異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編

4.いや、そっちかよ

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   ◆


 街全体を守る巨大な壁、の中に存在するみのり豊かな農地、にかこまれた街、の丁度ちょうどはじっこ……つまりは街の入口と反対側の場所に、アコール卿国きょうこくのお城は有る。

 なんだかどっかの絵本を思い出しそうなマトリョシカ構造の都市だが、意外な事にお城は街と農地にはさまれた本当にはじの部分に建てられていて、守られている感じがしない。なんたって、背後はだだっぴろい農地だし……。

 しかし、それもまた理由があるんだそうな。
 ローレンスへい……さんいわく、壁が突破されても、城の三方に伸びている広い農地のおかげで迎撃の余地よちが出来て守りやすいのだそうで……俺にはよく解らない。
 まあとにかく、城の位置に関しても色々理由があるって事だな。

 ともかく、ローレンスさんの居城である【ゾリオン城】は、自然と一体化した街に馴染なじんだ城というわけだが……その外観は圧巻の一言だった。

「それにしても……なんというかファンタジーというかデコレーションというか」
「ツカサ君、何? ……何だって?」
「あ、いや……お城がすごい幻想的だなぁと思って……」

 お城の大きな扉の向こう側にある、舞踏会でも開けそうなほどに広い玄関にぼーっとって、俺は今一度馬車から見上げたお城の風景を思い出す。

 自然と一体化したどことなくお伽話とぎばなしの世界っぽさがある【ゾリオンヘリア】だが、その街に負けずおとらずお城もなんともファンシーな感じだった。

 この世界のお城と言うのは、横に広かったり城がいくつもドンドンとつらなってたりって感じの、土地を有効活用し過ぎなレベルでデカい建物だったり、強固なとりでや宮殿と言う感じの特徴的で俺の世界の城とはなる物が多いのだが、このゾリオン城は実に「俺の世界好み」のお城なのだ。

 例えるなら、シンデレラが舞踏会に向かうお城。もしくは英雄が凱旋がいせんするような、白亜の壁と尖塔せんとうがオシャレな王城だ。お伽話とぎばなしの造形そのままと言ってもいい。
 逆に言えば、がめっちゃあるってのが難点なのだが……それでも、実際に人が暮らしていて王様が居るとなると、何だかリアルでドキドキしてしまう。

 おあつらえむきにせり上がった小高いがけの上にあるのもポイント高し。
 今にもシンデレラがかぼちゃの馬車で登場しそうなんだよなぁ……ううむ、可憐かれんな美少女がドレス姿で出て来てくれるかもしれないと思うと心がおどる。

 だけど……自分が今こんな場所に居るとなると、場違いな上にアウェー感を感じずにはいられなくて。つーか、入り口で待たされるのが何か緊張しちゃうんだよ。

 俺とてこの世界の冒険者なので、何度かお城に入った事はあるけど……この世界のお城ってマジの王様が住んでる所だし、はしゃげないというかなんというか。
 調子に乗ってたら何か凄く怒られそうだし、そもそも今回の場合はご招待とかじゃなくて「お願い」があるから、俺達はお客ってワケじゃないし……余計に失礼が無いようにと固くなってしまうのだ。

 そんな俺の緊張を知ってか知らずか、ブラックは俺の言葉に「ふぅん」と興味の無さそうな声を出して、目を細めている。
 こんな場所でそんな風に気が抜けるなんて、豪胆にもほどがある。
 まあブラックもクロウも場馴れしてるからなんだろうけど、今はその豪胆さがうらめしい。俺一人でうわーうわーって驚いてるのがバカみたいじゃないか。

 ああでも緊張はするけどやっぱり素敵なお城って感じなんだよなぁ……。
 目の前にある輪を描くような左右対称の二つの豪華な階段だって、童話のアニメで見た事があるってな感じのヤツだし。宝塚的な人がおりてきそうだし。

 うーん、やっぱり俺達は場違いなのでは……などと思っていると、広間の横の通路から、使用人らしき人が近付いてきた。

「お待たせしました、こちらへどうぞ」

 ローレンスさんは国主卿こくしゅきょうなので先にどこかへ行ってしまっていたのだが、ようやく俺達も案内して貰えるらしい。しかしどこに行くのだろう。
 細かい模様にクラクラしそうな絨毯じゅうたんの上を歩きつつ、きらびやかな廊下を右に左にと曲がっていくと――――どうやら入口とは正反対の場所っぽい所に辿たどいた。
 でっかい扉が有るが、裏口ってワケじゃないよなぁ。

「こちらです」
「あれっ……てっきりこの扉から入るのかと思ったら小さなドア……」
「いわゆる関係者入り口ってヤツかな」

 なるほど、俺達は城に客として招かれたわけじゃ無いもんな。
 素直にシンプルな扉の中に入っていくと、落ち着いた色をした木造の狭い廊下が奥へと通じているのが見える。片側にしかドアが無いけど、どういう構造なんだろう。

 不思議に思いつつも、いくつものドアを越えて進んでいくと――――突き当たりに、両開きの扉がめ込まれているのが見えた。
 そこを開くと。

「…………ん? ここって……練習場……?」

 明るい木目の床が広々と伸びる、小ホールのような空間。
 壁の一つには大きな鏡が取り付けられていて、その対面には小さな舞台が在った。
 観客がはいるような場所っぽくないから、どう見ても練習する所だよな。

 そんな事を思っていると、ローレンスさんが別のドアからやって来た。

「やあやあ、待たせて申し訳なかったね。衣装の手直しに少々手間取ってしまって。ほら、なにせ、君達は体格差があるから」
「体格差……? 劇の衣装になにか関係があるんですか?」

 ローレンスさんは俺達に「劇をやって欲しい」と言っていたが、そんなにキッチリとやらなきゃいけないくらいの劇なんだろうか。
 首をかしげると、相手はクスクスと笑って、指をパチンと鳴らした。
 それを合図に、ぞろぞろと衣装を掲げた使用人さん達が入ってくる。

 どんな衣装なのだとオッサン二人と一緒にかかげられた衣装を見て――――三人同時に、思わず「え゛っ」と変な声を出してしまった。

「ちょっ……じょ、じょうだんだろ……」
「待て。その服の大きさは……」

 オッサン二人から、非常に苦しそうな声がれる。
 さもありなん。俺は強くそう思って、恐らく俺達の衣装なのであろう三着の豪勢な服を見やり、血の気が引いて行くのを感じた。

「いやー、実は配役が女性の役だったので直しが大変だったのですが……大事な役目ですので、なんとか直さないとと思い……ああ、配役はもうこちらで決めていますので、みなさんキチンと演じて下さいね」

 人のよさそうな笑顔でニコニコしてそう言いながら、ローレンスさんは俺達に衣装を渡してくる。俺の衣装は、なんだかよく分からないけど王子っぽい服だ。お伽話の王子とくればカボチャパンツと相場が決まっているが、今回は腰から何重にも綺麗な布を垂らすちょっと部族的な感じで格好いいかも知れない。

 衣装の感じも俺の体型にぴったりだ。
 ……が、クロウとブラックの服は、俺のとはだいぶ違っていたようで。

「は……はは……これを僕に着ろってか……」
「またヒラヒラの服か……動きにくい……」

 二人とも物凄く嫌そうな顔をしているが、しかし嫌な理由はそれぞれだ。
 クロウの方はと言うと、こちらも西洋のドレスと言うよりはちょっと部族的な感じの、布を幾重いくえにも重ねて飾り付けたような放浪ほうろうの民っぽいドレスを渡されている。
 クロウの褐色の肌に良く似合う砂漠の国の服みたいで、これはスカートっぽくても似合いそうだ。男でもスカートっぽい格好いい服とかあるもんな。

 だが、問題はブラックだ。
 ブラックに渡された衣装は……そんな言い逃れも出来ないほどに……ふわっふわのレースがそこかしこに縫い付けられた、ナントカ夫人とでも言いたくなるドレス。
 落ち着いた色味で、大人っぽい服と言えば聞こえはいいが……しかし、ブラックの無精髭ぶしょうひげだらけの顔と見比べるとぶっちゃけ非常にミスマッチだ。

 …………なんというか失礼な言葉が出そうになってくちつぐんでしまうが、渡された本人もそう思っているのか、怒りとも茫然自失ぼうぜんじしつともつかぬ顔ですくんでいた。

 いや、そうだよな。思いっきり男むさいオッサンなのにフェミニン丸出しのドレスを「着てね!」と言わんばかりに渡されれば、心が無になっても仕方が無い。
 仮にガタイの良い奴でも“心が乙女”なら似合うと俺は思うのだが、しかしブラックの場合は自他ともに認めるオスの中のオスなので、こちらとしても「似合わないよなさすがに」と思う他なかった。

 けれども、ローレンスさんは笑顔のままで俺達の顔を見比べている。

「いやー、間に合ってよかったです! さ、ちょっと着て見せて下さい。衣装は劇の仮本番の時まで着用しませんが、体格に合っているかキチンと見ておきたいので」

 そう言いながら、ローレンスさんは俺達に着替えを要求して来る。
 悪意ゼロだ。本当に邪気が無い人の顔と言うのは、ローレンスさんのような笑顔の事を言うのだろう。俺達だってこの人が冗談を言っているわけではないのは分かる。

 だが、本気で言ってるのが一番こまるのだ。

「つ、ツカサくぅん……これ僕、着るの……?」
「むぅ……」
「うーん……でも、やるって言っちゃったし……とりあえず、一回着てみようよ」
「アーッ、ツカサ君だけ普通の衣装だからって酷い酷いー!」
「いや気持ちは痛いほど分かるけど! でも受けちゃったんだから! な!」

 俺だって決してお前の嫌がっている姿を見たいわけじゃないんだ。
 というかオッサンが女装している姿なんて俺も見たくない。
 でも、俺がいやがるなら進んでそういう服も着てしまう変態っぷりをほこるブラックがこれほど難色をしめすなんて珍しいな。

 やっぱり自分も誰も望まない女装は、ブラックも嫌な……

「こんなの最悪だよ! レースが下品過ぎて趣味じゃないんだけど!」

 ……あっ、やっぱり女装が嫌なワケじゃないのね。
 って、いや、普通に嫌がれよ!!












  
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