愛に触れて

よんど

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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟑

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空を仰ぐ様に腕を広げ、広々とした青を見上げる。黙って聞いていた睦美は屋上のフェンスに凭れかかると、「じゃあ無理矢理扉を開ればいいじゃん」と思いがけない事を言ってくる。えっ、と目を丸くすると、彼は少々イラついた様子で続ける。


「本当に苦しんでる人を見ていると思うんだ。如何して辛いなら辛いって言わないんだって。そうしたら支えてあげられるのに、声を掛けてあげられるのにって」

「む、睦美?」


様子がおかしい…そう思って「大丈…」と手を伸ばしかけた途端、「ストップ」と彼の口が智也の大きな手で塞がれる。突然口を塞がれ、混乱した睦美はバシバシと智也の手を叩き、必死に抵抗する。


「睦美、らしくねーぞ。苦しかったとしても、言えないから苦しんでる人だっているんだ。そこら辺、自分の判断で気持ち押し付けたらダメだ」

「う……」


智也の言い分に押し黙る睦美。そういえば、普段大人しい睦美がこんな風に感情を露わにするのは何気に初めて見るかもしれない。ジッと見ていると「ごめん、琥珀…」と謝られる。


「気にしてないよ。それに睦美の言った事、俺も分かるから。それと智也の言っている事も」

「………」

「言えないから苦しんでる……かぁ。麗二が言い淀んでいるとしたら、どんな理由が足枷になっているのだろう」


僕はどんな麗二を知っても嫌いにならないのに。そりゃあ、実はズボラな所を見た時は驚きはしたけど。同時に、彼を守らなければと昔みたいに思った。


「どんな麗二でも麗二な事に変わりないもん。僕からも、もっと歩み寄ってみるよ」


そう言った僕を見て、頷き、微笑む智也。睦美も困った様に眉を下げ、「頑張れ」と小さく相槌を打ってくれた。そのタイミングで、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。






屋敷のお手伝いさん達に聞いた所、麗二は僕が居ない時も、部屋から一歩たりとも出る様子は無いそうだ。でも、与えられた仕事は黙々とこなし、その日の内に提出するという事を白雪さんから聞いた。それ以外は室内で基本的に眠っているらしい。


「うーん…大きなペットを飼った気分だ」


帰るなり、廊下を歩きながら小さく呟く。実際には僕が飼われている身なのだけれど。長い廊下を歩き、右を曲がったタイミングで、その近くの扉から一人の男が出てくる。僕を見るなり、「おや」と目を細める。


「お帰りになられていましたか。琥珀君」

「瀬名さん。何かお手伝いしましょうか」


ジャケットを脱ぎながら告げると、彼は首を横に振り、手をピッと出して制する。「琥珀君は今は麗二君のお世話係だから良いんだよ」と優しく諭される。やはり、彼のお世話係になってから家内の手伝いは殆ど避けさせられている。


「彼のお世話の方がきっと大変だろうからね」

「まぁ、心情が知れなくて大変といったら大変ですけど、麗二様の側にお仕えさせて頂くなんて光栄な事なので…」


そう言って笑みを零すと、瀬名さんは何やら考える素振りを見せ、ジッと此方を見据える。突然の見透かす様な鋭い視線にビクッとなった僕は、思わず「瀬名さん…?」と問う。ハッとした彼は、「失礼」と目を更に細めると、ズイッと前のめりに顔を近づけてくる。


「あの子が更生出来るかどうかは想像もつきませんが、せいぜい足掻いてみて下さい。私も、彼がどうなるのかは個人的にとても興味がありますので」

(………ん?)
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