉じて、これまでの人生を頭の中に映した。

「私は最近……愛する人を失ってしまったんだ」

 倉持はテーブルの一点を見つめながら、覇気を殺すように声を出した。
 力の入った握りこぶしには血管が浮き出ている。
 愛する人を……それは一体、どういうことなのか。
 アキの代わりに、ネトが聞いてくれる。

「奥さんか?」
「……あ、ああ。正確には、内縁の妻って感じかな。事実婚みたいなものさ」
「なんか、ワケありみたいだな」

 倉持はふふっと小さく吹き出して笑った。
 力ない声で「確かに、ワケありだ」と同意する。
 天井に向かって大きく息を吐いてから、続きを話し出してくれた。

「私は、死ぬまで独り身でいるつもりだった。だいぶ昔、婚約していた女性がいたんだが、結婚を前にその子を交通事故で亡くしてね」

 シーンと静まり返る店内に、アキの「嘘……」という儚い声だけが続いた。
 最近の不幸とは別の、昔に起きたものすごい不幸な話から始まる。
 ネトは腕を組んで黙って聞いていた。

「まあ、本当に昔のことだからな。その子のことはもう、踏ん切りがついたんだけど……」
「それ以来、結婚する気にはなれなかったと?」
「あ、ああ、そういうことだ。過去を振り切るために、誘ってくれた女性とはなるべく向き合うようにしたんだけど……やっぱり私には無理みたいで」

 センシティブな話に、アキは息を飲む。
 もし自分に大事な人がいて、結婚前にその人を失ったら、二度と立ち直れない気がする。
 アキは倉持に心の中で同情した。

「だが、月日は流れて……私にも出会いがあった」

 倉持の顔が一瞬だけ朗らかになった。
 ネトもアキも、その瞬間は見逃していない。
 ネトが「それが最近失った愛する人ってやつなのかい」と聞く。

「そうだ。それが私の内縁の妻。名前はカオルと言った」

 泡が消えたぬるめのビールをグイッと飲み込む。
 ネトは「焼酎でいいか」と聞いて、倉持は無言で頷いた。
 倉持はカオルのことを思い出してしんみりしたのか、微かに唇を震えさせて息を荒くさせている。
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