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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編
19.好き過ぎてとめられない
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「ふあー……ベッドだぁ……」
でっかいベッドに飛び込むと、強めの反発が俺を跳ねさせる。キングサイズという言葉でも足りないんじゃないかってほどのベッドは、どうやら反発も強いらしい。
さすがは「大型獣用」の部屋だ。ドアも窓も何もかもちょっとデカいのには参ったが、しかしガリバー旅行記の世界に迷い込んだと思えばちょっと楽しい。
獣人には、人型になっても二メートル越えの身長になってしまうという、大型獣人がいるらしいので、様々な種類の獣人が集まる場所にはこういう物が有るらしい。
そのワリに厨房は俺でも扱えるサイズだったが、もしかして大型獣になるとメスの人も料理したりしなくなるんだろうか。メスでも他の獣人より強そうだし、案外両性とも戦場の勇って感じになってるのかも……うーむ、興味が尽きない。
だけど今日はもう疲れた。異文化って言うのは楽しいけど、異なる部分がある度にソレを理解しようと説明を聞かなきゃならないから、慣れない間は疲れちゃうよな。
俺も、王都アーカディアの話は楽しかったけど、今日はもうキャパオーバーだ。明日には“合図”が来るかも知れないんだし、早く寝て疲れをとらないとな……。
なんてコトと思っていると、絶妙にデカい扉を難なく開けてブラックが入って来た。
いつもなら「お風呂入るのやだよ~。ツカサ君も一緒にはいろ?」なんて駄々っ子になっていたけど、この砂漠の世界じゃそうも言っていられなかったのか、今日は珍しく素直だったんだよな。まあ髪がジャリジャリしてたんだから当然か。
しかもブラックの無精髭もなんか砂漠じゃ微妙そうだったしな。
「はぁ~……ツカサくぅん……僕もう疲れたよぉ~」
「はいはい、じゃあさっさと寝ないとな」
これ見よがしにムカつく長足で難なく大型獣サイズのベッドに乗り込んできた中年は、まだ滴が落ちる髪で近寄ってくる。
目を細めていかにも「疲れましたぁ」なんて顔をしているけど、そうまであからさまだと何だか苦笑してしまった。甘えるにもほどがあるっての。
仕方ないなと思いつつ、俺はブラックの髪を拭いてやった。
「ほら、ちゃんと首にタオルかけてシャツ濡れないようにしろよ」
「ふあーい」
ほんと体だきゃオッサンなんだからコイツは。
しかしブラックの髪って、結構強くてどこででも輝く赤髪って感じのクセに、ウェーブがかっているせいなのか、柔らかくて繊細なところもあるんだよな。だから、前なんてキシキシで縺れに縺れてたってのにあんまり痛んでる感じがしなかったんだよな。
触って初めて思ったよりエグい事になってるのを知ったぐらいだ。
今の、ふふ、俺が手入れしてやってるおかげのツヤツヤでフワフワな髪を見てると、まあ違いは一目瞭然って感じだけどな。
ブラックの髪を更に格好良く出来るなんて、実はちょっと鼻が高い。
しかし、アレで今までやって来たってのも凄いよな。強大な曜術師ってのは毛根も強いものなんだろうか。最近ハゲてないかを気にし始めたウチの父さんが聞いたら羨ましがるだろうな。
とはいえ、他人の髪だし……こんなこと本人には言えないけど、ブラックの髪……その……正直、好きだし……だ、だから、丁寧にしないとな。
まあべつにブラックの体で嫌いな部分なんてどこにもないんだが。……うん、いや、困る所はたくさんあるけども。主に下半身とかじょりじょりする無精髭とか。
「ふあぁ……。つかしゃくぅん、僕ねむいよぉ」
「アンタ順調に子供に退化してんな……まあ数日慣れない環境だったもんな」
「えへへ……それにさ、久しぶりにツカサ君の手料理いっぱい食べられたから、お腹がいっぱいになったってのもあるよ」
「べ、別にあんなの、肉焼いてソースつくってスープ作っただけじゃん……」
しかも料理とは言っても簡単だし、その簡単なレシピを奥深い者に出来るほどの腕は俺には存在しない。素人男の粗雑な料理なのだ。
だけど、ブラックはそんな俺の言葉に顔を少しこちらに向けてニコニコと笑う。
「ツカサ君が作ってくれたから美味しいんだよ。だって僕、ツカサ君が一生懸命作ってくれた料理が食べたかったんだもん。それにさ、ツカサ君たら高いお酒までコッソリと用意してくれちゃって……そ、そういうところがたまんないんだよなぁ……へへ……」
「お前はどうしてそう最後がそうなっちゃうかな……」
…………とは、いえ……正直ちょっと……嬉しいところは、ある。
そりゃ、美味しいって言って貰えたら嬉しいし……ブラック達に喜んで貰いたくて酒を用意したんだから、素直に上機嫌になってくれればありがたい。
でもなんか、その……だ、だからって「うわぁ~ありがと~」とか語尾にハートマークつけて言えるガラじゃないだろ俺はっ。
せっかく今日はえっちな雰囲気も無い二人っきりなんだし、その……そ、そういう、恋人っぽいカンジとか頑張るチャンスとは解ってるんだけど、なんかいざこういう感じになったら、は……恥ずかしいって言うか……。
「んん~、ツカサ君もう良いでしょ。早く一緒に寝ようよぉ。せっかく今日は二人っきりなのにイチャイチャ出来ないなんてヘビの生殺しだよぉ」
ヘビの生殺しだなんて、おまえロクが起きてたらびっくりしちゃうだろ!
いやでも今は違うから良いのか……ってうおっ!
「ぶ、ブラックっ!」
「ん~……久しぶりのお風呂あがりなツカサ君のにおい……」
「変なとこ嗅ぐな抱き着くなっ、寝にくいだろ!」
寝るにしても抱え込むんじゃないと離れようとするが、ブラックはお構いなしに俺の事を抱き締めて首筋に顔を押し付けてくる。
い、いつもの胸にすっぽり入れられる感じじゃなくて、俺の方の胸にブラックが顔を押し付けられるような抱き着かれ方だから、変にドキドキしてしまう。二人きりだからというのもあって、誰の目も無いから余計に逃げ場ないと言うか……っ。
「……ドキドキしてる? ツカサ君、僕より体熱いよ」
「あ、アンタが抱き付いて来るから……」
「それだけでドキドキしちゃうの? ふ、ふへへ……ツカサ君可愛い……好きぃ……ね、せっかくの密室なんだから寝るまでイチャイチャしよ? ねっ、ね」
そう言いながら、ブラックはこれ見よがしに口をすぼめて来る。
あからさまにキスをねだるタコみたいな顔。こんなギャグみたいなセクハラ顔なんていつもなら「やめんか!」と突き離せるのに、い、今は……。
「ううう……」
目の奥が熱くなって、自分は今赤面してるんだろうと解ってしまうくらい、頬がカッカしている。体に絡みつくブラックの足や、シャツ越しに強く押し付けられた体の厚みが、何故だか俺を余計に追い詰めていく。こんなのいつものことなのに。
なのに俺ってヤツは、アホみたいなキス顔してるブラックに抱き着かれて、そんな顔すらちゃんと見れないくらいに目を泳がせてしまって……ぐ、ぐうう……。
ぶっちゃけ最近、俺だって恋人らしく頑張ってると思うんだよ。フェラしてとか、ぎゅってしてとか、俺なりにブラックに対してそういうコトを出来てる気がするんだよ。
でも、なんでこう……ブラックに「キスして」って真正面からねだられると、こんな風になっちゃうんだろう。キスだって、自分からそれなりに、してる……のに……。
…………ああもう、うだうだするから恥ずかしくなるんだよ!
こ、こんなのただのキスだろっ。おやすみのキスとかじゃんっ。
だから、え、ええいままよっ。
「つかしゃくぅ~ん」
「~~~~っ……」
間抜けな声を出して口を尖らせるブラックに、顔を近付けて。
そして――――やっとのことで、合わせる。
…………わざとらしく尖らせた口は、いつものキスと違ってなんだか変な感じだ。
でも、そんな違いを自分は理解しているんだと思うと恥ずかしくて逃げ出したくなる。何で俺はブラックとこうするたびにドキドキしちまうんだろうと自分に呆れるが、それでも、す……好きな、やつと一緒に居たら……そりゃ……ドキドキする、とは思うし。
それに……ブラックは、俺なんてメじゃないくらい、素直に伝えて来るから。
だから俺は、そんな風に思ってくれてるって改めて考えると、動揺しちまって。
「んん……ふ、ふへへ……ツカサ君……好き……ツカサくぅん……」
「っ、ぅ……ん、う……っふ……」
甘えるような声にすら、鳥肌じゃないゾクゾクを感じてしまう。
ブラックが触れてる所があつくて、キスしてるとどうしようもなくお腹の奥がきゅうっとなってしまう。無精髭がチクチクして痛痒いのに、それすらもう、今触れているのは誰でも無いブラックなんだと思うとたまらなくて。
ぐっと体を押し付けられると、胸に下げている指輪すらヤケに気になってしまう。
そんな風に、キスしてるだけなのに変な感じになりそうだってのに、ブラックは何度も何度も角度を変えてまたキスをしてくる。
俺がしたはずなのに、なんでブラックに何倍もキスされてるんだろう。そう考えたら何故か恥ずかしくなるけど、もうなにがどう恥ずかしいのか分からない。
ただもう、ブラックしか感じなくなって、心臓の音で何も聞こえなくなって。
「あぁ……可愛い……好き……好きだよツカサ君……」
熱い吐息を吹きかけられながら、囁かれる。
恥ずかしくてドキドキして居た堪れなくて、でも……安心して。
今日は、いっぱい料理も作って疲れてたからなのかな……だから、段々と、キスで頭がぼんやりしてきて……。
そうしたら、いつのまにか――――目を、閉じてしまっていた。
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