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過去②

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 馬車がガタゴトと街道を進む。

 アリッサは母と一緒にそばの街まで買い物をした帰りだった。今日は、ルゥは家で留守番だ。女同士の買い物だから、とルゥには言ったのだ。

 しかしそれは嘘だ。母にはルゥも一緒にと言われていた。

 連れて来なかったのは、母にルゥが魔術師であることを相談したかったからだ。

 母は父のように魔術師に偏見がない。

 来客がどこそこの村で魔術師が出たらしいという話をすると、それ以上の話を聞きたくなくて中座したり、アリッサと二人きりの時に子どもであろうと問答無用に処刑することに対して怒りを口にしたりしていた。

 母ならきっと相談に乗ってくれるだろうし、建設的な意見を聞けると思ったのだ。

『お母様、相談にのって欲しいことがあるんだけど……』

 意を決して、アリッサはルゥのことを話した。

 母はルゥのことに耳を傾け、話し終わるまで口を挟んだりしなかった。

『……どうしたらいいと思う?』
『魔塔と言われる魔術師がたくさん集まっている場所があるわ。そこに連絡するのはどう?』
『魔塔?』
『魔法について教えたりしてるみたい。魔塔は魔術師だけの世界。ルゥ君もきっと、お友達ができるんじゃないかしら』

 もしそんな場所が本当にあるのだとしたら、それはルゥにとって最高の選択肢だ。

 ただ魔塔へ連絡するということは、ルゥと別れるということだ。

 寂しい。せっかくルゥと実の姉弟のように仲良くなれたというのに。

 ――でも、このままうちにいて誰かにルゥが魔術師だって知られてしまったら……。

 考えたくない。それだけはあってはいけない。

 屋敷に戻ったアリッサは、ルゥが喜びそうなお菓子を手に部屋を尋ねた。

『ルゥ君』
『ようやく戻ってきたのか。遅いぞ』

 ルゥは読んでいた本を置くと、ふて腐れたみたいに唇を尖らせた。

 その仕草の愛らしさに、口元が緩んだ。

『これ、お菓子』
『俺は子どもじゃない』

 そう言いいながらちゃっかりお菓子を受け取る姿に、アリッサは笑ってしまう。

『無駄にするのはもったいないから、食べてやるよ』

 ルゥは本当に偉そうだ。将来、きっと大物になる。

 こんなにも他愛ないやりとりができることが嬉しい。

 そう思うと同時に、そんなルゥと別れなければならないことに、胸が締め付けられた。 でもいつまでも一緒にいたいというのはアリッサのわがままで、ルゥのためにはならない。

『ねえ、魔塔って知ってる?』
『しらない』

 ルゥは首を傾げた。

『たくさんの魔術師がいるんだって。ルゥ君の仲間がたくさんいるんだよ』

 その時、ルゥの顔から表情が消えた。

『俺を追い出すのか』
『違うわ。追い出すんじゃない。でも魔塔はここより、もっといい場所だと思うの。ここにいたら、ルゥ君が魔術師だっていつ知られるか分からないんだよ』
『じゃあ、俺、魔法は絶対に使わない。だから、魔塔になんて行かないっ』

 ルゥが見せてくれた綺麗な氷の魔法。あの魔法を使ったときのあの誇らしげな表情を忘れられるわけがない。

『ルゥ君は魔塔に行くべきだよ』
『なんで勝手に決めるんだよ!』
『決めてるわけじゃない。言ったほうがあなたのためだと思って……』
『俺はどこにもいかない!』
『ルゥ君。ま、待って!』

 部屋を飛び出すルゥを、アリッサは慌てて後を追いかけたが、すばしっこい彼にあっという間に撒かれてしまった。
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