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第三話 遠山蘭子の冬

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 粉雪がしんしんと降り続く十二月。
 東京の街は賑やかだったのに、ここ函館は妙に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
 まあクリスマスが過ぎて、これから年末を迎えようとしているタイミング、しかも平日の夕方前なわけだし、当然と言ったら当然かもしれない。
 私は今日、はるばる東京から飛行機でやって来た。観光というよりは、人生を見直すための旅みたいなものだ。
 今年で四十歳になる。わざわざ函館を選んでやって来たのは、人生の折り返し地点ということもあるし、もう一つ理由もあった。
 その理由は……簡単に言うと、自分への罰を与えに来た、といったところだろう。
 自分への戒めも込めて、この美しい街にやって来た。
 案の定、キンキンに冷えた私の心を包み込んでくれるような、そんな柔らかさを纏っている。
「これが八幡坂ね……よーし」
 振り返ると海、見上げれば広い空。私はそのロケーションに心打たれながら、年齢を言い訳にせず軽やかに坂を駆け上がっていった。
 ちょうど手すりがあったから、滑りやすくなった地面もなんのその。
 早いペースで進んでいく。一、二とどんどん進んでいく両足のおかげで、多少は自己肯定感が上がった。
 ほどなくして坂を上り終え、そこからの景色を堪能することにする。テレビや雑誌で見た通り、やはり美しい。
 東京の雪は煩わしいこと極まりないのに、こっちの雪はどうしてか芸術的にも感じ取れた。
 そこで数分ボーっと景色を眺めて、これまでの人生を振り返っていた。
 私が年甲斐もなく一人旅をしている、そのきっかけとなったこと。あの人のおかげで、私は良くも悪くも行動的になったのだ。
 あの人には、怒りと感謝の気持ちがハーフハーフで存在する。
 今はどちらかと言うと、呆れの感情が強く出ているかもしれない。
 清く綺麗な景色を目に映しながら、反省と後悔を抱いていた。
「そろそろ行こうかしら……」
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