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七月も半ばを迎え、夏休みは目前だった。
途中で中間テストを挟んだ。テスト勉強は、涼介に手伝って貰った。涼介は勉強をしている姿を見たことがなかったのだが、教師よりもずっと分かりやすく教えてくれた。
そのお陰で、どの教科も平均点を越えることが出来、クラスでは上位にいけた。
自分でもこんなに良い結果が出せるとは思えなかっただけにびっくりしてしまう。
廊下に張り出された試験結果では、涼介は学年一位をとっていた。
それに誰もが驚き、囁き合っていた。
景は試験結果を撮影して、涼介へメールで送った。ここ一週間、涼介と話せていない。話したい気持ちは身体から溢れそうなくらい募っているが、わがままは言えない。
テストの二日前に、涼介から「しばらく忙しくなりそうだから、会えなくなりそうだ。今の用事が済んだらすぐに連絡する」そう言われたのだ。
さらにそれから一週間が経った。
教室には夏休みを間近にして浮ついた空気が流れていた。
(涼介と話せたらもっと楽しいんだろうなあ)
貯金とバイト代を合わせ、北海道でも沖縄でも大丈夫な金額はあった。こんなに夏休みを待ち遠しく思うのは久しぶりかもしれない。
※
そして終業式の当日を迎えた。教室で担任のホームルームを終えた頃、校内放送が響き、景は呼び出された。
職員室へ向かうと、生徒指導担当の教員が苦虫をかみつぶしたように、「教員用の駐車場へ行きなさい」と言った。
「ど、どういうことですか?」
「矢ヶ崎が呼んでいる」
「本当ですか!?」
景はいてもたってもいられず、職員用の駐車場へ向かった。
そこには一台の黒塗りの外車が泊まっていた。黒塗りで、他の職員の車とは明らかに重厚感が違う。すると、運転席から出た黒服が後部座席を開ける。そこからはダークスーツに身を包んだ涼介が姿を見せた。
「涼介!」
景は夢中で涼介の胸に飛び込んで抱きついていた。
久しぶりの涼介の感触、においだった。
涼介は何も言わなかったが、抱きしめてくれた腕には力が入る。
どれくらいそうしていただろう。
「景。話がある」
「あ、ごめん! つい……嬉しくって……」
「俺もだ」
涼介は彼ら叱らぬ控え目に笑う。
背中をそっと押されて後部座席に乗り込んだ。革のシートの感触の座り心地に馴れないことや、涼介の放ついつもとは違う気配に落ち着かなかった。車は、街を一望出来る小高い丘へと登っていく。
車を降りる。スーツ姿と学生服姿の二人組はかなり目立ってしまうだろう。
涼介に促され、車から離れる。黒服は等間隔でついてくる。
景は涼介を仰いだ。涼介が口を開く。
「……メールを送ってくれたのに、ぜんぜん返信できなくて、ごめんな」
「涼介。後ろのあの人は?」
「うちの組の人間だ」
「うちの……?」
「俺のオヤジはヤクザだったんだ。まあ普通の勤め人じゃない雰囲気はだしてたけど、まさか……って感じだよ」
「そのオヤジが入院してる。膵臓癌らしい……。激しい痛みでのたうち回っているのを病院へ搬送されて、分かった。その時にはもう手の施しようもなかったみたいだ」
「……涼介のお母さんは?」
「危険を避けるのと、俺の為にオヤジとは別れたらしい。それでもオヤジを嫌いになった訳じゃないなかったから、入院の連絡を受けてすぐに見舞いに行って、それからはずっと看病だ。で、オヤジが俺に会いたいと言ってって言われて……母さんから頼み込まれたから……会ったんだ。そしたらいきなり自分の素性を話し出して、組を継いで欲しいとか言って来たんだ」
「りょ、涼介は何て……言ったの」
涼介の横顔が苦しそうに歪んだ。
「そんなの決められる訳ないだろ。ヤクザだぞ? どこの映画だよって思ったさ」
景は涼介の左手を包み込むように握りしめた。彼は小刻みに震えていたのだ。
涼介の頬がかすかに緩み、握り返してくれた。
「やっぱ、お前、すげえよ。お前と一緒にいると、すごい力をもらえる気がする。お前と会う前はめちゃくちゃ心細かったのに……」
「あげるよ! どれくらいの力だって僕は……」
「なら、俺と逃げてくれ。このままじゃ、ヤクザの親分にされちまう」
「涼介のお母さんに頼んだら。だって涼介のことを考えて、お父さんと別れたんだよね?」
「オヤジは母さんを守る為にもヤクザになれって言ってる。オヤジの対立組織が動き出してて、このままでいるのは危険なんだとさ。普通の生活を送るには、それこそ山奥で人の目を避けなきゃならなくなる……。それだったらヤクザ組織に入った方がよっぽど安全だって。母さんは、ごめんって謝って泣いた。そんなことされたら、何も言えねえよ……」
「そんな……」
「……このままじゃ、俺、ヤクザにされる。涼介。頼む。助けてくれ……」
涼介は辛そうに声を絞り出した。
それは涼介が初めてする頼みだった。いつもは景が何かをお願いして、涼介に頼っていたのだ。
「分かったよ」
「本当か!?」
「うん、涼介の為だもん!」
「……ありがとう。詳しい連絡はまたメールでする」
「分かった」
久しぶりの再会は一時間ほどで終わってしまった。
途中で中間テストを挟んだ。テスト勉強は、涼介に手伝って貰った。涼介は勉強をしている姿を見たことがなかったのだが、教師よりもずっと分かりやすく教えてくれた。
そのお陰で、どの教科も平均点を越えることが出来、クラスでは上位にいけた。
自分でもこんなに良い結果が出せるとは思えなかっただけにびっくりしてしまう。
廊下に張り出された試験結果では、涼介は学年一位をとっていた。
それに誰もが驚き、囁き合っていた。
景は試験結果を撮影して、涼介へメールで送った。ここ一週間、涼介と話せていない。話したい気持ちは身体から溢れそうなくらい募っているが、わがままは言えない。
テストの二日前に、涼介から「しばらく忙しくなりそうだから、会えなくなりそうだ。今の用事が済んだらすぐに連絡する」そう言われたのだ。
さらにそれから一週間が経った。
教室には夏休みを間近にして浮ついた空気が流れていた。
(涼介と話せたらもっと楽しいんだろうなあ)
貯金とバイト代を合わせ、北海道でも沖縄でも大丈夫な金額はあった。こんなに夏休みを待ち遠しく思うのは久しぶりかもしれない。
※
そして終業式の当日を迎えた。教室で担任のホームルームを終えた頃、校内放送が響き、景は呼び出された。
職員室へ向かうと、生徒指導担当の教員が苦虫をかみつぶしたように、「教員用の駐車場へ行きなさい」と言った。
「ど、どういうことですか?」
「矢ヶ崎が呼んでいる」
「本当ですか!?」
景はいてもたってもいられず、職員用の駐車場へ向かった。
そこには一台の黒塗りの外車が泊まっていた。黒塗りで、他の職員の車とは明らかに重厚感が違う。すると、運転席から出た黒服が後部座席を開ける。そこからはダークスーツに身を包んだ涼介が姿を見せた。
「涼介!」
景は夢中で涼介の胸に飛び込んで抱きついていた。
久しぶりの涼介の感触、においだった。
涼介は何も言わなかったが、抱きしめてくれた腕には力が入る。
どれくらいそうしていただろう。
「景。話がある」
「あ、ごめん! つい……嬉しくって……」
「俺もだ」
涼介は彼ら叱らぬ控え目に笑う。
背中をそっと押されて後部座席に乗り込んだ。革のシートの感触の座り心地に馴れないことや、涼介の放ついつもとは違う気配に落ち着かなかった。車は、街を一望出来る小高い丘へと登っていく。
車を降りる。スーツ姿と学生服姿の二人組はかなり目立ってしまうだろう。
涼介に促され、車から離れる。黒服は等間隔でついてくる。
景は涼介を仰いだ。涼介が口を開く。
「……メールを送ってくれたのに、ぜんぜん返信できなくて、ごめんな」
「涼介。後ろのあの人は?」
「うちの組の人間だ」
「うちの……?」
「俺のオヤジはヤクザだったんだ。まあ普通の勤め人じゃない雰囲気はだしてたけど、まさか……って感じだよ」
「そのオヤジが入院してる。膵臓癌らしい……。激しい痛みでのたうち回っているのを病院へ搬送されて、分かった。その時にはもう手の施しようもなかったみたいだ」
「……涼介のお母さんは?」
「危険を避けるのと、俺の為にオヤジとは別れたらしい。それでもオヤジを嫌いになった訳じゃないなかったから、入院の連絡を受けてすぐに見舞いに行って、それからはずっと看病だ。で、オヤジが俺に会いたいと言ってって言われて……母さんから頼み込まれたから……会ったんだ。そしたらいきなり自分の素性を話し出して、組を継いで欲しいとか言って来たんだ」
「りょ、涼介は何て……言ったの」
涼介の横顔が苦しそうに歪んだ。
「そんなの決められる訳ないだろ。ヤクザだぞ? どこの映画だよって思ったさ」
景は涼介の左手を包み込むように握りしめた。彼は小刻みに震えていたのだ。
涼介の頬がかすかに緩み、握り返してくれた。
「やっぱ、お前、すげえよ。お前と一緒にいると、すごい力をもらえる気がする。お前と会う前はめちゃくちゃ心細かったのに……」
「あげるよ! どれくらいの力だって僕は……」
「なら、俺と逃げてくれ。このままじゃ、ヤクザの親分にされちまう」
「涼介のお母さんに頼んだら。だって涼介のことを考えて、お父さんと別れたんだよね?」
「オヤジは母さんを守る為にもヤクザになれって言ってる。オヤジの対立組織が動き出してて、このままでいるのは危険なんだとさ。普通の生活を送るには、それこそ山奥で人の目を避けなきゃならなくなる……。それだったらヤクザ組織に入った方がよっぽど安全だって。母さんは、ごめんって謝って泣いた。そんなことされたら、何も言えねえよ……」
「そんな……」
「……このままじゃ、俺、ヤクザにされる。涼介。頼む。助けてくれ……」
涼介は辛そうに声を絞り出した。
それは涼介が初めてする頼みだった。いつもは景が何かをお願いして、涼介に頼っていたのだ。
「分かったよ」
「本当か!?」
「うん、涼介の為だもん!」
「……ありがとう。詳しい連絡はまたメールでする」
「分かった」
久しぶりの再会は一時間ほどで終わってしまった。
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