異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編

20.畑に植えるのはなんの種?

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 何かのお役に立ちたいが、しかしこれといって思いつくものが無い。

 ……というワケで、俺は当初の目的通り作物を作るべく畑へ来ていた。

「にしても……部屋ひとつ丸ごと潰すってのは、豪快と言うか何と言うか……」

 改めて見ると……ホントに突貫工事って感じの畑だな……。
 なにせ、俺達が泊まっている部屋と同じくらい広い部屋をぶち抜いて、強引に畑の部屋にしているのだ。こんなの、とてもじゃないが普通は思いつかないぞ。

 しかもこれって、つい先日の思いつきで作られて土も運ばれた畑なんだぜ。
 こんなの、思いついたって実行しないだろうに……。

「この世界の獣人族って理性的だと思ってたんだけど、やろうと思ったらムリヤリにでも実現させちゃう強引さがあるんだな……」

 おかげで、俺達が通された客室の隣は青空天井で風通しのいい空間だ。

 王宮の中の豪華なお部屋を一つ潰して、また作り直すとなったら……どれくらいのお値段がかかるのか、考えただけで頭が痛くなる。
 けど、ドービエル爺ちゃんが承認したってんなら、すぐ戻せる算段があるんだろうなぁ……そういうところはさすが王族というか何と言うか……。

「やれると思ったらやっちゃう性格って、クロウとカウルノスだけじゃなくて王族全体がそうなんだろうか……」

 いや、もしかすると獣人は大体そうなのかもしれない。
 ……この世界の人は自分の欲望や感情に素直って前提は重々承知してるつもりだったが、ソレが人族以外になるとこんなに強くなるとは。
 やはり獣人っていうのは大体どこもアグレッシブな存在なんだろうな……。

「まあ、考えてても仕方ないか。とりあえず……貰った種を植えてみようかな?」

 ブラックは隣の客室で作業の真っ最中だし、クロウは調査に行ってしまった。
 なので、ここには俺しかいない。

 本当なら、クロウと一緒に土の曜気を満たしてから作業を行うつもりだったんだが、まあこんな事態じゃ仕方なかろう。……というわけで、今回は単騎で頑張らねば。

 幸い、植える種は事前に貰っているし、ここは入口以外は壁に囲まれていて【黒曜の使者】を使っても問題無さそうだ。
 クロウに隠れ蓑になってもらい俺が曜気を注ぐ計画だったが、これなら一人でも気を注げるだろう。誰も来ないうちに、俺が土の曜気を土に注いでおこう。

 そう思って、俺は入口から入念に周囲を確認した。

「……誰もいない……よな。うん」

 廊下や中庭の向こう側の廊下が無人なのを確認して、俺は膝を折る。
 そうして、俺はじっと土を見つめた。

「…………うーん……やっぱり、土の具合はよくないみたいだ……」

 土の中にきちんと曜気や“大地の気”が含まれていれば、俺が曜気を含ませる必要もなかったんだが……キチンと“視て”みると、どうやらこの土も曜気が極端に少ないように見受けられた。

 ――何度もやっていたから、この集中して曜気を視るワザだけは自信がある。

 なので、これは間違いないと思うんだけど……この土は、一体どこから持って来たんだろう。一見するとふかふかした良い土なのに、実際は植物を育てる力が枯れているなんて……ベーマス大陸は、本当に作物が育てにくい所なんだな。

 肝心な土がこれじゃあ、誰だってお手上げだ。
 クロウの母親であるスーリアさんが、わざわざ古代の装置を持ってきて植物を育てていた理由が分かるってもんだよ。

「王都の土って、みんなこんな感じなのかな……もしそうだとしたら、育てるって計画自体進まなさそう……」

 俺達がずっと滞在して曜気を注ぐわけにもいかないし……やっぱり戦を早く終わらせて、あの【黒い犬のクラウディア】と【教導】達を退けないといけないようだ。
 流通さえ回復させれば、畑を作らなくてもすむからな!

 ……いや、まあ、長期的に見たら農耕出来た方が良いと思うけど、それはマトモな人族の技術者みたいな人と、着実に進めた方が良いと思うし……。
 ともかく、チートに頼ってばかりじゃ国が立ち行かないだろう。

 俺が作物を育てられるほどの畑を作るのは、一時しのぎだ。
 でも、戦が終わるまでは俺が一肌脱ぐしかないか。

 ともかく曜気を満たそうと思い、俺は再び土をじっと見つめた。すると。

「あれ……ちょっと土の曜気が流れてきてる……? あ、そっか、王宮はオアシスのお蔭で中庭とかに植物がいっぱい生えてるんだっけ」

 土の曜気は常に流動していて、人が故意に塞き止めないと留まらないので、この曜気はきっと庭園から流れてきたんだろう。
 きっと庭の土は良い土に違いない。でも、今更掘り起こせないからなぁ。

 やはり、この痩せた土だけでやるしかない。
 微かに流れてきても、それだけでは足りない。作物を育てるには、もっと曜気と“大地の気”が要る。

「よーし……いっちょやったるか!」

 腕まくりをして、俺は勢いよく両手を土の地面につけた。
 そして――――深呼吸をすると、まずは“大地の気”を注ぎ始める。

「…………っ」

 金色の綺麗な光が、畑に広がり包み込むようにイメージする。
 人族の大陸では当たり前のようにみられる、あの夜の綺麗な光。まるで輝く雪が空へ登って行くような幻想的な光景を思い出しつつ、掌から力を放出する。

 あの独特な、何かが流れ出ていくような喪失感。
 そんな感覚と共に、俺の目の前に広がる土の床には、金色の光の粒子が立ち昇り始めていた。……久しぶりにやったけど、どうやら腕は衰えていないようだな。

 ホッとしつつ、次は土の曜気を注ぐ。
 これも同じ要領で、しかしちょっと少なめに。

 もしかしたら、王族には土の曜気が見える人が他に居るかもしれないもんな。
 俺が全部やったと知れたら変な疑いをもたれそうなので、あくまでもオアシスの庭から流れてきたように見せよう。

「このくらい……かな。植物が吸える程度の曜気さえあれば大丈夫だろう」

 俺の世界と違って、この世界の植物は土の曜気や大地の気を吸って、自分の木の曜気に変換している……らしい。
 そうブラックやカーデ師匠は言っていたので、まずは様子見だ。

 都度都度“気”を視て、足りなければ足せばいい。

 ……なんかザツな煮物の味付け方みたいになっちゃってるが、まあ大丈夫だろう。砂漠の植物なら、打たれ強いと思うし。

「さて、いよいよ種を植えてみるか。えーと……このサフラジと、シャルボは砂地でも育つ可能性があるんだっけ……」

 サフラジは米粒の形に似た小さな種だが、食糧庫で見た野菜は黒色の桜島大根みたいな物だった。食べてみると、辛さ控えめのみずみずしい大根だったので、これは汁物に良いだろう。煮物も味がしみそうだ。
 ともかく、砂漠のダイコンなら植えて損はない作物に違いない。

 黒くても、大根と考えるとなんか上手そうに見えてくるから不思議だ。

「シャルボは……花のない菜の花みたいなのなんだよな」

 葉っぱがキャベツっぽくてデカいが、おおむね花が無い菜の花って感じで、生食だと辛子っぽい刺激があったな。獣人は肉の付け合せに少しだけ刻んだりするとか。
 熱するとピリっとした感じが弱くなって、肉に良いアクセントになるらしい。

 正直肉が無ければ意味がないのではと思ったけど、葉物野菜は大事だもんな。
 栄養が偏らないためにも、こういう葉物は必要だ。

「あとは……サヤエンドウみたいなのが実るとかいう木か。アニスキートだっけ」

 大河を挟んで向こう側にあるという、大陸東部の密林地帯にチラホラみえるらしい、謎の豆の木だ。たまにこちら側に種が飛んできて生えていることがあるんだとか。

 でも、サヤエンドウっぽい豆の房部分がバネみたいに捻じれているせいで見た目が奇妙に見えるのと、葉っぱが出す独特のニオイが獣人を退けるみたいで、あっても即座に切り倒されるか近づかないようにしてしまうらしい。

 そんな木なのに、なぜ選ばれたのかと言うと……水さえあれば荒野の大地にも生えるということで、とりあえずのお試しで植えることになったのだ。
 まあ、成長すれば加工して肥料にもなるしな……。

 にしても、ジャルバさんも全然期待してない感じだったが……ここまで嫌われてると、なんだか可愛そうに思えてくる。葉っぱはともかく、豆の部分は食べられるかもしれない。コレも植えよう。
 俺が頑張って育ててやるからな。

 男は度胸、なんでもやってみるものさ。ってことで、とりあえずそれぞれ区分けして、いくつか埋めてみることにした。

「タネは浅めの穴でいいかな。深くすると、葉が出にくいよな、きっと。あ、でもその前にうねを作って……」

 最初から広く作ると管理が出来なさそうなので、手におえる範囲で植える。
 畝を作るのだって結構な重労働だし、そこはお試しってことで許してほしい。

 アニスキートは畝のない場所に植えて……とりあえず、これでいいか。
 水を注いでから改めて土を見ると、じんわり植物の周りに橙と金色が混ざった綺麗な光が滞留しているのが見えた。

 きっと、種が栄養と言う名の曜気を吸い上げているのだろう。
 ここから育つのをじっくり見ていたい気分になるが……残念ながら、そんなヒマなどない。すぐに育ってもらわなければ、食糧を生産できないのだ。

 そこで俺の【木の曜術師】の術が必要になるんだけど……数時間土いじりをして、さすがに疲れてしまった。
 もうすぐお昼だろうし、ちょっと休憩しよう。そう思い畑を出ると、ちょうどこちらの方へ歩いてきているジャルバさんの姿が見えた。

「ああ、ツカサさん。すみません、お任せしてしまって……!」

 慌てているのか早足で近付いてきた相手に、俺はいえいえと手を動かす。
 なんだかんだんで久しぶりに土に触れられて楽しかったし、一人で集中できて気分転換にもなった気がするからな。

「気にしないでください、とりあえず手におえる範囲だけ植えてみたんですが……俺が術をかけて成長させるのは、休憩した後でもいいですかね」

 ジャルバさん達には、俺が木と水の曜術を使える【日の曜術師】であることを既に話している。なので、これに関しては明かして大丈夫な情報なのだ。
 ……本当はチート能力を持ってますと正直に言うべきなんだろうが、王宮に裏切り者がいる今の状況では、出来るだけ自分の情報を出さない方が良い。

 申し訳ないと思いつつ畑を見せると、ジャルバさんは畝を見て「なるほど」と何やら感心しているようだった。
 そっか、獣人って畑を作らないから畝とかも知らないのか……。
 丁寧に畝が「どう必要なのか」を説明すると、ジャルバさんは髭をしきりに撫でつつ何度も「なるほど」と繰り返していた。

「ううむ、人族の知恵は素晴らしいですね……! ウネ……これは、覚えておかねばなりません。作物を採取する時の苦労を先に解消する術なんて、これが積み重ねて来た知恵と言う物なのですねえ!」
「へ、へへ、俺も受け売りなんで、上手くできてるかは謎なんですけど……」
「いえいえ素晴らしい出来ですよ。ううむ……やはり、人族の知恵は素晴らしい……我々も、見習わねばなりませんね」

 そこまで褒められるものか、と少し驚いてしまうが、畑作をしない獣人には何もかもが新鮮な知識に思えるのかも知れない。
 ……こ、こんなことなら農家の兄ちゃんにもっと詳しく聞いておくんだったな……。

 ここ数年、婆ちゃんの田舎に長く滞在することも仕事の都合で難しかったり、母方の爺ちゃん婆ちゃんにも会いに行くしで、正月くらいしか行かなかったもんな。
 今年の夏休みくらいは会いに行きたいモンだ。猟師の爺ちゃんや農家の兄ちゃんは元気だろうか。婆ちゃんは心配ないって電話くれるけどさ。

「ツカサさん?」
「あっ、す、すみません。ちょっと考え事してて……。何の話でしたっけ」
「これで、次は曜術を見せていただけるんですよね。いつお使いになるんです?」
「えーと、ちょっと休んでからにしようかなと……そうでないと調子が出ないので」
「そうなんですか……私はこれからまた仕事なので、時間が合わなそうですねえ」

 今からではないと知ってか、ジャルバさんはワイルドな毛並みの熊耳をショボ……と伏せる。非常にゆっくりだったので鈴は鳴っていないが、それでもダンディなおひげのオジサマがしょんぼりすると、何故か妙にグッと言葉に詰まってしまった。

 お、俺はオッサン趣味じゃないのに、なんでこう熊耳があるとこうなっちゃうんだ。
 うううチクショウ、ケモミミはずるい、本当にずるいぞ……!

「あの、よ、よろしければ都合のいい時間帯に合わせますが……」
「本当ですかっ! ではあの、夕方前には職務がひと段落しますので、その時にでも見せて貰えますでしょうか! いや私、実は非常に人族の曜術と言う物を見て見たくて……しかも植物を操る術なんて、いやぁ楽しみだ……! それではよろしくっ、ぜひよろしくお願いしますね!」
「は、はいぃ」

 俺が譲歩した瞬間、すぐに耳を上げて喜ぶダンディな熊耳おじさん。
 見た事のない光景に硬直してしまったが、しかしジャルバさんは関係なく俺の両手を握って「よろしく!」とブンブン振ると、ウキウキな感じで戻って行ってしまった。

 …………やっぱりクロウの一族って、似た者同士なんだろうか……。

 にしても、なんか……――――

「ねえツカサ君! 今なんかツカサ君が他のオスに言い寄られてる気配がしたんだけどっ! なに、何があったの!」
「わあもうお前は何でそう変なセンサーが働くかなぁ!」

 っていうか俺が考えてる途中で急に出てこないでくださいよ!

 いやまあ隣の部屋だから、気配を感じ取るくらいはブラックならお茶の子さいさいだろうけど、頼むから脈絡もなく出てこないでくれ。
 おかげでちょっと心臓が止まったじゃないかこの。

「ツカサ君……さてはまた変な約束させられたんじゃないだろうね……」
「んなことないってば。今のはジャルバさんで、畑の事を話してたんだよ!」
「ホントかなぁ……なんか信用できないな……」
「いやそれ以外に話すことないだろホントに……」

 相変わらず疑り深い。
 けど、今回も本当にソレだけなのだから仕方ない。

 嘘は言ってないぞと真剣な目で睨むと、ブラックはハァと息を吐いて近寄ってくる。そうして、俺の肩を掴み抱き寄せてきた。
 ちょっ……い、いきなりなんだよ。

「…………」
「な……なに……?」

 何にもしてこないな。なんで見つめてくるだけなんだ。
 しかも、そ……そんな、真面目な顔で……。

 ………………う、うう……なんか恥ずかしくなってきた……。
 頼むから、そんな真剣なカンジで見つめてこないでってば!

「……よしっ。ツカサ君は誘惑されてないみたいだな」
「は、ハァ!?」
「だって、僕の顔を見つめ返して顔を真っ赤にするくらいだもん。後ろめたい事なんてないって証拠だよねっ」

 う……ぐ……た、確かにそうだけど。そうなんだけど。
 なんかそう言われるとムカつく……!

「別に俺は顔を赤くなんかっ」
「ふふふ、良いから良いから。さっ、手を洗ってから僕と一緒に昼ご飯食べようね! ツカサ君疲れたでしょ。僕が食べさせてあげるぅ」
「いらんわおバカー!」










※ツイ…エックスで言っていた通り遅くなりました(;´Д`)
 ナルラトの章だけだとツカサすら出てないので、
 こちらも急きょ追加したのでだいぶ遅くなっちゃいましたね
 われなべにとじぶた…( ˘ω˘ )

 
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