異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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亡国古都アルカドア、黒き守護者の動乱編

32.“うまく”料理してくれよ1

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 これ以上破損させないよう、丁寧に扱いつつ見取り図を確認する。

 まるで紙を焦げ付かせたかのようにしっかりと残っている線が示すのは、いくつもの部屋が有る巨大な建物の内部だ。
 これは間違いなく城の見取り図……ではあるのだが……ブラックと確認してみた所、城は城でもどうやら「現在の城」ではないみたいで。

「たぶんこれは、古代アルカドビアの王城じゃないかな」

 今この都は【古都アルカドア】とされているが、元々は【太陽国アルカドビア】という古代王国の遺跡なんだよな。
 そこを、クロウの故郷である【武神獣王国・アルクーダ】の王族、カンバカラン一族が飛び地として治めているんだけど……王城だけ立て直したんだろうか。そんな話をしていたようなしていなかったような。

 うーん……だとすると、最初にクラウディアちゃんと出会った時に、彼女が迷子になってたのって……もしかして、お城がガラッと変わってたからなんだろうか。

 そんで、俺の【黒曜の使者】の力に引き寄せられたってこと?

 ブラックが「疲れたせいか、ツカサ君の中に戻ったっぽい」って言っていたけど、だとすると彼女と出会うのは必然だったのかもな。
 俺だって、迷子でヘトヘトな時に休憩できる場所を見つけたら「とりあえず休憩だ」と思って座り込んじゃうもん。小さい子なら俺より素直なはずだ。
 俺がこの城に来た時点で、もう彼女と出会うコトは決まっていたのかも知れない。

 しかし、城がガラッと変わってるのか……。
 じゃあこの見取り図ではマハさん達がどこに居るのかわからないのかな。

「古代の城の地図じゃ、探すのは難しいかな……」
「いや、そうでもないかもよ。……ツカサ君、来る時に【空白の国】の遺跡みたいな所を通ったでしょ。あれが古代の隠し通路だとするなら、この城の地下は昔のままなのかもしれない。黒い犬のクラウディアがこの城を地盤ごと上に引き上げて孤立させた方法も、古代の技術だったら納得できる」
「あっ……そうか、なるほど……! 古代の遺物がそのままなら、アルクーダの人達は遺跡の存在に気付いてないってことだし、人も隠しやすいよな!」
「そういうこと。丁度見取り図に不可解な階層があるんだ。ホラここ」

 俺の回答は百点満点だったのか、ブラックがニヤッと笑う。
 その苦み走った感じの笑顔にちょっとドキッとしてしまったが、そんな場合じゃないと心の中で頭をブンブンと振って、俺は指が示した場所を見た。

 おお……確かに、なんか他の階より広めの階層が三層くらい有るな。
 倉庫っぽい大きな部屋とかも有ったけど、一番下は通路の左右に小さな部屋が細々と敷き詰められていて、なんだか変な感じだ。

 いや待てよ、この構造って……もしかして牢屋では。

「文字は読めないけど……もしかして、ここって独房とかなのかな?」
「可能性は高いと思うよ。だけど……ここに入るには、看守部屋を抜けなければならない。……そこには十中八九誰かが常駐してるだろうね。しかも、人族より身体能力が優れている獣人を捕えているとなれば……かなりの手練れが看守役のはずだ」
「う、うわぁ……やっぱコッソリ行って助け出すのは無理か……」
「熊公がいれば、一気に地下まで掘る事が出来たんだけど……まあ、こればっかりは言っても仕方ないね。何か方法を考えようか」

 ともかく、長々と保管庫に居るのも疑われるので、俺達は何かを調べていたという痕跡が見つからないように慎重に書籍などを戻し、あくまでも「散歩していた」風を装って部屋を出た。

 ブラックが探っても人の気配は感じられなかったらしいから、気付かれてはいないと思うけど……でも、どこで人に遭遇しても良いように、しっかり兜は装備しないとな。
 ケシスさんがこの場に居るって事は、彼の相棒っぽかったセブケットさんもどこかに居るかも知れないし……鉢合わせで正体バレするなんて間抜けはやりたくない。

 しっかり気を引き締めて部屋に戻らないと。
 そんな事を思いつつ、上がった記憶のない階段を下りて部屋へ戻ろうとしていると――今しがた気にしていたケシスさんが、階段の下から俺達に声をかけて来た。

「おう、お前達そこに居たか」
「どうした? 夕食か?」

 粗野な物言いで答えるブラックに、ケシスさんは「いんや」と首を振る。

「すまんがちょっと手伝ってくれねえか。オレサマ一人じゃ、ちょっと捌けなくてよ」
「さばく?」
「黒い犬の大将の仲間が、でっけえモンスターを取って来てくれたんだ。でも、それを調理する奴が今はオレサマしか居なくてよ。元気ならやって欲しいんだが」

 歩きまわっていた俺達を見ても、特に態度が変わらないケシスさん。
 どういう感情なのか分からなくてブラックの方を見ると、相手も俺を見ていた。が、俺にコクンと頷きを見せて、ブラックはケシスさんに向き直る。

「わかった。俺達も早くメシが食いてぇからな」

 下手に断って疑われない方が良い、ということだろうか。
 こういう時はブラックの判断に従った方が良い。っていうか、断ったってどうしようもないからな。素直について行くと、ケシスさんは迷いなく俺達の部屋が有る階へ降り厨房へと歩いて行く。

 兵士達の部屋がある廊下とは反対の廊下へと入り、突き当りにある金属の両扉を開くと、そこにはホテルの厨房かってくらい広い調理場が広がっていた。
 水の代わりに金属が豊富な国なだけあって、机などは金属だ。壁と床は石材なのに、そこだけは俺の世界の厨房っぽいな。

 キョロキョロと部屋を見回していると、奥の方にアンコウの如く吊るされた臙脂色のサソリ……いや、これは……細長いカニにザリガニのデカい腕がついた、不可解なモンスター……みたいなものがいた。
 なんだアレ。ブラックよりもう一回りデカいぞ。なんだこのバケモノは。

 思わず目を剥いてしまったが、兜なので驚いても安心だ。
 ケシスさんはカニザリガニに近付いて、臙脂色の甲殻をポンポンと叩いた。

「持ってこられたは良いがよ、オレサマはあんまりモンスター食わねえんだよ。だから、お前達なら調理法を知ってるんじゃないかと思って」
「……他の奴はいないのか? 三人でどんだけの食事作れってんだよ」
「ああいや、料理はオレサマ達を含めて八人分で良いらしいぞ。他の奴らには、大将が別のを用意してくれるそうだ。戦闘用の糧食だろう。でも、上の大将サマがたは、味気ない糧食じゃなくて、普通のが食べたいらしくてよ」
「ああ、そういう事か……ったく、しょうがねえな」

 粗野を装ったブラックの声が、ちょっとだけ呆れたように上がる。
 多分「調子こいてイイもん食おうとしてるんじゃねえよ」と思ってるんだろうな。

 まあその気持ちは分からんでもないけど、ここはグッと堪えよう。
 とりあえず料理すれば良いんだよな。でも……どうしよう。
 城には他の食料は残ってるのか?

 だけど無口っぽいキャラを装ってるから、俺からじゃ聞けないな……。
 仕方ない、恥を忍んでブラックに聞いて貰うか。

「ん?」

 ケシスさんに見えない背中側から服を引いて、こっそりブラックにアピールする。
 相手がこちらを向いたら、手を添えてコソコソと耳打ちした。

「他に食材が無いか教えて貰いたいんだけど」
「ああ、そうか。他の食材……ん? じゃあ作ってくれるってのか?」

 こんな時でも、素の言葉には戻らない。さすがブラックだ。
 粗野な口調のままで俺の言いたい事を代弁してくれる相手に、コクリと頷く。

 すると、ケシスさんは俺の反応が意外だったようで三白眼を少し見開いた。

「へえ、アンタ料理出来るのかい」
「かなりのモンだぜ。他の食材が有れば、味は保障する。アンタはコイツの処理だけを手伝ってくれりゃ、あとは休んでていいぜ」
「マジかよ、そりゃありがてえな……じゃあ、兜のアンちゃんには部屋の奥……あそこに扉のない入口あるだろ、あそこに食料があるから、なんか使えそうなもんが有るか調べてくれ。その間にオレサマ達がコイツを解体しとくからよ」

 これは願ったり叶ったりだ。
 俺は無口キャラなのでケシスさんを探れないから、他の場所を探った方が良い。
 それに、ブラックなら隣に居ればケシスさんから色々聞き出してくれるだろう。

 ブラックが彼の注意を引きつけている間に、俺はこの調理場に何か手がかりが無いか探そう。そう思い、俺は早速食料庫に入ってみることにした。

 ……背後からガシャンガシャンとデカい音が聞こえるが、気にせず調査しよう。

「…………」

 食糧庫は、わりかし広くてヒンヤリした感じの部屋だ。
 王宮のように特殊な石を使っている訳じゃないみたいだが、この感じなら肉なども数日は持つかもしれない。……でも、ここは砂漠だからな……野菜なんて奇跡的なモノは無いだろう。

 人族の大陸にある食材みたいなモノは期待できないだろうが、調味料的なモノや乾物などは有るかも知れない。
 恐らく肉を置くスペースだろう広く空いた中央を歩き、壁際にくっついている幾つかの棚を探ってみると、何だかよく分からないが幾つかの瓶詰めや乾物を見つけた。

 ……た、たぶん、食べ忘れて勝手に乾燥したってモノじゃないだろう。
 とりあえず、いくつか食べてみて味を把握して見よう。

 残っていた食材を一通り抱えて、食料庫から出ようと軽く外を窺うと。

「……おお……」

 そこには、金属のでっかい調理台に横たわるカニザリガニの横っ腹に刃を入れて、必死に中から外殻を割ろうとしている二人の姿が見えた。
 ……あ、あれ、やっぱ硬いんだ……。

 でも、中身は多分カニみたいな身が詰まっているだろうし、きっと美味しいはず。
 もし美味しい料理を作れたら、黒い犬のクラウディアや彼の幹部にも出会えるかもしれん。料理を欲しがる他の人達って、たぶんケシスさんと一緒で正気のままの人達だろうし……そうしていられるってコトは、幹部って可能性もあるからな。

 二人には是非とも頑張って欲しい……などと思いその光景を眺めていたら。

「……ん?」

 なんだろう。
 今一瞬、ブラックの横で外殻の中に手を入れていたケシスさんの腕が、妙な動きをしたような気がする。それに応じて、ブラックも片腕を一瞬動かしたような。

 ……なんだろう。不穏な感じはしないけど……変な感じだ。
 もしかして、何か通じ合うことでもあったんだろうか。

 よく分からないけど……まあ、敵対していないならいいか。

 違和感はあったが、今はとにかく料理をしなければ。
 そう思い直し、俺は食材を抱えて二人の所に戻ったのだった。









 
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