異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編

  真実の願い4

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「遺骸の発見に手間取りましたね」
「本当に時間が掛かった遺骸の発見でしたよ」

 この、違う事を言っているようでほとんど同じことしか言っていない会話……どこかで聞いた事があるなんてレベルではない。
 声も、その話し方も全部覚えている。こいつらは【教導】と一緒に居た、双子みたいな言動の男達だ。口元以外ローブと仮面で隠れてて分からないけど、入ってきた背格好や口調は紛れもなくアイツらだろう。

 何をしに来たんだと睨んでいると、二人は懐に持っていた布の包みを長方形の石の台に乗せて、その包みを解き始めた。

 長身のブラックが寝転んでも少し余るくらいに大きな、石の台。
 そこに開かれたものは。

「――――ッ……!? ほ……骨……!?」

 そう。仮面の男達が台の上に広げたのは、バラバラになった骨だった。
 もしかしてこれは、とアクティーを振り返ると、彼女は小さく肯定する。

「ああ。私の骨だ。……まあ、見ていてくれ。クゥも」
『うん……』

 己の曲げた腕に座らせているクラウディアちゃんにも、そう言って静観して欲しいと指示するアクティー。
 クラウディアちゃんは、どうやら「見て」は居たけど、その時の意識は曖昧だったからかよく覚えていないようだ。その曖昧な部分を、アクティーが記憶で補っているようだが……どうも、不穏な感じしかしない。

 俺達が口を挟みたくなるような何かが、ここから先に現れるのか。
 仮面の男達を注視していると、男達は躊躇なく骨を正確な位置に並べ始めた。

 ……いや、本当にそうなのかは俺には分からないんだが、ともかく彼らには迷いのような物が一切存在しない。まるで医者か何かのように、然程手間もかからず完璧な状態に復元してしまった。

 妙な二人組だと思ってたけど……コイツら本当に何なんだろう。

 得体のしれない存在に少しゾワリとしたものを感じていると、狭い部屋にまた誰かが入ってきた。こいつもローブ姿で……しかも、稀に見る大男。
 ――――きっと【教導】だ。

 その通り、相手は聞き覚えのある声で、二人を労った。

「ああ、指示通りやったな。ご苦労だった。お前達も随分学習しているらしい」

 どこまでも上から目線の褒め言葉だが、仮面の男達は何とも思っていないのか頭を下げて恭しく礼をして見せた。
 そんな二人の態度に満足したのか、【教導】は台に近付く。

 自然と避けて【教導】が近付きやすいように背後に回った仮面の男達が、背中を俺達の目の前に押し付ける。ここでは良く見えないので、俺達は台の端の狭い空間に移動した。ここからだと、寝かせられているアクティーの骨が足元側から見える。

 …………とても、冷静な気持ちでは見ていられない。

 大人の骨ですら心に重くのしかかるのに、まだ大人にすらなっていない少女の骨がここに在るなんて、直視したくない現実だった。
 ……幽霊の姿を見て、彼女達の末路を知っているから、尚更つらい。

 だが【教導】はそんな感情すら湧いていないのか、アクティーの骨に欠損が無い事を軽く確かめると――なにか、妙なものを取り出した。

「…………?」

 軽く腰を曲げて近くで見ようとしたが、よくわからない。
 パッと見は……なんだか、水色の中に金のマーブル模様が混ざったスライムのような物に見えたんだけど、どういうものなのか判別がつかない。

 だが【教導】は“それ”をどう扱えばいいのか既に知っているのか、仮面の男達に色々な物を用意させた。少しおかしな感じのするものを。

 ――――それは、赤い砂漠の砂と黄色の砂漠の砂。
 それだけでなく、粘土質の岩石と……複数の骨。

 骨で何をするのかと思ったら、やけに大きくて多種多様な骨が複数入った箱を見た【教導】は、それらを矯めつ眇めつし頷きながらニヤリと笑った。
 そして、その骨の箱だけを仮面の男達に再度外へ運ばせていく。

 何をしたいのかと疑問だったが、それをアクティーが答えてくれた。
 実に、苦々しげな声で。

「……アレは……獣人達の骨だ」
「え……」
「……君も見たとは思うが……あの男の悪趣味な“作り物”に使わなかった部位を、私の復活に使ったんだ。…………どうも、私のような死者を復活させるには、あんなに大量の骨や肉が必要になるようだな……」
「っ……」

 思わず、胃から何かがこみ上げそうになって口を押える。
 “作り物”とは……あの【教導】が楽しげに見せつけてきた、色んな獣人の体をツギハギして作った悪趣味極まる“あれ”のことか。

 「強い獣人達」を騙して連れ来た挙句に殺害し、あんな……あんな、遊び半分かのように酷いものを作ったうえに、更に利用しようと言うのか。
 こんなの、普通の人間が出来ることじゃない。

 だけど【教導】達はそんな倫理観など欠片も持ち合わせていないのか、淡々と作業を進めていく。

 ――――骨を並べた所に輪郭を作るようになにやら線を描くと、それに沿って石を刳り貫き、骨を一度台の上から除ける。そしてそこに、粘土と黄色の砂を混ぜたものを詰め込むと、細いヘラのようなもので細かな溝を作り始めた。

 もしかして、血管なのだろうか。
 胸部に存在する大きなくぼみに集まるように描かれた溝に、彼らは赤い砂漠の砂を詰め、骨などを加工して作ったのだろう“にかわ”でコーティングするように骨を砂の上に詰めていく。そして、あの謎のスライムのようなものを心臓の位置に埋めた。

「――――……」

 【教導】が、何かを取り出す。
 札のようなもの……それを、スライムを置いた心臓の部分に張り付けた。

 ……ゴーレムを作る時には、弱点を作るために必ず「真理」という意味の単語を刻んだり、そう描いた何かを埋め込むというが、その類のモノなのだろうか。
 考えていると、教導は何やら唱え始め――――アクティーの骨を上に乗せた砂が、急に深く濃い紫色の光に包まれ始めた。

 これ……もしかしなくても、あの【菫望きんもう】の……――――

『あっ……! 砂が、どんどん包んでく……!』

 クラウディアちゃんの声に応えるように、くぼみに詰められた砂がずるずると動き、で覆われた骨を包んでいく。
 紫の光に包まれながら、更に強く光る札と黄金の光をちらつかせたスライムを飲み込み、砂と粘土で作られた体は……すっかり、白く滑らかな肌に変わっていた。

 ……だが、これでは何も装飾のない、白いだけのヒトガタだ。

 まだアクティーではないその素体に、【教導】は顔を近づけると……彼女の耳元で、何かボソボソと囁いたようだった。
 すると、体が金色の光に淡く包まれ――――姿が、変わっていく。

 黒く豊かな髪と、中性的な凛々しい輪郭。
 肩は筋肉質になって張り、起伏のない顔や体は筋骨隆々な大人の女性の体へと急激に変化していく。獣人としての鋭い爪や牙も、当たり前のように生えてきた。

 そして最後に、短い毛ゆえにつるりとした見た目の黒い尾と、狐に負けないほどにピンと立った長い犬の三角耳が生える。
 もう、今のアクティーの姿とほとんど変わりがない。髪が長い事を除けば、その姿は俺達の隣にいる大人となった彼女そのものだった。

「ほう、なるほど……こうなるんですねえ」

 ……まるで、こんな姿になるなんて思ってもみなかった……って感じの声だ。
 もしかして、コイツらも初めて見る光景だったんだろうか?

 だとしたら【教導】は【菫望きんもう】じゃない……のかな……。

 いや、まあ、そもそもの話、背丈からして全然違うし……声も違うもんな。
 俺が聞いた【菫望】の声は、明らかに若い男の声だったし、体型もブラックよりも細く優男って感じの雰囲気だった。体型はともかく声は変えるのが難しいはずだ。

 正直、紫の光が出た時点で少し疑ってしまったんだが、見当違いだったかな。

 そういえばこの世界には【呪符】っていう特殊アイテムもあったんだし……こんな風な【曜具ようぐ】をあの性格が悪そうな男が作っていても不思議じゃないか。
 でも……人を蘇らせることが出来る道具が存在するとしたら……。

「ツカサ、見てくれ」
「あっ……え……ど、どうした?」

 また深く考え込もうとしていた俺に、アクティーが呼びかける。
 すると、記憶の中の彼女は【教導】の呼びかけに応えて目を開けた。

「君の望みは、なにかな?」

 【教導】が、笑みを含んだ声で呼びかける。
 目覚めたばかりのアクティーは、全裸のままでぼうっとしている。だが、数秒してようやく呼びかけに気が付いたのか、呼びかけた主に目を向けた。
 そんな彼女に【教導】は再度問う。

「君が蘇ったのは……強い願いが、憎しみが、悲しみが在ったからだ。その感情を、我々が鎮めてあげよう。……さあ、何が望みかな。君は、何を思いながら無残な姿で死んでいったんだい?」

 胸糞悪い、心底楽しそうな声。
 だがアクティーは虚ろで夢うつつな目つきのまま、ボソボソと何か呟いた。

 俺達には、聞こえない。
 だが耳を澄ませていた【教導】には聞こえていたのか、その言葉を聞いてフッと嘲るように笑った。……まるで、くだらないとでも言うように。

「おやおやおやおや、これは困った願いですね。貴方は今から“混沌の使徒”として、この獣臭い大陸を掻き回す役目なんですよ? そんなささやかな願いでは、我々が貴方を蘇らせた意味がない」
「…………」

 目覚めたばかりのアクティーが、ゆっくりと起き上がる。
 まだ意識が定まっていないみたいだけど、でも【教導】に言われたことに反論しようとしてなのか、少し眉根を寄せて口を開こうとしていた。

 けれど、その口を動かす前に――――【教導】の大きすぎる手が、アクティーの顔を覆うように掴んできた。

「土人形が一人前に口答えですか? なっていませんね。貴方達の世界にも、こんな言葉はあるでしょう? ――――知恵無きもの、弱きものは、強きものに従え。と」
「う゛……ぅう゛……」
「貴方は“使役者”の私に逆らう事は出来ません。ゴーレムとして体を造り上げられたことを知り、己が束縛された魂であることを知りなさい。その上で、ある程度の願いを、叶えてあげようと言うのですよ? 分をわきまえてほしいものですね。家畜としての」

 その言葉に、我慢するように噛み合わせた歯がギシッと音を立てる。
 人の命を勝手に弄んで、蘇らせて、挙句の果てに使役者とのたまう。そんなヤツが何をもってアクティーを「家畜」だなんて罵倒するのか。

 俺がその場に居たのなら、同じような低レベルな罵倒をしていたかもしれない。
 けど、今となってはもう全てが遅い。

 アクティーの心を守ってくれるような存在が、その場に出てくることは無かった。

「あ゛……く、らう゛……で、ぁ……」
「ええ、ええ。貴方は、不運な死を遂げた。貴方の記憶は真実でしょう。ですが……それだけでは、足りないんですよ。ですから……」
「あ゛……ッ!!」

 顔を覆うように掴んだ手の隙間から、鎖状の紫の光がいくつも湧き出てくる。
 それはアクティーの体を包み始め、そして逃さないように拘束した。
 裸のままの彼女の肌に、ぎりぎりと鎖が食い込んでいく。

「貴方の願いに、混沌の神の加護を授けましょう。……ああ、心配しなくても、きちんと“本来の願い”が成就するように取り計らってあげますよ。ただ……それを成すのは――――この大陸を更なる混沌に落としてからですがね」
「あ゛ぁあああ゛あ゛……!!」

 鎖が、頭にもぐるぐると巻きついて顔が見えなくなる。
 だが全てを覆った途端に鎖は消えて、アクティーは唐突に自由になった。

 ……でも、それで終わったわけではない。
 薄らと紫の光を纏ったアクティーは、顔を上げることでその光を体に吸収して……先程とは違う、無表情ながらしっかりとした表情に変化していた。

 ――それは、意識がハッキリしたのか……それとも、抗えなかったのか。

 どちらにしても【教導】は満足したのか、再度アクティーに問うてきた。

「それで、貴方の願いは何でしたかね?」

 その問いかけに、アクティーは数秒置くと静かに答えた。


「わ、たし……の…………いや……おれ、の、願いは……
 ……あいする、もの……達を……殺した……国を……滅ぼす、こと……」


 ぎこちなく、堅い言葉。
 今目覚めたからというだけではない……どこか違和感のある宣言。

 だがそれこそが望みだとでも言うかのように【教導】はニヤリと笑った。

「なるほど、そう来ましたか。……ふふっ……はははっ……! これはいい、実に良い“混沌”の引き起こし方だ!! それでこそ古代の戦士の蘇りですよ!」

 上機嫌で笑う【教導】と、その背後でニヤニヤと笑う仮面の男達。
 だがそんな彼らを見ても、アクティーは微動だにしない。ただ“捻じ曲がった願い”を言わされて、その場に留まっているだけだった。

「…………きょう、どう。作戦を練る……」
「ああ、そうそう。そうでしたね。では早速やりましょうか。しかしまず、貴方には【戦う力】を与えなければなりません。そのために、では無く貴方を蘇らせたのですからね。……なに、あの“本”は誰でも読めるそうですから心配いりませんよ」

 恭しく手を差し出す【教導】に、アクティーは黙ってその手に己の手を乗せる。
 そうして立ち上がった彼女はこの部屋から出て行った。

 ……後には、もう、誰もいない。

 奇妙なくぼみが残った石の台と俺達を残したまま、部屋は再び無音になった。

『……これが……アクティーが今の体になった理由……なの……?』

 いつの間にか、クラウディアちゃんは泣いている。
 そんな彼女の目の縁を指で優しく撫でながら、アクティーは肯定した。

「うん。……私は最初……誰にも侮られることの無い、強い体を……いや、大人の男が相手でも負けることの無い体を欲しがっていたんだと思う。……クゥを、自分の親のように慕っていた陛下とお妃様を守れなかった自分を恥じて、願いが叶うのなら、こんな体になりたいって……そう望んでいたんだろう」

 どこか他人事のような言葉は、彼女自身「本当にそうなのか」と自問自答しているからだろう。……だって、アクティーは本当の願いを捻じ曲げられているんだ。
 だからこそ、俺に「本当の望みを教えてほしい」と言ってきた。

 ……目覚めて「形」を取り戻してしまえば、また操られると分かっていたから。

『アクティー……』
「だから、今の体に関しては不満は無いよ。……クゥのことを、本当の騎士みたいに抱っこしてあげることも出来たしね。……でも私は……あの男のせいで、本当は何を願って蘇ったのか忘れてしまった」
「それを、現実の君に教えればいいんだよな? でも……そうしたら、その後の君はどうなるんだ……?」

 元に戻ったとして、どうするのだろう。
 いくつか未来が思い浮かぶけど、でもあまり明るい未来が見えない。

 それどころか、どんどん“あの人”の姿がアクティーに重なって行ってしまう。

 ――――……リメイン……。

 アクティーと同じ【アルスノートリア】であり、蘇った存在だった人。
 あの人も、耳を塞ぎたくなるような酷い過去と現在を知って、憎しみと恨みに感情を塗りつぶされてしまった悲しい人だった。

 やってしまった事は許されない事だったけど、でも、残酷な未来を知る事も無く静かに眠っていた人を起こして操る行為が許されるわけじゃない。
 アクティーだって、それは同じだ。

 彼女も【教導】に心を弄られて、本当の願いを見失ってしまった。

 リメインと同じように、自分を封じられてしまっているんだろう。
 ……くそ……。
 なんで、こんな……むごいことを……。

「……ツカサ。君はデジレ……いや、リメインのことを、悼んでくれているんだな。……彼はきっと、その事を喜んでいるだろう。私からも、感謝をさせてくれ」
「え……」

 顔を上げると、アクティーは悲しそうに微笑んでいる。
 だけどその表情は悲哀と言うよりも、切ないような不思議な表情だった。

「私は……いや、私だからこそかもしれないが……同じような境遇だった私には、彼の苦しみや境遇が理解できた。……けれど、私はこんな状態で……同情する気持ちがあっても、彼を励ますことも出来ず歯痒い思いをしていたよ」
「アクティー……」
「……だから、君には改めてお礼を言いたいんだ。……ありがとう。私達のように、心が捻じ曲がってしまった死者に……もう、悼む生者すらいない私達に対して、心からの祈りを捧げてくれて」
「そんな……そんなの、当たり前じゃないか……」

 触れ合った人の死を悲しむのは、誰にだってある感情だろう。
 俺が特別なんじゃない。きっと、リメインもアクティーも、出会う人がもっと多ければ、あんな奴らばかりの場所に縛られていなければ、絶対にたくさんの人が冥福を祈り【教導】のようなヤツを恨んだはずだ。

 例え相手が酷い事をしたヤツだって、触れ合った時の感情を無にはできない。
 断罪するべきだとしても、心の中では「最期には後悔していたアンタ達」に対して、幾許かの黙祷をしただろう。

 人間ってのは、どうしようもない感情ばっかりの生き物なんだよ。
 恨んだって憎んだって、どうしても好きだった時の思いを捨てきれない。

 決別したって、憎い相手になってしまったって、ふと思い出してしまう。
 だから、俺だって……。

「……ツカサ。こんなことを君に頼むのは……間違っているのかもしれない。だけど、どうか……私達を、救ってほしい。私が本当に誰かを殺めてしまう前に、どうか……私の願いを告げ、私を……殺し、解放してくれ」
「っ……!」

 喉が、痛みで詰まる。
 ……分かっていた。そうしなければいけない事は、知っていた。

 だけど、彼女の口から……クラウディアちゃんと仲睦まじく寄り添っている、のアクティーからそう言われるのは、つらい。
 俺の方が泣き叫んで拒否してしまいそうになる。

 でも。
 ……でも、そうしなければ……永遠に、彼女は救われない。

 クラウディアちゃんも、安心して大地に還ることが出来ないんだ。

「………………わかった」

 幻想の中なのに顔を腕で拭って、出てもいない涙を振り切る。
 けれどそうすると己の心が落ち着いて、俺は息を思い切り吸い込むと――――目の前の二人が不安にならないように、精一杯男らしい真剣な顔を向けた。

 彼女達の願いを解き、今度こそ安心して眠りにつかせると誓うように。

 ――そんな俺に、アクティーとクラウディアちゃんは微笑んだ。

『ありがとう、おにいちゃん。……わたしも、最後まで手伝うからね』
「太陽国アルカドビアの最後の民として、感謝する。……ありがとう、ツカサ」

 アクティーが、手を差し出す。
 クラウディアちゃんを乗せている手とは違う、もう片方の手。

 俺はその手を握り返して、ゆっくりと頷いて見せた。

「必ず……いや、絶対に、君を解放するよ。アクティー」

 俺よりも大きくて、分厚い皮が張りカサついた戦士の手。
 彼女がかつて願った雄々しい戦士の姿を真っ直ぐに見てもう一度誓うと、目の前の笑顔が白い光に薄れていく。

 ああ、もう現実に戻る時間なのか。
 そのことを名残惜しく思いつつも、俺は気合を入れるように拳を握った。


 ――――絶対に、現実の君を捕まえて解放してみせる。


 【教導】の思い通りにはさせない。
 ギリギリのところで必死に踏み留まっていたアクティーを、操られていてもなお誰かを殺さないようにしていた彼女を、大罪人になんてさせるものか。

 俺一人じゃ出来ないかも知れないけど、俺は一人じゃない。
 敵だったの死を悼む事を許してくれる、仲間たちが居る。

 だから、何も恐れる事などなかった。











※たっぷり遅れました…(;´Д`)すみません…

 
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