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麗憶高原イデラゴエリ、賢者が遺すは虚像の糸編
9.恋人なんだからちょっとくらい
しおりを挟む「そういえばツカサ君、釣り竿とか作ってるの?」
サクサクと草原を進む途中、不意にそう言われて俺は虚を突かれる。
あ……そういえば、どう魚を捕獲するか頭からすっぽ抜けてたな。
普通はこういう時に釣り竿を使うんだろうけど、残念ながら俺は用意していないし、竿を手作りしようにも使えそうな道具が見当たらない。
最悪手で取ろうかとも思ったが、それはちょっと難しそうだよな……。
だとしたら、一体どうしたら良いんだろう。
悩んでいる間に川に到着してしまったが、ブラックは当然ながら俺を解放する気もゼロのようで、俺を抱え込んだまま草の上にどっかと座りこんでしまった。
う……胡坐の上に乗っかったせいで、またケツに変な硬さが……。
「ははーん。さてはツカサ君、魚を獲る方法を考えてなかったな?」
「ぐっ……い、いや、でも、草を編んで魚の籠を作ればなんとか……」
必死に言い訳を考えるが、俺に圧し掛かるように体重をかけ横から顔を出して来たブラックは意にも介さない。っていうか凄くニヤニヤしてやがる。
「籠を編むって、時間かかっちゃうよぉ? どうするか分からないの? ン?」
「ぐううっ」
「あっ、でも言っておくけど【黒曜の使者】の力を使ってデタラメなコトするのは禁止だからね。使ったらお仕置き……いや強引に曜気補給させちゃうから」
「わかりました絶対しません」
怖い事を言うのはやめてくれさい。
というかいつから俺はお前に曜気を供給される側になってたんだよ。逆だろう。
いや、俺がメスの体になっちゃってるせいで、【グリモア】であるブラックと、その……え……えっちしちゃうことで、アレがナニしてブラックの気に染まった曜気が俺の体に入っちゃうらしい……んだけど……。
……う、うう……と、とにかく、そのせいで俺は“曜気過多”になっちゃって、アドニスに薬を貰うくらい大変なことになったんだよ。
だから宣言されたら余計に……な……中に……だされる……っていうか……。
…………~~~~っ、と、ともかく俺が大変な事になるんだよっ!
ああもう誰に怒ってるんだ俺は、でも脳内で思い出すだけでも恥ずかしくなっちゃうんだから仕方ないだろ。そういうのをキッチリ覚えてて、一々確認するみたいに思い出しちゃう自分がヤなんだよ!
くそうう……何にせよ、ブラックに「強引にしちゃう」と言われたら、俺がどんなに逃げようとしても逃げられないに違いない。
冗談だったら俺が無駄に恥ずかしがっただけで済むけど、本気だったらマジで俺が嫌がっても絶対にブラックは有言実行するからな……。
いや、脳内で恥ずかしがる自分も客観的に見てキモいとは思うが、しかしそれよりも俺はブラックの有言実行を阻止したい。
とにかくココは穏便に済ませないと……チートは使わない。絶対にだ。
でも、だったらどうすりゃ良いんだろう。
俺が使える普通の曜術で魚釣りを出来るモノなんてあったかな。
【黒曜の使者】の力を使わないなら、なかなか難しいよな。
木の曜術で出した植物は時間が経過すると消えちゃうし、かといって成長させて竿代わりに出来そうな物も生えてないし。
「はぁ~。ツカサ君ったらホント行き当たりばったりだよねえ」
「う、煩いなあっ。そんだけ言うんなら、アンタは良い方法を思いついてんのかよ!」
さっきからテントどころか三角コーンばりに主張してきやがって。良いから俺のケツを解放してくれ。このままだと暴れるぞ。俺が。
そんな思いを込めて、俺の肩越しに顔を出して来たブラックを睨むが、残念ながら相手は俺の凄みなど全然効いていないのか、相変わらずのニヤついたいやらしい顔をしながら俺を上目遣いで見つめてくる。
なんだか悪戯を企んでいるような目が、何故だか俺の言葉を失わせる。
至近距離で見つめてくるブラックは、無精ヒゲが生えたニヤけ顔なのに……俺ってヤツは、何故かそんな顔に心臓がきゅうっとなって、ドキドキしてきて。
つい言葉がつっかえてしまう俺に、ブラックは目を細めた。
「良い方法? ふふっ、知ってるけど……教えて欲しい?」
「えっ……あ、あるの?」
驚いてブラックの顔を二度見すると、俺を捕えている腕がより深く抱きしめてきた。
背中が広い胸に押し付けられて、逃げ腰で少し浮かしていた腰を強引に触れたくない方向へと落とされる。どこもかしこも密着してしまい、再び尻の谷間にグッと鋭利な出っ張りが押し付けられたのを感じて、俺は思わずビクリと反応してしまった。
だけど、ブラックはそれだけじゃ許してくれなくて、横から伸ばしてきた顔を俺の耳元へと近付けてくる。そうして、わざとらしく喋りかけてきた。
「教えて欲しい?」
「う……も……勿体ぶらずに教えろって……っ」
吐息が、熱い。
涼しいはずの高原で、しかも目の前からはひんやりした川の冷気が流れてきてるはずなのに、妙に体温が上がっていく。
ただ引っ付いてるだけだってのに、なのに……変に意識してしまって、俺を見つめてくるブラックの目が怪しいことに、体がもじもじと動きそうになってしまう。
違うかもしれないのに“そういう雰囲気”なんじゃないかって勝手に思っているのか、さっきまでの動揺以上の居た堪れなさが襲ってきた。
なのに、ブラックは俺を弄ぶように楽しそうに囁いて来て。
「知りたい……? でもなぁ、僕は肉が食べたいし……ツカサ君の手料理なら他の物だって嬉しいから魚料理に魅力なんて感じないからなぁ」
「またそんなことっ……っ、ぅ……い、言って……。色んなもの、食べないと……ダメ、だってば……っ」
ジャンクフード大好きな俺が言えたこっちゃないが、それでも俺だって母さんに栄養が偏らない食事をさせて貰っているという意識はあるのだ。
バランスのいい食事を、と学校で教わってきた日本人はダテではないんだぞ。
好きなのばっか食べたい気持ちは分かるけど、俺はアンタに健康でいて欲しいんだよ。いや殺しても死ななそうな強さなのは知ってるけど、でもアンタは俺より年上のオッサンじゃんか。だから、お……俺の、ためにも、健康でいて欲しい、っていうか……俺の料理で喜ぶなら……作って、美味しく食べて貰いたい、っていうか……。
……だ、だからさ、俺は心配なんだよ!
食べられるときに少しでもバランスよく食べて欲しいんだよっ。
ただでさえ獣人の国では肉やら酒やら果実やらばっかりだったんだから!
「ふふっ……ツカサ君てば、僕の体の事そんなに心配してくれるんだ……? でも、それなら僕は……ツカサ君とセックスするほうが、よっぽど元気になれるんだけどなぁ……。恋人同士的な意味でも、グリモアとしても……ね」
「ひあ゛っ!? やっ、ぁっ、だ、だめっ今触るなってぇ……っ!」
俺を抱え込んでいるブラックの腕が動いて、掌をぴたりと腹部に付けられる。
と、思った刹那、太くて武骨な指がシャツの上から俺のへそをグイグイと押し込み、まるで疑似的な行為のように、指でへそをぐりぐりしたりつつき始めた。
そんな事をされて、体が反応しないワケがない。
苦しさと内臓を押し込まれる感覚なんて、そりゃ誰だって驚くだろう。
なのにブラックは俺が苦しむのを見つめながら、へそを無遠慮に指でほじくり、穴をシャツ越しに指でずんずん突いて来て。
「うぐっ、ぅ゛、ぁっ、だ、だからそれ゛っ、やめっぇ……っ」
「ん~……おへその愛撫が久しぶりになっちゃったせいで、また処女穴に戻っちゃったねツカサ君。また指で念入りに性感帯にしてあげないと……」
「しっ、しなくていいって!」
そんなことされたら、また変なことになりそうだ。
慌てて拒否するけど、ブラックはやめてくれない。それどころか、恨めしそうな声を俺の耳に吹きかけてくる。
「んもうツカサ君たらそんな事ばっかり言って……ちょっとは僕も好き勝手させてよ。ずうううっと大人しくしてあげてたんだから」
「お、大人しくってあんたな……」
「してたじゃない! 獣人どもの大陸じゃ、ツカサ君も大変だから、出来るだけイチャイチャしたいセックスしたいって気持ちを抑えようって頑張ってたでしょ僕!」
そうだったかな。
……いや、うん……確かに、回数としては少なかったかもしれない。
その代わり変態プレイを何度かしたような気もするけど、忘れておこう。
「う……うぅ……アンタなりに抑えてたのはわかるけど……」
「でしょっ!? それにさあ、もう置いて来ていいって言うから、僕は我慢してクソ熊のしたいようにさせてやったんだよ!? そのぶんのご褒美くらいくれたっていーじゃないかあっ!」
「約束した上にご褒美までねだるんかいアンタはっ。……つーか、クロウの……っん、こと、は……事情が事情、だから……仕方ないだろ。それ、に……っ、ぅ゛、んぅっ、ぐっ……アンタ、だって……気にして……っ」
「だってあの時は【グリモア】をクソ熊に継承させるしかなかったんだもん! なのに、あのクソ熊調子に乗ってツカサ君を独り占めしやがって……っ」
「っ、あ゛っ、ぅ、あぁあ……!」
ブラックが耳元で喚いて、俺のへそをぐりぐりと指で押し広げる。
その度に内臓を押し込むような衝撃と、滅多に他人が触れない部分への刺激によって勝手に下腹部が反応する感覚が襲ってきてしまう。
こんなの普通じゃないと思って我慢しようとするのに、ブラックに抱かれているという状況や、ここが外であることが恥ずかしさを強めて、また体が変な誤解をしてるっぽい。
恥ずかしいだけなのに、内臓を押されるみたいで苦しいだけなのに、どうして俺の体は恥ずかしさを快楽と勘違いしちまうんだ。
人間の欠陥という他ないが、それを嘆いたってどうしようもないのだ。
ブラックが、あ……アレの時みたいに、指をへそに挿れて擦ってくる感覚に、慣らされちまった体が反応してるのか、やっぱりお腹の奥がきゅうってなってくる。
熱くなりたくないのに勝手に熱が上がって、こんな変な行為だけしかしてないのに、もう俺の下半身も触られるとヤバい程度には熱を帯びていた。
う、うぅう……本当にもう俺の体ってどうしてこう……。
「ねえツカサ君聞いてるっ!?」
「きっ、聞いてる聞いてるから、もうヘソいじるのやめてっ……」
「やだっ! こうなったらもう、ツカサ君のズボン脱がしちゃうもんね」
「わーっ!! やめろってばおバカ、なんでそんな強引にコトを進めようとするんだよアンタは! や、約束は夜だって言っただろ!?」
なのに今、こんな場所でサカるなんて約束違反だ。
そういって抗議すると……ブラックは分かりやすくショボンとしたような、落ち込んだ事が丸分かりな声を漏らした。
「だって……ツカサ君は僕のだもん……。僕の恋人なのに……」
「ぅ……」
…………た、確かに、そうだけど……。
でも、だからってこんな性急にコトをなそうとしなくたって良いじゃないか。
その……こ、これから、時間は有るんだし……。
二人きりになる時間だってブラックがイヤって言うほどあるし、それに俺は逃げたりしないんだから、ちゃんとした場所でしても……い……いい、し……。
…………。
お、俺だって……アンタと……ぎゅっとしたりしながら、え……えっちするの……は……ヤじゃない、もん。
だから、その……それじゃ、ダメなのか。今じゃないと、我慢できないのか?
――なんて気持ちを、みなまで言うことは出来ないけど。
ブラックに少しでも伝わらないかと、必死で相手の腕に手を絡めてみる。
恥ずかしくて、ずっとどもっちゃいそうで言えないけど。
でも、俺だって指輪を受け取ったくらいには……アンタと、同じ気持ちなんだ。
その行動で、俺が何を言いたいのか察してくれたのか、ブラックは少し落ち着いたように、呼吸を少し浅くする。
けれど体の熱はもうどうしようもないのか、俺のへそを弱く弄るのはやめてくれず、そのまま俺に懐くように頭をこちらの耳にすり寄せて来た。
「恋人セックスしたい……我慢したから、いっぱいツカサ君に触れたいんだよ。僕の恋人だって、婚約者だって、一番感じられるコトがしたい。いっぱいしたい……だからもう我慢できないんだ。……これ以上焦らされたら、僕……泣いちゃうよぉ……」
「っ……」
大人が滅多に聞かせないような情けない声を、ブラックは惜しげもなく漏らす。
本当に泣きそうなくらいの弱々しくて軽く裏返るような言葉に、俺はつい胸が罪悪感で締め付けられてしまう。……ブラックの事だから、大げさに甘えてるかもしれないが、それでも……ブラックは、甘えること自体に嘘はつかない。
いつだって、俺に対する感情は直球で正直だった。
……悲しいのは、本当なんだ。
…………だから、そう、言われたら……もうダメなんて、言えないよ。
本当にズルい。泣いちゃうとか言われたら、頷くしかなくなるじゃないか。
いい大人が泣き落としなんて。
でも……ブラックは本当に泣いちゃうもんな。それくらい、子供みたいにワガママを言うくらい、俺に偽りのない気持ちで甘えてるわけで……。
……その、気持ちは……やっぱり、俺にとっては……――――
「わ……分かったよ……」
「ふわあっ」
ようやく、絞り出すような声を漏らす。
それに被って変な鳴き声を発したブラックに、一瞬で「なんだその声」というツッコミを入れそうになったが、ぐっと堪えて俺は慌てて付け加えた。
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「まっ……はぁあ!?」
おいおいおいちょっと待てよ、今マントで隠すって言ったか!?
まさかコイツ、この場でおっぱじめようってんじゃ……!
「待てブラックっ! まっ……んぅうっ!?」
抗議しようとする俺の顔を掴んで、ブラックは強引に横からキスをしてくる。
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「久しぶりの野外セックスで、いっぱいイチャイチャしようね……」
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→
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