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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編
19.幕間は次へと繋ぐ
しおりを挟む――――あまり思い出したくない、エグ味のある診察から三日後。
結局アドニスには「ほぼソレが原因だと思うが、しかし断定するには早い」ということで、俺は毎日の演技の練習の後に、ブラックと、その……色々、人目を憚るアレなことをしていた。
いや、そうは言っても、もう、あの……の、飲んだりとかはしてないからな。
アレを毎日させられるのは流石に俺も辛いとアドニスに泣き付いて、やっとのことで「じゃあ唾液とかで」という譲歩を引き出したんだ。
じゃあって何だじゃあって、と思ったが、余計な口出しはすまい。
だからもう、あ、あんなことはしてねーんだからな!!
……ご、ゴホン。
そんなワケで、俺はここ数日ひいこら言いつつブラックとコソコソ庭園の陰でキスをしたりして、体調の変化を逐一確認していた。
正直、いくらアドニスやクロウと離れた場所でキスをしても、二人が「こいつら今キスして来たんだな」みたいな真顔で見られるのは物凄く恥ずかしいし、やってくるたびにブラックがニヤついているのも如何ともしがたい。
だけど、これは俺にとっては重要な事なのだ。今後ともブラックと一緒にいるために不安要素はハッキリさせておかなければならない。
だって、その…………一緒に居る以上は、え、えっちとか、するし……。いきなりとか変なタイミングでヤられるのは俺だってイヤだけど……その……それ自体は、ヤじゃないし……。俺だって、恥ずかしいだけでその、ぶ、ブラックとの……う、うう、ゴホンゴホン! とにかく、そういうのもあるから、ハッキリさせなきゃだめだからな!
…………閑話休題。
だから、俺も恥を忍んでブラックと少々知られるのが恥ずかしいキスをしたのだ。
なんか、相手の液体だのなんだのと言うから、ディープキスというかなんというか……お、思い出したくない。漫画とかだと別に何も思わないのに、なんでいざやるとなると物凄く恥ずかしくなるんだろう……いや、ブラックとするのがっていうか、その事に俺が過剰に反応してるのが、じゃなくて!
いかんいかん、また何か変な風に考えちまった。そんな場合じゃなくて。
ともかく、ブラックとそういう事をしたりして、アドニスに診察をして貰っていたのだが――――今日も今日とて、アドニスの返事は「経過観察ですね」だけだった。
まあそりゃ、何回も試して「確かだ」と思えて報告してこその実験なんだろうけども、俺としてはそれがじれったくてたまらない。何より、この状況でブラックと毎日ちちくりあってるのが耐えられそうになかった。
だ、だって、二人きりとかならいいけど、ここ野外だし! 人が知ってるしぃ!!
【鎮魂の庭】だってのに全然気持ちが静まらないんですけど!?
でも診察して貰ってる手前、アドニスにはそんな事も言えないし……ああ、どうか早めに原因が確定してくれ。
そんな事を思いつつ、俺は熱くて鬱陶しい頬をごしごしと擦りつつ庭を戻る。
昨日、クロウが「すごく啜られていたようだが、ちゃんと唾液を飲み込めたのか」なんて凄く恥ずかしい事を言いやがったので、今日は少し遠くに移動したのだ。
それで、今までキスしてたんだけど……。
はぁ……獣人のすごい聴覚をこんな所で厄介だと思うなんてな……。
「ぅぐ……」
「あは……ツカサ君たら、ほんと可愛いなぁ」
こっちが落ちこんでいるというのに、隣にいるオッサンは上機嫌だ。
可愛くないとツッコミたかったが、直球でそう言われると言葉がつっかえる。
喉を意識すると、ブラックとのキスで自分がどれだけ相手の液体を受け入れていたのか知ってしまって、動揺がとまらなくなった。
今まで意識してなかったけど、簡単な触れ合いですらこれほどだったんだなと思うと、改めて自分が「どういう行為をしていたのか」を考えてしまい、もうなんだか今すぐに逃げ出してしまいたくなる。
でも、そう考えようとする前にまた抱き締められてしまい、逃げられない。
さっさと歩けばいいのに、俺は軽々と体を浮かされてしまい、思うように動けなくなってしまっていた。
「ぶ、ブラックこらっ……!」
「んん……ツカサくぅん……」
やめろと手で突っぱねようとするのに、深く抱きこまれてそれも叶わない。
まだ広場から見えない位置だからか、ブラックは調子に乗って、俺を抱き締めたままで頬や耳に軽く口で触れて来る。そのたびに髪の毛のふわついてむず痒い感触と、無精髭のちくちくとした刺激がやってきて、我慢すれば良いのに反応してしまう。
そんな俺にブラックは「ふふ」と軽く笑って、腰に回す手を更に伸ばしてきた。
また、深い所まで体が押し付けられる。
「ぶ、ブラック……もういいだろ、その……」
「ホント……本当にツカサ君てば、僕の唾液で回復してるんだねえ」
「うぇっ!?」
急に何を言うんだと顔を上げると、ブラックは口を大きく笑みに歪めていた。
その満足げな様子に思わず停止すると、相手は額にキスをしてくる。
「なんか嬉しいなぁ……。僕の中にツカサ君の気があるのもイイけどさ……僕の気がツカサ君の中にあるのって、すごく幸せな気分……」
「……そ、そんなもん……?」
今のところ、ブラックが疲れたりとかそういう事は無かったけど……俺の異常って、要するに相手の気を吸っているようなモンだから、こっちとしては心配だ。
サキュ……いや、この場合はインキュバスだろうけど、この世界で言う「人が持つ気」というのは、俺の世界で言う精気みたいなもんだろう。
それを俺が取り込んでいるんだから、考えてみればヤりすぎてブラックの体が何か悪い異変に見舞われるんじゃないかと心配なんだけど……。
でも、ブラックはそんな事など気にもせず、ただニコニコと俺を見ていた。
「ツカサ君のナカで、僕の気が消えずに溶け合っていて……ツカサ君の中を巡ってるんでしょ……? ……ふふ……それって、凄く興奮するよ……。僕の精液やキスで、ツカサ君自身の体を征服してるみたいでさ……」
「…………な、なん……んん……?」
征服って……どういうこと。勝ち負けみたいな感情?
よくわからないけど、でもブラックからしてみれば嬉しいのかな。
いやまあ、征服されたと思えば俺も微妙な気持ちになるんだが、ブラックが喜んでいるんならそれで良いんだろうか……俺としては、征服されたって言うよりも、相手の体力を奪ってしまってるような申し訳なさがあるんだけども。
今のところ健康だけど、この状況がいつ悪化するかも分かんないからな……。
俺だって、相手に曜気を与えたり【黒曜の使者】の力を発揮してぶっ倒れることが何度かあったんだから、ブラックもそうならないとも限らないじゃないか。
そうなるのは……いやだ。
いくら相手が喜んでいるからって、生命力みたいなモノを貰うのは怖いよ。
恋人だって、ゆ、指輪を貰ってるからって、危険が及ぶかもしれないと思うのなら「これは危険な事じゃないか」と止めようとするのは当然じゃないか。
俺は【黒曜の使者】ってチート持ちだし、無尽蔵の曜気をどっかから調達できるんだから、そういう心配もないし寧ろ人助けの為なら喜んで使うけど……でもブラックは普通に人族なんだぞ。どんだけ凄い力を持っていても、体力には限りがあるし体内の“大地の気”だって吸われる限界があると思うんだ。
そのことを気にせずに触れ合い続けたら、ブラックは倒れてしまうかも知れない。
……だったら……やっぱり、怖い。
ブラックを弱らせるような事をしてる自分が、許せない。
第一、俺はこんな風になる事なんて望んじゃいなかったんだ。
アンタとずっと一緒に居たいとは言ったが、アンタを取り込みたいわけじゃない。
例えアンタがこの状況を喜んでくれたとしても、俺は喜べない。油断してアンタを弱らせるのは、絶対にイヤだ。俺は、アンタがなんの患いも無く健康で、何の心配もなく元気でいてくれなきゃイヤなんだよ。
「えへへ……。ねえねえツカサ君、すぐ戻るのも勿体ないからさ、もうちょっとだけこうしてようよぉ。ねっ、イチャイチャしよ?」
「…………」
ブラックが嬉しそうな顔をするのは俺も嬉しいけど、でもこれじゃあなぁ。
……そうは言ったって、アンタは俺のことを恨みはしないんだろうけど。
「ん? どしたのツカサ君」
「……バカ……。お前の体調にも影響するかもしれないんだからな……」
オッサンのくせに、無邪気な笑顔を向けられても困る。
あまりに自分の体調を気にしないもんだから、無精髭でざりざりした頬に手をやり撫でてやると、ブラックは気持ちよさそうに口を緩めて目を瞑った。
眉をだらしなく上げちゃって、懐いた犬みたいだ。
でも、そんな大人らしくない様子にすら胸がぎゅうっと締め付けられるような感覚を覚えてしまって、俺は自分の感情を少し恥ずかしく思いつつ手を離した。
「ああん、ツカサ君もっとぉ」
「も、もういいだろ、戻るぞ!」
「ちぇー……しょうがないなぁ」
部屋に戻ったらもう一回イチャイチャしようね、なんてふざけた事を言うオッサンの腕の中から抜け出して、俺は伸びをする。
庭園は相変わらず綺麗で、ちらほらと花弁の雨が降っているのが素晴らしい。
本当に、こ、こんなとこで変な事しちゃって……ぐぅう……。
「ツカサ君、なんでまた顔真っ赤になってるの?」
「う、うるしゃいっ! 早くいけっ」
ブラックの背中を押して強引に戻ろうと俺は足に力を入れる。
もう今日の所は早く診察を終わらせて帰りたい。
そう思いながら、手に力を入れた。――――と。
『――――――』
……何か、思っても見ないような音が耳に聞こえたような気がした。
だけど、これは何の音だろうか。
「……?」
「どったの?」
「いや、なんでもない」
背中越しに振り返って来るブラックに首を振って、俺は再度足を動かす。
なんだか、聞き慣れない綺麗な声――――女性の声が聞こえたような気がしたんだが、ここはお城だしな。どこかの階で女の人が高々と笑ったのかも知れない。
それがかすかに聞こえたってだけだろう。
俺はそう思う事にして、ブラックと一緒に広場の方へと戻った。
……自分の思い直した事が、妙に納得できないような気持ちになりながら。
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