異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編

11.ナーランディカ卿1

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   ◆



 美味い美味いと食べて貰えるのは、どんな相手だろうが嬉しいとは思う。

 たとえ料理を振る舞う相手が悪人だろうが、素直に発した「美味しい」と言う言葉は本当だろうし、料理を作るのが役目の人ならば、食べさせる相手がどんな存在だろうが「望まれた役目」を全うした事に満足を覚えるのかもしれない。

 まあ実際、これでマズいとか言われたら仕事をこなせてないとかなんとか言われてヒドイ事になるだろうし、それを考えれば喜ばれるに越したことはないけど。
 でも。

「こんなことしてていいのかなぁ……」

 厨房で“お偉いさん”が食べた豪華なお皿を洗いながら、俺は溜息を吐く。
 隅っこにある足洗い場のような水場で、金や銀のお皿を洗うのは非常に申し訳ない感じがするが、二枚三枚と洗っていくうちにそんな申し訳なさも失せて行く。

 それと同時に今自分がやっている事へのモヤモヤが湧き起って来て、俺は二度目の溜息を吐き綺麗になった金の皿を清潔な籠に入れた。

「はぁー……クロウのことをバカにしてるヤツに近付いてメシ作ってって…何してんだろうなぁ俺……。王様に復帰するのを手伝うどころか、なんかワガママを増長させてるような気がするんだけど」

 昨日“賄い番”というのに任命されて、料理を作ることになったのはいいんだけど。
 でも、綺麗なメスのお姉さん達を侍らせているムカつくワガママ殿下に当たり前のようにバクバク食われるのはイラッとするし、デザートをたくさん持って来いとガキのようなワガママをいうのもムカつく。

 なにより、後でブラック達を労おうと思って【リオート・リング】に保存していた物資がガンガン減って行くのにとても焦ってしまう。
 あの殿下、何でもかんでもいっぱい食べるからマジで心配なんだよ。

 たった今、昼飯を終えた所だけど……ベーマスに降りて来た時点で百パーセントだとすれば、今は九十パーセントだろうか。つまり、一日二度のメシだけで俺が用意していた材料の一割が吹っ飛んだのである。

 …………これがどれだけヤバいかお分かり頂けるだろうか。

 いや、元々少ないだけでしょとツッコミを入れられたらそうなんだが、そもそもの材料が俺達三人とロクショウや守護獣達で食べる想定で用意していたので、あんな風にバクバク食べる人間のために使うなんて思ってなかったんだよ。

 これじゃもう数日も持たない。
 だけど今日の食事で何だかますます気に入られちゃったみたいだし、なんとかして他の食材で満足して貰えるようにしないとなぁ……。

「はぁ……せっかくブラック達に色々作ろうと思ってたんだけどな……」

 これじゃあ労う前にスッカラカンだ。
 まあ、幸い酒とかは出してないのでそこらへんは残ってるけど……いつか見つかりそうで怖い。食材を都合して貰えるようアンノーネさんに頼んだ方がいよな。

 ……でも……人族に対して上から目線なあの人が考えてくれるだろうか。
 仕事はキッチリこなす人っぽいけど、なんかプライド高そうだったしなぁ。

「うーん……それにしても……同じ兄弟なのに食べる量も違うんだなぁ……」

 はあ、やっと食器を洗い終わった。
 ちょっと休憩しようと思い、俺は洗い場の段差に腰掛けて足を洗い場に浸す。

「おおー……気持ち良い~……」

 素足をヒンヤリした水が包んで、幾分か気持ちがスッとしてくる。
 それにしてもこの洗い場、結構珍しいモンだよなぁ。

 オアシスの大きな泉の中央に浮かんだ島だからか、この【ペリディェーザ】ではそこの綺麗な水を王宮に直接流し込むシステムが作られている。
 そのおかげで、この“ハレム”の厨房にも常に冷たくて澄んだ水が流れ込む水場があり、俺はそこで腰を屈めながら皿を洗っているってワケだ。

 確かこう言う構造って、湧水の町に多いんだよな。
 野菜を洗う場所とか洗濯をする場所が流れの途中に作られていて、そこが小さいプールみたいになってるんだ。

 ここも流水が常に流れていて、お皿を濯ぐのも楽に出来て有り難いが……しかし、オアシスって水が流れるモンだっけか?
 この水は、王宮を循環する石材の管から分かれて放出されているので、もしかすると、何かの技術を使って水を汲み上げているのかも知れない。

 ……って、そんなことはどうでもいいか。

「クロウも大食漢ではあるけど、あんな風にバクバク食べるかな……」

 何か忘れているような気もするけど、しかしクロウがあんな風にバクバク食べるのなんて、でっかいモンスターを倒した時とかタダメシの時ぐらいしかないよな。
 王族はみんな同じ種族だけど、やっぱ食べる量は違うんだろうか。

 デカさによって比例するとか?
 だとしたらドービエル爺ちゃんの食事量は……考えたくも無いな……。

「はぁ……とにかく、アンノーネさんに聞いてみるか……」

 夕食まで時間があるし、もしかしたら用意してくれるかも。
 そもそもこの王宮がある首都・アーカディアにどんな食材が有るのかも確認しないままにココに来ちゃったから、どんなものがあるか調べるいい機会だよな。

 もしかしたら、あのバターみたいな【サヴォヤグ】と同じように、代替えできる果物が見つかるかも知れないし。
 見下されるのはヤだけど、これ以上は殿下に在庫を減らされるわけにはいかない。

 気も腰も重かったが、とにかく掛け合ってみるか。
 俺は足を拭くと、食器を元の位置に戻してアンノーネさんがいる場所に向かった。

 確か……あの人は、昼間は執務室に居るとか言っていた気がする。
 ハレムではなく普通に宮殿の方に居て、専用の部屋を持ってるんだよな。それだけ力も頭も凄いってことなんだろうけど……象の獣人って物語でも今まであまり聞いた事が無かったから、どういう感じかちょっとピンとこないんだよな。

 象って頭も良いし記憶力も有るから、大きくて強いだけの動物ってワケじゃないんだけど、やっぱ獣人に直すと有能な人になるのかな。
 でもこの世界の獣人ってモンスターから派生した存在らしいし、俺の世界の動物と一緒には出来ないよなあ……うーむ……。

 ともかく一つ分かるのは、アンノーネさんは「やさしいぞう」ではないと言う事だ。
 むしろ何かタイプとしては融通が利かないタイプに思えるぞう。

 頼みに行くって決めといてなんだが、ちゃんと協力して貰えるんだろうか。

 そんな事を思いつつ、豪華で広く天井も高い床石がピカピカしている廊下を歩き、やっとこさ宮殿にあるアンノーネさんの執務室に辿り着くと、俺は恐る恐る扉が無い部屋の中を覗いた。

 と……そこには、大きな机に書類を広げて何か書き物をしているアンノーネさんの姿があった。他には誰もいないようだが……入って良いものだろうか。
 まごまごしていると、俺に気付いていないはずの相手が口を開いた。

「何をしてるんです。用事が無いなら帰って貰えますか? 気が散るので」

 ぎゃっ。な、なんで分かったんだ。
 ついビクッとしてしまうと、相手は顔を上げて呆れた表情で目を細める。

「貴方は獣人族の耳を何だと思ってるんですか。ずっと前からこちらに向かって来る足音は聞こえていましたよ。用があるなら早くして下さい」

 あ、そうか。
 獣人は五感が鋭いから何十メートルも先の音を聞き取れるんだっけ。
 だったら俺がそばにいるのも分かって当然だ。

 入って良い物かと迷ったけど、どうやら用事くらいは聞いてくれるみたいなので、俺は意を決して机の前まで近付いた。

「あの、相談なんですけど……殿下のお食事、今度からこの王都にある材料とかを使わせて貰えませんか? 俺の持って来た材料じゃたりなくて……。なので、ついでにどんな食材があるのか教えて頂けると助かるんですが……」

 そう言うと、アンノーネさんは露骨に嫌そうな顔をした。
 あ~……そういう顔をすると思ってましたよ。予想通りだぜ。

「はぁ? この忙しい時にそんなことを? まあ、材料を提供するのは安全性の面からしてコチラからもお願いしたいことでしたが……」
「お、教える暇はないんですね。分かりました……だったら、自分で何とかします」

 やっぱアイスクリーム一つじゃ軟化しないよなぁ。
 まあでも、仕事中に頼みに来たこっちが悪いんだし、相手の作業を中断させたんだから、イライラされてしまっても仕方ない。でも嫌味を零されたらイヤなので、さっさと用事を済ませて退散させて頂こう。

 そう思い、次はどうしようかと考えていると……アンノーネさんは少し考えるような素振りを見せて、数秒悩むように眉間に皺を寄せたものの……やはり決心したかのように息を吐いて俺を見た。

「……貴方が勝手に出歩いては、他の獣人を刺激します。だから、今回は仕方なく私が同行しましょう。……仕事を一段落させますので、そこらへんで……」

 待っていなさい、とでも言いたかったのだろうが、その前にアンノーネさんの動きが止まる。口をポカンと開けたままで止まっているが、どうしたのだろうか。
 そう思っていると、俺にも分かる足音が近付いて来て止まった。

 あっ、誰かがまた執務室に来ていたのか。
 誰だろうかと振り返ると――――そこには、知らない人が立っていた。

「アンノーネ、君は仕事が忙しいのだろう? ならば、私が引き受けよう」

 そう優しい声で言うのは、鼻の下の男爵のような髭が格好いい大人。
 たぶんブラック達よりも年下だろうけど、その佇まいはブラック達に負けないほどの体格で、びしっと立っていてまるで高潔な軍人みたいだった。

 髪もヒゲも黒くて、オールバックの髪型がまた格好いい。
 だけど、その髪の中から垂れた耳が出ているのが、なんというか、その……なんか和んでしまうというか……。

「な……ナーランディカ卿っ! そんな恐れ多い……!! 仕事を一段落させたら私が必ず案内しますので、貴方様のような方に人族の世話をして頂くなんて……!」

 なになに、このナーランディカさんって人もやっぱり偉い人なの。
 なんか軍服っぽい豪華な服を着てるからそうかなとは思ってたけど、やっぱりこの人も要職に就いている人なんだろうか。

 気になって相手を見上げると、ナーランディカと言う人は優しく微笑んだ。

「君が今話題になっている人族の少年だね。なるほど可愛らしい子だ。……だけど、この王宮では少し居心地が悪かっただろう? すまないね」
「あ、いえ……」
「アンノーネはああ言っているが、悪い奴ではないんだよ。許してやってほしい。そのお詫びも兼ねて、私が食料庫を案内するよ。この王宮の財政に関しては、私の家も関わっているからね。アンノーネに聞くよりも、私の方がマシだろう」
「し、しかしナーランディカ卿……」

 アンノーネさんが、顔面蒼白で汗をだらだら流している。
 もしやこのおじさん、そんなに偉い人なのか。

 でも……ナーランディカ卿って、どんな人なんだろう?

 見返す俺に、相手はニコニコと笑うばかりだった。









※今年も、私も読者さんも楽しく!で頑張りますので
 どうぞよろしくおねがいします!!(*´ω`*)
 
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