異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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魔境山脈ネイリ、忘却の都と呪いの子編

14.蔵書保管庫

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   ◆



「だーもー熱いんだからひっつくなってば!」
「やだなあツカサ君、熱いから良いんじゃないか。もっといっぱいひっつこうよぉ~! それに、こうして二人っきりってのも久しぶりなんだしぃ」

 まあそりゃそうだけど、でもだからってずっと引っ付いていなくてもいいじゃないか。
 二人きりになりたいって言っても、今はそんな場合じゃないんだし……それに、抱きつくなら後でいくらでも出来るじゃないか。なんで今やるんだよ。
 それに、その……べ、ベッドの上で背後からぎゅっと抱き着かれてると、なんか凄く困るって言うか……。

 と、とにかく、そんな場合じゃないんだってば!!

 クロウが帰ってくるのが遅いから探しに行こうと思ったのに、これじゃ探しに行く事も出来ない。ここにはお母さんの目があるから、怒りんぼ殿下も暗殺なんて考えないとは思うけど、でもルードさんが刺客を放ってるかもしれないじゃないか。

 なんだか凄く一筋縄ではいかなさそうな感じの人だったし、たぶんクロウを仕留めきれなかった時の事も考えるはず。
 そう考えちゃうから安心できなくて探しに行きたくなるんだよ。

 でも……なんだか悲しくなって来るな。
 ここはクロウの親戚の家みたいなもんだし、二人の殿下も兄弟なのに。
 それなのに、今は身内のなにもかもを警戒しなきゃ行けないなんて。

 …………幸いなのは、クロウが何も知らないってとこぐらいかな……。

「あっ、ツカサ君たらまーた僕の腕の中で別のオスのこと考えて……」
「いや仲間を心配するのは普通の事だろ! また心読むのやめて下さる!?」

 なんでコイツはこう俺の内面を事細かに読み取れちゃうんだよ。
 つーかみんな何で俺の考えてる事わかるの。俺そんなに分かり易い表情を浮かべてるのかな……そんなまさか。

 ともかく、今はイチャついてる場合じゃないんだ。
 危険な状況なんだし、なんとかクロウを探しに行かないと……でも、ブラックがそう素直に話してくれそうにないしな。ここは一計を案じるか。

「えっと……あー……じゃあ、用事を先に済ませよう!」
「用事?」
「ほら、あの、ここで昔の歴史を調べるって言ってたじゃん。だから、その書籍とかがどこにあるのかって執事さんに聞きに行こうぜ! なっ」

 用事は早く済ませた方が休む時間が増えるだろ。
 そう言って、なんとか説得しようとブラックの方へ向き直って至近距離のオッサンの顔に訴えかける瞳を向ける。そんな必死な俺に、ブラックは疑わしげな目付きを数秒向けていたものの――俺の一石二鳥作戦が功を奏したのか、仕方ないなと言わんばかりに「ハァ」と溜息を吐いて俺に頬擦りしてきた。

「ホントにも~、わかりやすいんだからツカサ君は~……。その代わり、なにも用事が無くなったら一日中僕のやりたいことに付き合って貰うからね」
「え、えぇ……」

 それは、その……ちょっとイヤな予感がするからやめて頂きたいのだが。
 しかし俺がそう言う間も無くブラックはベッドから降りると、抱えたままの俺を離して背を伸ばした。「ちょっと待て」と約束の訂正をさせて貰いたかったのだが、ブラックは俺に何か言う隙を与えず、そのまま部屋から連れ出してしまった。

 ぐおおおこういう時だけ行動が早いんだチクショウ。
 つーかロクを連れて来そこねたんだけど! おい!

「そうと決まったら行こうさあ行こう」
「ちょっ、お、おいっ、ロクを……っ」
「一緒に連れ出したら、獣人に非常食かなって勘違いされちゃうかもよ? お留守番で寝かせておいた方が良いって! さあ行こうね~」

 こ、コイツ……何が何でも二人っきりになってやろうって腹積もりだな……。
 ……仕方ない。誘い出したのは俺だし、ロクには少し寂しい思いをさせるだろうけど暫しの間だけ我慢して貰おう。あとで埋め合わせを考えなくちゃな。

 まあ俺の可愛いロクはこんなことで怒らないくらい優しいけど、そこは何も言わずに出て着ちゃったお詫びというヤツでな。

「何ごちゃごちゃ考えてるのツカサ君。ほら、召使いがやってきたよ」
「えっ、あ……じゃあ、あの人に聞こうか」

 やべえ、クロウを探す前に人に会っちゃった。
 どうしたもんかと思ったが、ここで聞かないとブラックが勘付いてふてくされてしまうかも知れない。これはもう仕方ないか。

 俺達は召使いらしい熊耳の人に「この土地に関する歴史書があれば拝見したいんですが」と問いかけ、マハさんに取り次いでもらう事になった。
 その場で数分待っていると、すぐに頼んだ人が戻ってくる。すると、その手には何かサイズ感がバグッているデカい鍵が握られていた。

 どうやら、これが【蔵書保管庫】の鍵らしい。
 ……なんか、学校の机を一個丸々占領しちゃうくらいデカい鍵なんだが、この鍵穴だと手を入れて解除出来ちゃうんじゃないのか。大丈夫なのか保管庫。

 あまりの規格外な道具に驚いてしまったが、とりあえず行ってみることにした。
 でもこのまま行って良いもんかな。クロウは大丈夫だろうか。

「あのー……俺達のツレは……」

 マハさんと話してきたみたいだし、彼女が何か言ってなかっただろうか。
 そう思って召使いさんに問いかけると、相手は意外な答えを返してきた。

「ああ、クロウクルワッハ様でしたら領主とご歓談なさってましたよ。御夕食の時に、戻って来られるかと」
「そうなんですか……なら良かった……」

 マハさんと一緒なら、たぶん大丈夫だよな。
 あの人はクロウに対して悪感情は抱いてなかったみたいだし、怒りんぼ殿下に対しても、ちょっと厳しいけど素直にガンガン言うっぽい感じだったし。

 暗殺するくらいなら直球で挑んで殺しそうな人だもんな。
 それに……クロウだって、積もる話もあるだろうし。

 ここは無理に戻ってこいと言わずに、大人しく待っていた方が良いかも知れん。
 身内との昔話とか、実際人にあんまり聞かれたくないしなぁ。
 俺だって、親戚と話す話を友達に聞いて欲しいなんて思わないもん。子供の頃の話を言われたりしたらたまったもんじゃないし。

「やっぱ身内との話は聞かれたくないもんな、うん……」
「ツカサ君なんか変な方向に納得してない?」
「御二方、蔵書保管庫はこちらです」

 えっ、もう着いちゃったの。また歩きながら考え事をしてしまった。
 でも多分ここって、俺達の部屋がある三階の部屋だよな。廊下をくねくねと曲がった気がするが、もしかして通路の奥の場所にあったのだろうか。

 外側に面した廊下以外は、ほぼ蝋燭の明かりだけの廊下だったから、どういう道順でここまで来たのか全然分からないや……意外と中は迷路なんだなこの砦。

 にしても、到着した保管庫は……鍵の割には普通の扉だ。
 あらゆる獣人に配慮してか扉は三メートル近くあったけど、でもそれだって規格外の大きさと言う訳でもない。鉄扉っぽい金属の扉もまあ普通だし……ただ、鍵穴が穴というより溝レベルの大きさなだけだ。

 ……やっぱこれ、棒とか突っ込まれて開けられちゃうんじゃないかなぁ。
 いやしかし、こういう鍵こそ内部になにか細かい仕掛けがしてあるのかもしれん。人が簡単に開けられないようになっているんだろう。たぶん。

 そんな風に考える俺の前で、召使いさんは大きなカギを扉中央の溝に差し込んで、重々しい音を立てながらガチャンと捻る。
 すると、内部からいくつかの金属音が聞こえた。
 ……やっぱり見た目よりも高度な鍵なのかな?

 一人でに開く扉を見ていると、横から召使いさんが蝋燭を持って来た。

「倉庫番はおりませんが、どれも劣化が激しいので、なるべく太陽の下に出さないようにお願いします。原本ではないので、お求めの蔵書があればお申し付けください」

 そう言って先に入り、真っ暗な部屋の中で何かを灯したような音が聞こえた。
 すると、ポツポツとランタンに火が入るような音が聞こえて、内部がゆっくりと暖色の明かりに照らされていく。やっと見えてきたその内部は、まさに【保管庫】だった。

「では、私は外で待機しております」
「あ、ありがとうございます」

 頭を下げてから中に入る。
 本がある、というので図書館のような部屋を想像していたのだが、ここはどちらかと言うと「倉庫」の側面の方が強いらしく、系統分けはしてあるものの本は一般的な縦置きではなくて、横にして積んでいるようなありさまだ。

 巻物も当然積んだままなので、何がどういう物なのか分からなかった。

 …………しかも、そんな部屋、ほこりっぽい部屋を、壁に取り付けられている幾つかの燭台が、蝋燭を剥き出しにしたまま照らしていて……。

「こ、これは……すごい……」
「……獣人どもが書物をあまり読まないってのはホントなんだな……」

 ブラックがウンザリしたように言うが、俺はうまくフォローを入れられない。
 これを見れば、普段本を読まない種族の保管庫というのが丸解かりだったし……何より、俺もこんな部屋は危ないとしか思えなくてゾッとしてしまったからな……。

 いやほんと、被せも何も無い蝋燭は危ないって!

「えーと……とりあえず……召使いの人に蝋燭を囲うモノを頼もうか……」
「はー……。じゃあ僕は、その間にクソ雑な棚から必要そうなのを抜き出しておくよ」

 やったー、こういう時には頼りになるぅ。
 何だかんだで的確に助けてくれるからありがたいんだよなあ、ブラックは。

 俺は召使いさんに予備のガラス(のようなもの)管を用意してもらい、二人がかりでなんとか燭台の炎を安全な物にした。
 手伝ってくれた召使いさんは「何故ここにこんな燭台を?」と不思議そうな顔をしていたけど、紙は燃えるんだ分かって下さい。まあでも、この分厚い石積みの砦なら、一室で火事になってもあんまり被害はなさそうだけど……。

 閑話休題。
 ともかく、これで蔵書をしっかりと読む準備は出来たってワケだ。

 再び俺とブラックの二人きりになると、俺達は手分けしてめぼしい書物を棚の奥に隠れていた机にどんどん持って行った。
 扉は閉めてしまったし、他に誰も使う予定はなさそうなので、かまうことはない。
 調べられるうちに全部調べておかないとな。なにせ三日ほどしか滞在できないワケだし……ヨグトさんが言ってたコトがどういう意味なのかも、ちゃんと知らないとな。

「ふぅ。とりあえず、歴史書っぽいのはこのくらいかな。……ざっと中を見た限りだと、本当にただ原本から書き写しただけで、翻訳もクソもないみたいだけど」
「え、翻訳?」
「巻物の方は、何かの文字を写しただけで変な所で改行してるみたいだ。多分……これは石版から写したんじゃないかな。でも知識が無いから全部とりあえず写せば良いと思って文節もめちゃくちゃになってる」

 テーブルに巻物を広げて眺めるブラックの顔を見上げて、それから文字を見る。
 俺にはよくわからないけど……でもたしかに、巻物の上から下にぎっしりと文字が詰め込まれていて、ところどころに縦の隙間がある。

 石版一つ分の文章を書き終えたら、隙間を作って次……って感じなのかな。
 確かにこれでは文節も何も分からないかも。
 けどそれを見抜けるのってちょっと凄いな。悔しいが、か、格好いい……。

「解読、できそう……?」

 再び見た横顔は、無精髭だらけなのに凛々しい顔をしていて、真剣に文字だけを見つめている。別に、何も格好良い事は無い。真面目なだけだ。
 なのに、何だか胸がドキドキして来る。
 考えてみれば二人きりで薄暗い場所に居るわけで、そういう人に見られずに済む環境のせいか、妙に心臓が素直になってしまってて。

「幸い、絵巻物も残ってたし……誰か奇特なヤツがいたのか、途中まで訳そうとした書きかけの書物がある。それを見れば、大体は推測できると思うよ。今の獣人達が使ってる文字も、僕らの文字と一緒だからね」

 うっ……ぐ……。
 こ、こっち見て笑わないでっ。

 俺は思ってない、なんとも思ってないんだぞ。
 なのになんでこんなキュンキュンしちゃってるんだっ、べ、別に翻訳とか出来ちゃうの格好いいとか思ってない。キリッとしてるの格好いいとか思ってないんだからな!

 なのに何でこう俺って奴は雰囲気にのまれやすいんだ。
 ぐ、ぐぬぬ、こんな場合じゃないのに……っ。

 うう……落ち着け、落ち着くんだ俺。

「じゃ、じゃあ俺は比較的新しい本見る」
「うん。そっちは頼むよ、ツカサ君」

 ぐうううッ!
 だからそこで嬉しそうに名前呼ばないでってば!!

 ああもう俺もなんでそう一々反応して心臓飛び出そうになるんだかな。
 ……はー、はぁー……深呼吸しろ。

 とにかく、今は浮かれてる場合じゃないんだ。
 しっかり調べて、この赤い砂漠のことを把握しないとな。









※諸事情で遅くなりました…!(;´Д`)スミマセヌ
 頑張れ社会人~~~!!
 
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