SPとヤクザ

魚谷

文字の大きさ
上 下
30 / 30

エピローグ

しおりを挟む
 景がキッチンに立っていると、外で砂利を踏みしめる音が聞こえた。濡れた手をエプロンで拭きながら小屋から出る。
 シルバーのSUVが停まっていた。運転席から涼介が出てくる。両手にはスーパーの袋を提げていた。涼介が景に笑いかける。

「ただいま」
「涼介。おかえり」

 家は山の中腹にあった。バブルの頃に、あちらこちらに建てられた別荘の一つだ。所々痛んでいて大きさの割に、安かったものを購入し、二人で修繕をしていて、どうにかこうにか人の住めるようにした。
 人目を避けなければならない為に、こういう放置されたかつての別荘地の方が良いのだ。
 それに、この別荘の傍には大きな桜の木が植えられていた。それが決め手だった。
 この山荘を購入したのが、数週間前のことだ。
 週に一度片道二時間くらいかけて都市のスーパーに買い出しに出ていた。
 景がその間、料理の準備をする、という感じだ。
 数日前に旭邦会に一斉にガサ入れがあり、殺人や売春などの罪で国定を始め、主立った幹部たちはことごとく逮捕されているようだ。
 スーパーEも大量に押収され、根絶に向かいつつある。
 そう、景たちは旭邦会の情報と引き替えに自由を勝ち得たのだ。
 だが相手は公安だ。口では司法取引を認めながら、今頃、景たちの行方を追っているかもしれない。それでも満ち足りた日々だと胸を張って言うことが出来た。
 もはや誰も景と涼介を邪魔できないのだから。
 食事を終える。この場所で暮らすようになって一日が終わるのが早く感じられるようになった。デッキに出て、日が沈むのを二人で眺めるのが一日の終わりの習慣になっていた。何も言わず肩を寄せ合ってただ一緒にいる。それだけをするためだけに、とても長く険しい遠回りを互いにした。
 空が夜の色にゆっくりと染まっていく。

「景」

 振り返ると、唇を塞がれた。涼介の香りが優しく染みこんできた。夜の冷ややかさを忘れさせてくれる温もりだった。

「……愛してる」
「先に言うなよ」

 涼介が苦笑する。
 強く強く抱き合う。十年という空白を埋めて尚あまりある、今の幸せを味わうように。
 二人の頭の上には、満天の星空が輝く。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...