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第五章 桃園の謀

宴の準備

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 旬果は菜鈴の助けを借り、桃色の襦裙に身を包んだ。
「菜鈴。ありがとう」
 鏡を一緒に覗き込んでいる菜鈴が不安そうな顔をしていることに気付いて、旬果は笑いかける。
 はっとした菜鈴は、慌てて俯く。
 旬果は構わずに言う。
「菜鈴。そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫。何も心配することはないわ」
「……はい」
 菜鈴は白鹿殿の管理も仕事の内だから、留守番なのだ。

 菜鈴は上目遣いに見る。
「旬果様、くれぐれも……」
「分かってる。くれぐれも軽はずみなことはしないように、でしょ?」
「守れないくせに」
 そう菜鈴が唇を尖らせる。
 旬果は苦笑する。残念ながら、反論できない。
 確かに後宮に行く時の心得を教えられたくせに騒ぎを起こしてしまった。

 しかし旬果としてあれを悔やむどころか、やらなかった時の方がずっと後悔していただろうと今でも思っている。
 それでも、皇后候補者としては要らぬ問題を起こしてしまったことに対する反省はある。
「ひとまず今日ばかりは安心して良いわよ。だって瑛景がいるんだから」
「まぁ……」
「そんなに魁夷は信用できない?」
「……旬果様のようには信用できません。私からすれば、ただの魁夷ですから」
「でも私は、菜鈴にも私が信用するように泰風を信用して欲しいの。だって二人とも、私の大切な味方なんだから」
「……考えておきます」
「よろしくね」
 菜鈴はそこで初めて、笑顔らしい笑顔を見せてくれた。

 旬果は頼む。
「あ、袋を取ってくれる?」
「はい」
 帝室の係累の象徴、玉鈴の首飾りの入った袋を受け取ると、ぎゅっと握りしめて祈る。
(どうか何事もありませんように……。無事に今日一日、過ごせますように……)

 そうして、私室を出る。
 次の間には、泰風がすでに出立の準備を整えていた。
「それじゃあ、泰風。行きましょうか。――菜鈴、行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」
 菜鈴は深々と頭を下げた。
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