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エピローグ
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景がキッチンに立っていると、外で砂利を踏みしめる音が聞こえた。濡れた手をエプロンで拭きながら小屋から出る。
シルバーのSUVが停まっていた。運転席から涼介が出てくる。両手にはスーパーの袋を提げていた。涼介が景に笑いかける。
「ただいま」
「涼介。おかえり」
家は山の中腹にあった。バブルの頃に、あちらこちらに建てられた別荘の一つだ。所々痛んでいて大きさの割に、安かったものを購入し、二人で修繕をしていて、どうにかこうにか人の住めるようにした。
人目を避けなければならない為に、こういう放置されたかつての別荘地の方が良いのだ。
それに、この別荘の傍には大きな桜の木が植えられていた。それが決め手だった。
この山荘を購入したのが、数週間前のことだ。
週に一度片道二時間くらいかけて都市のスーパーに買い出しに出ていた。
景がその間、料理の準備をする、という感じだ。
数日前に旭邦会に一斉にガサ入れがあり、殺人や売春などの罪で国定を始め、主立った幹部たちはことごとく逮捕されているようだ。
スーパーEも大量に押収され、根絶に向かいつつある。
そう、景たちは旭邦会の情報と引き替えに自由を勝ち得たのだ。
だが相手は公安だ。口では司法取引を認めながら、今頃、景たちの行方を追っているかもしれない。それでも満ち足りた日々だと胸を張って言うことが出来た。
もはや誰も景と涼介を邪魔できないのだから。
食事を終える。この場所で暮らすようになって一日が終わるのが早く感じられるようになった。デッキに出て、日が沈むのを二人で眺めるのが一日の終わりの習慣になっていた。何も言わず肩を寄せ合ってただ一緒にいる。それだけをするためだけに、とても長く険しい遠回りを互いにした。
空が夜の色にゆっくりと染まっていく。
「景」
振り返ると、唇を塞がれた。涼介の香りが優しく染みこんできた。夜の冷ややかさを忘れさせてくれる温もりだった。
「……愛してる」
「先に言うなよ」
涼介が苦笑する。
強く強く抱き合う。十年という空白を埋めて尚あまりある、今の幸せを味わうように。
二人の頭の上には、満天の星空が輝く。
シルバーのSUVが停まっていた。運転席から涼介が出てくる。両手にはスーパーの袋を提げていた。涼介が景に笑いかける。
「ただいま」
「涼介。おかえり」
家は山の中腹にあった。バブルの頃に、あちらこちらに建てられた別荘の一つだ。所々痛んでいて大きさの割に、安かったものを購入し、二人で修繕をしていて、どうにかこうにか人の住めるようにした。
人目を避けなければならない為に、こういう放置されたかつての別荘地の方が良いのだ。
それに、この別荘の傍には大きな桜の木が植えられていた。それが決め手だった。
この山荘を購入したのが、数週間前のことだ。
週に一度片道二時間くらいかけて都市のスーパーに買い出しに出ていた。
景がその間、料理の準備をする、という感じだ。
数日前に旭邦会に一斉にガサ入れがあり、殺人や売春などの罪で国定を始め、主立った幹部たちはことごとく逮捕されているようだ。
スーパーEも大量に押収され、根絶に向かいつつある。
そう、景たちは旭邦会の情報と引き替えに自由を勝ち得たのだ。
だが相手は公安だ。口では司法取引を認めながら、今頃、景たちの行方を追っているかもしれない。それでも満ち足りた日々だと胸を張って言うことが出来た。
もはや誰も景と涼介を邪魔できないのだから。
食事を終える。この場所で暮らすようになって一日が終わるのが早く感じられるようになった。デッキに出て、日が沈むのを二人で眺めるのが一日の終わりの習慣になっていた。何も言わず肩を寄せ合ってただ一緒にいる。それだけをするためだけに、とても長く険しい遠回りを互いにした。
空が夜の色にゆっくりと染まっていく。
「景」
振り返ると、唇を塞がれた。涼介の香りが優しく染みこんできた。夜の冷ややかさを忘れさせてくれる温もりだった。
「……愛してる」
「先に言うなよ」
涼介が苦笑する。
強く強く抱き合う。十年という空白を埋めて尚あまりある、今の幸せを味わうように。
二人の頭の上には、満天の星空が輝く。
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