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交易都市ラクシズ、綺麗な花には棘がある編
22.好きだと思えばこそ出来ること
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ウィリットとフェリシアさんを【湖の馬亭】まで連れて来た俺達は、いまだに怯えきった彼女を娼姫のお姉さま達にまかせ、女将さんと一緒にウィリットから話を聞くことにした。
……椅子に座らせて荒縄でぐるぐる巻きにしちゃったけど、その、まあ、か弱い女の人を襲ったのは事実なので、これくらいは安全の為に許して欲しい。
そんな事を思いつつ、窓のない倉庫のような小部屋に詰めた俺達四人は、水琅石の明るい光の中で彼に問いかけた。
「で……どうしてアンタは女を襲ってたんだい」
女将さんの冷ややかな声に、ウィリットは不機嫌そうな顔をいつにも増して不機嫌そうに歪め、溜息のように短く息を吐く。
まるで反省していないかのような態度にも見えたがゆえか、女将さんは更に怒ってしまい、ウィリットの胸倉を掴んで……椅子ごと浮かせた!?
「アンタねえ……アタシんとこの可愛い娘に怪我させといてよくもそんな……!」
「ちょちょちょと女将さんっ、女将さん死んじゃう相手が死んじゃう!」
慌てて女将さんにしがみつくと、女将さんはハッとしてウィリットを乱暴に床へと戻す。椅子がガタガタ揺れたが、ま、まあ大事にならずに済んでよかった。っていうか、女将さんもこの世界の人間なんですね……ちからつよい……。
案の定後ろに控えているオッサン二人は何もしてくれなかったが、まあコイツらは元からこういう奴らなので、問答するだけ無駄である。ともかく、俺は二人を引き離して、ウィリットを見た。
「あの……ウィリットさん、本当に貴方が娼姫の人達を襲ったんですか?」
問いかけると、相手は俺の方を見た。
……ひねくれたような顔をしているけど、それでも真っ直ぐな瞳はそのままだ。
やっぱり、人を私欲のために襲うような人の目には見えないんだけどなぁ……。
そんな俺の困惑を知ってか、それとも全てを正直に話すことが吉だと思ったのか、ウィリットは大きな息を吐くと口を開いた。
「…………私は【娼姫連続殺人事件】の犯人ではない。断じて違う。そもそもの話、そんな悍ましい事件が起こっている事など先日まで知りもしなかった」
「ほう? じゃあどうして、普段身に着ける外套の下に“目立たない黒一色の外套”を重ね着していたのかねえ。やましい事が無いなら説明して頂きたいものだが」
さっきから少し苛立っているのか、ブラックは腕を組んで眉を顰めている。
わりと直視したくない剣幕だが、それでもウィリットは怯えもせずに続けた。
「……ジュリアを探すためだ」
「ほう?」
「これまで私は、ジュリアが行きそうな場所、頼りそうな場所すべてに何度も何度も足を運んで彼女がいないかを確認した。人を雇って方々に探りを入れもした。だが、ジュリアの姿はどこにもなかった。誰も彼女の行方を知らなかったんだ。……だから私は、最近噂になっている行方不明事件に関係があるのではないかと思い、夜に街へと出て、その犯人に遭遇しないか探していた」
――――ウィリットの話を簡単にまとめると、こうだ。
ウィリットとジュリアさんは、とても仲が良く婚約の約束までしていた。
高級娼姫である彼女に幾度も会う事はむしろ貴族としての箔が付くので、二人は大っぴらに愛を育み、最近は彼女を自分の家に迎え入れる準備までしていたらしい。
だが、ある日から彼女の様子がおかしくなり、その事にウィリットが気付くと急に彼を拒みはじめて部屋にも入れなくなってしまったという。
それどころか二度と会うこともなく、忙しい仕事の合間を縫ってまで頻繁に会いに来ていたというのに、ある日忽然とジュリアさんは行方不明になってしまったのだ。
もちろん、屋敷も何もかもジュリアにさん関係のある場所は全て探した。
先程言ったように、何度も探した。
だが、結局彼女が見つかる事も無くウィリットは憔悴して行ったのだという。
……しかし、数日前にウィリットはとある話を聞いた。その話というのが、俺らの探索で見つかった「娼姫連続殺人事件」の山と積まれたご遺体の話だった。
ウィリットは「そうであって欲しくはない」と思いながらも、貴族と言う己の身分を利用して検分に立ち会ったが、そこにもジュリアさんらしき姿は無かった。
だが、ある事に気が付いたのだという。
「その、気が付いた事って……?」
いつの間にか俺が率先して質問してしまっているが、良いのだろうか。
女将さんが質問した方が良いような気がしたけど、でも下手すると二人とも相手に激昂して話が出来なくなるかもしれないから、その、我慢して貰おう。
ともかく、何かに気付いたとはどういうことなのかと問いかけると、ウィリットは意外にもすんなり話してくれた。
「ジュリアの香水の匂いがしたんだ。あれは間違いない。腐臭や血の臭いに他の香のにおいも混ざっていたが、それでも微かに……確かに、香りがしたんだ。だから私は、もしかしたらジュリアはあの場所から逃げたのか、それとも……」
そう言葉を切って、ウィリットは口を閉じた。
「それとも」の先は言わなかったが、俺達にもその結論は嫌と言うほど理解出来てしまった。……だって、その場所に死体が無くて「香のニオイだけがした」というのなら――――答えは、最悪のものになるのかも知れないのだから。
「……その香水というのは、コレだな?」
そう言って、ブラックはウィリットの別荘から拝借して来た香の小瓶を見せる。
だが、それに驚く事も無くウィリットは頷いた。
「ジュリアは古風な女でな。……数十年前に流行った、もう時代遅れの不人気な香水を今でも愛用していて、決してそれを手放そうとはしなかった。……街の香物屋では店の片隅に置かれる有様のソレをジュリアはねだるんだ。特段高くも無い、それを」
「…………」
「オレと女将で香物屋に調べに行ったが、確かにコレは滅多に買われる物では無く、つい最近も変わりものの“お得意様”が何度目かの購入をしただけ……だそうだ。先程ニオイを確かめさせて貰ったが、路地裏や下水道で強烈に漂ってきたのは、この香のニオイで間違いない」
朝から別行動で動いて貰っていたクロウが、付け加えてくれる。
クロウの証言では「ヘレナさんが襲われた路地でも、下水道でも、人族から漂ってくるニオイを覆い隠すほどの香のニオイがした」と言っていた。
俺達は気が動転してて気が付かなかった……というか、今でも本当にそんな匂いがしたのか解らないんだけど、クロウはこんな時に嘘なんて言わない。
だったら、間違いはないだろう。
しかし……二つのニオイが一致するとは思っていなかった。
と言う事は、やっぱりこの事件にはジュリアさんが関わっているんだろうか。
でも、全てはウィリットの姦計であるという可能性もある。
「クロウ、ウィリットさんのマントから、ヒトのニオイ……した?」
問いかけると……クロウは迷うことなく頷いた。
「少なくとも、その男からする香のニオイは、オレが嗅いだ物の比では無いくらいに薄い。その男の外套も同様だ。コレしか無いというのなら……その男の言う事は本当なのだろう」
クロウの言葉にやっと俺は息を吐いて、ウィリットの方を向いた。
……よかった……少なくとも、ヘレナさんを襲った犯人ではないって事だよな?
この分なら、連続殺人の犯人という可能性も低くなって来るぞ。
しかし、それなら何でフェリシアさんを襲ったんだ。
そこがよく解らなくて、俺はウィリットに問うた。
「あの、だったらどうしてフェリシアさんを襲ったんです?」
「ち、違う! いや、その……逃げる彼女を追い掛けて詰め寄り、結果的に襲った事と同じようになってしまったが……しかし違う、私は確かめたかっただけなんだ!」
「何をだい」
まだ納得していない様子の女将さんの声に、ウィリットは言い辛そうに歯噛みしたが――――獣人の鼻と俺達のことを信頼してなのか、呻きながら答えた。
「あ、あの子が…………フェリシアの、横顔がジュリアに見えて……だから……」
「え……あ、でも……夜中だと間違えるもんなのかな」
「何言ってんだ、あの娘っことジュリアは容姿が全く違うじゃないか! あの妹って子は高級娼姫ばりの美貌だが、ジュリアはヘレナのようなそばかす顔の純朴な田舎娘だっただろ! 婚約した女の顔も見忘れたってのかい!」
またキィッと怒り出して、今度は倉庫にあった杖でウィリットを殴ろうとする女将さんに、落ち着いて下さいッと必死で宥める。
う、うう、そりゃ、女将さんが怒るのも分かるけど暴力はダメです暴力は!
しかしそんな女将さんの怒りに油を注ぐように、ウィリットは必死で訴えてくる。
「そ、それは私の過ちだ! しかし、私は確かに、あの時彼女をフェリシアではなくジュリアだと思った! 横顔を見て間違いないと感じたんだ!! だが……いや……そう、だな……今思えば……彼女からジュリアの“時代遅れの香水”の香りがして……だから私は間違えたのかも……しれない……」
そう言って、ウィリットは項垂れた。
自分でも自分の間違いが許せなかったみたいで臍を噛んでいるようだったが、香りで間違えてしまうくらい焦っていたんだろうか。
まあでも、人間って嗅覚で記憶を思い出しちゃうくらい五感に頼ってる生物だし、鼻先に求めていた香りが漂って来たら「もしかして」と思ってしまうかも知れない。でもそれほど「誰も使わない」香水なら、確信しちゃうものなのかな。
俺は……どうなんだろ。
ブラックのにおいとか……そんな風に強く覚えてられるんだろうか。
うーん……。
「外套で隠れていたとはいえ、姿形で分からなかったのか」
悩む俺の横で冷静に問うブラックに、ウィリットは眉根を寄せて目を伏せる。
「…………面目ない……。私はジュリアを取り戻したいあまり、目が眩んでしまっていたようだ。どうせジュリアのことだから、妹のフェリシアにもお気に入りだと香水を贈ってやったんだろう。……あれはそういう事をする娘だ」
どこか後悔したような顔をしているウィリットは、薄く笑う。
まるで昔の事を思い出して懐かしんでいるような笑みだったが、その表情は悲しげで、俺には幸せそうには思えなかった。
……そう言えば、ウィリットの精神状態は俺が来るまで酷かったんだよな。
使用人まで追い出して顔色も悪くなってて、最悪の状態だったんだっけ。最近は、飯をちゃんと食ってるから顔色も良くなって来たけど……でも、病み上がりと変わりは無かろう。彼も、ジュリアの失踪で苦しんでいたのだ。
――――むやみに信用してはいけない。
だけど、現状クロウの言う事が正しいというのなら、この人は潔白だ。
なにより……この人の表情を見ていると、その思いが嘘だとは思えないよ。別荘で俺に対してジュリアさんの事を愛しげに語ったこの人の思いまで、嘘だと否定したくは無かった。……それが、愚かな事だとしても。
「ともかく、アンタは今晩ウチに泊まって貰うよ。屋敷への使いは後で出しておく。後でヘレナに顔を見て貰うから暴れるんじゃないよ。それとうちの子に手を出したら許さないからね」
「何を言う! 私はいやしくもラウンド家の血統を受け継ぐ貴族だ、婦女子に対して無礼な真似などするものか! ……あ……いや、今回の事は……別だが……」
「煮え切らない陰気な男だねえ! ……ったく……こんなお貴族サマじゃジュリアが愛想を尽かして行方不明になってもなんの不思議もないよ!」
そう言いながら、女将さんは先に部屋を出て行ってしまった。
……怒っているとはいえ、連絡やその他の処理をしにいったのだろう。
そんな素振りは見せないけど、さすがこの【蛮人街】で誰からも一目置かれるだけのことはある。
「さて……後は女将がなんとかするだろ。僕達も一度寝ようか」
「ム。見張りは良いのか」
「この館から脱走出来るようなヤツなら、ドタバタと女の尻を追っかけて失敗なんてしないだろ。……ま、ひとまずお互いに休んで冷静になればいい」
暢気な事を言いながら、ブラックは俺の背中を押して部屋から出る。
だがまあ、しっかり鍵を掛けているので抜け目はない。でも、ここまで余裕なのは理由があるんだよな。多分ブラックはウィリットを捕える時にこっそり【査術】を使ったんだ。
【査術】と言うのは、それそのものの術の名前と、索敵などのいわゆる「探る術」などの総称と言う二つの意味があるんだけど、前者である術はちょっと恐ろしい。
この術は要するにチートもの小説で定番の【相手の能力を見抜く術】なんだけど、ブラックほどの能力者になると相手の技量以上の事まで大概分かってしまう。
恐らくは、敵意とか相手の内情も把握できるのだろう。
だけど、この【査術】だって万能じゃない。
ハッキリ職業が分かるとは言い難いし、この世界にはステータス画面が無いので、相手の力量と言っても自分を基準にしたもので、上限が分からない事もある。
それに、査術封じなどを行っていたり、自分と同等かそれ以上の相手には使えないらしいが、ブラック以上の奴なんてそうそういないので実質一方通行状態だ。
それを考えると……ウィリットはやっぱりシロなんだよな……?
だったら嬉しいけど。でも今まで疑ってたので申し訳ないなぁ。
などと思いながら平屋に帰って、俺は夕食もそこそこに寝る支度をしベッドに潜り込もうとしたのだが。
「ん~……今日は疲れたなぁ……。明日朝から抜いてもらお……ふあぁ」
とんでもない事を言いながら、汗をかいたシャツを脱ぎ上半身裸になりつつベッドに入るブラックを見て、俺は妙に落ち着かない気持ちになった。
別に、部屋が薄暗いからじゃない。外から持って帰って来た夜の涼しい空気のせいで、いつもの部屋の匂いと違うから萎縮してるんでもないんだ。
ただ、その……ブラックがこっちに背中を向けて寝転んでいる格好に、何だかモヤモヤっていうかむしろモジモジというか、そんな感じになってしまって。
クロウが熊さんモードになって床に寝転んでいるのは素直に可愛いと思えるのに、どうしてブラックにだけこんな気持ちになるのかと俺は下唇を噛んだ。
「ツカサ君、はやくおいでよぉ」
「う……うん……」
いや、一緒に寝なくても良いんですけどね。
でもそう言われると自然と体が動いて、ゆるい光に絞った水琅石のランプが照らす薄暗い中、素直にシャツと下着一枚になっちゃったりして。
いつもの寝姿なんだけども、やっぱりちょっと……何か、へん。
だけど、その「へん」に思い当たる事が一つだけあって、俺は困ってしまった。
「…………」
これってもう、このモヤモヤの理由ってもう、アレしかないよな。
や、やっぱり……俺ってばあの時、ちょっと嫉妬しちゃったのかな……。
………………。
い、いや別にフェリシアさんに対して嫉妬したわけじゃないぞ。
というか俺は素直にブラックが羨ましいと思ったし、別にブラックに怒ってるワケじゃない。あんな場面でなら、か弱い女性なんだから心細くなるだろう。
俺が抱き着かれた場合だったら、素直に俺は喜んでいる。めっちゃ嬉しい。
フェリシアさんのような美少女に頼られちゃったら、俺は思っきり格好いいムーブでもやっちゃってブラックに冷ややかな目を貰っているだろう。
だから、二人に嫉妬したとかじゃないんだけど……。
でも、考えれば考えるほど自分の幼稚さが露わになるようで恥ずかしくなる。
だって二人に対する嫉妬じゃないっていうんなら、じゃあ、これって……。
これって要するに、俺が、ブラックに対して独占欲みたいな感情を抱いているような事になっちまうじゃんか。
…………そ、それって……ちょっとヤバいと思うんだけど……。
「ツカサくんってばぁ……ねー、早く一緒にねよ? ねっ」
「わ、分かった分かったってば!」
そうやってねだって貰うと、心の中のモヤモヤが溶けて行く。
この事こそがもう自分の中の恥ずかしい感情を表しているんだと解っているのに、それでも俺は自覚すると爆発してしまいそうで、なんだかもう何も言えなかった。
だ、だって。
独占欲って、嫉妬より酷くない!?
そりゃ、その、俺だってブラックのこと恋人だって、こ、婚約者って思ってるし。
好きって言う気持ちに変わりも無いけど。で、でも……。
俺みたいなのが、ブラックに対して独占欲って……そんなの……。
「えへへ、ツカサくぅん」
「あ……」
ベッドの近くまで来たら、ブラックはゴロンと俺の方に寝返りを打って、遠慮なく手を伸ばしてくる。その手は容易く俺の腕を捕えて、ベッドに引きずり込んだ。
そうして、ぎゅっと抱きしめて来る。
……いつもの、ブラックの分厚くて暑苦しい胸だ。素肌だとあまり密着したくないが、それでも相手の体温を頬に感じるのは……嫌じゃ無かった。
「下も脱げばよかったなぁ」
「ば、バカ……寝らんないだろ」
「うーん、ツカサ君のいじわるぅ……」
そうやってダダをこねるように不満げな声を放り投げて来るけど、ブラックは「そういうこと」をする時以外は執拗に絡んだりしない。
何だかんだで俺も疲れただろうと思って、気遣ってくれるのだ。
今だって、名残惜しげに腕を離して「おやすみぃ」とこちらに背中を見せた。別に興味を失くしたんじゃなくて、こういうのがブラックの優しさなのだ。
なんだかんだ、ブラックは他人を気遣える。
だから、フェリシアさんを追い払ったりはしなかった。
俺はそれを素直に嬉しいと思うけど、でも……やっぱり、俺の中のガキな部分は、その行為に納得出来なくて。こうやって優しくされるのに、ちょっとだけ言いようのない寂しさを感じたりもしてしまって。
……俺、思えばそう言うブラックやクロウの優しさに甘えてるんだもんな。
今だって色々と我慢させてるし、それなのに二人はありがたくも俺に義理立てしているのか、娼姫のお姉さんと遊ぼうともしないし……。
それもこれも俺のためなのに、俺は手で抜いたり舐められるくらいしかしてない。
料理だって、仕事にかまけて二人の分は最近サボり気味だからなぁ……。
だったら、いつ愛想をつかされたって仕方ないのでは。何が引き金になるのか分らないんだし……やっぱ、ブラックにねだらせたり我慢させるだけじゃダメだよな。
恋人だって思ってるんなら、お……俺、だって……。
「………………」
背中に、触れる。
広くて大きくて、俺の父さんとは比べ物にならないくらいしっかりした背中。
いつも守ってくれて、背中にも乗せてくれて、そう言う時のブラックは……悔しいけどすごく格好良くって。そんな素肌の背中が、目の前にある。
まだ、自分からの「恋人らしい事」は、キスとか触れるぐらいしかしてないけど。
でも……俺にだって、独占欲が湧くぐらいには、アンタに夢中になっている感情があるんだよな。それを自覚するのって、すげえ気持ち悪くて恥ずかしいけど。
それくらい俺は、アンタの事が……好きなんだよな。
だったら。
「……おやすみ」
聞こえるかどうかという声で呟いて、俺は体を寄せる。
ベッドの下に手を潜らせて抱き締めるのは、ブラックのデカさと体重では少しつらい。だから、背中に軽く寄り添う事ぐらいしか出来なかったけど……でも、今はそうしてブラックの体に触れていたかった。
そうすれば、自分の幼稚な独占欲も治まるような気がしたから。
「はっ、はぁっ……はぁあっ……はう……っ」
「…………?」
あ、あれ?
なんかブラック変な息の吐き方してる? なんかヤバい?
いやでも別にこっち向いてないしな……大丈夫、なのかな。クロウも別に慌ててる様子もないし、単に熱いだけなのかも知れない。
……やっぱ離れた方が良いかな。いやでも、もう少しだけ……だ、だって、こんな風に近付くのって……実は、はじめてだし……。って、何言ってんだか。
ま……まあでも、な、なんか、こういうのなら……俺も、出来そう。ブラックにはとても言えないけど、二人きりの時にひっつくの……本当は、嫌じゃないし……。
「なにかの拷問か?」
「え? クロウなに、なんて?」
「ムゥ、なんでもない」
なんだい起きてたんならちゃんと言ってくれよ。
いやしかしブラックの背中でちょうど陰になってて良かったな。こんな所をクロウに見られてたら、今度こそ俺は憤死するところだったよ。
まあ、俺も少しずつブラックに返して行けば良いんだよな。
互いにこうして「好き」を返す事が出来る関係が、恋人同士なんだから。
…………でも……恋人っていうなら、本当にウィリットとジュリアさんはどうして急に仲たがいをしちゃったんだろう。
話を聞く限りでは、ジュリアさんはウィリットを本当に好いていたように思える。でも、彼女の豹変ぶりは同じ娼館にいたゴーテルさんも不思議がっていたし。
となると……やっぱり、ジュリアさんの身に何かが起こったのかも知れない。
明日、フェリシアさんが落ち着いたら話を聞いてみよう。
ジュリアさんと最も近い彼女なら、何かが分かるかも知れない。
そんな事を考えながら、俺は眠りの淵に落ちて行った。
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