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豪華商船サービニア、暁光を望んだ落魄者編
26.暗闇を迷わず進む難しさ
しおりを挟む「……で、ツカサ君は『ご一緒します』って言っちゃったの?」
「そりゃまあ、俺は客室係だしリメインはお得意様だし……」
「もおおおおおおまたツカサ君はそうやってオスどもを甘やかすううううう」
今夜の事を一応報告しておいた方が良いかと思って、リメインの部屋から出たその足でブラック達の部屋に来たのだが……説明が終わった途端に、キィイイと奇声を上げるオッサンから詰られるとは思わなかった。
いやまあ心配してくれてるんだろうけど、言い方と態度ってもんがあると思う。
どうしてブラックは常にこうハイテンションなんだろうか……、せっかく顔とか体格は格好いいんだから、もうちょっとこう……じゃなくて。
ともかく、発狂した中ボスみたいに頭をガシガシ掻き回しながら天井を仰いで叫ぶんじゃないと言いたいワケでな。
「でも、ギーノスコーが俺達にやって貰いたい事を考えたら一石二鳥だろ? これで万が一なにか怪しいところがあれば、リメインは……盗人である可能性が高くなる。逆だったら潔白だ。そうだろ?」
「身元不明の奴が大金もって船に乗って来る事自体怪しいけどぉ」
「だ、だからそれだって理由があるんだろってば! ……たぶん、だけど……」
「ソレをツカサ君が聞いて来るって? 不安だな~、すっごく不安だなぁ~。ツカサ君ホントに自分がどういう存在かって自覚が無いし……」
「な、なんだよそれ」
俺の存在って、そりゃチートで後衛な能力者だろ。
出来ない事も多いけど、回復薬だけはピカイチな薬師見習いでもあるし……。ってこれは自分で言うこっちゃないか。ともかく俺はそう言う感じのヤツだ。この船の人達から見れば、ごくフツーの、真面目で人当たりの良い給仕係なのだ。
それ以上でもそれ以下でもないだろうにと訝しげにブラックを見やると、急に横からクロウとロクショウまで飛んできて、違う違うと大合唱する。
「もー!! ツカサ君はメスだよっ、しかも特別珍しいむちむちぷにぷにの少年らしさを残しまくったメスなんだよ!? そんなの好色な貴族なら欲しいに決まってんじゃん一発やっちゃいたいなとか思って当然じゃないかあああ!!」
「そうだぞツカサ! お前みたいに美味そうな肉とニオイを隠しもせずに垂れ流しているメスなんて、丸々太った獲物と一緒だ! オレですら我慢が出来ないのに、何もかもが弱すぎる人族風情が我慢出来るはずないだろう!」
「キューッ! キュッキュゥウー! グギューッ、ギュッギャウッ!」
ああっ、あまりの剣幕にロクショウの声だけが準飛竜に。
でもそういえばそうでしたね、メイド服姿でいる自分が気持ち悪すぎて頭からすっぽ抜けてたけど、俺ってばこっちの世界じゃメスだったんだったね……。
というか俺よりメスっぽくて可愛いリーブ君がいるから、こっちは女装メイド的な感じで全くそういう事を意識してなかったよ俺は……そりゃ怒るわな。
でも俺のメイド服姿に興奮できるのなんてアンタらしかいないってマジで。
お客さんも冒険者のおっさん達も別に何も言って来なかったんだぞ。ケシスとかいう冒険者には嬢ちゃんて呼ばれちゃってたけどさ。しかしアレだってブラック達みたいにスケベな波動なんて感じなかったし……。
「……誰も興奮もやらしい目も向けて来なかったのに、警戒する必要あんのか?」
「ツカサ君の分からず屋っ、無自覚色気巻き散らかし! でもそこが興奮する!」
「……ツカサ、お前も異世界ではオスだったのなら覚えがあるだろう……」
クロウが深刻そうな無表情で近付いて来て、俺の両肩を軽くつかむ。
そうして、橙色の瞳をギラリと閃かせて眉間に皺を寄せた。
「メスの体を見たいとは思いつつも、がっつり見て『いやらしい!』と嫌われたくはないから、表面上は興味が無いフリをしつつチラ見することがあるだろう!!」
「ある!!」
ビシャーンと雷に打たれたような気がするのは気のせいだろうか。
いやきっと気のせいではない。俺の男としての本能に電流が走ったのだ。
確かに、言われてみればそうだ。すんごく魅力的なナイスバディのお姉さんがいる時は、ついつい視線が行きつつも「あっ、痴漢じゃないのかと思われちゃうの怖いな」などと小心者な考えをしてしまい、ガン見出来ずに盗み見のような真似をしてしまうんだよな。いやだって、視線だけでもセクハラなんて言われる時代ですし……。
すんごく魅力的でも、やっぱり肉食系みたいには出来ないよな。そもそも俺、陽キャじゃなくてオタク丸出しの陰キャだし。絶対警察呼ばれるし。
でも、女体に対する憧れは捨てきれない俺としては、どうしても素直なスケベ心が抑えきれず見てしまう。魅力的な物はどうしても俺を引きつけてしまうのである。
……そう言う所がスケベ猿と言われるんだろうが、そこは置いといて。
クロウの言う事は間違いないと頷いた俺に、相手はギュムゥと音が出そうなほど口を引き絞ると、モゴモゴと動かす。
「ツカサ、そういうことだ。お前はこの世界ではメスだ。美味そ……いや、実に魅力的な肉……魅力的な肉体を持つメスなのだ」
「クロウおまえだいぶ失言してんな」
「だから、お前が気が付かないからと言っても、いやらしい目を向けられている事などごまんとあるんだぞ。オレ達がいない場所でどれだけ視線で穢されているかわからない……ぐぅう……許せん……」
さすがに部屋ではバンダナを取っているクロウは、何が悔しいのか頭の上の熊耳をモサモサと悩ましげに動かしているが、そんな事をされても可愛いだけだ。
くそっ、お説教かと思ったら俺に久しぶりの熊耳を見せつけてるのか!
そんな事をされたらモフモフに飢えている俺の手が伸びるだろうが!
「ハァ……ツカサ君ってば本当いつまで経っても危なっかしいと言うか、婚約者として気が抜けないっていうか……」
「キュ~」
こらこらそこ、俺が悪いみたいに言うんじゃない。
ロクちゃんも「気持ちは分かるよ」と言わんばかりに小さなお手手でブラックの頭をポンポンするんじゃありませんっ。キュンとしちゃうでしょうがっ。
けどまあ、心配されているのは分かった。
言われてみれば、付き合ってるヤツが周囲の男からそういう目で見られるのはイヤだよな。別に嫉妬心が強いワケじゃない俺だって、可愛らしい彼女がいたとしたら、何見てんだコラと有象無象の男どもを睨んだかもしれない。
まあ俺の実際のツレはガタイの良いオッサンなので、どっちかというと女性にもてるブラックに嫉妬して睨むんだけどな。でも例えとしてはこういう事だよな。
だったら、俺が他のオスにやらしい目で見られてるかも……と考えて二人がギャーギャー言うのも理解出来なくはない。
つーかそもそも前にも同じような事を言われてるしな。もうちょいメスの自覚を持てとか何とか。アレには、オスの目に気を付けろと言うのも入っていたのだろう。
……とは言え、実際何も感じないんだから仕方ないような気が……。
「つーかさ、俺は気配に聡いワケじゃないし、気を付けろって言ってもチラ見ムッツリな感じじゃどうしようもないぞ。それに人をそう言う目で疑うのって失礼なんでは」
「ツカサ君が考えてる以上にオスは性欲に素直で危険な存在なんだよ……!」
「いや俺も一応別世界のオスなんですけどね……って、今はそんな話をしてる場合じゃないだろ! 視線が云々とかの話じゃなくて、リメインの話だろ!」
何故話が脱線するんだと慌てて元のレールに戻すと、ブラックは不満げにぷくっと頬を膨らませながら、カワイコぶった感じで口を尖らせた。
「一緒みたいなモンじゃないか。あいつ絶対ツカサ君の事をやらしい目で見てるよ。絶対に手に入れたいとか思ってるよ」
「お前なあ……会っても無い人の事をよくそんな……」
「大体わかるよ。だって……あいつの所から戻ってきたツカサ君に……白の曜気がいやらしいくらいまとわりついてるもん」
「え?」
どういうこと。まとわりつくって何?
白って……金の曜気だよな。
それが俺にまとわりついているって、そんなことなんてあり得るんだろうか?
目を凝らして視ようとしてみたけどそれっぽいモノは何も見えない。どういうことだと思わずクルクル回転してしまう俺に、ブラックは立ち上がって近付いてきた。
不機嫌そうな顔がすぐ近くまで来て見上げると、相手は唐突に俺に抱き着く。
と――――俺の体にくっつけて来た胸を、一瞬息を吸って大きく膨らませると気合を入れて「ふっ」と俺の耳元で息を吐いた。その、刹那。
「うわっ!?」
曜気を“視”ようとしていた俺の体から急に眩い白の光が立ち上ったと思った瞬間、それらが霧散し光の粒子だけが周囲にチラチラと舞った。
まるで光る雪のようだ。つい手を伸ばして雪のような光を取ろうとすると――触れた瞬間に、言いようのない違和感を覚えた。
「ツカサ君、わかる?」
「んん……なんか……馴染む時と、馴染まない時が有る気がする……」
舞う白い光の粒子は、どれも同じ物に見える。
だが、触れる肌に言い表せない違和感を感じるのだ。
特に意識しないで触れられる場合と、少し抵抗がある場合がある。これがどういう事なのか判らないでいると、ブラックが何故か得意げな顔をして教えてくれた。
「ふふふ……その違いはねツカサ君、君が普段受け入れている曜気と、そうでない物だからさ。すんなり触れられたほうは、僕の金の曜気。ツカサ君は僕に曜気を渡す時に無意識に僕の体内の曜気も感じているから慣れてるのさ。それに……」
「……?」
急にいやらしい顔をしたブラックに怪訝な顔をすると、相手はヨダレでも垂らしそうな顔をして、俺を更にぎゅうっと抱き締めて来た。
「それに、ツカサ君はいつもココで、僕の二つの曜気を受け入れてるでしょぉ? ふ、ふへへっ、だ、だからぁ、ツカサ君は今の体質も相まって僕の金の曜気だけは体の中にすぅ~っと……」
「わっ、わーっわーっわー!! ロクの前で変なこと言うなあっ!!」
慌てて口を塞ぐが、ほぼ説明し終えてしまったブラックはニヤニヤ笑うだけだ。
ち、ちくしょうこのオッサンめ……ケツ揉みながら何を言うかと思ったら……。
「んほほ、ツカサ君たら照れ屋さんだなぁ~!」
「ううううるしゃい! ケツ揉むなバカッ! と、とにかく……違和感があるのは、俺が使った曜気でもアンタの曜気でも無いってことだよなっ!?」
ケツの片方の肉を揉みまくるデカい手を必死に取り外して言うと、ブラックは「残念だなぁ」と言わんばかりの顔をしつつも頷く。
「ま、そういう事だね。……金の曜気は、他の属性の曜気を内包し保つ事が出来る。だから曜具や術を付加した武器みたいな特殊なモノが作れるんだ。その代わり……金の曜気は、こうして術者の意識が付着したまま残りやすい」
ちらほらと舞い続ける、白い粒子。
それを忌々しげな目で見て――――ブラックは、小さく何かを呟く。
瞬間、光の粒子が一斉にボッと火が灯り消え去ってしまった。
「う、うわっ!?」
「ツカサ君にも見えるように、わざと【フレイム】で燃やしてみたんだ。まあ……普通はセックスしたら他の奴のコナなんて消えるから、僕としてはセッ」
「付着してたのは分かったけど、これがリメインの物かどうかは分かんないだろ!」
また話がヤバい方に脱線しそうになった。
慌てて話を変えると、ブラックは再び不満げな顔をしながら片眉を寄せる。
「そりゃそうだけど、他に怪しい奴なんて居る? 現状、そのリメインとかいうヤツしか見当たらないじゃないか」
「でも、それは……冒険者達の中に、たまたまそういう奴がいたとか……貴族の中に居るとか……」
「食堂で一通り見て見たけど、金の曜術師なんて居なかったよ」
「だが、冒険者と言うのなら可能性はあるのではないか」
俺が劣勢だから……というワケでもないだろうが、クロウが冷静に言う。
そ、そうだよ。冒険者の中にだって、適性が低いけど金の曜気だけは纏っている人も居るかも知れないし、大体一般人だって使えないだけで何らかの曜気は体に取り込んでいるんだろう? だったら、リメインだけが怪しいってことはないはずだ。
今日は沢山の人に会ったし、それなら誰か特定も出来ないはずだ。
だから、リメインが……とか……ないはず……。
…………今日抱き着かれたのだって、俺を誤解していたとか言ってたし……何を誤解していたのかは結局聞けなかったが、その申し訳なさと感動した気持ちで抱き締めて来たっぽかったから、別に執着とかそう言うのじゃないよな。
俺に対しては気安かったけど、アレだって「怒るべき事にはちゃんと怒れ」とか、体を心配していた事に関して感謝したりとかの普通の対応だったし……。
そんな、ちょっと感動屋なだけの普通の人を、こういうことで疑いたくはない。
いや、完全に信じるってのは危ないのは分かってるけど、確かめもしない内にそうだと決めつけるのだって危険だろうからな。
クロウもそう思っているのか、ブラックに慎重に考えろと諭している。
いいぞクロウ、さすがはいつも冷静な熊おじさんだ。
「だけど、反対にリメインとかいう野郎がそうでない保証も無いだろうが」
「それもまた机上の空論だ。どの道さっきの金の曜気とやらがどこから来たのか把握しないことには、誰がオレ達のツカサに懸想しているのか解らんだろう」
「お前のじゃねえけどなクソ熊」
「ここは、再びツカサを送り出して確かめるべきだろう。相手が誰もいない時間に案内を頼みたいと言うのなら好都合だ。おびき出して叩けばいい。胡散臭い片目隠れ男の言うように悪い奴なら、まさに一石二鳥だ」
「無視か。殺すぞおい。……まあ現行犯で害虫を潰せるならいいけども」
ブラックは殺意満々だが、クロウの言う事にも一理あると思ったのか頷いた。
……どうも二人はリメインを疑いまくっているな。でも今の状況じゃ仕方ないか……やっぱりリメインに謝られて抱き着かれたって事は言わなくて良かったな。
業務上お客さんの事は喋れないって事はブラック達も分かっているみたいだから、深い所までは聞いて来ないのが幸いだった。
…………しかし名前や部屋番号は教えても良いのに、そういうお客さんの事情はダメってのも不思議なもんだよな……この世界の倫理観がよくわからん。
ともかく、話はまとまったみたいだ。
俺個人としては疑いたくないけど、ギーノスコーが言う「犯人ではないか」とブラック達が疑うのも理解出来るし、金の曜気の事を結び付けて考えたがるのも仕方がないと思う。それを俺が擁護したって、そんなのどうしても認められないだろう。
だとしたら、やっぱり……今夜確かめて納得させるしか方法は無い。
彼が、どちら側の人間なのかと。
「……じゃあツカサ君、今夜の事は……僕達もこっそり後をつけるけど、いい?」
「うん……」
何かが起こるとすれば、心強くは有る。
だけど……リメインが悪い奴だなんて、本当は思いたくない。
そんなことを思ったが、言えるはずも無かった。
――――――深夜。
完全に動力が停止してしまった船は夜になると真っ暗になり、明かりを無暗に使う事は出来ないとみんなが暗闇の中で眠りについている。
それは俺達従業員も例外ではなく、俺の世界の時間で言う九時ぐらいにはもう仕事を終えて、早めにベッドに入るようになっていた。
こうなってしまえば、もう眠るしかない。蝋燭も、非常用の水琅石のランプも、無限に存在するわけじゃないんだ。無駄遣いは出来ないから、誰もが動けずただただベッドの中で朝を待つ事しか出来なかった。
だけど、俺はそんな寝床を這い出してメイド服でソロソロと部屋を抜け出す。
夜目が効かない俺には困難な道のりなのだが、今回は闇夜に紛れて動けるロクが居るから、動くのもあまり不自由は無い。
従業員用の通路にまで辿り着くと、俺は【ライト】で周囲を照らして貴族専用の宿泊エリアへと向かう。昇降機も停止していて使えないので、非常用の階段をカンカンと音を立ててただただ上った。
「…………大丈夫かな……」
「キュ?」
つい呟いてしまう俺に、横を飛んでいたロクが長い首を傾げる。
その可愛い仕草に笑って、俺は知らぬ間に寄っていた眉間のしわを伸ばした。
「……何事も無く、終わるといいな」
「キュウッ」
ロクショウの元気のいい返事に少し救われながら、俺は階段を上り切る。
そうして――――静まり返っている件の区域に足を踏み入れた。
……俺の【ライト】の光で浮かび上がる豪華な廊下は、人の気配が無い。昼間は何とも思わなかったのに、何故か妙に怖気を誘った。
豪華すぎると、自然じゃないような気がして暗闇の中では怖く思えるのだろうか。
もしくは、悪夢の中の光景みたいだから背筋が冷えるのかも知れない。
だけどそんな事に怖がっているヒマはないのだ。俺はロクをエプロンの中に隠して、リメインの部屋へ早足で進んだ。
と……部屋の前に、誰かが立っている。
薄暗い空間にぼうっと浮かび上がるような金色の髪と青い瞳の、青年。
間違いなくリメインだと思い近付くと、相手は俺を見つけて近付いてきた。
「ツカサ。すまないな……こんな夜中に供をさせて」
「いや、大丈夫。リメインが外に出たいって言うなら、協力してやりたかったし」
そう言って見上げる相手は、隈も無く色艶の良い顔で薄く笑っている。
いつものリメインだ。元気になった相手は、普通に顔の良いお貴族様だった。
「ありがとう、ツカサ。……では、散歩をしに行こうか」
「どこに行くんだ?」
歩き始めたリメインに付いて、俺は顔を見上げる。
すると相手は、薄い微笑みを崩さずに答えた。
「機関部」
「……え……」
「気になるんだ。どうして停止したのか……。私は曜具には詳しくないが、少し知識がある。だから、もしかしたら何かわかるのではないかと思ってな」
「そ、そう……なんだ……」
急に、核心に触れるような単語を言うから驚いてしまった。
機関部には、金の曜気を動力にした巨大な【術式機械】があるのだ。それを動かすための、金の曜術師も居る。今は何故か消えてしまったみたいだが……間違いなく膨大な金の曜気が存在していた場所なのだ。
そこに行きたいって事は……まさかリメインも……。
「リメイン、あの……もしかして、俺と同じ曜術師なのか?」
問いかけると、リメインは笑む口の端を深く伸ばした。
「残念だが、違う。しかし、だからといって知識が無いとは限らないだろう。私が持つ知識が合致するのであれば、もしかしたら動力が復活するかもしれない」
「そ、そっか……」
これ以上、深く聞くのも怪しまれるかな。
そう思って言葉を切った俺に、リメインは立ち止まって手を伸ばしてくる。
何をするのかと思ったら、また俺の頬に手を当てて親指でさすってきた。
「……心配するな。私は……お前が困っていることを、なんとかしてやりたい。ただ、それだけなんだ。……それ以外にもう、私のすべきことはない」
「…………リメイン、それ、どういう……」
「行こう。夜は長いようで短い」
そう言いながら、先に行こうとする。
俺が【ライト】で照らしていなければ暗闇で何も見えないのに、リメインはその事に不安がったり怖がる様子も無い。ただ、堂々としていた。
「リメイン……」
なんだか、違和感がある。だけど、それが何なのか判らない。
俺がリメインの事をもっと知っていたら分かったのかな。そうしたら、こうやって半端に疑って申し訳なくなることも無かったんだろうか。
「どうしたツカサ、早く行こう」
「う、うん」
呼ばれて、俺はライトを片手にリメインの隣へ駆け寄る。
…………今は、感傷に浸っている暇なんて無い。
いずれ、全てはわかること。
何が有ったって、俺達の背後から付いて来てくれているブラック達が理解して、このリメインの言葉の意味すら解き明かしてくれるのだろう。
それだけは、間違いない。
だけどそれが……今は少しだけ、怖い。
――――どうか、なにごともなく終りますように。
無意識に祈りの言葉が頭の中に浮かんだが、それが戯言にしかならない事は、俺も充分に理解していた。
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