異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

  気まずいにもほどがある2

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「今回分かった事は……国内で起こった二つの事件に、遺跡の何物かが言っていた【アルスノートリア】という魔導書が関わっているようだという事だな」

 オッサン二人に挟まれて、シアンさんとラスターを真向いに見る形で座る。
 その途端とたん、真面目な顔でラスターが話を切り出してきたのに少し驚いてしまったが、今はお互いに私情をはさんでいる事態ではないのだろうと察して、俺もうなづいた。

 ……ラスターは王国騎士団の団長……つまり、護国の公務員だもんな。国で有事が起これば動くような存在なんだから、今回のけんは笑い事じゃないんだろう。
 そういう事だったら、俺もビジネスライクに動かねばなるまい。
 グッと気を引き締めて、シアンさんとラスターを見やった。

「だが、本当にその方向で話を進めていいのか? 先ほども言ったが、死者蘇生の術など聞いた事もないし、精神操作の術は人族の間では禁術に指定されているものなのだろう。複数の存在が起こした別々の事件なのではないか?」

 さっそく切り込む俺の右隣のクロウ。
 その疑問はもっともだとラスターは頷いていたが、しかしと言わんばかりに答える。

「禁術の【源流】は、現在流出不可能な場所に保管してある。その術の波動の流れは俺が覚えているが……ライクネス王国で禁術が使われた形跡は無かった。まあ、過去から現在まで【死者蘇生】という術は存在しないが……発動すれば俺が気付く」
「人心操作の術もか?」
「無論だ。第一、五曜以外の【法術】などに分類される特殊な術は、発動時に五曜を使わない代わりに、大規模な【大地の気】の流動が起きるんだ。例え遠方でのことであろうが、何らかの衝撃に誰かが気付いて報告が来るはず……」

 えーと……つまり、アレがもし【アルスノートリア】が使った術じゃ無かったら、ラスターとか高位の曜術師には察知できるってこと?
 だとすると、ラスターがなかば確信しているような態度も理解出来るけど……。

「えと……その、死者蘇生とか人を操る術は普通の術じゃないの……?」

 俺の世界のゲームとか漫画では聖属性とかになってるけど、普通に魔法として通用してたよな、死者蘇生の魔法。でもこっちの世界では違うんだろうか。
 普通に使用できる術じゃないのは分かったが、いまいちピンと来ない。
 そんな俺の「異世界ギャップ」に気付いたのか、シアンさんが説明してくれた。

「基本的に、五曜と付加術はこの世界の【気】を使用するのだけど……死の運命をくつがえしたり、魂を支配するもの……他人の内部に干渉かんしょうする術は【法術】という特殊な術の中に分類されていて、曜術や付加術とは全く違う気の流れを作るの」
「五曜や大地の気は使わないんですか?」

 先程さきほどラスターが言ったが、確証を得るためにもう一度問いかける。
 すると、シアンさんはハッキリと頷いた。

「使わないわね。ただ、曜術と違って、法術は全ての曜術師……まあ、一級の中でも一握ひとにぎりか、もしくは限定解除級というせまい範囲に限られるけど……そういう人達が、属性に限らず“波動”を感じ取る事が出来るの。同じ国にいれば、かなりの広範囲でね。だから、私達が感じ取れるというのは本当。まあ、ラスター様のように区別までは出来ないと思うけれど……」
「しかし、ブラックは特に何も感じなかったようだな」
「ええ。だから、禁術でも【法術】でもないと私達は踏んでいた」

 なるほど、そういう理由が在ったのか。
 サラッと説明されただけなので、何故人の心をどうこうする物が【法術】で、それが禁術と言われているのかは謎だけど……一応、俺も【法術】の事は知ってるぞ。
 だから、とんでもない術ってのだけはよく分かるんだ。

 ――【法術】は、曜術を極めた曜術師だけが習得できるという「曜術ではない曜術を越えた力」で、突然習得するから、どういう法術を手に入れるかもどんな威力かも予測できないんだっけ。でも、それらは例外なく強力で……使える人は滅多にいないとか言ってたような。

 俺が聞いた事がある例は、ラスターの先祖であるサウザー・オレオールという勇者が使っていたと言う、【浄波術】って名前の敵の心を改心させるとかいう術だ。
 それ以外で名前を聞いた事が無いので、よっぽど数が少ないのだろう。

 と、そこまで考えて――――俺はふとある事に思い至った。

「この世界の曜術師って、だいたい国か冒険者ギルドに登録してるんですよね?」
「ええ、そうよ」
「だったら、ある程度ていど【法術】とか【禁術】を使える人を把握はあくしてるんですか?」

 そう問いかけたら、シアンさんは満足げに微笑んだ。

「ツカサ君はいい子ねえ。そうよ。昔は取りこぼしで色々と大惨事になったそうだけど、今は……よっぽどの辺境でない限りは、把握はあく出来てるわ。それに……」
「そんな大規模な術が発現したら、この大陸であれば誰かが気付く。この完璧無比な俺以外にも、各国に一級以上の曜術師がいるからな。逃れられはしない」

 ラスターのキッパリとした言葉に、やはりそうなのかと俺は納得した。
 昔の漫画とかで良く見る、賢者のお爺さんと巫女のお姉さんとかが「ムッ……この感覚は……!」とか言って窓を見て、それから物語が始まる奴だ。
 この世界では、それが一級か限定解除級の熟練した曜術師になってるんだな。

 …………と言う事は、アレが【禁術】であるという事は無いのか。
 絶対に違う……とは言い切れないだろうけど、でも他に有力な説が出て来たら、そっちを優先的に考えた方が良いくらいの弱い説には違いない。
 だったら、ラスターが率先そっせんして【アルスノートリア】の件を考えようとしてるのもうなづけるけど……でもイマイチ信じきれないなぁ……。

 うーむとうなっていると、横からブラックがツンツンと肩をゆびで突いて来た。

「ツカサ君、前に【隷属の首輪】ってあったでしょ。ああいう、モンスター……守護獣しゅごじゅうにする奴を制御するようなモノは許可制だって言ったの覚えてる?」
「あ、うん」

 そう言えばそんな首輪あったな。(※第一部・パルティア島編参照)
 アレは本来、俺に宝珠を渡してくれて仲間になってくれてるペコリアや藍鉄あいてつのようなモンスター……特に、使役する者よりも力が強く暴走したり手が付けられない奴に使用するモノで、危ない物だからって取り扱うのに許可がるんだよな。

 まあ、違法に使ってた奴もいたけど……それはともかく。
 言ってみれば、あの首輪も【禁術】の範疇はんちゅうだよな。相手を操作するんだし。

「ああいう風に、きちんと禁術は管理されているものなんだ。もし死者蘇生の【禁術】が存在していて外部に漏れたなら、管理者が何か気付いてるはずだよ。……まあ『新たな法術』が生まれていたら……分からないけど」
「それでも、何者かが気の乱れに気付くはずだ」
曜具ようぐにされてたら解らないんじゃないのか」

 ムッとしたようにすぐに言葉を取って返すブラックに、ラスターは「これはお話にならない」と言わんばかりに首を振った。

「そんなもの、この世に禁術が解き放たれた確率より低い可能性だろう。そんな曜具を作る事が出来るのは【プレイン共和国】だけだが、かの国は今実質的な壊滅状態であり、それどころではない。記録もないし流出した曜術師もゼロだ。よしんば、俺達が知らぬ場所で作られた物だとしても――――ソレが【禁術】をどこで手に入れて、どんな達人級の曜術師に作らせて、何故今急に出て来たのかが疑問だな」
「…………」
「偶然と奇跡とありえないほど低い確率全てを合わせてそんな世迷言を考えるなら、明確な手がかりがる【アルスノートリア】を優先すべきではないのか?」
「ムゥ……確かに、どこかで禁術が生まれたとしても、今の少ない手がかりでは探しようも無いし、第一雲をつかむような話だからな……」

 ラスターのツッコミに、クロウがうなる。
 なんだかんだコイツら大人だから頭の回転も回答も早いな。

 とにかく……ラスターの意見としては、あの遺跡で知った情報を確かな物だとする証拠を見つけるのが最優先ってことか。
 ブラックは「万が一」を警戒してるみたいだけど、有力な説から確かめるってのが調査の常道だもんな……警察みたいな存在のラスターからすれば、手っ取り早く正否が解る所から先に潰しておきたいんだろう。

 だけど、ブラックが心配する他の可能性も捨てきれないよなあ。
 大体、あの遺跡の情報を持って来たのはライクネスのいけ好かない国王だし、あの王様のてのひらの上で踊らされているようで……なんだか証拠を信じきれない。
 あのキンキライケメン野郎、まだなんか隠してるような気もするしな……。

 思わず押し黙ってしまうと、不意にラスターが立ち上がった。あれっ、そう言えば帯剣してるけど、もしかしてもう帰るつもりなんだろうか。

「ともかく、俺はこのけんを国王陛下に報告する。もし【アルスノートリア】が出現したと言う可能性が事実に変わるのならば、事は一刻を争う。なにより、他の国にまでこの恐ろしい術を広げられていたら……大陸自体の危機だ」
「そうですわね。ともかく、陛下からの御指示を仰ぎましょう。今後のことは、世界協定でも協議しなければいけないかも知れない」

 そうそう、シアンさんが最高権力の一人を務める【世界協定】という組織も、この国の王様には頭が上がらない……というか、大陸全部の国が一目置いてるからな。

 俺としては余計にいけ好かなく思えるが、確かにあの王様はライクネスに残された膨大な過去の記録を認識しているようだし……言ってみれば大賢者と同じような存在なんだから、まあ発言を気にするのも仕方がない事かと思うけどさ。
 でも俺は近付きたくないんだよあの人! めっちゃ俺に意地悪してくるし!!

「数日待たせる事になるだろう。……俺が報告を持って来るまで、お前達はラクシズに滞在していると良い。そこなら連絡も早いし、なにより馬ですぐ駆けつけられる」
「ラクシズ!」

 おお、俺が初めてこの世界で訪れた街じゃん。
 だったら、久しぶりに女将さん達に会いに行けるぞ!

 思わず顔をゆるめてしまったが、そんな俺を制止するようにブラックは肩をつかみ、体を後ろに引っ張る。そうして、イラついたような半眼でラスターを見た。

「何で僕らがお前の命令を聞かなきゃいけないんだ? こういう命令は、いい加減にして欲しいんだけどね。一介の冒険者の手を借りるなんて、騎士団はそこまで落ちぶれて無力になったのか? ……あまりに干渉かんしょうするようなら……今度こそ、消えるぞ」

 最後の声は、吐き捨てるかのようにぶっきらぼうだ。
 いつもよりイラついて低くなった声に、思わず身をちぢめてしまったが……ラスターは、ブラックと同じように目を細めてフンと鼻を鳴らした。

「出来るならやってみろ。俺の華麗にして超絶なる力からは、誰も逃れられん」

 そう言いながら、ラスターはテーブルを回ってこちらへとツカツカ近寄ってくる。
 どうしたんだろうと思っていると――――ラスターは、ブラックの隙を一瞬で付いて、俺の手を引き強引に自分の方へと引き寄せた。

「わっ、わわっ!?」

 唐突とうとつに引っ張られたもんだから、体が浮き上がるようになって戸惑う。
 こ、こけたらどうすんだ。そう思ったが、すぐにラスターの前に着地させられた。

「ツカサ」
「ぅえっ!?」

 見上げると、そこには――――金糸のような美しい髪の合間に見える、宝石よりも綺麗な翠色の瞳が見えて、思わず息が止まる。
 その様子に、何故かラスターは嬉しそうに微笑むと。

「やはりお前は、な」
「え……」

 妙に引っかかる言葉を呟かれて、そして。

「――――――っ」

 目の前が、金色でいっぱいになって。
 口が、急に、やわらかい何かでふさがれた。

 ………………。
 えっ。いや。え……うん……?
 あれ……こ、この感触……いつものと違うけど、なんかホントに柔らかいけど……この感触って……え……え、えぇえ……!?

「やはり、お前は嫌がらないな。……と言う事は、お前は俺に対して嫌悪感を持っていないという事だ」
「えっ……え、えぇえ!?」
「おいコラッ、クソ貴族!!」

 き、きききキスっ、今のキス、キスしたっ、あ、あんな気まずかったのに!
 らっ、ラスターお前何考えて……っ。

「……俺は謝る気など全くない」
「え゛」
「この男がお前を強引に手に入れたのなら、俺も【黄陽おうようのグリモア】がもたらした【傲慢ごうまん】の名に恥じぬように……お前を必ず手に入れて見せる」
「ゴルァッ!!」

 目の前でニッコリと微笑んだ、金髪翠眼イケメン。
 思わず言葉を失くした俺の目の前に、イケメンの顔をさえぎるようにして銀光が降りて来た。だが、ラスターの顔は、もう俺から離れていて。

「ハハハハ! ツカサ、今度こそ俺はお前を犯して嫁にするぞ。この下衆中年と同じように、夜の営み、性行為をすると言う事だ!」
「な゛ッ、あ゛っ、あ゛ぁ!? ちょっ、ちょっと待ってマジなっ、なにっ」

 何言ってんの、アンタその美形の顔で何言ってんのお!!
 やめて、俺が恥ずかしくなるからやめてっ、犯すって言う言葉のバリエーションを使って俺に周知徹底させないでぇええ!

「おいコラ!!」

 ブラックが再び剣を振るうが、ラスターはその剣を咄嗟とっさに細身の剣で受け止めて、汗一つ掻く事無く自信満々な顔で俺に言い切った。

「いいか、今の口付けはたわむれでも冗談でもないぞ。今度こそ俺は、お前を犯して正妻にする。何故なら……俺はお前を愛しているからな!」
「えっ」
「他人の誰よりも何よりも、お前を愛している。俺は、お前以外が妻になることなど考えられない! 神殿で強くそう思った。だから、俺は、今度こそ最愛のお前を華麗かつ完璧に手に入れて見せるからな! 覚悟して待っているがいい!」
「えっ、え、えぇえ!?」
「……ふぅ、すっきりした。では、俺は一足先につ」
「おいゴルァクソ貴族ぅううぁああああ! 待てやあああああ!!」

 完全にブラックがブチギレて、さっさと部屋から出て行ったラスターを追う。
 怒りに我を忘れて剣を握り締めていたが、しかし、まあ、あの……二人とも強いし、殺傷沙汰にはならないだろう。

 ならないと、思うんだけど…………。

「ツカサ、顔が赤いぞ」
「ひぇっ!?」
「あら、本当ねえ」

 い、いつの間にか両隣にクロウとシアンさんがっっ!?
 なんでっ、い、いつの間にっ。

「……あいつが三番目の雄になるのか? だがツカサを娶るのはブラックの次はオレだぞ。オスとしての礼儀がなってないなアイツは」
「まあ、ラスター様ならツカサ君には申し分ないけれど……一妻多夫なんてこの国では珍しいわねえ……国王陛下が許して下さるかしら」

 あの、あのちょっと。何で俺が受け入れる方向で話が進んでるんですか。
 シアンさんニコニコしないでください、クロウはムーっとしないの!
 何でそう話を進めたがるんだと泣きそうになったが、ぐっと堪えて俺は大人の対応で二人に「そうはならない」と首を振った。

「あの、俺一応身持ち固いんで……クロウだって特別だから……」
「しかしその割には、顔が赤くなってるぞツカサ」
「え……」

 う、うそ。なにそれ。
 いやいやいや有り得ないって、俺はラスターには仲間意識しか感じてないし。
 だから、今までだって身の危険を感じたりドキドキしなかったわけで……。

「性欲を向けられて顔を赤くするのは、意識しているからではないのか」

 いや、あの、だってアレは恥ずかしい事を言われたからでね。
 だから俺は……いや……でも、そう思うんなら、気持ち悪いと感じてドンビキするのが普通だよな……。それを、今の俺は嫌悪感もかずに硬直してたってのは。
 それは、つまり…………。

 いや、違う。意識してない。意識して無いったら!
 あんな事があったから直球で言われて戸惑ってるだけでな!?
 それに、ラスターが案外ケロッとしてるのに驚いてるといいますか!

「だ、だって……だって俺……」

 ラスターの事、なんとも思ってないはずなのに。
 なのに、どうして俺は顔が赤くなってたんだろうか。
 いつもなら、馬鹿を言うなとあきれていたはずなのに。あんな風に襲われて、むしろ怖がってる方が普通だと思うのに。なのに、なんで。

 別にドキドキなんてしてない。してないのに……。

 何度も繰り返して、シャツの中の指輪をにぎる。
 だけど、そうすると余計にドキドキしてしまって、俺は下唇を噛んだ。
 ああもう自分で自分が解らない。なんでこうなっちまったんだ。

 そう考えてうつむいていると――――横から、呟きが聞こえた。

「……愛してるって、案外強すぎる言葉なのかもしれないわねえ」

 シアンさん、お願いだからしみじみ言わないで下さい……。













※また遅れてしまいました…!もうしわけない…!!。゚(゚´ω`゚)゚。
 あと二三話で新章です

 
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