異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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港地区ディナテイル、情けは人のためならず編

4.思い出すのは約束ばかり

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 今回の俺は、なんてったって張り切っている。
 何故なら、この俺の肩には可愛くて強くてやっぱり可愛いロクショウが黒蜥蜴ちゃんモードでちょこんと乗っているからだ。

「ロクぅ~~、一緒にお船に乗ろうなぁ~」
「キューッ! キュッキュ~!」

 さっきまでは強くて格好良くて可愛い、巨大な準飛竜の姿だったロクショウも、街に近付き徒歩で移動する今となっては姿を変えている。
 その姿こそが、いじらしくて可愛い俺のロクの黒蜥蜴ちゃんモードなのである。

「ツカサ君って、ほんとロクショウ君ならどんな姿でもいいんだねえ……」
「ムゥ……うらやましい……」

 後ろでオッサン達が何やら言っているが、ロクの可愛さを湛えているのだろうか。
 ふふふ、そうだろうそうだろう。俺のロクは頑張り屋さんで可愛いからな。
 最初の時と姿は変わってしまったが、それでもロクは俺の大事な相棒なのだ。
 しかし……考えてみると、最初にハーモニック連合国の首都・ラッタディアに来た時のロクとは随分違っちゃったな。

 【ダハ】の頃のヘビ姿を模しているとはいえ、小さく変化するのにも限界があるらしく、コウモリのような翼や小さい手としっかりした足は残ってしまっている。色も緑青色ではなく、特殊な準飛竜である証の漆黒の鱗だ。でも、その姿がまた可愛い。
 俺と一緒に旅をする為に修行をして、肩に乗りたくて一生懸命【変化の術】で小さくなってくれているのだ。このいじらしさは、どう考えても最高に可愛い。

 まっ、姿が変わってもロクは可愛いし、何度目かのラッタディアも、おニューなロクと一緒に歩くとまた味わいが違って来るだろう。

「あのさツカサ君、急ぐ旅だってわかってる? ロクショウ君とお気楽道中みたいな話じゃないんだよ今回は。そんなにウキウキしてたらダメなんだからね」
「ブラックがそういう真面目な事を言うとは思わなかった。明日は雪か」
「テメェこのクソ駄熊皮剥いで商人に卸すぞゴルァ」

 あーまた変な事で喧嘩する……まあでもこの程度なら、ブラックとクロウはオッサン同士でじゃれあっているみたいなもんだし無視してもいいか……。
 男同士でじゃれあってどうするんだとは思うが、仲が良いのは良い事だしな。

 特段気にせず前方を見やると、乾いた大地に敷かれた街道の先に巨大な都市が見えてくる。俺の世界のように、高層ビルが群れを成して建っている……なんて感じではないんだけど、でもそこそこ背が高い建物や、街や村とは違う建物の広がりには何となく鳥肌が立つような感動を覚える。

 俺の世界の巨大な古代都市も、繁栄していたころは旅人達にこんな風に驚かれていたんだろうか。昔の時代って、人口が集中する都市がたくさんあったわけじゃないんだもんな……。そう思って巨大な都市の広がりを眺めていた俺だったが、ふと今更気が付く事がありブラックに振り返った。

「なあブラック、今更な質問なんだけど……なんでラッタディアは街を守る壁みたいなモンがないんだ? ライクネスですらあったよな、街を守る壁……」

 そう問うと、今さっきまでクロウに怒っていたブラックはパッと顔を明るくして俺の隣に付いて来る。

「えへへ……それはねツカサ君、ハーモニック連合国は名前の通り色んな部族が国として固まってるんだけど……その部族達が協力してモンスターを狩って、首都まで来ないように監視してるんだ。そのおかげでラッタディアには囲いが無いってワケ」
「なるほど……そういやハーモニックって色んな部族の長老が集まって国を動かしているんだっけ……ホントに所変わればって感じなんだなあ」

 部族の長老たちが国を動かす政治を……って、なんかイメージが湧かないというか妙にチグハグな感じを覚えてしまうんだが、それは俺が部族と言うものに対して砂漠の凄い一族とか密林のハンター集落とか、そういう「人里離れた凄い集団」みたいな想像で凝り固まっているからかもしれない。
 部族だからって、政治しないってワケじゃないだろうしな……。

 うーむ、俺にはお国の事はよく解らないが、とにかく安定している国ってことは確かなんだろうな。そうでなければ海の向こうに船なんて出せないだろうし。
 ……そう考えて、俺はふと他の二国を思い出した。

 一つは、東側北部のベランデルン公国。こちらは、常秋の国で実り豊かだからか国が安定しており、和風の国ではないかと俺が睨んでいるヒノワという島国や、魚釣りの師匠であるファラン師匠の故郷であるシンロンへも近いと言う話だった。
 そしてもう一つは……あまり思い出したくはない、プレイン共和国だ。罪悪感と言うアレもあるが、あの場所でのことを思い出すと今でも体が震えて来るので、あんまり思い出したくない。そちらも確か……ベーマスへの船が出ていたはずだ。

 いよいよベーマスに行くとなると、プレイン共和国での悪夢と同時にあの人のことを思い出してしまう。なんの見返りも無しに俺を助けてくれた……鼠人族の獣人であるラトテップさんのことを。……正直、いまでも忘れられない。

 弟のナルラトさんは気にするなと言ってくれたけど、でも出来る事なら、ナルラトさんが言っていたように彼の故郷に行って、ラトテップさんが俺を救ってくれた事を話して聞かせたい。それくらいしか俺には出来ないけど、ラトテップは喜んでくれるとナルラトさんが言っていたから。

 だから、ベーマスの王様から無事に【銹地の書】を受け取ったら、どうにかして鼠人族の里を見つけたい。ナルラトさんの口ぶりだと、王様なら知っているみたいな感じだったんだけど……暗殺稼業って言ってたから、教えてくれるだろうか。
 ああそれにラッタディアで頑張ってキャバクラをしていた獣人のお姉さん達にも会いたいし、クロウの家族にもちょっと会ってみたいし、なんだか予定が詰まってて、いまから大変だ。グリモアを受け取ってすぐに帰らなきゃ行けないんなら、ちょっと旅程を考えなきゃな……。

「ツカサ君? おーい、また一人の世界に入っちゃったのー?」
「ハッ! い、いや……ベーマスに行ったら、行きたい所が有るなって思って」
「今からそんな話ー? まあそれは船の上で決めればいいじゃない。どうせ船の旅は二週間ぐらいかかるんだしさ」

 暢気にそう言うブラックだが、俺は予想外の距離に思わず驚いてしまった。
 に、二週間!? 初耳なんですけどそれ!

「ちょっ、べ、ベーマスまで二週間もかかるのか!?」
「そうだよ~。燃料と食料の補給のためにちょくちょく船が島に寄るからね。それに、ベーマス行きの船は商船だから途中の島々と取引をする時間も要るんだ。ツカサ君の世界だとそうじゃないの?」
「え!? え……うーん……そういう船もある……のかな……? 俺、自分の国からまったく出たことなかったからわかんないかも……」

 言われてみると、そういうもの……なのかな……?
 燃料補給は分かるけど、商売をする時間も必要だとは考えつかなかった。でも、昔だと大航海時代とかはそうだっただろうし、そう考えると俺の世界でもそう言う感じで船を動かしているのかもしれない。
 しかし、良く考えると俺、船の事なんも知らないんだなぁ……。

 フェリーとか何度か乗った事が有るし、この世界でも海賊船やら曜力艦という凄い戦艦に乗ったりとかしたけど、考えてみれば普通の船は全然乗ってない気がする。
 そうなると……これはもしかして俺にとって初めての船旅になるのだろうか。
 異世界で船旅……むむ……なんかすごく豪華な気がする……!
 まあ船のグレードとかは度外視だけどな!

「ともかく、のんびりした船旅になるってことだな!」
「ツカサ君のそういうバカみたいに簡略した考え方好きだよ」
「褒めてるのかそれ」
「キュー!」

 クロウさんもっと言ってやって。
 でも「ツカサはバカじゃないもん!」ってぷんすか怒ってくれてるロクが可愛いから、もう全部許しちゃう。ロクの神がかり的な可愛さに免じて許しちゃう!

 そんな俺にブラックは呆れ顔だったが、ロクの可愛さに負けたのか溜息を吐くだけで何も言い返してこなかった。ふふふ、よくわからんがとにかく良し。
 というワケで、俺達はラッタディアに入り、今回は栄えている中央エリアに向かわず港の方へと足を運んだ。

「そういや俺、ラッタディアの港って初めて来るかも……」

 海沿いには行ったような気もするが、ちゃんと船が発着する場所に行くのは初めてだったかもしれない。港と言ったらランティナが強烈な思い出過ぎてなあ。
 そんな事を考えつつ、ブラックとクロウと一緒に他愛ない話をしながら海の方へ足を進めて行くと――四角いブロックみたいな土壁の家が群れる先に、レンガでキッチリ舗装された区域が表れた。と、同時に右側に青くきらめく地面が見える。

「わっ……海だ……!」

 嬉しくなって思わず声を上げると、ブラックが横でクスッと笑った。

「ツカサ君、海も好きだよねえ」
「だって、太陽ギラギラの暑いトコの海って『夏だ~!』って感じするじゃん! なんかこう……遊びたいって言うか泳ぎたいっていう感じになっちゃうよな~!」
「ツカサは泳げないのではなかったか?」
「うぐ……い、いや、気分的にね!?」

 イヤなことを思い出させるなあクロウは……まあでも事実なので仕方ない。
 でも俺だってビート板やうきわがあれば泳げるんだからな。最終兵器として、泳ぐと言うか、仰向けで浮いて足をバタバタさせることぐらいは……。

「安心してよツカサ君。いざとなったら僕が抱えて泳ぐからさ」
「キューッ! キュッキュー!」
「オレも熊の姿なら背中に乗せられるぞ」
「う、うぅ……ありがとう……」

 三人が俺の事を助けてくれるつもりなのは凄く嬉しいんだが、良く考えたらこれって俺がダメダメだって確信されてるってことなのでは……。
 うう、三人の優しさと頼もしさがつらい。でもロクは可愛い。

 勝手にダメージを受けつつ、俺達はレンガ敷きのエリアに入る。すると、先の方に徐々に建物が増えて行き、波止場らしく船のロープを掛けるやつ(ブラック曰く【係船柱】というらしい)が等間隔に見えてきた。
 遠くには、人の影と船が見える。ここがラッタディアの船の発着場か~。

 せわしなく働いている海の男達を見ながら、俺達は船に乗るための手続きをする為の場所に向かう。ブラックが言うには、港の中心街に受付所があるらしい。
 このエリアは、主に船旅をする客人のための宿や交易をする商会のオフィス、それに倉庫などが並んでいる一般市民があまり来ない場所だ。

 そのせいか、後ろ暗い奴も潜んだりするらしく、ちょっと危ないところもあるらしい。
 港に悪人……ううむ、なんだかハードボイルドな感じだな。

「ツカサ君、ここは一見して安全そうな場所だけど……危ないところもあるから、絶対に僕から離れちゃだめだからね?」
「う、うん……」

 そう言われるとなんだか急に緊張してしまい、ブラックの横から離れないようにして早足で歩く。そんな俺に、ブラックは何故か満足げな顔で笑っていた。













※ファランは第一部【港町ランティナ】編で登場。
 シンロンとチェンホンは中華・アジア系の国です。
 
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