異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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豪華商船サービニア、暁光を望んだ落魄者編

12.その憩いもまた他人の手によるもの

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   ◆



 サービニア号は、獣人が住む大陸・ベーマスに向かう道すがら、幾つかの島に停泊することになっている。停泊の理由は燃料補給とのことだが、商人達からすれば目的は島民たちとの取引以外にない。

 実際、島に停泊する間は商人達も外に出て、従業員も交代制ではあるがその一日のほとんどが自由時間となるのだ。機関部の人達はそうもいかなさそうだけど、俺のような接客係はほぼ仕事が無くなるらしいので、商人がこの一日をどれほど重要視しているのかが深く理解出来ると言えよう。

 船に帰ってくるヒマもないくらい、島で色々仕事してるってことだもんな。

 リゾート船のごとく至れり尽くせりの設備で溢れている船より島の方が設備が良い、なんて事は、さすがにないだろうし……。

 ともかく、島が近付くと商人達もにわかに浮き足立つんだ。
 島に近付く汽笛の合図で一斉に部屋へと戻り、これから始まる島民達との商いに向けて鼻息荒く準備を始める彼らの姿は、ちょっといつもとは違う。

 なんというか、キリッとし始めるんだよな。
 商売など関係のない船の従業員から見ても、商人達の真剣な様子を見ていると、緊張感で身が引き締まるような感じがする。

 リゾートを楽しむ豪華客船みたいな船に乗ってても、やっぱりみんな商人……というか、仕事人なんだなあ。これがデキる大人ってヤツなんだろうか。

 俺も見習いたいところだが、俺がキリッとしても出来る事は限られているワケで。

「……下っ端はつらいなぁ……」

 人気のない更衣室兼休憩室でカートのお手入れをしながら、俺は溜息を吐く。
 さっきまで忙しそうだった厨房も、今はシンと静まりかえっている。食堂でお客さんの注文を待っているリーブ君含めたメイドさん達も、今はみんないなくなっていた。

 ……そう。
 今、ここに残っているのは俺ひとり。

 みんなどこかへ行ってしまったのである。

「まあ新入りが一番ワリを喰うってのはどこでもそうだとは思うけど……いくらキリッと仕事をするったって、お留守番じゃ張り合いないよなあ」

 汽笛が何発か発され、船が珍しく大きく揺れたと思ったら停泊したとの旨が入り、俺含めた接客係の面々は「休みが貰える、船から降りて観光が出来る」と沸いた時。
 当然ながら、自由時間についての割り当てがリーダーである厨房支配人から発表されたのだが……その時、俺は休みを貰えなかった。

 支配人曰く、下っ端は休みがなくて当然であり、他の従業員が帰ってくるまで掃除などの雑務をするものなんだとか。
 ……なので、俺は一人残されてカートを布で磨いて綺麗にしたり、更衣室のゴミやホコリをお掃除したりしているのである。もちろん、一人で。

 …………リーブ君も本来なら俺と一緒に雑務を行うはずなのだが、支配人によると「リーブ君は優秀でお客様にも人気が有るので、その功績による労いのために特別に休みを入れてあげた」のだそうで……ここには居ない。

 かなり嫌われてるのは感じていたが、ここまで露骨だとちと落ちこんでしまう。
 リーブ君と比べて、俺はそんなに残念な仕事ぶりだったのだろうか。

「はぁ……どうすりゃ認めて貰えるんだかなぁ……」

 ぼやきつつ、俺は木桶に満たした水に布を突っ込む。
 贔屓がどうのって話だけならこんなに落ちこまなかったんだが、今回は自分の働きが支配人には「褒めるべきものではない」と思われているのが解って、ちょっとばかし気落ちしてしまっているのである。

 例え嫌いな相手だって、仕事が出来れば人は一定数評価してくれるものだ。
 俺はそう思っているので一生懸命に客室係を頑張って来たのだが、どうやら支配人の心には響かなかったらしい。

 …………まあ、俺の頑張りってブラックに毎日その……アレしたりとか、不機嫌顔美青年のリメインにお酒やおつまみを運んだりって感じで、支配人からすると内情が見えない頑張りだったんだもんな。
 そりゃ評価しろってのも無理な話だが、初回でお酒を掛けられた所から挽回してる所だけは汲んでほしかったな……。

「はー……俺も島に降りてみたかったなぁ……」

 人数分のカートを綺麗にし終えて、木桶を厨房へと運ぶ。
 桶の中の水に浮かぶ布を見ると、やっぱり今停泊している島が気になってしまい、俺は洗い場に桶の水を流すと布を洗いながら溜息を吐いた。

「大陸から離れた島ってことは、なんか人族の大陸とは違う所が有るかも知れないし、それにベーマスに近いってことはさらなるケモミミ族がいるかもしれない……」

 俺は今まで人族の大陸か、そこに近い島にしか行った事が無かったので、大陸と離れた外海の島の情報など聞いた事が無い。
 東には日本っぽい島国や中華っぽい国があるらしいんだが、南方面の島々となると、まったく情報が無くてかなり気になっていたのだ。

 だから、俺も休みが貰えるならブラック達と一緒に……なーんて思ったんだがな。
 まさか一時間も休みが貰えないなんて思っても見なかったぜ。

「こりゃベーマスに到着するまでこのままなんじゃないのか……」

 考えて、つい気が重くなる。

 だがそうやって悪い方向にばかり考えるのも体に悪いと思い、俺はブンブンと頭を振って出来るだけ前向きに考える事にした。

 まあ元々この仕事はリーブ君の借金をチャラにするための仕事なんだし、帰りの船ではこんな風に仕事をすることもないはずだ。そう考えると、この体験も貴重なのではないだろうか。それに、仕事に関しては今我慢すればいいだけだし、島も別にすぐ見なきゃってコトもないんだから、焦る必要はない。むしろ、ここで客室係……というか給仕のお仕事をマスター出来れば、いつか「潜入捜査だぞ!」となった時に、このスキルを利用して給仕係に紛れることも出来るのではなかろうか。

 そう考えれば、仕事にも張り合いが出てくる。
 なにより、人にモノを届ける仕事は何だかんだで楽しいしな。商人さん達もなんだか優しくしてくれるし、リメインさんとも打ち解けたし……まあ、支配人とは色々あるが、仕事は楽しいので今の状況もあまり気にしないようにしよう。

 気持ちを切り替え、俺は厨房の掃除でもやるかと腕まくりをした。と……従業員用の通路がある方のドアが開いた音がした。
 誰だろうかと思ったら、なんとナルラトさんが入って来たではないか。

「あれっ、船から降りたんじゃなかったんですか」

 驚いて先に問いかけると、相手は何だか複雑そうな顔をして頬を掻く。

「いや……。買い出しはもう終わったし、別にそれ以外で用事もないしな。あと……やっぱお前だけ留守番ってのも……」
「あっ、もしかして心配してくれたんですか」

 俺一人では何かと大変だと思って戻って来てくれたとか!?
 だとしたら優し過ぎるよナルラトさん。さすがはラトテップさんの弟さん……。
 兄弟揃って頼れる人だなぁと思って相手を見やると、ナルラトさんは目を逸らす。

「まあ……うん……お前一人じゃ何かやらかしそうだし……」
「そっちの心配!?」

 確かに俺一人じゃなんかポカやらかしそうですけども!!
 でもなんか悲しいっ。

「あーもー、とにかく厨房の掃除は俺がやっとくけん、お前はちっと休め!」
「ええっ、やっぱり俺が何かやらかしそうだから……」
「違う違うっ、いーから息抜きしろっての! お前……その……あのクソ支配人に、目の敵にされて色々嫌がらせされてるみたいだしよ……」

 あ、やっぱりナルラトさんから見てもそんな風に見えるんだ……。
 いつも支配人に対して怒ってくれるから、俺を庇ってくれてるのは分かっていたけど、やはりいじめみたいに見えてたんだろうな。

 そうか……。だから、ナルラトさんは早く帰って来て俺を休ませようとしてくれているのか。やっぱ優しいんだなぁ……。

「ナルラトさん……」
「だーっ、そんな目で俺を見るなっ。良いからさっさと行けっ」

 顔を真っ赤にして照れるナルラトさんにちょっと「可愛いな」と思いつつ、俺は素直にご厚意に甘える事にして厨房から出た。

 ちょっとズルしてるみたいで気は引けるが、休みたいと思うのも事実だったので俺は従業員用の部屋に戻って普段着に着替える。せっかくなので、この空き時間で船の中を探検したい。いや、その前に、ブラックの部屋で一緒に待機しているロクショウにも会いたいな。仕事ばっかりしてたし、ブラックの部屋に行った時は大概、その……アレしてたから、ロクショウには会えなかったし……。

 ともかく、ブラックとクロウがいる部屋に行こう。
 そう思い、俺は従業員用の通路から迷わずお貴族様専用のフロアへ向かった。

 ふへへ……これからロクショウといっぱい遊ぶんだ……。あ、でも、ブラック達も島に降りてたりしないよな。すれ違ってたらどうしよう。
 そんな事を思いつつ、ブラック達の部屋の扉をノックする。
 ――――と、ややあってドアが開いた。

「あっ、ツカサくぅんっ! 会いたかったよぉ~!!」
「わあっ!」

 扉が大きく開いた瞬間、でっかいオッサンが手を広げて襲いかかってくる。
 俺はソレを慌ててしゃがみ回避して、そのまま部屋の中に入った。

「ううん、ツカサ君のいじわるぅ」
「意地悪ぅ、じゃねーよ! なんで来て早々抱き付こうとするんだ!」
「だって三日間もツカサ君にちゃんと触れられてないんだよ!? そりゃ抱き着いて髪をクンクンしてぎゅってしてツカサ君のお尻に股間をすりつけるくらいしたくなるってもんじゃないか!」
「いやお前なに言ってんの!?」

 髪とかギュッとかは分かるけど、その後なにをしようとしてんだ何を。
 毎日あんな事してるくせに、なんでそんな……そ、そんな……。

「あっ、ツカサ君まっかになってる~。可愛いなぁ……ふ、ふへへっ……」
「だから抱き着こうとすんなって!」

 白いシャツとスラックス姿のブラックは、しっかりとドアを閉めるとまた俺に近付いて来て、今度は逃すまいと抱きついて来る。
 ……そ、そう言えば……こうやって抱き着いたりされるのも、久しぶりかも……。
 仕事中だからってんで、必要以上に触れ合わないように俺が警戒してたんだよな。だから、その……こうやって抱き着かれると……。

「ムゥ、ブラックばかりずるいぞ……オレも暫くツカサと触れ合えてないというのに」
「キューッ! キュッキュキュゥ~!!」
「あっ、クロウ、ロクショウ!」

 ブラックに捕まったと思ったら、別の部屋からどやどやと一人と一匹が出てくる。
 久しぶりのような感じがする二人に手を伸ばすと、ロクショウが先に俺の胸に飛び込んできた。クロウも同じように抱き着こうとするが……ブラックに阻止される。

「お前は来るなクソ熊ッ! お前と密着するなんてごめんだ!!」
「それはオレもだぞ。早くツカサを離して抱き着かせてくれブラック」
「微塵切りにして魚のえさにすんぞ駄熊が」

 ああいつもの容赦ない暴言……三日ぐらいしか離れてないのに、この言い合いも何だか懐かしいように思えてくる。
 なんだかんだで俺も寂しかったんだなあ……。ああそれにしても久しぶりのロクのツヤツヤで冷たくて気持ちのいいボディがたまらん。こんな可愛くて素晴らしいトカゲヘビちゃんなんて無限にナデナデしちゃうじゃないかっ。

 ブラックに抱き着かれたまま、小さくて可愛いロクの頭を優しく撫でると、相手は目を細めて気持ちよさそうにキュウキュウと鳴いてくれた。
 ぱたぱたと嬉しそうに揺れる尻尾がまた可愛らしい……くぅうっ、やっぱり俺のロクは世界一可愛いヘビちゃんだ……!

「もぉ~! ツカサ君ってば僕にも構ってよぉ!」
「オレも頭を撫でてほしいぞツカサ」

 ああもう前後からオッサンが煩い。
 だけど俺は今なんだか凄く気分が良いから、素直にかまってしまいそうだ。

 それも……やっぱり、久しぶりにブラック達とゆっくり話が出来たからなのかな。
 考えて、どれだけ恋しかったんだ自分はと思い、分かりやすい己の感情がなんだか恥ずかしくなってしまった。











※:(;゙゚'ω゚'):おおお…遅れてしまいました…すみません…
 なんかすごい雨が降ってるのがこわい…!!

 
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