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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
大人を甘く見てはいけない2
しおりを挟むそんなこんなで次に進んだ……んだけど……やっぱり、なんだかおかしい。
いや、何がおかしいってやっぱりラスターが。
炎の試練が終わったと思ったら、次は木属性の曜気を使用する部屋に到着したんだが……そこでラスターが大樹を生やした時も「感謝のキスをしろ」というし、休憩中でもなんか距離が近くなってるし。
そのうえ、今度は肩まで抱いて来た。なんだったんださっきの真剣な会話。これじゃ前より酷くなってるじゃねーか。どういうことだコレは。
あんまりにもあんまりな態度で、さすがに危機感を覚えた俺は再度「ラスターとはそう言う関係になれない」と言ったんだが、相手は「意識していないのなら、挨拶程度の口付けや馴れ合いも平気なはずだ」と言うばかりで、とりあってくれない。
だけど、これ明らかに友人とか仲間の距離じゃないよな。変だよな?
どう考えてもおかしいと思うのに、ラスターはやめてくれない。それどころか、こっちの方がおかしいみたいな顔をしてくるのだ。
そこまで自信満々でいられると、俺もマヒしてきそうになるが……いや、そんな事はないだろ。絶対相手がおかしい。感謝のキスとか、欧米ならまだしも男同士でするもんか。絶対ヘンだって。
だけど、そんな俺の認識を話しても、否定されるばっかりで会話は平行線となり、結局なし崩し的にラスターに肩を抱かれてしまっていた。
…………な、なんでこんなことに……。
あの最初のほっぺにチューが駄目だったのか。アレが切欠になって、異様に距離が近くなったような気がするぞ。今じゃもう背中を見てた相手が隣にいる有様だ。
アレで諦めてくれたと、分かってくれたと思っていたのに、どうして言葉だけじゃなく態度でも示すってのが強化されてしまったんだ。これじゃ元の木阿弥じゃんか。
つーか俺が隣って。ラスターの隣って!
あの、俺後衛なんですけど。前衛と同じ配置になったら困るんですけど!!
しかしそう言っても、ラスターは自信満々に「俺が罠ごときに後れをとるものか」などと言い切って、隣から離れようとしなかった。
こうなってしまうと、俺が何を言ってもラスターは聞いてくれない。
……ブラックもそうなんだが、妙に自信がある奴ってのは、こういう時にこっちの言う事を聞いてくれなくなるので始末に負えん。しかも、ブラックやラスターの場合大概はソレで上手くいくから、余計にその態度を継続させてしまうんだ。
けれど、それを糾弾する資格など俺には無い。
デキる奴が自分の力を信じているのは当然の事だし、ソレを俺が否定するワケにもいかない。実績が付いて来ている奴の自信を押し潰すなんて、それこそ身の程を弁えない傲慢だ。つまり、打つ手なし。これぞまさに進退窮まるという図式だった。
こ、こういう時ロクが牽制してくれるんだけど、寝ちゃってるからなぁ……。
しかし、こんな危険な場所で眠っちまうなんて、準飛竜に進化してからは、唐突な昼寝なんて滅多になかったのに……ロクも一体どうしちゃったんだろう。
本当に、おかしい。でも、そのおかしさを上手い事いなせない。
ラスターは、何度「無理です」と言っても負けてくれないのに……どうやって相手を負かせばいいんだろう。やはり暴力か。暴力に訴えるべきなのか。
でもなあ、ラスターが本当に「これが仲間とのスキンシップだ」と思ってるなら、過剰反応をしている俺の方が頭が変って事になるし……。
ううむ……本当にどうしたら良いんだろう……このまま「やめろ」と言ってたら、俺の方が意識している事になってしまうし、そうなると凄く突かれるだろうし……。
…………ラスター、まさかこれが「わざと」なワケ……ないよな?
いやでも、コイツは性根が真面目だし、俺を困らせるような事はしないはず。
これは意趣返しで俺をからかっているだけで、本当は納得してくれているのかも。
だったら、フッた俺はそれを甘んじて受け入れなければいけない気もするし……。
「ツカサ、次の部屋だ」
「うえぇっ!? は、はいぃ」
か、考え事してて気付いてなかった。いかんいかん、集中しなければ。
慌てて周囲を見回すと、そこはいつのまにか横に広い不思議な部屋だった。
真正面の壁は、距離にしてたった5メートルほど。だけども、左右に伸びる部屋は恐らくテニスコート二面分くらいはあるんじゃなかろうか……正確な広さは判断できないが、ともかくデカい。なんだこの横長の部屋は。当然ながら出口もないし。
どういうことだと思っていると、ラスターが俺の肩を掴んだ手を軽く動かした。
「……ここも、曜気を与えない限りは何も作動しないようだ。すぐにあちらと連絡を取ろう。伝令穴を探すぞ」
「う、うん……」
ホッ……やっと肩を離してくれた……。
その行動に安堵の溜息を吐きつつ、俺は壁をペタペタと触り、仕掛けが無いか探し始めた。……相変わらず変な模様が彫ってあるんだが、俺にはその意味すら理解出来ない。くう……こういう時に俺が考古学者的な知識を持った凄いヤツだったり、賢者スキルを持っていれば良かったのに。まあ、現実はチート小説みたいに何でも上手くは行かないもんだけどさぁ。はぁ。
そんな事を思いつつ、俺はシャツの中から指輪を取り出して握った。
「…………」
ヒントになるかも知れないと思い、ブラック達の位置を知ろうと手に取ったんだが……なんでかホッとするな。何でだろ。
離れ離れで無意識に寂しくなってんのかな。でも、一日も経過してないし、適度に相手と連絡を取っているのに、どうしてホッとするんだろう。
…………やっぱり、俺……ラスターのこと、ちょっと怖いのかな……。
いや、でも、ラスターは仲間だし……今はちょっとごたごたしてるだけで、怖がるなんておかしいじゃないか。それに、いつものラスターなら、こんな事はしないし。きっとラスターは動揺してるだけなんだ。
だから、今は様子を見よう。うん、そうしよう。
ラスターがこっちを見ていないのを確認して、そっと手を開き指輪に嵌め込まれている菫色の宝石を見つめる。ブラックの瞳の色と同じ石を。
その輝きは、決してギラギラと輝くわけではないけど……とても深くて、優しい光を含んで様々な明るさをちりばめている。
あいつの目と、一緒だ。
俺がこの世界に来るといつも駆け付けてくれて、傍にいてくれるあの目と。
だから、安心できる。この宝石に俺を守るための「まじない」を掛けてくれた事を俺は知っているから、この指輪を見ただけで心が軽くなるんだ。
それに、どんなに離れ離れになっても、この指輪が俺達を導いてくれる。
絶対に俺を助けてくれるんだ、この指輪は。
そう思うと、改めて指輪がかけがえのない宝のように思えて、俺は強く指輪を握り締めブラック達がどこにいるのかと考えながら気を込めた。
……こんな事、普段は絶対考えないし、気取られたくないけど……でも、離れると本当に俺ってばアイツの事……い、いや、まあいい。
どこにいるんだろうかと手を開くと、指輪からガスバーナーの炎のように紫の光が溢れ、ある一定の方向に伸びる。どうやら俺が居る場所と近いようだ。
その光が真っ直ぐになるようにカニ歩きで壁沿いを歩きつつ、仕掛けを探す。
すると、壁の一部分に薄らと長方形の切れ目を見つけた。その切れ目の下に有った窪みに指を差し込むと、カコッと壁が外れて……その中に伝令穴が。
「おっ……ラスター、見つけたぞ!」
遠くにいたラスターにそう言うと、ラッパのように広がった伝令穴から聞き慣れた声が聞こえてくる。
『ツカサ君! さっきのマグマ、大丈夫だった?!』
あっ、そうか、ブラック達の方にも同じ仕掛けが起こるようになってるんだっけ。
そりゃ心配になるか……一歩間違ったらドロドロだもんなぁ。ブラックとかクロウなら、ラスターみたいに軽々避けられただろうけど、俺は一般人だし……。
心配される程度の実力に見られているのは悔しいが、まあその通りなので何も反論が出来ない。己の力量に情けなさを覚えつつも、俺は大丈夫だと返答した。
「なんとか切り抜けられたよ。それよりそっちは? 怪我とかない?」
『うん。シアンの術が案外便利でね。こっちは探索が簡単すぎるくらいさ。今だってツカサ君より早く到着したから、少し休憩してたんだ』
「えぇ……いやまあ、仕方ないけども……それで、そっちは仕掛け見つけた?」
『いや。だけど、見当はついてるよ。どうやらここは金の属性を使うらしいね。この仕掛けの横あたりなんだけど、壁の紋様が掛かれた帯状の部分に、一個だけ二重丸があるでしょ? それに、金の曜気を注ぐみたい』
「そっか……じゃあ、俺の方も頑張って曜気を出してみっ……う゛!?」
なるほど、ブラックはもう仕掛けを見つけていたんだな。凄く偉い。
こういう遺跡調査も手馴れてて流石だなぁ、なんて思って、言葉の最後に「曜気を出してみるよ」と言おうとしたのだが――――それは、背後からの衝撃で上手く吐き出せなかった。
『どったのツカサ君』
「い、いや何でもない……えと、じゃ、じゃあ、このまま流せばいいんだな?」
『そうだけど……なんか声が上擦ってない? 大丈夫?』
「だ……だいじょぶ……」
いや、本当は大丈夫なんかじゃない。
耳が息でくすぐったい、体がぞわぞわする。逃げたいけど、騒ぎに出来ない。
なにより、強く抱きしめられていて……動けない。
俺は、ラスターに背後から抱き締められていた。
『ツカサ君、金の曜気出したこと有ったっけ……本番一発で出来る?』
「ばっ、バカにすんなって。俺だってやるときゃやれるし……」
自分よりデカい体が、背中から圧し掛かって来る。その感覚と、前を詰める機能もないベストの隙間から入って来た手が、シャツ越しに体を触ってくる感触を生々しく感じて、俺は無意識に緊張して体に力を入れてしまう。
いつもと違う。
ブラックに抱き締められるのとあまりに違う感触が、俺を硬直させる。
だけど何より俺の思考を鈍らせたのは、ブラックと会話をしているこの状態で……恋人と話している状態で「恋人じゃない人」に抱き着かれたという、危機感だった。
『練習した方がいいよ。試しに曜気送ってみて』
「っ、れ、練習なんて必要ないって! 出来るっつーの!」
出来るだけ普段どおりを装いながら、必死にラスターの腕から逃れようとする。
だけど、何故か無言で何も言ってくれない相手は俺を離そうとしない。
それどころか、邪魔なウェストバッグを外そうとベルトに手を伸ばしてきた。
「……!!」
『そう言って、ツカサ君は失敗する方が多いからなぁ~』
ブラックが、喋ってる。
暢気な声で喋ってるのに、返答できない。
音をたてないように手で押し退けたり足を動かしたり抵抗するが、しかしラスターの力には到底かなうはずもなく、俺のバッグはベルトから外されてしまった。
「ッ……!」
より一層、熱が近付いて来る。
決して女性的ではない、だけど、男にしては良い匂いが近付いて来る。
でも、それはブラックのにおいじゃない。クロウとも違う。こんな風に抱き着く事すらも考えていなかった相手が、今俺に抱き着いているのだ。
……そりゃ、初めて会った時は抱き締められたしキスもした。えっちな事も、寸前まで行きそうになった。だけどアレは、結局その場で終わった事だったはずだ。
ラスターだって、こんな事は今までやってこようとしてなかったんだ。
なのに、なんで。何でいま。
『ツカサ君?』
「わ……わかったよ……。今やるから……でも、と、届くの、これ……」
ラスターの整った指が、俺の腹に張り付いている。
視界の端にキラキラと光る金の髪が見えて、首元に吐息を感じた。
ヤバい。この状況は、ダメだ。何がダメかなんて考えられない。だけど、これ以上の事をされたら、ダメなんだ。抵抗しなきゃ。ブラックに気付かれないように。
ブラックに知られないように……っ。
『まあとりあえずやってみてよ。ねっ』
「ッ……!!」
ブラックが媚びたような声で「ねっ」と言って同時、背後の相手がイラついたように息を強く吐いて、俺の首筋に何か生暖かい物を当てた。
「――――~~~っ!!」
ぬめる感触に、体がぞくぞくする。
知っている感覚。だけど、感じたくない。感じちゃいけない。
ブラックとクロウ以外は、駄目だ。こんな風になったら駄目なんだ。
なのに、ラスターは俺のシャツを掻き分けて、首の根元を柔らかい何かで挟み強く吸い上げて来る。ソレが「何か」なんて、考えたくない。知りたくない。
だけど、もうその感触が「何」なのかを知っている俺は、体をびくびくと震わせてしまい――――抵抗も出来ず、首に痕が付く程のキスを受け入れるしかなかった。
『ツカサ君、早く早く』
「ぁっ……!」
我慢し切れず、思わず助けを求めるように声を出そうとする。
だけど、俺の口はラスターの手で塞がれた。
もう、ブラックに助けも求められない。もとより言えるはずも無かったが、しかしその純然たる事実に、体の奥がゾッと冷えた。けれども、ラスターは俺の様子なんて構わずに、俺を抱えたまま壁まで近付く。そうして、体を壁に強く押し付け逃げられないようにすると……手を、伝令穴にくっつけた。
なんとか逃げようともがく俺の目の前で、ラスターはその手に白い光を纏わせて、ラッパの穴のようになった部分に光を惜しげもなく流し込んでいく。
「……!?」
白、白って、金の曜気の光……――――
あれ、でも……ラスターって、さっき……。
そう思って瞠目した俺の耳に、柔らかく滑らかな物が押し付けられて。
「これでまた、貸しが増えたな」
低い声が、熱いと意気と一緒に耳に流しこまれた。
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