異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
778 / 919
古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編

44.異能の番犬と勇猛な熊1

しおりを挟む
 
 
「うわっ、カッコツケ男がきやがったぞ」
「うへぇ、きどり屋の男がカッコツケやがったぞ」

 俺を抱えてとんでもない事を言ったクロウに、仮面の男達があからさまに嫌そうな声を漏らす。唯一彼らの表情が分かる口も不満げに歪んでいるようだ。

 コイツらのことは憎たらしいが、今だけはその気持ちが少しわかってしまう。
 わかる、わかるぞ。俺だって相手がクロウじゃなけりゃ、何抱きしめとんねんナニを格好つけた台詞言っとんねんこのイケメンオッサンめ。こういうことを言っても絶対に格好つかない俺に当てつけてんのか……みたいな事を思っていただろう。

 というか、俺が第三者なら、抱きしめられて恐らく赤面しているだろう気持ち悪い俺に対しても素直に「どつき回してやりてえ」と思った事だろうな……。

 可愛い女の子ならまだ相手の男を爆発させてやりたい気持ちだけだが、俺みたいな奴がこんな事されてたら嫌な顔もしようってもんだ。
 いや、しない優しい人もいる可能性があるが、俺は俺みたいなのがこんなことされてたら間違いなくどつき回す。なに頬染めてんだこの童貞クソ野郎。

 …………ってそんな事を考えて恥じている場合じゃなかった。

 ともかく、あいつらも自信満々のクロウがやってきて困惑しているみたいだ。

 そりゃそうだろうな。今までの俺達は、アクティーが再び蘇ったことに驚いていたし、ナルラトさんも俺も操られたアクティーに攻撃されて緊張していた。
 もう戦うしかないって思って、追い詰められている気さえしてたんだ。

 そんな風に、誰が見てもこちらが不利な状況のように見えたのに、そんな雰囲気をクロウが一発でぶち壊してくれたんだもんな。
 これぞまさに青天の霹靂ってやつだろう。

 だけど、そう考えるとなんだかちょっと俺も強気になってしまう。
 クロウが来てくれただけなのに、不思議と怖さも不安も感じないなんて……。

「愛するメスの前で格好つけて何が悪い」
「ぐぅっ」

 や、やめろクロウ。俺のすぐ近くでそういう台詞を言うんじゃない。
 ちくしょう、なんでこういう言葉は自分が言われると死ぬほど恥ずかしいんだよ! 漫画やアニメで見ても全然恥ずかしく思わないのに……っ!

「うわ、浮かれた畜生がなんか言ってる。ムカつくから倒してよ黒い犬」
「うえ、畜生が浮かれて戯言を言ってやがる。早くコイツ倒せよ黒い犬」

 あからさまに仮面の男達の言葉使いが粗野になる。
 余裕をはぎ取られた二人は、存外若い話しかたをするみたいだった。……って事は、コイツら二人は、少なくともクロウやブラックより年下なのかな。声は若いと思っていたけど、外見年齢なんてこの世界じゃ分かんないもんな……。

 この状況なら、余裕を失くした仮面の男達を出し抜けるかも知れない。
 でも、その前にクロウにアクティーがヤバいくらい強い事を伝えなくちゃ……。

「く、クロウ。アクティーが操られてるんだ。かなり動きも早くて……」

 ……と、説明しようとした俺にクロウは軽く目線をやって笑みを深めた。

「ああ、分かっている。どうやら相手は全力を無理に引き出されているようだな。だが今のオレなら問題ない。ツカサ、俺の首に腕を回して掴まっていてくれ」
「う……うん……」

 言われるがまま、俺は自力で少しずり上がってクロウの太い首に腕を回した。この格好は恥ずかしいけど、でもクロウがコレで戦えるというなら俺は従うしかない。
 恥ずかしながらも体を安定させると、瞳に異常な光を宿したアクティーが、しっかりとした首をコキコキと鳴らしながら近付いてきた。

 その足を極力開かず歩みを進めてくる姿は、獲物の前で冷静に忍び足をする猟犬のようにも思える。操られていても、アクティーの戦闘能力は確かなのだ。

「まず、手合せ願おう」

 首にしがみ付いた俺を、いとも簡単に背中に回してクロウが姿勢を低くする。
 膝を軽く曲げて守る者が無くなった腕を軽く前に出すと、操られているアクティーに対して「生身で受けて立つ」と宣言するように拳を握って見せる。

 文字通り目を爛々と光らせるアクティーは、その不可解な瞳でクロウの態度を見ていたが――――クロウの言葉に応えるかのように、彼女も四つん這いに近いような低い姿勢になると、黒い爪を伸ばし構えた。

 その姿勢でまるで獲物に狙いを定めた獣のように俺達を睨む相手に、俺はゴクリと緊張の唾を飲み込んだが、クロウは震える事も無くそれを迎え撃った。

 アクティーが、人の姿にもかかわらず唸る。
 操られているからなのか、それともこれが彼女の元々の戦い方なのか。

 どちらにせよ、ただでは済まなそうな権幕だ。
 そう思って俺がクロウの首に回した腕に力を込めたと同時。
 アクティーが、凄まじい勢いでこちらに飛びかかってきた!

「――――ッ!!」

 アクティーの爪がクロウを引き裂こうと腕を振り下ろす。
 が、それを既に感知していたように、クロウは素手でアクティーの腕を弾きもう片方の拳で彼女の腹を撃とうとしていた。

 だが、アクティーもクロウの動きを読んでか体を捻り一旦距離を取る。
 わずか数秒の事だが、既にそれを思い返す暇もない。

 再び跳んで来たアクティーは両腕を別方向から回してクロウに襲い掛かるが、それでもクロウは間一髪で弾きカウンターのように拳を繰り出していた。
 目で追うのが精一杯なくらい、凡人では追い付けない攻防だ。

 飛んで近付き打ち合い一瞬で離れてを繰り返しながら、アクティーとクロウは次第に爪での攻撃から拳の打ち合いに変化していく。
 だが、一度も二人が決定的な致命傷を負うことはない。

 速度を増しながら二人は拳を突き出し、それを受け止め流しながら己が反撃として拳を返すことを繰り返していた。
 既に数十回。しかしそれでも瞬く間な速さだ。
 一度の打ち込みは数十秒だが、何度も何度も戦っていると、見ているだけの俺には数十分も戦っているように思えてくる。

 あまりにも力のこもった打ち合いなのに、決定的なダメージを与えられていない。
 しかも、お互いに一発貰ったら最後、体勢が崩れて無事では済まない事が分かり切っているため、凄まじい緊張感だ。

「グゥウウウ……ッ!!」

 その膠着状態に焦れたのか、アクティーがついに一歩飛び退いて唸る。
 言葉を失っているが、思考は人として策略を立てているようで現在の状況から脱出するためなのか、さらに一歩跳んで後退した。

 それが“逃げ”ではない事は俺にだって分かる。
 アクティーは、俺達を完膚なきまでに倒すために何か新しい攻撃方法を試みようとしているのだ。

「クロウ……っ」
「ああ、何かしてくるな……。いや、これは……」

 アクティーの様子を見て、クロウが何かに気付く。
 どうしたのだろうかと一度表情を窺い、アクティーの方を向くと――――

 彼女の体に存在しないはずの毛皮が、空気をざわつかせたように見えた。
 その、刹那。

「っ!? あ、アクティー!?」

 彼女の体から、爆発音とともに一気に白い煙が噴き出す。
 その意味が分からない俺達ではない。

 相手の体から感じる気配が一気に増大したことに、クロウが前方を見たまま、軽く跳んで数歩その場から退いた。
 それを負うように、白い煙の中からのうなり声が大きくなり、逃げた俺達を見下ろすように高いところから降ってくるようになる。

「……なるほど、見たことの無い“魂守たまもり族”とは、こういう姿の獣なのだな」

 クロウはそう平然と言うが、俺は正直正気を保てているか怪しい。
 だって。

 …………だって、白い煙が薄れていく中から現れた姿は……。

 俺達を見下ろすほど大きな、ドーベルマンにも似た黒くつややかな体を持つ巨大な犬だったのだから。

「グルルルルル……グァアアッ!!」
「来るぞっ、しっかり掴まっていろ!」

 クロウの言葉に思わず目を閉じて思いっきり首にしがみ付いた、瞬間。
 凄まじい破壊音がして、体が宙に浮く。

「っ……!?」

 思わず目を開けると、なんと。

 巨大な黒い犬となったアクティーは、思い切り地面を踏み抜き地面を高い天井へと吹き飛ばしていて。
 俺達は、その瓦礫と共に高く跳び上がっていた。










※ツイックスの宣言通りかなり遅れました…(;´Д`)
 軽く寝落ち…

 ちなみに今ci-enでちょっとしたアンケートしております
 6月1日11時59分までなので
 フォローして下さってる方は、もし良ければ
 投票して下さると嬉しいです~!
 既に投票済みだよ!のかたはありがとうございます!
 (*´ω`*)

 
しおりを挟む
感想 1,009

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...